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ミステリの祭典

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蒼い描点

作家 松本清張
出版日1960年09月
平均点6.00点
書評数4人

No.4 7点 斎藤警部
(2021/01/08 17:05登録)
“校了前の戦争のような多忙さと、そのあとの快い疲労とは、雑誌編集者だけが知る特殊な苦楽であろう。”

小出版社に勤める若い男女が、業務の合間を縫って(実はこの設定がちょっとしたミソ…)、或る人気女性作家の滞在先、箱根で起きた”スキャンダル売文家”の死亡事件を、編集長のサポートを得て調査開始! 控えめなユーモア、ささやかな旅情を道連れに .. 箱根だけじゃない、浜名湖のあたり、美濃国や、秋田までも行きます .. 爽やかな青春後期の躍動。 関係者が殺されたり失踪したり自殺したり実在しなかったり(?!)で次々と消えて行く、どこかに大きな盲点がありそうで大いに気を揉むストーリー。

「あっ」
典子は思わず声をあげた。
「あれが、あれが、そうだったの?」

ミステリ展開は、まるで初心者に見せつけるかの様な甘さを含んで始まり、前半にハードなサスペンスは漂わないがソフトロック的に心地よい律動がキープされ何とも快適。 中盤から謎が微妙な複雑性を振り撒きつつ増殖し始め、分厚いやや辛口にシフトチェンジする。着実に加速するスリル、更に拡がる疑惑対象が醸し出す、リーチの長いサスペンス。 実質的「読者への挑戦」のページも存在。 何気に本格ミステリ要素色々詰め込んだ仕事ミステリだねえ!(だが、この真犯人設定は.. ?? ←ん?)。 エモーショナルな真相クライマックスの後、理知的な会話の補足と爽やかなエンドで締めるのは素敵。 殺人トリックのヒントをくれた”国電に座り週刊誌の時代小説を読む自衛隊員”ってのも時代っぽくて良いな(S30年代前半)。 探偵役の男子、脳内でまたしても野田クリスタルが演じてくれた。 意外と、恋でもしちゃったか!?w  そういやこの男子(竜夫君)、 「その理由は後で話す」 というパターンがやけに目立つんだよなあ、それも味。

当時創刊したばかりの『週刊明星』に連載されていたそうです。 全体的に若やいだ感じは読者層を意識したものでしょうね。

No.3 5点 蟷螂の斧
(2019/10/19 12:39登録)
(再読)本作は若者向け雑誌に連載されたもので、著者らしい重厚さがあまり感じられないロマンチック・ミステリー風味な作品です。ジャーナリストの変死に始まり、その妻および女流作家とその夫が行方不明となる。章題は「誰もいなくなった」・・・と言っても本家のような展開にはなりません(笑)。

No.2 5点
(2010/10/08 21:41登録)
内容的にはずいぶん軽いミステリです。途中に「誰もいなくなった」なんて章がありますが、確かにクリスティーとも共通する雰囲気があります。本作での意味は、関係者たちがみんな失踪してしまったということで、結局その後また現れたりするのですが。かなり長い作品で、分量はあの名作の2倍以上。
まあ軽くて読みやすいのはいいのですが、ミステリの女王と比べると解決はどうもすっきりできません。殺人の経緯にはいくらなんでも偶然過ぎるところがありますし、旅館の立地を利用したちょっとしたトリックもご都合主義、さらにそんな時間をかけたことをする必要がないとしか思えないのも問題です。思いつきの仮説とその検証が実は行われていたことが後から明かされるのも、アンフェアな感じです。
長さに見合った複雑な解決を意図したのかもしれませんが、犯人の(ある意味での)意外性を除くと結末には不満なところの多い作品でした。

No.1 7点 kanamori
(2010/05/08 17:27登録)
箱根・宮の下の旅館に逗留する女性作家のある秘密と周辺で発生した殺人事件を描いた本格風ミステリで、社会派的要素が希薄な作品です。
探偵役は女性編集部員と同僚男性で、事件に直接関係しない男女が好奇心から積極的に絡んでゆくプロットは「二人で探偵を」風で、筆致は重厚ではあるものの、これまでの清張作品のイメージと異なる作風といえそうです。
余談ながら、この時期のミステリのタイトル付けの流行として「空白の起点」「白昼の死角」「憎悪の化石」「影の告発」とか思わせぶりで抽象的なものが多いのは清張の影響なんでしょうか。

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