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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1108 7点 愛国殺人
アガサ・クリスティー
(2021/12/23 12:54登録)
 加害者と被害者が同じ歯科医を選んだのは都合の良い偶然?
 あと、加害者側にとって、入れ替わりの必然性はさほど高くないよね。どうせ某も殺すんだから(→データのすり替えは簡単なのだから)、と行き掛けの駄賃みたいなもの?
 計画が凝り過ぎな気もするが、妻と秘密の生活を “楽しんで” いた加害者の人物像には合っているかも。この連続殺人も楽しかったんだろうな。結末でのポアロとのやりとりも、そう言っているように私には思えた。


No.1107 8点 三体Ⅱ 黒暗森林
劉慈欣
(2021/12/22 13:23登録)
 前巻で示された氷山の一角をぐいっと引き抜いたら、水面下には予想を上回るスケール感とクネクネした奇怪なフォルムが隠されていた。どっちへ向かうんだこの話。
 但し、エンタテインメントとしては判り易く整理されていて推進剤は充分。“面壁計画” 発動、って実存主義SF? 驚天動地の作戦ながら、個々の戦略はやや物足りないかも(理屈としては妥当な発想なのかもしれないが)。“星艦地球” の行く末に胸が痛くもドキドキした。


No.1106 7点 霧の悲劇
皆川博子
(2021/12/19 10:41登録)
 被害者の過去をほじくり返しているだけでは……? と思っていたら、戦時中の蛮行とかにつながって、島田荘司の社会派作品みたいな流れに。書き方は上手い。
 “プラカード作戦” はなかなか思い切った展開だと苦笑。宗教ネタはサラッと過ぎちゃって残念。古葉が積極的に関わる動機付けが今一つ不明瞭で、課長ではないが “何故そこまで” と言う疑問は残った。


No.1105 5点 虹の悲劇
皆川博子
(2021/12/19 10:34登録)
 二つの話がラストで一つに、と言うのはよくあるパターンだが、本作はかなり強引。それぞれの事件や心理描写は悪くないのに、それを嚙み合わせちゃったせいで首を捻らざるを得ない読後感に。
 なにしろ事件同士はまぁ無関係。その割にバッタバッタと人が死ぬ。“蔓でつながれた小芋” との感慨はなかなかインパクトがあった。
 アイ子の遺体発見時、施錠された玄関の蝶番を外からはずしてドアを開けた、ってそんなドアが普通にあったの?


No.1104 6点 シャーロック・ホームズの帰還
アーサー・コナン・ドイル
(2021/12/14 10:38登録)
 「踊る人形」の “単語ごとの区切り” の印が不思議だ。まず第一に、英文はつなげて書いても概ねきちんと読めるので、暗号を使う側にとっての必然性があまり無い。第二に、あんなに文字数の少ない暗号文で(人形は18種類しか登場しない。印付きは5種類)、印が別の文字ではなく区切りを表すと推理するのは論理的ではない。第三者による解読を読者が納得し易いように作者が用意したヒント、てな感じだ。
 「恐喝王ミルヴァートン」の展開には意表を突かれた。この話、好きだな。

 角川文庫の新訳版。訳者は駒月雅子。時々、“現代風の言い回しに寄り過ぎ” と感じることが無きにしも非ず。


No.1103 7点 星詠師の記憶
阿津川辰海
(2021/12/07 10:55登録)
 一つおかしなロジックが混ざっていて、しかも登場人物の行動に大きな影響を与えちゃっている。
 “星詠師が自分の死期を悟ってしまうキッカケの一つ……ある時点以降の予知を見なくなったとき”
 →それは“ある時点までその人は生きている”ことしか意味しない。“予知はアトランダム”とされているのだから、“ある時点”と“死期”の間のブランクの長さは判定出来ない。
 (→そもそも、時期推定不能な予知が一つでもあれば、“ある時点以降の予知を見なくなった”との判断自体が出来ない。)

 緻密なミステリ部分とは別に、〈星詠会〉設立の物語が面白かった。


No.1102 6点 キラレ×キラレ
森博嗣
(2021/12/07 10:47登録)
 事件の流れ、特に適度に空白な部分が、(或る時期以降の森博嗣にはそこでイライラさせられる作品も多いが)本作では面白かった。でも真相に“自作自演”が混ざると説得力が激減しちゃうんだなぁ。そのへんの加減が雑。


No.1101 4点 レオナルドの沈黙
飛鳥部勝則
(2021/12/05 12:00登録)
 事件の様相は強気で“ここまでやって大丈夫?”と不安になる程。真相はがっかり。殺人宣言で誰かが他の名前を挙げちゃったらどうするのか。“偶然同姓”はズルい。


No.1100 5点 背が高くて東大出
天藤真
(2021/12/05 11:59登録)
 文体や人物造形と言った“書き方”は上手い。ところがミステリ的なプロットは、変なところを変なほうに捻ったりして、一本すじが通っていない。真相を知って“そうだったのか!”とピーンと来る度合いに乏しい。
 思えばこの作者は長編にもそういうケースが見受けられる。フレデリック・ダネイと組んでマンフレッド・リー役を務めるのが得策だったのでは、なんて思ってしまう。
 「三枚の千円札」では膝を打ったが、考えてみると三千円の出所は曖昧なままだね。


No.1099 6点 未来医師
フィリップ・K・ディック
(2021/12/03 11:54登録)
 前半の世界設定(これはこれで面白い)と時間SF化する後半が別物みたい。謎の殺人まで登場して、イマドキの特殊設定ミステリのような展開に頬が緩む。この“意外な犯人”の凄さ、当時の作者はきっと自覚出来なかっただろうな~。


No.1098 8点 四元館の殺人―探偵AIのリアル・ディープラーニング
早坂吝
(2021/12/02 11:16登録)
 意外と古式ゆかしい館モノ、と騙されかかったが、探偵AIなんて基本設定がそれで済ます筈は無い。まだあった“意外な犯人”! 竹筒を使ったトリックは改良の余地がありそう。


No.1097 7点 杉の柩
アガサ・クリスティー
(2021/12/02 11:13登録)
 第一部の終わりで、真相は読めた、と思った。
 だがそれは全くの間違いだった。
 私の迷推理を開陳します。
 ――M嬢の父が、アレは自分の娘ではない、と言っていた。実はM嬢とR氏は兄妹で、急激に惹かれたのも無意識のうちにそれに気付いていたせい。本人達も知らなかった事実にE嬢が気付き(“数々の手紙”に手掛かりが隠れており、看護婦からE嬢にそれが伝わった)、近親相姦を犯させない為に殺害。その内容ゆえに、動機については沈黙を守っている……。

 あと、薔薇の種類が何であれ、トリックの成否とは関係無いし、推理に必須の手掛かりでもない。アレは作者の余計なサーヴィスだと思うな。


No.1096 9点 七十四秒の旋律と孤独
久永実木彦
(2021/11/30 12:44登録)
 一話目の段階では、リリカルな世界を巧みに描いている、けどあくまで雰囲気モノかな~、と思っていたが、一話ごとに飛距離を伸ばしてとんでもないところへ。私のツボ(変な宗教の成立過程)を突かれて戦慄。均質から個性が生じる流れも面白い。
 余計な知識:“ソウビ”を漢字で書くと“薔薇”です。


No.1095 7点 楽園とは探偵の不在なり
斜線堂有紀
(2021/11/30 12:43登録)
 世界の変貌を描いたSF。ミステリ要素は物語を進める為の装飾に思える。何も悪いことではない。面白ければジャンル認定なんてどうでもいいのである。
 EQの名を出したのは“操りテーマ”を意識してのことだろうか。 


No.1094 7点 透明人間は密室に潜む
阿津川辰海
(2021/11/30 12:42登録)
 表題作に関する揚げ足取り。
 探偵:被害者は明らかに死んでいる、ならベストな対処は“部屋に入らず封印して警察に通報”では。ガラス片は、犯人に転ばされたら自分達が大怪我をする。身の危険を顧みず何が何でも捕まえる義務は、まぁ無い。
 犯人:あの隠れ方だと、隙が生じても咄嗟に動けない。“透明”のアドヴァンテージは大きいのだから、各個撃破を目指した方が逃走出来そう(事前に探偵側の人数を確認出来ないのがネックか)。
 総合して考えると、事態が肉弾戦ではなく高度な知恵比べになる前提で両者とも行動している。そこに至る設定をもう少し詰めるべきだった。
 更に。“現場にもう1人の透明人間=真犯人が潜んでいて、1人が捕まった隙を突いて逃げた”可能性を、客観的には否定出来ない(よね?)。裁判で有罪判決は出るか?


No.1093 6点 トマト・ゲーム
皆川博子
(2021/11/30 12:42登録)
 最初期の作品集、にしては随分手馴れた書きっぷりではないか(この時点で四十代だが、私は年齢はあまり関係ないと思うので)。
 時代風俗のせいもあり(頭脳警察がゲスト出演!)、あくまで“一世代前の物語”を遠くから眺める感覚だけれど、「アルカディアの夏」にはクラクラした。部屋の臭いまで感じられそう。


No.1092 5点 死刑囚最後の日
ヴィクトル・ユゴー
(2021/11/28 10:17登録)
 娘と面会する場面とか、面白い断片はあるけれど、全体としては真摯な分だけ興趣を遠ざけてしまっている。
 文学史上最初の“日記体小説”だそうな。この形のテキストだと、古典的な“結末で語り手が死ぬ話はどうやって書かれたのか?”問題が浮上する。これはブログで何でも晒す現代人に対する皮肉だね。死刑囚にブログが許可されたら、執行直前まで更新するんだろうか。彼は死んでもスマホを手放しませんでした。
 「序文」で死刑制度廃止を訴えているが、こういう論は長くなると説得力を失うと思った。


No.1091 5点 ソフトタッチ・オペレーション
西澤保彦
(2021/11/28 10:07登録)
 「捕食」のストーリー部分、「変奏曲〈白い密室〉」の超能力とはあまり関係ない部分の謎解き、は面白かった。
 しかしチョーモンインに“霊”は鬼門では。どこまでアリかと言う世界設定がぶれるでしょ。表題作、工夫は見られるが、こういう真相は嫌いだ。


No.1090 5点 絞首台の謎
ジョン・ディクスン・カー
(2021/11/27 13:15登録)
 “怪奇趣味”がまるで怖くない。ドタバタ騒いで回って、これはメタ的なユーモア小説? 率先して殺人現場を荒らすなよバンコラン。
 殺された人は巻き添えを食っただけ。特に運転手は端から“主人の添え物”扱いで、彼個人に対する動機など考慮されない。失礼な。

 ところで、本書には語られざる恐ろしいラスト・シーンがあることにお気付きだろうか?
 甲は首を拘束されたまま転落、首が折れてだらりとぶら下がる。その足の下では泥酔した乙がテーブルに突っ伏していびきをかいていた。
 縊死の場合、たいていは“漏らす”と言いますよね……。


No.1089 8点 八月のくず
平山夢明
(2021/11/27 13:06登録)
 相変わらず、予め一線を越えちゃったような短編集。
 揃いも揃って獣の王で比較しづらいが「箸魔」が最も高カロリーか。一方、蜘蛛の糸一本分だけは此岸とつながり理屈をギリギリ通すのがこの人のやり口であって、その点完全に不条理なところへ行ってしまう表題作はちょっと違和感があった。初出一覧(=各作品がどのへんから産み落とされたか)も興味深い。

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