home

ミステリの祭典

login
海浜の午後
戯曲

作家 アガサ・クリスティー
出版日1985年03月
平均点4.33点
書評数3人

No.3 3点 虫暮部
(2025/01/18 14:07登録)
 ネタバレあり。
 「患者」が面白い。妙な機械が登場してクリスティっぽくないが、その点こそ作者の茶目っ気? 戯曲だからこういうリアリティの無さもアリだ。
 戯曲では名前を省略する書き方は普通にあるので、アンフェアでも不自然でもない。戯曲であることを利用した或る種の叙述トリックである。

 しかし、心情に矛盾があると役者は演じられない。本作はどうやって上演したんだろう?
 “B” は犯人を炙り出す罠であるから、本当に犯人を意味するメッセージではなくフェイクである。それを知っている筈の警部と医師が “つまるところだれなんです?” とか言って議論するのはおかしい。
 (因みに、その議論の流れで “犯人に知られてはならない事柄” にも言及しているので、“犯人に聞かせる為の演技” との解釈は成立しない。)
 また、警部が最後の台詞で語る “証拠” によって、ロジックとしては弱いが一応犯人を推測出来ており、そこに “B” の件は不要である。
 犯人の条件が “B” で、真相が明らかになった時に、そうかこの人も “B” だった、と驚けるなら美しいが、実際には “条件” ではなく単なる偶然みたいなものだ。

 つまりこれ、罠ではなく、動けないフリではなく、あの電気装置を介したやりとりは本物で、被害者は犯人を知っているが、フェイクでないメッセージとして “B” 一文字しか伝えられなかった――とするべきではなかっただろうか。嗚呼勿体無い。

No.2 5点 レッドキング
(2022/07/17 18:05登録)
クリスティーの一幕物戯曲三篇
  「海浜の午後」 海辺に並ぶリゾート小屋を舞台に、宝石盗難を廻るキャラドンデン返し劇。5点
  「患者」 ダイイングでなくインジャードメッセージ犯人告発からの・・でーも、当てられるはずないなあ。7点
  「ねずみたち」 櫃の中の夫の死体、一緒に密室に封鎖された妻と妻の愛人。「~櫃」シリーズやね。5点

No.1 5点 クリスティ再読
(2017/09/24 21:56登録)
本作は3つのオリジナル一幕物を集めた短編集という感じのもの。それぞれカラーが違い、「海浜の午後」は海水浴場での、盗まれたエメラルドのネックレスを巡るドタバタ風の軽い作品。強い母に抑圧される青年が悲惨。こういうキャラ、中期の長編によく出てる。「患者」は麻痺で動けない患者の、わずかに動く指先でのスイッチによる回答で、その患者に対する殺人未遂を尋問していく話。舞台効果としてはこれはなかなか良さそう。だけど、一幕もので短いから、ひねりとか特になし。「鼠たち」は不倫の恋を隠した男女が、友人のマンションに誘い出させて閉じ込められるが、これは「死」の罠だった...というサスペンスもの。ネタが「バグダット大櫃」を少し転用している。
というわけで、どれも短くて膨らみが薄いのが難。一幕物のミステリ劇って難しいね。
でなんだけど、これで一応戯曲は入手難(まあデジタルはあるが)の「殺人をもう一度」と、どう見てもミステリじゃない「アクナーテン」以外読んだことになる。本作の最後には戯曲リストとして戯曲だけの一覧が載っているが、これによるとオリジナル戯曲は全部ハヤカワで出てることになる。逆にクリスティ自身による戯曲化でもベースの小説があるものは、ハヤカワは出してないことになる。例外は初期のポケミスで出た「アリバイ」だけど、これは他人による戯曲化だ。というわけで、実はクリスティ自身の筆による戯曲は、小説ベースのものは結構まだ未翻訳だ、ということになる。クリスティ自身の戯曲化でも「死との約束」「ナイルに死す」「ホロー荘の殺人」+共作になる「ゼロ時間へ」と4作もあり、翻訳されたのは「そして誰もいなくなった」と「五匹の子豚(殺人をもう一度)」の2作。クリスティが関わらない戯曲化だと「アリバイ」外に3作ある。
まあ「完全」攻略って海外作家は難しいな。あとクリスティだと詩集があるはずだが、これも未訳(というか、詩の翻訳はそもそも難しいし)。

3レコード表示中です 書評