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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1808 7点 ぼくは化け物きみは怪物
白井智之
(2024/09/26 12:23登録)
 これはびっくりした。「天使と怪物」なんて皆川博子の歴史ミステリみたいだ。飛び道具無し、否、無しとは言わないが飛び道具と有機的に結び付いて織り上げられた物語性の豊かな発露!
 御見逸れしましたと頭を垂れるしかない。まぁ今までが今までだしね……。


No.1807 6点 明智恭介の奔走
今村昌弘
(2024/09/26 12:22登録)
 シンデレラの罠?
 広辞苑で “奔走” を引くと “物事がうまく運ぶように、いろいろと世話をやくこと” 。すると寧ろ奔走しているのは葉村君の方では……。
 最後の話。あれっぽっちの示唆でピンと来て罠に引っ掛かれたとは、犯人も結構鋭い名探偵であるね。


No.1806 6点 動物城2333
荷午/王小和
(2024/09/26 12:20登録)
 何処がどうと言うわけじゃないけど肯定的な空気が感じられて好感が持てた導入部。安っぽいのか壮大なのか判断に迷う設定。存外にダークな動物霊園。後出しでアンフェアな程に拡張される世界観。戦争とは、平和とは、深いかもしれない問いかけ。だけどこんな場で問いかけたらフェイクっぽくなるばかり。一応ロジカル(?)な謎解き……等々、読みながら評価が激しく乱高下した怪作。
 アグアのキャラには癒される。誰がどの動物なのか、一覧表が欲しかった。


No.1805 7点 偽物語
西尾維新
(2024/09/26 12:20登録)
 私は本書で歯ブラシと千枚通しの正しい使い方を学びました。
 “電話で天気予報” はサーヴィス終了だから、百年後の読者には判らないネタになってしまいましたね。


No.1804 7点 人形島の殺人
萩原麻里
(2024/09/26 12:19登録)
 もしやシリーズ開始時から仕組んでたか。オカルト度が前巻より更にエスカレートして人形呪術がリアライズしているのを期待したけど、それは叶わず残念。

 変な質問があった。
 「本当にずっと座敷にいたんですか? 一度も目覚めずに? それを証明する人は」
 一度も目覚めなかった本人が証明者の存在を認識することは出来ない。ネタ?


No.1803 3点 バーニング・ダンサー
阿津川辰海
(2024/09/19 12:25登録)
 ネタバレするけれど、特殊設定が雑だと思う。
 以下のことがミステリ要素に多大なる影響を与えたかと言うと、実はさほどでもない。“設定が曖昧だから記述された事柄のみ受け入れる” と割り切れば無問題。
 でもまぁ何と言うか、気分が殺がれた。

 ①『燃える』ではなく『燃やす』、自動詞他動詞の区別(厳密だな~)、と言う話題を挙げておきながら、コトダマ百種の中には変な言い方のものが混ざっている。例えば『腐る』『化ける』がそうで、これらは『腐らせる』『化けさせる』であるべき。『腐る』だと、遣い手自身の身体が腐って自滅するだけの能力になってしまう。厳密さが一貫していない。

 ②コトダマ遣いは、どのようにして自分の能力を知るのか? 神なり悪魔なりから “汝にコトダマを授ける” と啓示があるわけではないらしい。或る日突然宿った能力を、限定条件が偶然に整うことで自覚すると考えられる。
 しかし難易度の高いものがある。それは『真似る』で、限定条件は “コトダマ遣いを殺すこと” なのだから。
 つまり “殺さないと自覚出来ないが、自覚が無いなら殺す動機が無い” と言う矛盾を孕んでいる。
 フランスと同じ偶然が日本でも再度起きたと言うのだろうか?

 以上二点から、コトダマには作中に記述されていないルールや例外事項があると考えないと辻褄が合わない。

 細かいことだが③コトダマのうち『弾く』は【はじく】とも【ひく】とも読めるが、その点について作中でフォローされていない。
 ④コトダマの意味の解釈は日本語に準拠している(『化ける』とか)のだから、世界的規模ではなく日本語圏のみの現象とした方が良かったのでは。


No.1802 7点 百舌鳥魔先生のアトリエ
小林泰三
(2024/09/19 12:24登録)
 着地点は結構読めるけれど否応無しに引っ張り回される不快感が快感。でも予測がついてもつかなくても、どの道でろでろになるのだから関係無いね。身体パーツの過剰はフリークス的イメージの基本だから “百舌鳥” と言う字は如何にも小林泰三っぽいじゃないか。あっ、人間ならともかく猫様にあんなことするなんて許せぬ。


No.1801 7点 虚ろな感覚
北川歩実
(2024/09/19 12:24登録)
 読み進むにつれて登場人物間で病みが盥回しにされて怖さと可笑しみを同時に感じる。と言う意味では、どの短編も騙しの構造が割と似ている気がするけれど、味付けにヴァリエーションがあってワン・パターンではない。あやせさやかのイラストいいね(ハードカヴァー版)。
 唯一、「僕はモモイロインコ」のアリバイ・トリックは加害者被害者ともに動きが不自然で疑問が残った。


No.1800 6点 一八八八 切り裂きジャック
服部まゆみ
(2024/09/19 12:23登録)
 本作に限らず “重厚な歴史小説” を読むとつい思ってしまうのだが、どの程度までが作者の功績なのか。これは資料を組み合わせて加工したもので、重厚さは参考文献に由来するのではないか。そういう作品って、取り上げられる時代・地域に関わらず雰囲気が似てない?

 さて本作、切り裂きジャックはエレファント・マンと並んでおかずの一品目で、主食はヴィクトリア朝ロンドンに於ける日本人留学生の生活記録と成長物語。さりげなく語り手の差別意識を滲ませた文体はなかなか巧みで、読書体験として良い意味でのツッコミどころがチラホラと。
 しかし後半は燃料不足で惰性でノロノロ走る感じだった。引っ張った挙句、ジャックの正体が全然面白くないのは大問題だろう。
 ディケンズの話題でジョーゼフと盛り上がる場面と、ビービを保護する場面が良かった。


No.1799 6点 首挽村の殺人
大村友貴美
(2024/09/19 12:22登録)
 横溝を00年代に再現、しても様にならないが、その様にならなさが一つの個性ではあるかもしれない。田舎小説としては、やや紋切り型ではあるがなかなか読ませる。
 と言うのが全部カムフラージュ。真相に私はかなり驚いた。疫病神が本当に疫病神だった、と言う話。
 沢下、木下、沢田……ネーミングが雑じゃない?


No.1798 7点 短物語
西尾維新
(2024/09/13 12:04登録)
 折々に限定的な場で発表してきた掌編を集めたもの。シリーズに関する予備知識を前提とした結構クローズドな作品群。ストーリー漫画の単行本のオマケ四コマみたいなものか。それで一冊作ってしまうのは、需要の有無も含めてなかなか特異な例であって、こんな手触りの本は今まで読んだことがない。“あとがき全集” ともやはりちょっと違う。
 意味有りげでは在りつつ、物語を本気で進める程の意味が有ってはならない、と言う縛りに則った有っても無くても良いような話が、こうして単行本化されることでシリーズの正規のエピソードとして “有るもの” になってしまったのだから、この本そのものが怪異と言っても過言ではない。妹とのアレを正規エピソードにしちゃっていいのか?


No.1797 8点 バイバイ、サンタクロース 麻坂家の双子探偵
真門浩平
(2024/09/13 12:03登録)
 計算し尽くされていて驚いた。最初の方の話の物足りなさも、一段ずつギアを上げて行く演出の為のバランスなのだと今なら判る。そこまでやるかってところまで容赦無く踏み込む心意気に呆然。私は、年齢については “こういう奴もいるよな~” と普通に納得していた。

 ところで、全く登場しなかった麻坂家のお母さんの職業は何か。
 ――父が警察官で子がケイジ。ならば有人は alto だから母は音楽家。どうかな?


No.1796 7点 復活するはわれにあり
山田正紀
(2024/09/13 12:03登録)
 ジェフリー・ディーヴァーのリンカーン・ライムでアクションをやってみたかったのだろうか。半身不随のおじさんがハイテク車椅子で大暴れ。感動ポルノにしてたまるかと言わんばかりのキャラクター造形はドロッと爽やか。主人公の不自由さが却って火事場の馬鹿力のように全体を引っ張って、かつてのスーパーアドベンチャー・シリーズのパワーを再生させている。
 惜しむらくは、“サイボイド” と言う特殊なガジェットが、見た目にせよ動き方にせよイメージしづらい。作者の筆も健闘してはいるが、あまり詳しく説明的な描写をするとスピード感が損なわれるので止むを得ないか。


No.1795 7点 開かせていただき光栄です
皆川博子
(2024/09/13 12:01登録)
 かの時代、かの土地に於ける価値観、制度、技術などによって犯罪捜査やら何やらが随分違った様相を見せるのは時代ミステリの醍醐味。殺人の扱いが意外に軽くて笑ってしまった。物語の背骨は大きく湾曲していて、引き拡げられた肋骨の中に色とりどりの内臓が通常の三倍くらい詰まっている。美しい畸形だと感じた。♪熱くて冷たいハート。賢きは腎臓。肥大した肝臓は美味なり。ランララ~。


No.1794 6点 冬期限定ボンボンショコラ事件
米澤穂信
(2024/09/13 12:01登録)
 ミステリ的には強引。同じ人が三年置いて同じような事故に偶然巻き込まれるのは如何なものか。新旧二つの件を平行して考証しているので紛らわしい。
 “旧” の方は腑に落ちた。問題は “新”。衝動的犯行、そして偶然その後も関わりが続く。そのへんまではまぁ良いが、正体を隠そうとした犯人の理屈は考え過ぎ。出口戦略が無いままの一時凌ぎで、余計な事後工作である。寧ろそのせいでバレてるよね。
 小鳩君達の心情の変遷を追う教養小説的要素は、いい感じと嫌な感じの背中合わせが一人称で巧みに描かれ期待通りなのだが、前述のように不安定な土台に載せてしまったのは戴けない。
 病院小説としてはなかなかの優れものじゃないだろうか。


No.1793 8点 詐欺師と詐欺師
川瀬七緒
(2024/09/05 12:02登録)
 詐欺師バディの魅力的、ではないけれど目を離せなくなるキャラクター造形が上手いところを突いている。良い意味でキチンと、整然とした文体も好印象(例えばみちるなど、作家によってはグダグダな日本語不自由な喋り方にするだろう)。
 スマートに人を騙すヒントや注意点が色々まとめられていて、あなたも今日から詐欺師になれる。物騒なネタもチラついているが、藍には理性的に引いている一線があるし、コン・ゲーム的な騙し合いで着地するんだろう。
 ――と楽しく読んでいたらかなりびびった。おいおい、なんちゅう企みだ。復讐心とビッグ・マネーが結び付くとこんなんなるのか。
 最終的に何処までが計画で何処からが想定外か曖昧な嫌いはあるが、飲み込んだ錠剤が胃の中で実はコンクリート・ブロックだったと気付いた、みたいな気分で吐き気を押さえつつ拍手。


No.1792 7点 硝子の塔の殺人
知念実希人
(2024/09/05 12:02登録)
 硝子の塔の図版を見て私は思った。中心の階段室を軸にして部屋が上下するに違いないと。部屋を全て下側に集めると、10Fが4Fの高さに来るわけだ(11Fの展望室は動かず)。
 だってエレヴェーター無しの10Fに70代が住んでいるなんて無茶じゃないか。

 書かれていないロジックに気付いた。
 二日目初頭のディスカッションで、神津島殺しについて。
 毒殺なら必ずしも犯人が現場で立ち会う必要は無いが、名探偵は言う。“犯人は犯行当時、壱の部屋にいたのではないかと思っています”。
 その根拠として “毒を前もって仕込むという方法では、殺害するタイミングを決められない。犯人は午後十時以前に殺したかったから、毒を手渡しうまく言いくるめて飲ませた、と考えられる” のように説明されているが、こうも考えられる。
 ――被害者は、ダイイング・メッセージを残す程に “これは毒殺だ” と確信していた。でも普通なら “何か悪いものでも食べたか?” ではないか。また、被害者は心筋梗塞を経験しているので、純粋な体調不良(って変な言い方だが)で苦しくなるケースも認識していた筈。にもかかわらず毒殺を確信したのは、犯人がその場にいてその口から聞かされたから、と言う可能性が高い。

 あのシリーズの新刊が出たら、ネタが一つ潰れちゃうね。
 マーガレット・ミラーは鏡じゃないぞ。


No.1791 7点 生ける屍の死
山口雅也
(2024/09/05 12:01登録)
 被害者は増えても容疑者が減らない画期的な連続殺人。 
 欧米文化のパロディ的なコンセプトは好きだが、その手法としては私の嗜好と食い違うところがあり、作品に対して若干の歩み寄りを余儀なくされたことは否定出来ない。
 その理由の一部は長さに起因するけれど、単なる “謎とその解明” ではなくタナトロジーの一大伽藍になるのは作品成立上の必然であって、余計な部分が沢山あるように見えてもでは何処を削れば良いのかと問われると判らない。

 不満を抱えつつ “これがあり得るベストの形” と受け入れるしかないのか。ホワイト・アルバムは1枚ものにまとめればもっと名盤になったのに、みたいな話?


No.1790 7点 宇宙大密室
都筑道夫
(2024/09/05 12:00登録)
 作者唯一のSFオンリー短編集、と紹介するには幅が広くて、SFとは? と尋ね返したくもなるが、それはともかく。
 都筑道夫のミステリの欠点は、奇妙な状況(密室に死体、等)が作られた “理由” を重視する割に、その説明が不自然で回りくどいことだと思う。SFならば奇妙な状況自体が前提(タイムマシンがあった、等)なので、説明に汲々とする必要が無い。
 だからかどうか、変なところに力が入らず自然に読める作品が揃っている。「頭の戦争」結末の落差に天を仰いだ私。

 コンセプトは割とありがちだが、【民話へのおかしな旅】のパートは “なめくじ長屋捕り物さわぎ” の派生物(とはちょっと違うかな?)、神も天狗も容疑者に含める世界観で、あちらはしかしやっぱり人間、こちらは本当に神が犯人もアリ、と言う対比になっているように思った。


No.1789 6点 狙われた女
川上宗薫
(2024/09/05 12:00登録)
 読み終えて振り返ると、嘘から出たまことと言うか、事態はかなりの偶然から始まっている。“あの店のあの人のあの客” みたいな説明で話が通じちゃって、夜の街の社交界(?)がごく狭い一つの商店街みたいな印象だけど、そういうものなんだろうか。
 理由になっているようでなっていない動機(褒めてる)を筆頭に、プロットとしては “奇妙な話” てことで許容は出来るが、それを成立させるには世界観に物足りなさが残る。
 “官能小説のソウクン” に期待した程の文章の巧みさは感じられず。会話で話の広げ方(そらし方?)は面白かった。

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