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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.20点 書評数:2075件

プロフィール| 書評

No.2035 6点 霊感インテグレーション
新名智
(2025/08/09 13:01登録)
 “お供え物をしないとアプリの不具合報告が増える” の真相は見事で、泡坂妻夫の逆説みたいだと思った。但し、全体として前半の謎の真相は割と想定内。世界観も斬新と言う程ではない。

 後半、具体的には六地蔵の山道を上るあたりから一気に怖く面白くなった。
 のは良いがイマイチ腑に落ちない。
 “当主になると短命” & “最後の一人は生き延びる” の場合、自分が死にたくなければ “子供を作らない” が最善手。当主が死んだら、残った家族は敵同士である。そういう家に嫁ぐ人もそういないだろって気もする。
 そんな状況で月日が経てば、この一族は、先細りした本家分家間で当主の座を押し付け合うことになる。つまり、作中の “現在” のような状況にもっと早いうちに至っているのではないか。
 でも人はそこまで理性的には振舞えないかな。“当主を供給” 方式は、変な形で “呪いとの共存” が出来てはいるよね。金はあったわけだし、非道を承知の協力者もいたのだろう。怯えていながら、家系の存続も捨てられなかったのだろうか。
 決定的矛盾ではないが、グレー・ゾーンで押し切られた気分。うーむ。


No.2034 8点 青の炎
貴志祐介
(2025/08/09 13:01登録)
 必要なパーツを端正に並べて、意図したものを的確に書いた感じ。良い意味でコントロールが上手く利いている。あのラストも一つの選択肢だと思う。
 文学作品の引用で心情を補強するのは好きではない。

 で、“物証は充分だと言っていたが、あれは嘘だ”――その通り。
 指紋は “変な細工をした電気コードにテープを巻いたのが秀一だ” と言うことしか示していない。そのコードが犯行に使われた証拠は無い。
 DNA鑑定で判る? でもその犯行を秀一が実行した証拠は無い。
 極論、秀一が被害者にコードを刺したとしても、スイッチを押したのが秀一だと言う証拠は無い。秀一がスイッチを押せずに逃げ出した後で、侵入した誰かが押したのである。諦めるには早過ぎた。

 もし自分が犯人の立場なら、と考えると、友人に嘘を吐かせてしまった点が最も心苦しいかも。私が逮捕されても偽証しなくていいですよ。


No.2033 5点 古川くんと二ノ瀬さん 七草寮青春推理譚
入夏紫音
(2025/08/09 13:00登録)
 このミス大賞応募時には『九分後では早すぎる』だったタイトルを、刊行に当たって、この何も言ってないようなものに改題。とのエピソードが象徴しているかのような、個性の弱さ。
 そりゃあ確かに青春で推理なのだけれど、美形の癖に普通にいい奴だし、小奇麗で行儀の良い学生寮だし……せっかくフィクションなのに食い足りなかった。
 第一章の “謎の見出し方”、第二章の “一枚多い書類の出所” は上手くて、確かなセンスを感じさせるところもあるにはある。


No.2032 5点 黄昏の囁き
綾辻行人
(2025/08/09 12:59登録)
 三部作の〆なのに、ここへ来て美意識を投げ出してしまったような感じ。
 このシリーズで重要なのは “記憶” とか “雰囲気” とかじゃなくて、もっと表層的な、“全寮制名門女子高” みたいなベタで様式美的な記号の新たなスタンダードを書いてやる、と言う臆面の無さ、ではないだろうか。
 しかし、その掉尾を飾るには本作は地味。サーカスをネタにするなら、もっと堂々と中心に据えないと。

 ミステリ的な “記憶の中の世界の反転” には驚かされたけれど、殺人者の心の中で生じた “歪んだすりかえ” による動機は如何なものか。“口封じ” ですらないんだよね……。


No.2031 7点 暗闇の囁き
綾辻行人
(2025/08/09 12:59登録)
 何処かで読んだようなエピソードを寄せ集め、しかし驚く程に不純物の感じられない物語。それは、多分ツギハギではなく、一旦全てを溶かし合わせた上で再結晶させているから。
 その上で、雑味を含まない純粋さは、ともすればスッキリし過ぎて味わいの欠如に繫がるところを、綾辻ブランドのイメージ戦略で逆にそれを武器に変えている。珈琲が好き、お酒が好き、でも毎日飲めるのは “美味しい水” だ、みたいなこと。肯定的な意味で。

 “コピーのファイルを開いた” と言うくだり、デジタルのデータをPCで読むイメージをしちゃったけど、紙だよね。
 デジタル機器が普及する過渡期の作品で、今日から振り返ると時代背景のイメージがどっちつかず、とは言えそっちが先に出る自分にびっくりした。


No.2030 7点 緋色の囁き
綾辻行人
(2025/08/02 13:08登録)
 もはや何かのパロディかと思わせるようなベタな展開の連続。しかし、そういう意地悪な視点を抜きにして読めば、滑らかで精緻な造形はやはり美しい。
 何処にでもありそうだけど、実は此処にしかない物語。下手に独創性へのこだわりを感じさせず、サラッと読めてしまうところが偉大だ。

 ところで、高取さん兄は大したことしてないよね。ただそこに居ただけで、ラストに美味しい(かどうか判らんが)ところを掻っ攫っている。
 と揶揄する心算で書いたけど気持が変わった。これは寧ろ、何をせずとも “居る” と言う行為の大きさを語る決着なのである(かも知れない)。


No.2029 6点 狩人は都を駆ける
我孫子武丸
(2025/08/02 13:08登録)
 作風をコロコロ変える我孫子武丸の、謎解き風味も濃度も薄いが、素直に読めるライトでユーモラスな探偵物語。ハードボイルドとは呼べない。個人的にはミステリ度が低いと緩さも許容し易いので、これでもまぁ良いんじゃない。
 なんだけど、アレの前日譚だと思うと、二つの世界を無理矢理くっつけたようで、この舞台の書かれていない部分に何が隠れているのか気が気でない。素直な読み方ではいけないような気にさせられてしまう。


No.2028 5点 三百年の謎匣
芦辺拓
(2025/08/02 13:07登録)
 やりたいことはまぁ判るし個々のエピソードも悪くはないが、それを “謎匣” とか呼んで結び付けるのはこじつけがましい。もっと素直に物語性の発揮に集中しても良いのに。
 それはそれとして、「新ヴェニス夜話」の “舞台が実は○○” と言う大ネタは面白いのだが、その手の仕掛けがこの一話だけなのでバランスが悪い、と言うか後続を期待しちゃったのでがっかり。


No.2027 5点 占い師はお昼寝中
倉知淳
(2025/08/02 13:06登録)
 びっくりしたなぁ、もう。「占い師は外出中」の真相が衝撃的。こういうシリーズでやっちゃ駄目な奴だ。
 何故なら、“最後まで書いていないだけで、全てのエピソードの真相が同じ構造である” との可能性を示してしまうから。
 「写りたがりの幽霊」なんか如何にもソレっぽい。否、「壁抜け大入道」だけは違うね、警察沙汰だし現地調査に赴くし。
 と考えると、収録順も意味ありげに見えて来る。何気ない顔で四編読ませた上でシレッとひっくり返し、最後にコレなら心配無いですよとソッと差し出す――後期クイーン問題を実践して読者をからかったのだろうか。


No.2026 4点 地獄の奇術師
二階堂黎人
(2025/08/02 13:06登録)
 限界が判っている懐古的なミステリをそのままリメイクしたんだなぁ。
 例えば、「人か魔か」「悪霊降臨」と煽られても、つい読者は “超常現象は発生しない” 前提で読んでしまう。すると真相は明白。“不可解な状況” をやり過ぎなので、そのままヒントになってしまうのだ。
 そういう “読者との距離感” の判ってなさが、悪い意味で作品の独自性に結び付いていると思う。


No.2025 6点 少女キネマ
一肇
(2025/07/26 11:47登録)
 成程ネーミングがヒントだったのね(×2)。
 時代錯誤感を生かした設定は上手いところを射抜いているが、一連の騒ぎの中心に座す、傑作たるべき作中作映画が具体性に欠けるのは、まぁ止むを得ぬとは言えもどかしい。ベスパのエピソードの方が突出して印象に残っている。


No.2024 7点 桜子は帰ってきたか
麗羅
(2025/07/26 11:46登録)
 戦時下の悲劇を題材にしつつ、時代に責任転嫁せず個人の恨み辛みを中心に据えて書き切ったところが良い。
 今更人を殺してまで守るべき秘密か? との疑問もあるが、そのへんのバランスが崩れちゃった人達なんだな、と思わせるゴリッとした説得力があった。
 文庫版解説にも書かれているが、雰囲気作りとして “桜子” と言うネーミングは秀逸。


No.2023 6点 変な絵
雨穴
(2025/07/26 11:46登録)
 色眼鏡を外して読むのは難しいな~。
 実際に絵を掲載してしまう強みは確かにある。読者が本気を出せば、絵をスキャンして “3枚の絵の秘密” を自力で解くことも可能なのだ。そのへんは順当な工夫と言える。
 しかし、予想以上に良く出来ているからこそ、この説明的な文章は如何なものか。ネタが面白けりゃそれでいいだろ、で押し通せる程に個性的なストーリーとまでは言えない。“絵” は幹ではなく枝葉の面白さなのである。出自がどうであれ、文章と言う別の枝葉にも相応に気を配るべきではないか。
 あ、でも海外でも注目されているとか。翻訳には有利かも。


No.2022 6点 やまのめの六人
原浩
(2025/07/26 11:45登録)
 色々と伏線を拾う面白さは結構ある。
 但しそのせいで、物語を牽引する役目はクライム・ノヴェル的なスリルが担うことになり、ホラー的な怖さはあまり感じない。それでラストがああだと、何だかはぐらかされたような気分になった。


No.2021 9点 暗いところで待ち合わせ
乙一
(2025/07/26 11:45登録)
 非常に技巧的と言うか、小さな心の動きを注意深く積み重ねて奇妙な同棲状態を成立させた手際に驚かされる。
 会話も無い、これと言った出来事も起こらないパートが少なくないのに、弛緩するどころか寧ろ緊張感でこちらも息を殺して読んでしまった。作者がとても深いところまで潜った、と言う感じ。まぁこの際リアリティは措いといて。


No.2020 8点 タイタン
野﨑まど
(2025/07/18 12:00登録)
 この作者は、圧倒的な情報量を圧縮してストーリー展開と寄り添わせる優れた才を持っている。それは、頭いいなぁと思わせる反面、処理能力で器用に書いている印象も否めず、素直に熱中出来ずにいた。
 しかし本作の成立にはそういうスマートな力業が必須で、野﨑まどだから書けたと言えるだろう。“仕事” に関する思索を深めつつ、要所要所での思い切ったSF的飛躍は、物語を “知的興奮” と “笑っちゃう” のハイブリッドに導いた。宮澤賢治の引用が意外な程に効いている。しかしこの時代でも下着はパンツなのか。


No.2019 7点 ブレイクショットの軌跡
逢坂冬馬
(2025/07/18 11:59登録)
 良い意味でなかなか計算高い “次の一手” ではないだろうか。デビュー作の軛から逃れ、ジャンル作家脱却を図っている。
 前二作のような冒険要素は少ないし、一直線にゴールを目指すあの潔さも無い。細切れにした物語が渾然一体となって語るのは、何が何と繫がっているのやら判らない世界の有様。しかしその雑味の多さこそが本作の味わい。多彩な価値観を器用に使い分け、どのエピソードもリーダビリティが破格。うっかり一気読みしてしまったよ。えっ、架空の車種なんだ……。

 ところで無神経だと謗られる覚悟で言うが、プロローグに出て来るラップ、そんなにひどいか? 極論暴論を述べる歌詞なんて良くあるし、個人の表現でそこまで全方位に気を遣わなきゃ駄目かなぁ? 本作中最大の違和感である。


No.2018 5点 名探偵再び
潮谷験
(2025/07/18 11:58登録)
 第三章までの事件はポイントが摑みづらく、イマイチ気持が奮い立たなかった。読み返せば理屈としては納得出来るけれど。伝聞で語られるせいかな?
 と言う分析を裏付けるかのように、事件に直接遭遇する第四章で一気に面白くなり、最後のサプライズには脱帽。
 前半もっと上手く書ければ、とは思うが、一人称記述も伝聞も、設定上の必然だろう。どうしたものか……。


No.2017 4点 黒き舞楽
泡坂妻夫
(2025/07/18 11:57登録)
 以前読んだ時は読後感がとても悪くて……読み返してみてもやっぱり、その性癖は許容しがたい。相手が合意しているか微妙なところだし。本性に殉じることが常に正義と言うわけではないのだ。文芸の力がうっかり変態を黒水晶に昇華してしまった、みたいな感じ。それなりに読ませるので悩ましい。


No.2016 6点 赤後家の殺人
カーター・ディクスン
(2025/07/18 11:56登録)
 本格ミステリに於いて、鑑識や検死の結果は “読者に提供される推理の為のデータ” と言う側面があり、基本的に無謬である。秘密の抜け穴を見落としていました、では話にならない。
 と考えると本作のトリックはビミョーなんだけど、これは責められないかな~と言う絶妙なポイントでもある。“ズルい” とは思ったものの、賞賛したくなるタイプのグレー・ゾーンだ。事件発生後すぐ、H・Mに大胆なヒントを言わせているのも偉い。
 回りくどい動機はもう少し上手く設定して欲しかった。

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