人喰いの時代 探偵・呪師霊太郎 |
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作家 | 山田正紀 |
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出版日 | 1988年02月 |
平均点 | 6.57点 |
書評数 | 7人 |
No.7 | 7点 | 虫暮部 | |
(2023/04/27 13:26登録) 思うまま書いたらネタバレしてました――。 作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。 |
No.6 | 6点 | パメル | |
(2022/02/13 08:27登録) 探偵役の呪師霊太郎とワトソン役の椹秀助のキャラクターがいい味を出している5つの短編と1つの中編が収録されている。 「人喰い船」服を着ていたはずの死体が、いつの間にか下着姿になっていた。トリックは今ひとつだが動機は衝撃的。 「人喰いバス」温泉旅館を出たバスの運転手を含めた5人が姿を消した。バスからどのように人間が焼失したのかと描かれる展開、大胆な伏線がうまく生かされている。 「人喰い谷」誤って谷底に転落したと思われた2人だが谷底に死体はなかった。真相は、ある程度予想ついてしまう。 「人喰い倉」密室で手首を切って自殺したと思われたが現場に刃物はなかった。密室からの凶器消失の謎解きと後味の悪い真相が楽しめる。 「人喰い雪まつり」雪まつりの校庭で喉を切られた少女の父親。死体の周囲には足跡一つ残っていなかった。かなりのイヤミス。 「人喰い博覧会」昭和12年の事件と現代の事件が描かれる。心臓麻痺ですでに死んでいた宮口を放送塔から落としたのはなぜか。プロットは面白いが、真相はそれほどでもない。 特高や思想犯といった昭和初期の時代に避けては通れない人物を登場させ、現代では味わえない良さがある。 |
No.5 | 6点 | nukkam | |
(2016/06/17 18:11登録) (ネタバレなしです) SF小説の大家として知られる山田正紀(1950年生まれ)の初のミステリー作品が1988年発表の本書だそうですが、あとがきによればミステリー作家として認知されるようになるまでにはそれから10年近くを費やしたそうです。探偵役として呪師霊太郎(しゅしれいたろう)が活躍する6短編を収めた本格派推理小説の短編集で、探偵役の名前と全作品が「人喰い」を付けたタイトルを持つことからさぞオカルト色の雰囲気が濃い作品だろうと思ったらそうではありませんでした。推理のプロセスはそれほど丁寧に説明されず、どちらかといえば事件の背景(主に動機)描写の方に力を入れています。連作短編集となっており、最後の「人喰い博覧会」の風変わりなプロットが奇妙な読後感を残します。 |
No.4 | 7点 | E-BANKER | |
(2014/11/13 22:44登録) SF作家としても名高い作者の処女ミステリー作品。 ~昭和初期の小樽(作中ではO-市となってますが)を舞台に、放浪する若者二人-呪師霊太郎と椹秀助が遭遇した六つの不可思議な殺人事件を描く、奇才による本格推理小説の傑作~ ①「人喰い船」=樺太へ向かう船が嵐に遭い小樽へ臨時寄港することに。その船中で不可思議な格好で発見された変死体・・・。不可思議な格好には意外な理由があった。本編の序章とも言える一編。 ②「人喰いバス」=小樽郊外の山中を走る路線バス。最後部に座っていた特高刑事が毒殺される。ただし、彼には誰も近づいていないはずなのだが・・・という謎。 ③「人喰い谷」=よこしまな恋心を持つ者が下ると必ず遭難するという“邪恋谷”。ひとりの女性を奪いあう男二人がその谷でぷっつりと消え失せる・・・。ラストはいわゆる「反転」が待ち受けている。 ④「人喰い倉」=小樽は昔から倉の町として有名ですが・・・というわけで、とある密室状態の倉で死体が発見される。自殺かと思われたが、どこにも凶器が存在しない・・・? まぁ普通の密室トリックではありませんが・・・ ⑤「人喰い雪まつり」=「雪まつり」とはいっても札幌や横手の雪祭り」ではありません。戦中の北国で起こった悲しい事件。その舞台は小学校のグランドで行われていたつつましい雪まつり。不可能味を醸し出してはいるが、そこがテーマではない。 ⑥「人喰い博覧会」=①~⑤までの各編を受け、連作の種明かしの役割を持つ本編。「過去」と「現在」という時空を超え、作者の仕掛けたトリックが明らかにされるのだが・・・。動機、そして舞台背景の意味、作者の狙い・・・成る程ねぇ・・・ 以上6編の構成。 本作はとある書店で「店員のオススメ本」として紹介されていたのだが、「なかなかのセンスあるねぇー」と思わせる、とにかく雰囲気のある作品だった。 本格ミステリーと銘打っており、実際作中には密室やら不可能趣味というコード型のガジェットが盛り込まれてはいるが、そこはあまり響かなかった。 ①~⑤まで読み進めるうち、徐々に本作に対する“熱”や“思い”が高まっていくような感覚。最終編ですべてが明らかにされるカタルシス。 それこそが連作形式ミステリーの真骨頂だと思うし、そういう観点では本作は合格水準だろう。 山田正紀は本作が初読となる。「ミステリ・オペラ」など、前々から気になっている作品も数多くあるので、引き続き手にとっていくようにしよう。 (巻末解説で触れているけど、1988年発表=綾辻の「十角館」発表の翌年に当たる・・・というのが意外だった) |
No.3 | 7点 | STAR | |
(2014/06/02 19:25登録) 本のタイトルがいいですね。昭和というのは、人が喰われていく時代だったのでしょうね。 それぞれの短編がそれなりに面白かったです。 特高が出てくる小説はあまり読んだことがなっかたのですが、当時はこんな感じだったのか?という雰囲気も出ています。 小樽に行ったことがあったので、そのあたりも楽しめました。 帯に「連作の最後の章に待つ大仕掛けにあなたは必ず驚愕する」とありましたが、これはずいぶん大袈裟では。 大仕掛けではなく、見えて生きていた動機の部分がはっきりとしてくるという感じでした。全てがひっくり返る等は期待しないほうがいいですね。 |
No.2 | 6点 | kanamori | |
(2011/04/11 20:44登録) 日中戦争の翳が見え隠れする昭和初期を時代背景にした連作ミステリ。設定された時代やメタフィクションを取り入れた最後の真相など、後の大作「ミステリ・オペラ」に通じるものを感じます。 作者のミステリ小説の第1作らしいのですが、本格ミステリを意識しすぎたきらいがあって、不可能トリックがチープで無理もあるように思います。この時代の世相を反映したホワイ・ダニットものの歴史ミステリとして充分面白いので、トリックに拘る必要はなかった。 各編のタイトルに付いた「人喰い」とは、この時代の国家そのものを表わしているのだろうか。 |
No.1 | 7点 | ギザじゅう | |
(2003/10/19 01:43登録) 探偵小説としても見事ながら、それを盧溝橋事件などの暗い時代背景と結びつけた見事な連作。 最後の「人喰い博覧会」ではそれに現代をからませ、現代ミステリーとしての面白さも十二分に発揮されている。 ただしホワイダニット色が強いので、トリックなどを期待すると失敗するかも・・・。 |