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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1288 8点 密室館殺人事件
市川哲也
(2022/09/14 13:23登録)
 繰り返されるどんでん返しが本作では鼻に付かず、“然るべき形” だと感じられる。トリックを生み出せないなら、トリックが稚拙である必然性を有するプロットを考えればいいんでしょ、と言うわけだ。文庫版に解説を付けないこだわりも良し。

 でも結局、人を人とも思わない犯人のキャラクターに惹かれたのが大きいかも(先日読んだばかりのアレにちょっと似ている)。
 更に、挿入された感傷的な恋話が効く。終わりを決めたのに好きになってしまい、しかし決定は覆らず――読み返すと非常に腑に落ちる流れで、ゆえに狂おしく切ない。

 ババ抜き勝負で、語り手が “(カードにマーク等の)差異はないように見える” と記述しているのに、実は単に見落としただけ、と言う真相はつまらない。机上にガラス製品がありそれに映っていた、とかどう?


No.1287 6点 鳥居の赤兵衛
泡坂妻夫
(2022/09/14 13:22登録)
 一つのアイデアで押し通す話ばかりだったこのシリーズだが、本書には二の矢を射る作例が幾つか見られ意表を突かれた。やはりこのくらいの展開はあった方が読み応えがある。
 その一方で、あっけなく終わる短い話も、息抜きとして悪くないな~と言う心境になって来た私である。


No.1286 6点 たまさか人形堂それから
津原泰水
(2022/09/14 13:21登録)
 人形に関するイメージ喚起力は見事。他方、前巻よりもギクシャクと交差する人情の機微は今一つ判らなかった。やはり本は読み手を映す鏡なのだ。創元推理文庫版は書き下ろしの戯曲を追加収録。


No.1285 5点 新アラビア夜話
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
(2022/09/14 13:17登録)
 筋立てを重視した小説ならこのくらいの膨らませ方はするだろう、と言う私の思い込みが軽くいなされて呆然。こっちに進んでこれで終わりとは……。

 「自殺クラブ」は、設定だけ考えて放り出したよう。元祖デス・ゲーム?
 「ラージャのダイヤモンド」で、聖職者が宝石の有利な処分の為に数年単位で修行も辞さず、との発想が面白かった。軽率なんだか堅実なんだか。確かに分割すれば “巨大な宝石” の付加価値は失われるのであって、捨てることはないよねぇ。


No.1284 4点 構造素子
樋口恭介
(2022/09/14 13:16登録)
 この書き方が、表現としての勿体振り方であるのは判るが、あまりにも勿体振り過ぎ。こういう “読みにくさを乗り越えてこそ成立する表現” も決して嫌いではない筈だが、本作は全然乗れなかったな~。特に反複の多さが苛立たしい。


No.1283 9点 怪盗フラヌールの巡回
西尾維新
(2022/09/09 12:20登録)
 こんなことを言っていいのかどうかわかりませんが、ちゃんとやればまだ出来るじゃないか、って感じ。舌先三寸で引き伸ばした、なんて言わせない。
 相変わらず痛い人の描写は抜群で、うっかりそれに絆されてしまう危険性高し。トリックにも関わるちょっと特殊な事件現場が具体的にイメージしづらかったのは遺憾。


No.1282 8点 戻り川心中
連城三紀彦
(2022/09/08 13:54登録)
 全編、恐ろしい濃度が維持されている。
 但し、ミステリとしての骨格は見事ながら、肉付けである世界観や文体が微妙に私の嗜好とは食い違っていて、読むのに幾ばくかの努力が必要だったことは認めざるを得ない。特に、“男は男らしく女は女らしい” ことに寄り掛かり過ぎていると思った。

 「桔梗の宿」。ラストの手紙は、“今更そんなこと教えてどうなる?” と言う意味で後味の悪さが残る。嫌がらせとしか思えんよ。真相の提示方法はもっと工夫すべきだったのでは。
 「桐の柩」。あの世界の人が今更、誰が誰を殺したとか気にしてそんな極端な行動をするものだろうか。隠したい真相と隠蔽工作の重さのバランスが取れていない。
 表題作が一番好き&ショッキング。でも “全くの偶然で同じ日に自害” とのエピソードはやり過ぎ。ここに何かの理屈を付けられていたらなぁ。


No.1281 6点 マギンティ夫人は死んだ
アガサ・クリスティー
(2022/09/08 13:52登録)
 ちょっと入り組んでいるが、真相は面白いと思った。“そんな程度で殺すか?” と言う動機に対して、“犯人にとっては【そんな程度】じゃ済まないんだ” と外堀を埋めてあるところが良い。

 ポアロとベントリイ容疑者の一度目の会見が省略されている。書き忘れ?
 マギンティ夫人の、写真の件に対するスタンスが曖昧。秘密にしてちょっとした恩恵に与ろうとしたのか、ゴシップのスピーカーなのか、ポアロが矛盾した説明をしている。
 使用人が何人も登場するのにほぼ “背景” 扱いで、事件の捜査対象は雇う側の人ばかり。ACの保守的な階級意識はいつものことだが、被害者が使用人だと目立つな。


No.1280 6点 ジキル博士とハイド氏
ロバート・ルイス・スティーヴンソン
(2022/09/08 13:51登録)
 なんてことだ! ジキルとハイドが○○○○だったなんて、思ってもみなかった! 顔はともかく体格まで変わるのはアンフェアでは?
 議員殺しは単なる通り魔か。悪行の無計画さは不満。
 後半の彼の行動が隠蔽工作と言うには支離滅裂になって行く点には、追い詰められる気持ゆえの説得力を認めても良い。
 死の状況は密室。基本設定と結び付いた鮮やかなトリック。

 ハイド氏の悪評の半分は言動によるものだが、もう半分は外見のせいだ、と意地悪な読み方にシフトすると、登場人物の多くが言動以前に見た目だけで “彼は邪悪だ” と嫌悪感を抱いていることに気付く。本書の場合その直感が正しいので突っ込みづらいが、ホラーはルッキズムの教本になってしまうなぁ。


No.1279 6点 世界城
小林泰三
(2022/09/08 13:49登録)
 “本格冒険ファンタジー” との謳い文句に偽りは無く、なかなか古式ゆかしい少年の冒険譚。が、そこは小林泰三、理系のことわりで編まれた世界設定の “正確に間違えた” 感じが美しい。いつもならしばしば笑いにつながる過剰にロジカルな会話が、きちんとコミュニケーションとして機能しているのも微笑ましい。


No.1278 5点 神薙虚無最後の事件
紺野天龍
(2022/09/08 13:47登録)
 想定内の材料でそこそこ器用に組み上げた、って感じ。悪い意味ではないが、こういうのは読み慣れちゃったなぁ。
 一つ大きな違和感が残る。そもそも計画内容がキャラクターと合っていない。事件がエンタテインメントとして大衆に受け入れられるのは人死にが無いからだ、と計画者は充分認識していただろうに、と言うこと。焼け跡に死体を残さないシナリオにするのが自然では。


No.1277 8点 たまらなく孤独で、熱い街
山田正紀
(2022/09/01 12:24登録)
 殺人者については諸々未解明なまま。そういうミステリ的な “納得” を脇に置けば、文脈とか整合性とかとは別のところでかなり腑に落ちる(判らなさが判る)話。“孤独” を描いたと言うと陳腐だが、そう言うしかない。
 真ん中の部分、つまり “彼” を、ここまで思い切って空白に出来たのは作者の胆力ゆえ、だろうか。
 SF作品では虚構性の強さが特徴の人だし、見る角度を変えると “誰でもない殺人者が、しかしその時その場所に確かに居た” と言う幻想小説にも思える。


No.1276 7点 アルジャーノンに花束を
ダニエル・キイス
(2022/09/01 12:23登録)
 読んでいる間ずっと、難波弘之と氷室京介とザ・コレクターズがイヤーワーム(同じ曲が頭の中でぐるぐる回ること)していた私。ミーハーな読者です。

 どうも本作は無駄に知名度を得てしまったきらいがある。粗筋から結末からテーマのポイントから、本文を一行も読んでいないうちに目や耳に入ってしまう。
 しかもこのテーマがナイーヴと言うか、一つ間違えるとかなり臭いものになりかねず取り扱い注意なのに、テーマは○○ですよと無神経に紹介されては、想定通りに読めるわけがない。
 チャーリイが猜疑心と差別感情に囚われるあたりや、結末で逆流に抗うさまにはグッと来たが、先入観によるイメージを上回ってドカーンと揺さぶられる部分は限られていた。
 傲慢を承知で書くと、これ、ファンがよってたかって魔法を解体してしまったように見える。

 まっさらな状態で読みたかったとつくづく思う。


No.1275 5点 伝奇集
ホルへ・ルイス・ボルヘス
(2022/09/01 12:22登録)
 こういうものを “二十世紀文学の最先端” と言われても困ってしまう。アカデミックな評価は却って邪魔なのではないか。文芸的な深みを何処に見出せば良いのか判らん。軽い妄想を大仰に肉付けして語ること自体に面白味を見出す虚仮威しの戯言小説、と言った気分で読めば楽しめなくもない。ちょっとチェスタートン風味?
 ミステリとして面白いのが「八岐の園」(これは鮮やか!)。SFとして面白いのが「バベルの図書館」「隠れた奇跡」。ミステリとして面白くないのが「刀の形」「死とコンパス」。


No.1274 5点 情無連盟の殺人
浅ノ宮遼
(2022/09/01 12:21登録)
 行動の動機に関する部分は設定が生かされており、思いがけない結論に膝を打った。
 犯人当て部分は今一つ。ロジックとしては成立しているかもしれないが、説明されてもスカッとしなかった。

 第五章。“そっくりな別のナイフだった可能性はないの?――非常に特徴的なデザインだから、見間違いようはない”。
 コレは全然根拠になっていないよね。寧ろ、同じデザインのナイフが二本あったら混同した可能性はある、と言っているように思う。


No.1273 4点 まほろ市の殺人 冬
有栖川有栖
(2022/09/01 12:20登録)
 前半の、一つの出来事が次の出来事に積み重なってゆく感じには、有栖川有栖の美点が生きている。しかしその先、“不可解な出来事が起こり、それが特定の相手に向けた芝居だった” と言う真相は、よほど巧みに組み立てないと説得力が生じないと思うし、私は好きではない。 
 イチャモン:自分の顔ってそんなに見慣れている? ラストで、そっくりさんに思いがけず会って、即座にそっくりだと自覚出来るかなぁ?


No.1272 7点 まほろ市の殺人 秋
麻耶雄嵩
(2022/08/25 13:29登録)
 悪ふざけもここに極まれり。でも無難なミステリよりは良し。好き。


No.1271 7点 宇宙消失
グレッグ・イーガン
(2022/08/25 13:28登録)
 結末できちんと着地したようには思えないなぁ。まとめ方に困って卓袱台返し? そもそも物語と〈バブル〉の関わりのバランスが悪い。中盤へ読み進む頃にはそんな設定すっかり忘れていた。後半暴れるかと予想していた《子ら》も、いつの間にか居場所が無くなってたし。
 中軸となる、語り手とその周辺の日常(と言うには剣呑な状況)が量子論的にエスカレートして行く様はスリリングなのに。中はしっとり、外は黒焦げ、って感じ。


No.1270 6点 俺ではない炎上
浅倉秋成
(2022/08/25 13:28登録)
 良く出来てはいるけど、SNSにまつわる狂騒とかデジタル社会の怖さ云々と言った作品は、どれも同類項に思えてしまうんだよなぁ。題名からこの雰囲気の見当は付いたのに、つい手を出しちゃったなぁ。
 と思いつつ幾分惰性で読み進めたら最後で驚いた。そっちに気を取られて手許が疎かになる、と言う意味では題材そのものがミスディレクションとして私に作用したようだ。

 ところで、あの手紙で彼を山の中へ誘導するのは、確実性が低いよね。彼の手に届くか? 読むか? 数字の意味が通じるか? 信用するか? いずれも危うい描写があった。


No.1269 6点 猫は知っていた
仁木悦子
(2022/08/25 13:27登録)
 過積載にならずにシンプルにミステリ道を貫けた幸せな時代の賜物?
 全編を通じて楽観主義的な雰囲気が好感度高し。若干のぬるさを招いているのは御愛嬌(いや、実際にそういう大雑把さにリアリティがあったのか?)。そのくせ、犯人の告白に同情の余地が無いのには驚いた。
 “部屋の位置” は良い伏線だが、それだけで犯人を示してしまうと言う意味では良くない。
 “テープ・レコーダー” はカセットテープではなくオープンリールのことだね。

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