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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1451 8点 まず牛を球とします。
柞刈湯葉
(2023/05/19 13:13登録)
 ぶっとんだアイデアをシレッと描く理系(風)作家? いまのところ、この平熱の文体が(レトリックの下手な文章家の逃げではなく)作風に必要な一部として成立している。森博嗣の非ミステリ系コメディにSF色を追加した感じ。

 「犯罪者には田中が多い」は、キャラクター小説化が著しい昨今のミステリに対する批評? 「家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。」、微笑ましい “恩返し” だろうと思っていたら、ただ一点に釘を打つだけで彩色不明なホラーに変換! 「大正電気女学生」、流行りのパターンは面白いから流行りになるんだよな。と開き直って “このノリ、好きだ” と言おう。


No.1450 6点 回樹
斜線堂有紀
(2023/05/19 13:11登録)
 「回樹」「回祭」は、軸になる世界設定はともかく百合紋様にウズウズする。「BTTF葬送」、映画関係は素養が無いのでさっぱり。「不滅」、同作者のミステリ長編を連想してネタが割れてしまった。愛読者ほど損をするシステムってのはどうなんだろう。

 感情を描く為の触媒として異物を持ち込んでいるが、ジャンル性は希薄で、ミステリ作品と共通した “斜線堂有紀の世界” だと感じた。逆に言えば、果たしてSFだけ集める意義があるのだろうか?


No.1449 6点 南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生
新井素子
(2023/05/19 13:09登録)
 新井素子が新口語体を引っ提げて登場した時、読者は驚きつつ、その効用は認めつつ、こう思ったのではないか――“若気の至り”。
 実際に、一時期見受けられた亜流は姿を消し、もしくはより広義のライトな文体へ収斂した。あれはあくまで “現象” だったのだ。
 本家以外は。
 デビューから45年を経て、新井素子は変わらず新井素子なのである。しかも本作は二十二歳女子の一人称なので、嫌と言う程あの語り口に浸れる。微妙にくどくてわざとらしくて、しかしこの緩めの設定のSF世界には不可欠。ふわふわと頑固職人道を貫く様に勇気を貰った。

 文体と裏腹に物語作家としてはしっかりした基盤を備えた人であり、ミステリ読みとしては当然、貫井徳郎を連想して、途中で浮かんだ疑問点が最終パートでちゃんと取り上げられていたので深く頷いた。作者も言うように謎は謎のままであるが、この延長で南海ちゃんに謎が解けるかと言うとそういうものではない気がする。


No.1448 6点 魔術の殺人
アガサ・クリスティー
(2023/05/19 13:07登録)
 事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。

 しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。
 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。

 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」
 「メタな話はやめなさい」
               (森博嗣「ゲームの国」)


No.1447 5点 世界が終わる灯
月原渉
(2023/05/19 13:06登録)
 密室やアリバイのトリックは確実性に欠けるなぁ。
 “因果応報とでもいうような、運命的ななにかを求めた〈儀式〉である”。
 成程、その解釈はかなり説得力を感じる。グッジョブ! あっ、でも結局は自らの手で射殺しちゃったじゃないか。納得したのに台無しだよ。

 件のヨットに乗り合わせたらどうしよう。
 水も食料も平等に分ける、但し、君が死んだら肉を食うことを許してくれ。
 これがフェアだ。


No.1446 7点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル
倉知淳
(2023/05/09 12:48登録)
 これはなかなか良く出来ている。良く出来ているだけ、と言う皮肉ではなく、素直な良い意味で。この違いはどこで生じるんだろうか。ぶっとんだような飛躍は無いが、基礎をきちんと備えた作者による端正な本格ミステリに仕上がっていると思う。


No.1445 7点 去年を待ちながら
フィリップ・K・ディック
(2023/05/09 12:46登録)
 謎のドラッグ、支配者とシミュラクラム、現実崩壊、と言ったディックの持ち味が全開。言葉を変えればネタの使い回しであるが、その分こなれて来たのか。“崩壊” 感覚はこのくらい判り易い方がいい。『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』では宇宙の孤独を感じたが、ここでは痴話喧嘩をどこまでも引っ張るので地上に縛り付けられたまま。あの妻にはイライラしたな。捨ててしまえ! 結末が弱いのはいつも通り。


No.1444 6点 太陽が死んだ夜
月原渉
(2023/05/09 12:44登録)
 青春ミステリ的な少女の成長譚としての要素が、事件の様相と上手く噛み合っていないような。人死にの数と比べて、心情的に犯人をサラッと赦し過ぎじゃない? 特に “死体の腹を割く” ことが妙に軽く扱われているように感じた。
 舞台がキリスト教系の全寮制女子校だと “いいなぁ” と思うのは、適度に丁寧な言葉遣いのガールズ・トークが好きだから。これが男子校だとわざとらしく粗野になりがちなんだよね。


No.1443 5点 木曜の男
G・K・チェスタトン
(2023/05/09 12:44登録)
 書かれている事柄は判るが、他愛のない話。第十三章の追跡行以降急にノリノリになる(さくらももこのナンセンス系漫画みたい)からと言って、免罪符になるわけではない。それで? と言う感じ。


No.1442 5点 からくり富
泡坂妻夫
(2023/05/09 12:43登録)
 トリッキーな演出はネタ切れなのか、事件の裏に潜む人情の機微みたいなものに焦点を移して来たが、それにしては「手相拝見」の真相、身内の情人にスケコマシを頼むってことは、身内が泣く前提で浮気を唆しているわけで、釈然としない。


No.1441 7点 使用人探偵シズカ 横濱異人館殺人事件
月原渉
(2023/05/02 13:19登録)
 ネタバレっぽいけど、アレに切れ込みを入れておく件:最初の落下で切れるかもしれない。逆にその後、都合良くは切れないかもしれない。

 と書いておいて何だが、これは大目に見てもいいかな~。
 物語全体を貫く運命論的構築主義の世界観に読者として気持良く呑み込まれることが出来たからね。どんでん返しも含めて良い意味で予定調和な様式美なので、物理的要素は犯人の目論見通りに作用するってことでいいのだ。
 しかし、“人間金庫” は本気でやる心算だったのだろうか……。


No.1440 7点 びいどろの筆
泡坂妻夫
(2023/05/02 13:18登録)
 “宝引きの辰” と比べるとかなりミステリ度が高く、イメージだけで偏見を持って読まずにいたのは損だったと反省。

 表題作はおかしい。絵馬を持って逃げれば済む話である。また、事後工作が却って絵馬に注目を集め、その結果身許が割れているのだから本末転倒だ。しなくていいトリックを使わせてしまう作者の欠点もちゃんと出ているんだな~。
 「南蛮うどん」の “蠟燭” に拍手。実在の秘伝書に載っているネタなのだろうか。私にも作れる?
 現代物の登場人物の御先祖様らしき名前がチラホラ。芥子之助なんて『喜劇悲奇劇』とまるで同一人物で、と言うことは実は時間テーマのSFなのであった。


No.1439 8点 雪密室
法月綸太郎
(2023/05/02 13:17登録)
 カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』と並べると、被害者(上昇志向の高慢な女性)のみならず何人かは役柄と属性が大胆に重なっている。これはまぁ本気のオマージュと言うよりは、“雪の密室” をやればどうせアレが引き合いに出されるんだから、とのジョークじゃないかな。

 離れの灯りを消した為、現場に不自然さが残った。しかし点けっぱなしだと計画より早く第三者に見付かるリスクがある(と言うか実際に見られていた)わけで、“足を引っぱっただけ” ではないと思う。
 良かったポイントはソクラテスのエピソード、ジェスチャーの手掛かり、ぐりもお。殺人者を消去法で特定するあたり、原典の不備を意識的に補っているのかも(“靴のサイズ” はちょいと御都合主義的だけど)。作者の長編の中では最もバランスが取れていて、なかなか上手く “改築” 出来ているのではないか。

 “真棹” と言う女性名は泡坂妻夫『乱れからくり』からの借用? でも意図が良く判らない。


No.1438 5点 白い僧院の殺人
カーター・ディクスン
(2023/05/02 13:17登録)
 密室トリックはバカミス系の方が好きで、その基準で言うと本作は堅実過ぎ。寧ろ密室のホワイダニットに感心した。
 登場人物の気持の交錯、事件前後の動き、みたいなものは、しっかり組み立てられているのかもしれないが、必要以上に判りづらい書き方に思える。特に、“カニフェスト卿を殺した、と思ったら生きてた” 件について詳細が書かれていないのは手落ちでは。


No.1437 5点 繭の密室
今邑彩
(2023/05/02 13:16登録)
 型通りの展開だな~と思いつつ読んでいたら、予想通りの真相で終わってしまった。あんなエピソードが本筋とは別に示されていたら、明白でしょ。ミステリ的なトリッキーさより、背後に流れる歪んだ暴力の連鎖の方を注視すべきか。

 第二章。風呂の修理は原則大家の負担だと思う。人に言えない理由で故障した、と言う伏線かと思った。


No.1436 9点 延暦十三年のフランケンシュタイン
山田正紀
(2023/04/27 13:27登録)
 SF設定が基盤にあるし、宗教者の物語だし、すわ最初期の〈神シリーズ〉の再来か? とも思ったが、事象より個を描いているあたり、もう少し後の時期のアクション系連作集の匂いの方が強い。そこに加えた一捻りがつまり、延暦年間と言う時代設定なのである。
 この設定が非常に有効で、ベタで大仰な展開も内心如夜叉の玉依の女性性も違和感無く読めた。滂沱の涙が三回とは自分でも驚き。現代物だったらそこまで素直に浸れなかったかも。


No.1435 7点 人喰いの時代
山田正紀
(2023/04/27 13:26登録)
 思うまま書いたらネタバレしてました――。
 作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。
 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。
 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。
 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。
 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。
 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。


No.1434 4点 化石少女と七つの冒険
麻耶雄嵩
(2023/04/27 13:25登録)
 何と言うか、やる気が感じられないんだよね。常時100%で書き続けられないのはまぁ判るが、力を抜いた軽めのものを意図して失敗している。無機的に書こうとして拗らせたような文体も、メルカトル鮎とか木更津悠也とかでは生きて来るんだけど、化石オタクの御嬢様女子高生を描くには不適格。照れてる場合じゃない。相沢沙呼を見習え!

 そんな中、鹿沼亜希子の存在感だけは、あっちの世界線から引っ張って来たような冷ややかな微熱で際立っていた。次巻は『化石少女 vs カメラ少女』にすれば?


No.1433 5点 鋏の記憶
今邑彩
(2023/04/27 13:24登録)
 既存のピースを小器用に組み合わせただけだが、特に悪印象は無い良品。写真を取り寄せたり家宅侵入したり、警察官の行動として暴走気味ではある。
 一話目の “時計はどっちにズレているのか” が一番いい小ネタだと思うが、それが際立つ使い方になっておらず勿体無い。


No.1432 5点 ルパン対ホームズ
モーリス・ルブラン
(2023/04/27 13:24登録)
 “ルパンとホームズの共演” と言うコンセプトだけで、事件の内容は練らないまま突っ走ってしまったのか。あまり “対決” って感じがしない。
 キャラクター小説としては面白い。探偵側はちょっと三の線で、Herlock Sholmes の名の方が寧ろ相応しいかも。「金髪婦人」中盤でウイルソンが “洞察力” を見せる場面など素晴らしい。

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