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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2006件

プロフィール| 書評

No.1966 7点 Wi-Fi 幽霊
乙一・山白朝子
(2025/05/09 14:17登録)
 乙一と山白朝子の抱き合わせによるホラー傑作選。全9編中、書き下ろし1、今までアンソロジーだけで読めたものが1。あとは二人の既刊から採られていて、熱心な読者にとってはそこまでありがたい構成ではない。まぁ私が編者でも「SEVEN ROOMS」「神の言葉」は当然セレクトするさ。
 しかし何故今こんなものが編まれたのだろうか。ポップ・ミュージックの場合、新作の制作が上手く進んでいない時にツナギとしてベスト盤が出たりもするが……ちょっと心配だなぁ。

 書き下ろし作は両者の共通点を増幅したような雰囲気で、作者名を伏せたらどちらが書いたか判別不能であろう。そんな気持悪いスマホはさっさと捨ててしまえ、とのツッコミは成立しない。ネットワークとの接続を切るなど思いもよらない世代の寓話なのである。

 ところで、表紙は Adobe Stock だって。この本より先に、わざわざあんな写真を撮ってネットに上げた人がいるのか……。


No.1965 7点 毒入りコーヒー事件
朝永理人
(2025/05/09 14:17登録)
 “推理の不備” を予め宣言して無駄にハードルを高めておいて、緻密な騙しでキチンと期待に応えてくれた。
 綺麗に整い過ぎじゃないかと言う気もしたが、最後に気持悪いエピソードが飛び出したので良かった。
 結果的に、金持ち(?)と再婚して家を乗っ取ってしまったように見えるけど、そういう話じゃないのね……。


No.1964 6点 卒業のための犯罪プラン
浅瀬明
(2025/05/09 14:17登録)
 良い意味で陽性な、そこそこのリアリティ。個々のキャラ立ちが良く、各々それを踏まえた屁理屈を述べていて、ちゃんと別々の人が作者の頭の中で競い合っていたんだろうと感じさせる。
 概ねプラスマイナスゼロになる落としどころも、この世界観なら正解。大衆を統計的に十把一絡げで扱う会話はイヤなんだけど、経済学なら仕方が無いか。


No.1963 6点 闇に蠢く
江戸川乱歩
(2025/05/09 14:16登録)
 前半、御都合主義的に主要人物が集まり、かと言って特段何をするでもなく、話がどっちへ進んでいるのか判らんな~。たいしたことはない。まぁ拾った原稿だそうなので、乱歩の責任ではない。
 と思っていたら、命の危険を覚えてから俄然スリリングになる。これは私も大好物だ。まぁ乱歩が偉いわけではない。
 後年から振り返って見ると、乱歩はこの謎の作家の影響をかなり受けているように思われる。無事連絡は付いたのだろうか。

 蠢く春の虫は蝶、と洒落たネーミングである。


No.1962 6点 詩人と狂人たち
G・K・チェスタトン
(2025/05/09 14:16登録)
 作品の核に据えられた逆説とそれを囲む物語が何かチグハグなんだな。サイズが違っていたり配置が斜めにズレていたり。正しくない在り方こそが正しいのだ、と言う逆説なのだろうか。版元が “幻想ミステリ” と銘打っているおかげで少し飲み込み易くなったかも。


No.1961 7点 ロシアン・ルーレット
山田正紀
(2025/05/02 12:41登録)
 どのエピソードも、やりきれなくて面白くはある。ただ、こういう構造の作品だと、つい全体を貫く大きな物語の方に気を取られて各短編の印象が薄くなりがち。その中では「ウォッシュマン」で描かれる心情にゾクリとした。
 物語同士のリンクの仕方がまちまちで総合的に見ると不定形になっているのが良い。刺さったバスに対する災害救助の部分は殆ど展開しないせいもあって、物凄く “投げ出したまま” な読後感。


No.1960 7点 ゴリラ裁判の日
須藤古都離
(2025/05/02 12:40登録)
 不穏な冒頭を経て、前半の回想場面でローズの見ている世界は、いずれ壊れると予告されているだけに愛らしくも切ない。敗訴後の展開は意外だったけど、ジャンプの前には一回しゃがむ、みたいなものか。“言いたいことがある小説” の強みが良い形で出ているだろう。
 だからこそ思う――意思の疎通が出来なければ、暴れている者がホモ・サピエンスでも子供を守る為に殺す選択はあり得る。いわんやゴリラに於いてをや。内面は結果論から推測するしかないのだ。この判決は難しいぞ。


No.1959 7点 ずうのめ人形
澤村伊智
(2025/05/02 12:40登録)
 ミステリであればそれは出来過ぎだろうと言う偶然でも、ホラーなら人知を超えた偶然に絡め取られること自体が寧ろ必然に感じられる。巻き添えの多さに頭を抱えた。
 眼球を抉り取られる怖さは、バラバラ死体とかより絶妙にイメージし易くて背筋がぞわっと来る。もともとうっかりポロッと落ちそうなパーツだからね。


No.1958 5点 新幹線殺人事件
森村誠一
(2025/05/02 12:39登録)
 新幹線で人を殺すのは感心せんが、トリック、と言うかトリックそのものよりもトリックを破綻に導く鉄道豆知識に驚いた。よくあんなところまで目配りが行き届いたものだ。

 本作に限らず、芸能界を “欲望まみれの虚飾の世界” として描いた作品はままあるけれど、ストーリーとして面白く感じたものは思い出せない。一つには、それを薄っぺらく描くことは、“スターをありがたがる一般大衆は馬鹿だ” と言う偉そうな視点と表裏一体だからではないか。


No.1957 5点 ペトロフ事件
鮎川哲也
(2025/05/02 12:38登録)
 この最後の対決場面はおかしくない? 鬼貫が得々と語った事柄は事実と違っており、物的証拠が挙がったわけでもない(よね?)。計画は全然破綻していないと思う。
 それどころか、三つの “真相候補” から一つを選ぶ決め手が欠けているのではないか。容疑者の証言を真に受けて良いのか。もし二人目三人目が一人目と同じ主張をしたら、起訴は難しい。グレー・ゾーンに留まりつつも疑わしきは罰せず、寧ろ大成功である。
 注意深く鬼貫の発言をチェックしたが、“本当の真相” を仄めかしているようには読めない。一体犯人は何に絶望してギヴ・アップしたのか。察しが良過ぎと言うか諦めが早過ぎ。

 とても丁寧に満洲の風土を記述していて詩情すら感じさせる。後年の加筆の賜物かも知れないが。
 この作者にそういう上手さはあまり感じたことが無いので意想外、ミステリ部分より心惹かれた。


No.1956 7点 無垢なる花たちのためのユートピア
川野芽生
(2025/04/25 12:44登録)
 川野芽生は、たおやかな語り口で世界の糸を解きほぐす。
 表題作が他に比べて少々取っ付きにくく感じたのは、前者が少年達の物語であるのに対して、「白昼夢通信」は少女達、「最果ての実り」は男と少女、「卒業の終わり」は女達と男達の物語だからさ――なんて言ったら表層的で通俗的な消費の仕方だろうか。
 否、“性差” との苦闘はこの作者の根っこに位置する烙印だと思う。花は植物の生殖器なのである。気怠く甘い白昼夢も、一歩引いて見るとそれを見ていること自体が怖い。


No.1955 7点 世界でいちばん透きとおった物語2
杉井光
(2025/04/25 12:43登録)
 まさか続編があろうとは。
 作中作をいじる話は好き。完結編のアイデアが上手いし、未完にした事情もしっかり設定されていて隙が無い。
 あと、コンビ作家のキャラクターが良い。(作家に限らず)共同作業者の関係性は、部外者がイメージするものとは多分かなり違うよね。と言う認識を踏まえての、吸引力の強いエピソードの数々。

 “エスプリ” なんて口に出す機会が無いから、イントネーションの参考にならないよ。ネタ?


No.1954 7点 ぼぎわんが、来る
澤村伊智
(2025/04/25 12:42登録)
 私は割とホラーを読むと手も無く怖がってしまう方で、特に第二章末の新幹線での情景には噴き出しつつ戦慄。
 ミステリ的手法との掛け合わせも効果的だが、そのせいでクライマックスが早過ぎると言う副作用があるかも。現象の頂点は第二章にあって、その後に謎の解明をする流れなので、相対的に第三章が地味に思えた。


No.1953 6点 鬼神の檻
西式豊
(2025/04/25 12:42登録)
 確かに楽しめたし、型に収めるのではなく枠を破って拡散して行くような作品の在り方にはワクワクしたんだけど、結果として盛り過ぎ。終盤、何処まで掘っても底が見えないのでイラッと来てしまった。
 第二部プラス・アルファ(鬼が実在するホラー、しかし連続殺人はロジカルに解決)の辺りでで止めといた方が良かったのではないだろうか。 


No.1952 5点 イノセンス After The Long Goodbye
山田正紀
(2025/04/25 12:41登録)
 押井守のアニメ映画『イノセンス』の前日譚、と言う企画作品。物語だけ追えば、公安九課 vs テロリストのアクション・ストーリー。ただ妙に重い。それがキャラクターの鬱屈によるものなら良いんだけど、どうもサイバーパンク的要素の解説過多が主因に思われる。
 アニメなら見ているだけで判る(気になれる)事柄でも、小説では説明を省くと義体(サイボーグ)のキャラクターが人間離れした超人に見えてしまう。システム関連の設定も読者の楽しみのうちだし、元ネタ付きの作品なので気を遣って丁寧に書いたのかも知れない。
 その結果、アクションのスピード感を担保する記述のせいでスピード感が失われているような奇妙な状態になってしまった。

 エピローグにちょっとしたサプライズあり。しかし、作者はサプライズを意図したわけではない筈で、その件を事前にさりげなく教えてくれなかったのは寧ろ手落ちだと言える。と判断して書いちゃおう。“えっ、この人達は日本語で会話してたんだ!”


No.1951 5点 掟上今日子の保険証
西尾維新
(2025/04/18 13:21登録)
 普通のミステリなんてありませんよ――と今日子さんに言われそうだが、比較的普通のミステリに近付いた結果、シリーズらしさが失われてしまった。のみならず、軽さによって濃度を生み出すような西尾維新のあの文章が希薄化しつつあるのも気掛かり。
 「不眠症」。盲点だったが、スジは通っている。
 「船酔い」。ダークな真相にああやっぱり西尾維新だと胸を撫で下ろす。
 「猫アレルギー」。この題を掲げておきながら、肝心の猫様が登場しないじゃないか。今日子さんがもふもふで窒息して身悶えるさまを期待させておいてこの仕打ち。強く抗議したい。


No.1950 5点 風水火那子の冒険
山田正紀
(2025/04/18 13:21登録)
 それぞれ長さに応じた複数の謎を絡ませて、単なるアイデア・ストーリーでは終わらせまいとする気概は感じた。
 悪くはないがしかし、あまり深みが感じられず。世界も人間も少し壊れていて、やや肩透かしなニュアンスは狙いなんだろうけど、その脱力感がここではプラスに働いていない。風水火那子のさりげない異物感みたいな雰囲気も効き目が弱い。
 「極東メリー」の昔語りは切なくて良かった。


No.1949 7点 亜智一郎の恐慌
泡坂妻夫
(2025/04/18 13:20登録)
 多少は時代物に慣れたのと知識が増えたのとで解像度が上がったか、味わい方が判って来た。サイコ・ホラー顔負けの “占い” は驚き。世にカルトの種は尽きまじ。
 なまじ謎を扱うからその真相が肩透かしなところは否めないが、話の流れの持って行き方は同氏の現代ミステリ作品よりも余裕があって技巧的に感じられたりもする。草双紙談義でねんごろになる流れなど何度でも読み返したくなる。


No.1948 7点 シュロック・ホームズの回想
ロバート・L・フィッシュ
(2025/04/18 13:20登録)
 基本的に前巻と同じノリであって、感想も同様。但し、パターン化しているように見えても、シュロックの言動には結構ヴァリエーションが感じられる。最後まで飽きずに読めた。
 諸々の言葉遊びについては、翻訳者の苦労が偲ばれるが、“わけのわからない言葉” を無理に日本語化するより原文をそのまま載せて欲しかった。

 今になって気付いたが、シャーロックと違ってこちらのホームズの綴りは Homes なんだね。
 つまり、文中に姓だけで記述されていても原文なら原典との区別がキチンと付いているわけで、訳文でこの点は如何ともしがたい。“姓をそのまま拝借して厚かましい” と思っていたけどそういうことか。


No.1947 6点 キリオン・スレイの復活と死
都筑道夫
(2025/04/18 13:19登録)
 フーダニットよりも、事件の奇妙な様相に関するホワイが核心に据えられていて、
 「密室大安売り」=何故凶器が無かったのか。これは説得力があるし、密室の件ともまぁ繫がっていて上手い。
 「情事公開同盟」と「二二が四、二死が恥」は、明確な理屈ではなくやや曖昧な動機付けが、良いんだけど、もう少し深みが出る書き方なら更に良かった。

 一方で、「八階の次は一階」。自殺騒ぎは、操り犯にとっては(真の目的の為に)有意義だが、実は自殺志願者本人にとってはこれと言ったメリットが無い。殺人は自宅で発生したわけじゃないんだから、“夫が家出しました” で済む筈。つまり、彼女の混乱に乗じて操り犯が不合理な行動をさせているのである。それは作者が評論等で提唱する “論理的な謎解き小説” にはそぐわないのではないか。キリオンはどういう論理でこんな真相を推理出来たのか。

 フーダニット色が強いのは「なるほど犯人はおれだ」。端正なパズラー然としたダミー推理に対して、実際には犯人の中途半端な行動がその様相の原因だったと言う真相。それは作者が評論等で以下同文。

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