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ミステリの祭典

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鋏の記憶

作家 今邑彩
出版日1996年03月
平均点5.71点
書評数7人

No.7 6点 パメル
(2023/11/30 06:58登録)
物に触れるとその物が持っている記憶が読み取れるという、サイコメトリーの能力を持った女子高生・桐生紫が活躍する4編からなる連作短編集。
「三時十分の死」財産家の叔父が亡くなり、莫大な遺産を相続することになった順平。しかし、伯父の死が殺人ということで嫌疑がかかってしまう。終盤に浮き彫りになる事柄への伏線の数々はお見事。
「鋏の記憶」紫は同居人である進介の同級生の二瓶に、漫画のアシスタントが休んでしまったため手伝いに駆り出される。紫はその部屋にあった鋏に触れると、血を流して横たわる幼児の絵が見えた。二転三転する展開は巧いが、サイコメトリーの能力が発端にしか絡まないというのは勿体ない。
「弁当は知っている」冴えない男に嫁いだ女性は、誰もがうらやむ美人。しかしある日、書き置きの手紙を残して失踪してしまう。彼女の前夫が刑務所から出所したため、復讐を恐れ逃げるが男は何者かに殺されていた。この作品は、犯人が誰かというよりも男の造形が面白い。サイコメトリーの能力で読み取った映像に哀しみを誘う切ない物語。
「猫の恩返し」小寺雅道は、怪我を手当てし住み着いた猫だけが心の拠り所だったが、いつの間にかいなくなってしまった。ある日、息子の小学校時代の同級生という人物がやってくる。その人物は何故か仏壇の場所を知っている。猫の化身なのか。猫の恩返しという「いい話系」で展開も巧く読ませる。独居老人と殺人事件を絡ませているが、そちらは蛇足。

No.6 5点 虫暮部
(2023/04/27 13:24登録)
 既存のピースを小器用に組み合わせただけだが、特に悪印象は無い良品。写真を取り寄せたり家宅侵入したり、警察官の行動として暴走気味ではある。
 一話目の “時計はどっちにズレているのか” が一番いい小ネタだと思うが、それが際立つ使い方になっておらず勿体無い。

No.5 5点 E-BANKER
(2013/03/13 22:21登録)
物に触れると所有者の記憶を読み取ることができる「サイコメトリー」能力を持った女子高生・桐生紫。
彼女と彼女の叔父で刑事・桐生進助を主人公とした連作短編集。

①「三時十分の死」=ある殺人現場に残された止まった時計。アリバイトリックをテーマとするミステリーに頻繁に登場する設定だが・・・。仕掛けられたトリック自体はなかなかアクロバティック。
②「鋏の記憶」=紫(ゆかり)がバイト先でひょんなことから触れた「鋏」。サイコメトラーの感覚は、その鋏が過去、人を殺めてしまったことを読み取ってしまう。真相にそれほど驚きはないし、これは途中で結構バレてしまうのではないか?
③「弁当箱は知っている」=何だか仁木悦子の名作を思い起こさせるようなタイトルだが・・・。「冴えない中年男が若い美人妻を娶った!」なんてことがあれば、ミステリーの世界では残念な「裏」があるっていうオチになる。でも、この上司は実に嫌な奴。
④「猫の恩返し」=もちろん「鶴の恩返し」を下敷きとした話。妻も息子も亡くした初老の男性の前に現れた一人の美女、そして彼女には大いなる謎があった・・・という展開。③もそうだが、所詮男って美女に弱いってことかな。

以上4編。
まぁ、ソツのない作品集という感じだろうか。
もともとは角川ホラー文庫で出版されたということなのだが、特にホラー風味というのはなく、純粋なミステリー短編集ということでよいのではないか。

どれも、短編らしく、プロットの焦点を絞った作品が並んでいるし、まずは水準級の作品集という評価。
ただ、もうひと捻りというか、もうワンパンチ欲しいなぁという印象は残った。
「サイコメトラー」という特殊設定もあまり活かしきれてない。
(ベストは①かな。②~④は同レベル。)

No.4 6点 makomako
(2012/10/19 07:48登録)
 超能力をミステリーに仕立てると何でもできてしまうので、本格物としては掟破りふうなのだが。
 この作品のように物に触るとそのものに関連した昔の記憶が分かる能力がある女の子がいたら、まず事件の起きた部屋へ連れて行ってつぎつぎと物に触ってもらえば、まずどんな難事件も即座に解決してめでたしめでたし--。などと気難しいことは言わないで読めば結構楽しめます。
 最初の三時十分の死などはきちんとトリックも仕掛けてありなるほどと思わせます。ただ早苗ちゃんはちょっとかわいそうだなあ。
 最後の猫の恩返しはなかなか良い。何となくほっこりした気分になれました。

No.3 6点 シーマスター
(2012/03/21 22:18登録)
サイコメトリー(物に触るとその所有者の風貌や記憶や感情をある程度感受できる超常能力)を有する女子高生が主人公の連作短編集。
八十ページ前後の比較的長めの短編が四作収録されている。
しかし、どの作品もその長さの必然性は感じられず、読みながら「もっとサッサと進めろよ」という感も・・・

・「三時十分の死」・・ネタはちょっと机上っぽい印象だが、女性作家ならでは、いや今邑氏ならではの展開が印象深い。
・「鋏の記憶」・・そこまで根詰めて三十年前の、自分達と何の関係もない人の死の真相を追求する心情が解からないし、(まぁそれは主人公のためとしても)その真相には全く納得できない。納豆食っても納得できない。しかしラストは・・・こういうのは理屈抜きで割と好き。
・「弁当箱は知っている」・・畏怖と哀愁。(if&ice you)
・「猫の恩返し」・・まぁなんというか、そのネタでしたか。(今日も関連のニュースが少しありましたね)

今まで読んだ今邑さんの短編(殆ど本書より後の作品)は概ねシャープでドライな印象だったが、先述のとおり本書の各話は結構「無駄口」が多かったような・・・引き伸ばしではないと思うが。

No.2 6点 まさむね
(2011/09/14 22:16登録)
 連作短編です。
 サイコメトリーを持つ女子高生が主人公であり,個人的には敬遠しがちな設定ではあるのですが,内容としては,ミステリとして結構しっかりしていました。謎の提示や反転の手法としてサイコメトリーを活用しているって感じでしょうか。安易という見方もあるでしょうが,短編としてサクッとまとめるには便利な手法であることも確かで,途中からは敬遠心も薄れましたね。読みやすいですし,なかなか楽しめましたよ。

No.1 6点 kanamori
(2010/05/14 18:06登録)
サイコメトリー(残留物感知能力)をもつ女子高生を主人公にしたミステリ連作短編集。角川ホラー文庫から出ていて設定も超常能力ものなのでホラー小説と思わせますが、本格ミステリ寄りの4編が収録されています。
どの作品もサクサク読めてよかったですが、「猫の恩返し」の真相が一番意表を突く出来でした。

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