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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1728 8点 VR浮遊館の謎ー探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2024/06/07 13:18登録)
 こいつは参った。ダミー推理に誘導されて “見破ったり” と鼻を高くした途端に本命で撃沈。割と細かいネタまで拾えた心算だったのに、それが皆フェイクだとは……ただ、妙にのんきなラスト・シーン。ゲーム性のイメージが強過ぎて、実際に人死にが出ていることが忘れ去られちゃってない?


No.1727 6点 ぼくらの世界
栗本薫
(2024/06/07 13:18登録)
 私は、全てをメタ化しかねない “狂言芝居” は本格原理主義者にとって寧ろ鬼門じゃないかと思うのだ(→探偵役がマッチポンプではない証明が出来ない)。だから全ての始まり、あの人がああいう計画を立てた、と言うことがどうも腑に落ちない。
 “ぼくら” のモラトリアムの終わりに、人の “業” の事件を重ね合わせたのも、ちょっとズレている気がする。確かに薫くんは当事者だけど、信とヤスは時系列的に重複するだけの別エピソードって感じで、エピローグが浮いてるじゃないか。

 ところで、冒頭でミステリ6作のネタバレ予告をしているが、本当に問題なのは筒井康隆『大いなる助走』である。結末の展開をバラしてるんだもん。


No.1726 8点 ぼくらの気持
栗本薫
(2024/06/07 13:17登録)
 “行きあたりばったりの犯行” と言う設定の恩恵に作者も甘えたか、少々雑な真相ではある。状況証拠ばかりで、あの人を教唆者=主犯であると断じるには弱くない? “誰が何をどこまで知っているか” は重要な視点だが、情報がどこでどう伝わるか網羅するのは困難で、客観的な扱いの難しさも無視出来ないと思う。
 しかし人物と時代風俗の描写はグンバツ。サブカルのC調なフィーバーと表裏一体たるナウなヤングの普遍的青春の蹉跌がビューティフル。


No.1725 6点 雀蜂
貴志祐介
(2024/06/07 13:16登録)
 楽しめた。一言のボケも無いのに全編がスラップスティックな喜劇。緊迫すればする程に可笑しさは募る。と言うのが作者の意図で、ラストは無くても良かったオマケじゃないかなぁ。


No.1724 5点 六月六日生まれの天使
愛川晶
(2024/06/07 13:16登録)
 記憶喪失を題材にすると此処は何処私は誰と言った手続きにどうしても一定の紙幅を取られてしまうので似通った印象になりがち。きちんとしたルールに基づく症状の現われ方は、人間と言うよりAIが誤作動しているようだ。
 真相はさほどの驚きでもなく、どんな話でも一部を隠して語ればこの程度の不可解さにはなるよなぁ、と言ったら意地悪に過ぎるだろうか。
 性描写はカタログみたいであまりエロくない。


No.1723 6点 羅刹国通信
津原泰水
(2024/05/31 15:15登録)
 遺作ではなく、比較的初期に雑誌連載された長編が初単行本化。作者による加筆訂正は行われていないよう。幻視文学と言うか犯罪小説と言うか “罪の意識” 小説。
 解釈がどうのと言う以前に、灼熱の異界が強烈。墨井先生も危うげで目を惹かれる。放置したままのエピソードもあって、結末はこれで良いと思うが、寧ろ中盤に入るべきもう一山が行方知れずになっている感じ。その意味でやはり未完。


No.1722 6点 時計じかけのオレンジ
アントニイ・バージェス
(2024/05/31 15:14登録)
 この主人公には同情や共感が毛ほども抱けない。“体制の犠牲者” みたいな側面を加味しても尚、自業自得だと思う。
 第3部4章、ミリセントにぶちのめされて、助けを求めた先で更に皮肉な再会があり、困惑の状況に絡め取られる。私は “そうか、こういう形で袋小路に追い詰めることこそ作者の狙いだったのか” と胸を躍らせたのだが、御都合主義的な流れで解放されてしまった。えー、そんなんでいいの?
 幻の最終章の是非など些細な問題で、その前、第3部6章の生ぬるさが大問題。主人公が全身不随になって、口述筆記で書かれた回想がこの本、と言う叙述トリックなら良かったのに。


No.1721 5点 捜査
スタニスワフ・レム
(2024/05/31 15:13登録)
 警察小説と言うか “警察(の)小説”。捜査内容ではなくその外枠をウダウダ描くコンセプトは良いが、描かれる内容がさほどでもないので前半で飽きてしまった。作者に思索的なイメージがあるので深読みしたくなるらしいが、イヤイヤこれは “脱線だけする物語” と言うメタ的ユーモアによってミステリの形式主義を揶揄しているんでしょ。


No.1720 5点 光源氏殺人事件
皆川博子
(2024/05/31 15:12登録)
 “オブセッション” なるアイデアは光る。しかし物語の奥の方に折り込み過ぎ。なかなか表面に出て来ないので、それに対するアクションと併せて最後にドバッと説明する形になってしまった。せめて物語中盤で明かさないと、驚きをしみじみ味わう暇も無い。
 しかも謎解きが非常に駆け足なので、作者にとっては “推理小説形式にすれば多少は売れるから” と言う、恋愛模様を書く為の方便に過ぎないのではないか、と思ってしまった。


No.1719 5点 私、死体と結婚します
桜井美奈
(2024/05/31 15:11登録)
 熱心に何か調べる一方で、死体に話しかけながら食事をする主人公。怖い……違和感が急激に募る展開、スピーディに纏めたのは正解。深みはあまり無いが、良い意味で読み易いし、自分の強みを上手く生かせていると思う。
 英語翻訳が物凄い特殊技能みたいに扱われているのに苦笑。まぁストーリーの都合上、あれらを読めちゃったら困るか。


No.1718 6点 名探偵に乾杯
西村京太郎
(2024/05/24 14:09登録)
 アガサ・クリスティ『カーテン』のネタバレ有り。
 まず、密室その他、別荘に於ける(真の)トリックについて。普通のミステリなら噴飯物だが、このパスティーシュ・シリーズと言う舞台に限ってはその意味が逆転する。犯人の動機と相俟って、見事な批評である。拍手。
 但し、“読者への挑戦” を付けるべきではなかった。これはフェアプレイの地平を飛び越えたところに位置する真相であって、見抜くのは無理でしょ。他の作品のトリック当てで読者がこの回答を提出したら “真面目にやれ” と言われるでしょ。

 『カーテン』新解釈について。併読した立場で言うと、原典の文言を尊重しつつ、それなりに辻褄の合った結論を示しているとは思う。特に動機は上手いところから掘り出している。そういう “裏読み” は楽しいよね。
 但し問題は、ヘイスティングズが手記中で “都合の悪いことを省く” のみならず “嘘を記述する” ことも許容してしまった点。
 『名探偵に乾杯』の説に従うなら、犯人Xの暗示にかかり人を殺しかけたこと、及び無自覚なまま別の人物の死に関与したこと、と言う自身の恥を晒すようなエピソードがまるまる嘘なのだが、そんな捏造をする理由は説明されていない。ヘイスティングズは今になって小説家として開眼したのか?

 そして、謎と真相との構造上の関係性がシリーズ前作に類似しているのが引っ掛かる。どちらか一作だけならもっと高評価出来た。本作は『カーテン』を受けて生まれたものであって、もしかしたら “書かれる筈では無かった最終作” なのかもしれないけれど……。


No.1717 8点 カーテン ポアロ最後の事件
アガサ・クリスティー
(2024/05/24 14:09登録)
 【ヘイスティングズ大尉の告白】
 
 ある人物の死に関して私が果たした役割を、ポアロはただの偶然だと説明している。ところが実のところ、その人が皆にアレを振舞ったあの時、何故か私には判ったのだ。
 この人は何かをやった、と。
 説明できる根拠は無い。言葉でも動作でもない何か、その場にいたからこそ伝わる雰囲気、第六感。そんなものだ。殺人者Xを意識するあまり、違和に対して敏感になっていたのかもしれない。
 もとより100%の確信などは持ちようがない。それでもその場で騒ぎ立てるべきだったか。しかしそれがポアロの対X戦略にどう影響するか読めなかった。かといって座視するにはあまりに強い胸騒ぎであった。
 なにより熟考する猶予など無かった。アレが飲まれるほんの数瞬後までに対応を決めねばならない。
 と偶然にも、私以外の全員がバルコニーに出て、部屋には私一人が残されたのだ。その僥倖が背中を押した。私は素早くアレをまわした。二つのアレが入れ替わった。ただの思い過ごしなら、何も問題は生じない。仮に懸念が当たっていたとしても、それは自業自得ではないか!
 その後の成り行きは手記の通りだ。私はこれっぽっちも疑われず、ポアロでさえ私が意図せずにあの状況を作り上げたものと推理した。なにしろ全ては私の心の中のことであり立証しようがないのだから。
 断っておくが私は手記に何も嘘は書いていない。語り手が自分に不利な事柄を省くのは前例があり、非難には当たらないはずだ。
 してみれば、これは私がポアロに勝った、ということになるのだろうか?

 しかし今にして思えば、ちょっとした状況証拠がなくもない。
 もしも入れ替わりに気付かなかったというならば、私は目の前を回転木馬よろしく流れるアレを全く見落としたことになる。自分の目の代わりとして呼んでおきながら、なんとも信頼してくれたものだ。

 いや……それともポアロは、判った上であの推理を記したのだろうか? 誰も気付いてはいない、安心したまえ――と、敢えて勝ち逃げをしないことで最期のプレゼントに換えたのだろうか……?


 (※16-Ⅳ、18、19、後記、などを鑑みるに、『カーテン』は大尉の手記だとするのが妥当だと思います。)


No.1716 7点 イリュミナシオン 君よ、非情の河を下れ
山田正紀
(2024/05/24 14:08登録)
 作中で語られる五人の物語には読み応えがあるけれど、それを支える外枠の部分は上位の物語と言うより構造の説明でやや動きに欠ける。とは言え学術用語を駆使した時空バトルは散文的で逆説的に詩的(かもしれない)。前年の『オフェーリアの物語』に続いてアルチュール・ランボーをサンプリング。嵌まってたのかな~?


No.1715 6点 オフェーリアの物語
山田正紀
(2024/05/24 14:06登録)
 呪師霊太郎シリーズの種子を、言の葉の影響力強めの特殊な土壌に蒔いて着床させたもの? 諸々の概念が宙に浮かんだような、それとも、上下感覚を曖昧にしたまま、謎が謎であると言う一点をよすがに頁は進む。人形に似た人間の物語。ところで表紙の人形は切り絵なんだってさ。


No.1714 7点 黄土館の殺人
阿津川辰海
(2024/05/24 14:06登録)
 実のところ何となく判ってしまう。内と外に舞台が分かれる→じゃあ全体の構造としてはこう? 被害者が多過ぎて生き残りがこれしかいない→じゃあ犯人はこのポジション?
 だから、楽しんだけど、それは騙されたとか驚いたとかではなく、良く出来ているなぁと言う “感心” に近い。
 作者と対峙するのではなく、そうやって “共有” する読書も悪くはないが、上手さが仇になっているとも言える。

 そしてツッコミ。三人姉妹の二番目、月代。その漢字は “さかやき” だ。


No.1713 7点 悦楽園
皆川博子
(2024/05/16 13:17登録)
 皆川博子が雑誌に発表した初期短編は、作者本人に “書き捨て” みたいな気持もあったようで、短編集への収録状況がちょっと面倒なことになっている。どうすれば効率的にコンプリート出来るのか。まぁ編集時に秀作からピック・アップするのは自然だし、二度出会ったら二度読めば良い。
 本書は1974~85年の短編集4冊からの6編と、単行本初収録4編を併せた、94年刊行の初期傑作選。後者4編は『鎖と罠』(2017年)にも再録されており、“本書でしか読めない話” は無い。

 導入部での入りづらさは若干あるものの、その一山を越えれば、悪意が普通のことのようにシレッと書かれる独特の手際、特に「獣舎のスキャット」の一人称は効く。初短編集『トマト・ゲーム』に収録されていたものの、作者曰く “あまりに不健康かなァと、自粛” して文庫化の際に差し替えたそうな(ハヤカワ文庫版では復帰)。いやいや他の作品だって大して変わりませんよ。


No.1712 7点 あるいは酒でいっぱいの海
筒井康隆
(2024/05/16 13:16登録)
 筒井康隆の初期ショート・ショート集だけど、犯人当てSFミステリ「ケンタウルスの殺人」が収録されているので。
 フーだけならまぁ解けるかな。SF作家の肩書を利用して無理筋を通しており、はなから作品の外側で勝負しているんだね。と同時に、“ミステリのフェア・プレイとは何か?” と定義を問うているのかもしれない。

 最短2ページからの玉石混交ながら、作者のその後のアレコレを踏まえると、何となくもっともらしく思えて来るものである。表題作と「善猫メダル」が玉。最初期の「NULL」(本人主宰の同人誌)掲載作からして既に嫌な感じにリリカル。


No.1711 7点 ルームメイトと謎解きを
楠谷佑
(2024/05/16 13:15登録)
 珍しく犯人が判っちゃった。
 ロジックによるものではない。伏線を拾って行くと犯人像の輪郭が見えて来て、それに当て嵌まる人物がちょうど一人いたのだ。
 最後の “物証” は、犯人が事前にリスクに気付くことも可能だった筈、と言う意味で少々わざとらしいかな。

 もう一つ、別の予測もしていたので書いちゃおう。
 前年の自殺については、湖城のバックの圧力で背景解明が有耶無耶になった。しかしそういうトラブルがあっても、湖城は自重するどころかますます横暴になり目に余る。長い目で見るとリスクが大き過ぎると判断したバックは、湖城を切り捨てることにした。その結果がこの事件である……。


No.1710 6点 十三番目の人格―ISOLA
貴志祐介
(2024/05/16 13:15登録)
 超自然現象を妙にロジカルに処理しているところに可笑しみがある。私は漢字マニアなので、命名に関する部分はとても納得&共感するなぁ。


No.1709 5点 今宵、喫茶店メリエスで上映会を
山田彩人
(2024/05/16 13:14登録)
 色々都合良く進み過ぎな一方、性善説な世界観をそれなりの説得力で描けているとは思う。ただ、提示される謎があまり魅力的ではない(最終話の足跡の件は面白い)。映画と無理に結び付けるのをやめて、説教臭いコメントも控えて、謎の強度をもっと研ぎ澄ませれば良かった。それはもう別の作品か。

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