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ミステリの祭典

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魔術の殺人
ミス・マープル

作家 アガサ・クリスティー
出版日1958年01月
平均点4.73点
書評数11人

No.11 7点 斎藤警部
(2025/09/04 23:37登録)
「あなたにはいきいきとした現実的な感覚があるのよ。 あなたにないのは幻覚(イリュージョン)だわ」

米国在住の旧友と再会したミス・マープルは ”英国に暮らす旧友の妹(富豪)の身辺に気懸かりな空気を強く感じるから、妹家族の中に入り込んで慎重に様子を見て来て欲しい” との依頼を受けた。

主役級夫人、つまり前述 “妹” のクセつよ婚姻歴のおかげでめっぽう複雑な登場人物構成だが、冒頭での人物紹介捌きがさりげなく上手で、意外と混乱はしなかった。 話の進行も巧みに整理されており、スタスタと読みやすい。
そこへ来て、なかなか意外な構造の銃絡み事件勃発。 更にほぼ同時刻、別箇の銃事件で意外な被害者が出た。 大半の関係者はひとつの部屋にいた。 本気で犯人当てに行きたくなる仕掛けだ。

さて夫人の現在(三人目)の夫は非行少年の更生を目指す一種の “少年院” を経営している。 最初の夫の長男(夫人より年上!)も父の遺志を継ぎ、当施設に関わっている。 二人目の夫だけは変わり種の風来坊で ・・・ 他にも、×番目の夫との間に出来た娘だとか、養女だとか、その娘、その夫。 ××番目の夫の連れ子である双子兄弟。 力を持った使用人に持たない使用人。 施設付きのエリート精神科医。 
夫人はどうやら、ある薬物でじわじわと命を狙われているようである。 ミス・マープルもその状況証拠を目(と耳)にしたが、現夫からの断固とした要請で、夫人には秘密にしている。

果たしてこれ以上の被害者は出るのか? そのタイミングは? 夫人の運命と、小説内のミステリ的立ち位置は? ・・ と、何しろストーリーの進み具合がいいもんで興味津々ドコスコ読み進めて行くと ・・ うむ、なかなかにザッツ・ザ・雑な感じの終盤唐突展開に目を白黒させられちゃったり、するかもね。

殺人に纏わる中トリック(ちょっと具体的に言ったらもうネタバレ)はまあ、よく言や小味っちゃ小味の、原理は普通に気づいちゃう類の甘々のねえ、邸宅の間取り図もあからさま過ぎるっぺよって思うしねえ。
しかしながら、誰もが抱いた幻想の大いなる膨らみを、意外な針が一刺しして去って行く風の大トリックの方はかなり良かった。 胸が熱いですよ。
まさか、"逆トリック" ってやつ、狙った?

「ヒンデミット? だれだね、これは? 聞いたことのない名前だな。 ショスタコヴィッチだと! おやおや、ひどい名前があるものだ」

クリスティ再読さん仰っている通り、また了然和尚さんも触れられたように、本作でのミス・マープルは良くない意味で 「名探偵」 らしからぬ所がチョイチョイありますね。 他の登場人物にうっかり探偵役さらわれそうな流れすらあったりして。 まあ彼女は名刺に 「名探偵 ジェーン・マープル」 なんて刷って人に渡すようなタイプじゃないからね(?)。

“それから二人は肩をならべて、家のほうへひきかえしていきました。 その後姿はとても小さく見えて、とても弱々しそうでした”

No.10 5点 nukkam
(2024/09/19 09:05登録)
(ネタバレなしです) 1952年発表のミス・マープルシリーズ第5作の本格派推理小説です。英語原題は「They Do It With Mirrors」です。ミス・マープルが何度か魔術について言及してはいますけど劇的どころか非常に地味な展開の作品です。青い車さんのご講評通り、タイトルに期待するとがっかりすると思います。登場人物がやたら多く、それでいて十分に描き分けがされていないので誰が誰だかなかなか理解できませんでした。クリスティ再読さんや了然和尚さんがご講評で某国内作家の作品を連想されていますが、私はクリスティー自身の1930年代の某作品を思い起こしました。クリスティー最盛期に書かれたその作品と比べると本書は劣化コピーみたいに感じられてしまいます。

No.9 6点 虫暮部
(2023/05/19 13:07登録)
 事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。

 しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。
 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。

 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」
 「メタな話はやめなさい」
               (森博嗣「ゲームの国」)

No.8 4点 レッドキング
(2021/04/25 17:27登録)
少年院を運営する富豪一族に起きる連続殺人。またも出ました、アガサ・クリスティー必殺技「人間関係トリック」!「十八番」超えて、もはや「伝家の宝刀」と言うべきにあらずや? ちと抜き過ぎだが・・

No.7 5点 ミステリ初心者
(2019/06/08 15:50登録)
ネタバレをしています。

 少々、読むのに苦労しました(笑)。登場人物の名前がカタカナなのは、いまいち記憶しづらいんですよね。さらに、頭の中で家系図が想像しづらかったです。
 事件が起こったシーンでは、読んだ瞬間嫌な予感がしたんですが、あたってしまいました(笑)。メイントリックはちょっと物足りないと感じますが、アガサ・クリスティーというビッグネームのせいでハードルが上がってしまった感じもあるかもわかりません。
 この作品に限ったことではありませんが、犯人と共犯者以外にもアリバイが無さそうな人物もいました。また、犯人に物的証拠もなさそう(私が理解していないだけならごめんなさい)。

No.6 5点 青い車
(2016/07/18 17:23登録)
 タイトルから大がかりな奇術的トリックが楽しめるのかと思いきや、蓋を開けるとかなり単純で古典的な手口でした。少年犯罪者たちの施設という特殊な環境に今ひとつ必然性がないのも惜しいです。マープル・シリーズはポアロよりも本格度が低めなものが多いですが、これは『牧師館の殺人』などの犯人当てと比べても一歩譲る出来だと思います。ただ、それでも作者の得意とする若い男女のロマンスや、それがいつも通りハッピーエンドで終わるのは読んでいてホッとするものがあります。

No.5 4点 了然和尚
(2015/08/10 21:11登録)
皆さんがコメントされている通り、イマイチですね。残り100ページのところで最初に戻って、添付の平面図に人物を記入しながら読み返したら、犯人はわかったのですが、マープルが明確に否定するのは、気に入りませんね、(私は、探偵は間違ってはいけないと思う)このトリックはクリスティ再読さんと同じ日本の作品をすぐ連想しました。日本の作品の方が先に書かれているんですね。 犯人はわかっても動機に本格物らしい工夫がしてあったので、まあまあの読後感なのですが、最後に無意味に4人も死体が並ぶのは減点でした。このへんが荒っぽい仕上げですね。

No.4 3点 クリスティ再読
(2015/01/04 22:37登録)
これは駄作。あらすじを読んだだけで、トリックとか犯人とかすぐに予測がつくと思う...ほぼ同一シチュエーション同一トリックで、戦後すぐに発表された日本の某名作とカブるけども、日本の某名作の方が扱いがずっとスマート。
日本の某名作と比較すると、ポイントがわかりやすいので少し比較。

・日本の某名作では連続殺人の中盤で、急遽勘定外の殺人をしなければいけなくなって、挿入された幕間劇風のエピソード。「魔術の殺人」はメインの大ネタ。
→作為の大きいネタなので、これだけを取り出して見ると、バレやすい。日本の名作では中盤の山場なので何となく見過ごしがちだが、「魔術の殺人」は直球勝負だから見逃せない...

・「魔術が効きにくい人」の使い方
→作品キーパーソンが「魔術の効きにくい人」だが、「魔術の殺人」では扱いが中途半端で、焦点がうまく絞りきれていない感じ。ミス・マープル自身あっさりダマされてるのが宜しからず。マープルが立ち会ったためにちょいと名探偵度を下げてるね。

・監禁者
→日本の某名作だと普遍的な「痴情の縺れ」だが、こっちは精神病関連のイマドキちょいとキッツい「障がい」。日本の某名作だと全体的なキャラの濃さが半端ないので、監禁者の異常行動が目立たないんだが...

というわけで、厳しい評価となります。
まあ、それでも婿のウォルターくんとか、いいキャラはいないでもないが..

あと邦題。原題は「手品師は鏡がタネ」ってくらいの意味だけど、「魔術の殺人」は少し盛りすぎな気がする。もう少し何とかならなかったかな。

No.3 4点 あびびび
(2014/01/26 11:24登録)
アガサ・クリスティーを4,5冊読んでいる人にはすぐに分かりそうなトリック。事件発生の設定からしてその流れだった。さすがに序盤から動機は掴めないが、魔術の殺人と言うほどの神秘的な話ではなかった。

第二の殺人はそれほどの意味もなく、読んでいても勝手にスルーしてしまった。

No.2 4点 E-BANKER
(2011/10/10 16:20登録)
ミス・マープル物の第5長編。
セント・メアリ・ミードから離れ、古い友人のためにひと肌脱ぐマープル。
~旧友の依頼でマープルは変わり者の男と結婚したキャリイという女性の邸宅を訪れた。そこは非行少年ばかりを集めた少年院となっていて、異様な雰囲気が漂っていた。キャリイの夫が妄想癖の少年に命を狙われる事件が起きたのもそんななかであった。しかも、それと同時刻に別室では不可解な殺人事件まで発生していた!~

正直「たいしたことない」作品。
「魔術の殺人」などという、大げさな邦題こそ付けられてますが、魔術などというほどのトリックではありません。
(原題は、『They do it with mirrors』。殺人の現場を奇術やショーの舞台と舞台裏に見立てているわけです・・・)
「誰が殺せたか」といういわゆるアリバイが鍵となるわけですけど、別にマープルでなくて刑事レベルでも十分に看破できるようなトリックだと思うんですけどねぇ。
第2の殺人もよく意味が分からなくて、はっきりいって蛇足気味。
何より、複雑でドロドロした一族の姿をさんざん描写している割には、ミスリードもそれほどなく、結局最も怪しげな人物が真犯人という展開はガッカリ。
ということで、辛い評価となってしまいました。
(別に少年院という設定じゃなくてもよかったんじゃない?)

No.1 5点
(2009/02/22 09:18登録)
クリスティーらしいちょっとしたアイディアをうまく使った殺人トリックも悪くありませんが、それよりミスディレクションがさすがに巧みです。ただ、ミスディレクションに関して、ご都合主義的な偶然が1箇所あるのですが、そのシーン自体なくてもよかったと思います。専門的検査が行われればすぐにばれてしまうはずだという点も気になります。
また、よくある証人殺しパターンの第2の事件(二重殺人)はどう見ても不要でしょう。小説が9割ぐらい終わった時点、既にミス・マープルが事件の真相に気づいた後に起こり、事件状況の基本的な調査も全く描かれないまま、謎解きの推理が始まってしまうのですから。登場人物が多くて人間関係が複雑な作品なので、この被害者2人は最初から登場させない方がすっきりしていたのではないかとも思います。

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