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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.21点 書評数:2011件

プロフィール| 書評

No.1711 7点 黄土館の殺人
阿津川辰海
(2024/05/24 14:06登録)
 実のところ何となく判ってしまう。内と外に舞台が分かれる→じゃあ全体の構造としてはこう? 被害者が多過ぎて生き残りがこれしかいない→じゃあ犯人はこのポジション?
 だから、楽しんだけど、それは騙されたとか驚いたとかではなく、良く出来ているなぁと言う “感心” に近い。
 作者と対峙するのではなく、そうやって “共有” する読書も悪くはないが、上手さが仇になっているとも言える。

 そしてツッコミ。三人姉妹の二番目、月代。その漢字は “さかやき” だ。


No.1710 7点 悦楽園
皆川博子
(2024/05/16 13:17登録)
 皆川博子が雑誌に発表した初期短編は、作者本人に “書き捨て” みたいな気持もあったようで、短編集への収録状況がちょっと面倒なことになっている。どうすれば効率的にコンプリート出来るのか。まぁ編集時に秀作からピック・アップするのは自然だし、二度出会ったら二度読めば良い。
 本書は1974~85年の短編集4冊からの6編と、単行本初収録4編を併せた、94年刊行の初期傑作選。後者4編は『鎖と罠』(2017年)にも再録されており、“本書でしか読めない話” は無い。

 導入部での入りづらさは若干あるものの、その一山を越えれば、悪意が普通のことのようにシレッと書かれる独特の手際、特に「獣舎のスキャット」の一人称は効く。初短編集『トマト・ゲーム』に収録されていたものの、作者曰く “あまりに不健康かなァと、自粛” して文庫化の際に差し替えたそうな(ハヤカワ文庫版では復帰)。いやいや他の作品だって大して変わりませんよ。


No.1709 7点 あるいは酒でいっぱいの海
筒井康隆
(2024/05/16 13:16登録)
 筒井康隆の初期ショート・ショート集だけど、犯人当てSFミステリ「ケンタウルスの殺人」が収録されているので。
 フーだけならまぁ解けるかな。SF作家の肩書を利用して無理筋を通しており、はなから作品の外側で勝負しているんだね。と同時に、“ミステリのフェア・プレイとは何か?” と定義を問うているのかもしれない。

 最短2ページからの玉石混交ながら、作者のその後のアレコレを踏まえると、何となくもっともらしく思えて来るものである。表題作と「善猫メダル」が玉。最初期の「NULL」(本人主宰の同人誌)掲載作からして既に嫌な感じにリリカル。


No.1708 7点 ルームメイトと謎解きを
楠谷佑
(2024/05/16 13:15登録)
 珍しく犯人が判っちゃった。
 ロジックによるものではない。伏線を拾って行くと犯人像の輪郭が見えて来て、それに当て嵌まる人物がちょうど一人いたのだ。
 最後の “物証” は、犯人が事前にリスクに気付くことも可能だった筈、と言う意味で少々わざとらしいかな。

 もう一つ、別の予測もしていたので書いちゃおう。
 前年の自殺については、湖城のバックの圧力で背景解明が有耶無耶になった。しかしそういうトラブルがあっても、湖城は自重するどころかますます横暴になり目に余る。長い目で見るとリスクが大き過ぎると判断したバックは、湖城を切り捨てることにした。その結果がこの事件である……。


No.1707 6点 十三番目の人格―ISOLA
貴志祐介
(2024/05/16 13:15登録)
 超自然現象を妙にロジカルに処理しているところに可笑しみがある。私は漢字マニアなので、命名に関する部分はとても納得&共感するなぁ。


No.1706 5点 今宵、喫茶店メリエスで上映会を
山田彩人
(2024/05/16 13:14登録)
 色々都合良く進み過ぎな一方、性善説な世界観をそれなりの説得力で描けているとは思う。ただ、提示される謎があまり魅力的ではない(最終話の足跡の件は面白い)。映画と無理に結び付けるのをやめて、説教臭いコメントも控えて、謎の強度をもっと研ぎ澄ませれば良かった。それはもう別の作品か。


No.1705 7点 案山子の村の殺人
楠谷佑
(2024/05/09 11:49登録)
 紛れもない正統派で挑戦状を掲げる資格は充分。変にこじらせていないところが眩しい。
 しかし一つツッコミ。あのトリックは、左右同時に動かさないと上手く働かないと思う。確実を期すなら両者をリンクさせる仕組みが必要では(仕組みが無いとは記述されていないけどね)。


No.1704 6点 フランクフルトへの乗客
アガサ・クリスティー
(2024/05/09 11:49登録)
 AC作品にはミステリ的なポカが結構あって、それが気になり素直に読めないことも少なくない。でも本作は冒頭の時点で “あ、これはそういうこだわりは不要な奴だな” と判ったので、本格ミステリ作より気楽に楽しめた。
 作者は “社会風刺+戯画的で大仰なスペクタクル” でチェスタトンみたいなことをやりたかったんだと思う。しかし読み易く書くことに長けていたので、却ってああいうもっともらしさが出せなかった。人物造形が巧みなので、直線的なプロットや背景から浮き上がってしまった。
 自分に対する無いものねだりが過ぎる。その結果、意図しないところで “風刺すること” に対する風刺になって自爆してしまった。


No.1703 5点 毒入り火刑法廷
榊林銘
(2024/05/09 11:48登録)
 凝り過ぎて訳が判らなくなってる。どんでん返しはしっかりした基盤があってこそ成立するのだなぁと思った。魔法の不安定なルールの上で幾度も繰り返すのは厳しい。


No.1702 5点 教え子殺し 倉西美波最後の事件
谷原秋桜子・愛川晶
(2024/05/09 11:47登録)
 手記がこういう風に使われてたら、トリックの方向性も見当が付いてしまう。また、物語後半での美波の動きがどうも不自然で、話を収束させる為の作者の駒になってしまった。
 送り主不明のメールを素材にあれこれ推理するのも妙な感じ。手紙とかノートとかフィジカルなものでないと、自在に加工可能だから根本的な信頼性が著しく低い――との考え方はもう古い?

 ところでこれは一体どういう形で共作したのだろうか。両者の個性がシームレスに融合して、ぎこちなさ皆無。まるで同期したような、憑依したような、驚異の一心同体っぷりである。


No.1701 4点 麦酒の家の冒険
西澤保彦
(2024/05/09 11:45登録)
 こういう作品は強引でも構わないとは思うがやはり強引。

 ネタバレするけれど、計画を要約すると――奴が怪しまれる状況証拠をでっちあげる。一方で奴は実体験を証言するだろう。そこで、おかしな実体験をさせて後者が信用されない状況を作れば、奴に罪を被せられる。
 この場合、実体験の内容は変であればまぁ何でも良いのである。作者は楽である。これがまず面白くない。
 第二に。作者は “麦酒の家” と言う設定ありきで逆算して真相を考えたのだろうか。しかし犯人にはまず目的があり、それに相応しい計画を立てた筈。その場合、この内容が適切だとは思えないのだ。
 確実性の低さには目を瞑ろう。奴の記憶を曖昧にする小道具もある。人手が必要なのはマイナス点。何より “家具の無い別荘” はあまりに作為的だ。奴は “詳細は知らんけどハメられた” と確信するだろう。“不自然過ぎて却って嘘とは思えない供述” である。寧ろ “普通にありそうな話” をでっちあげる方が、“もしや自分がやったのだろうか?” と言う気分になってくれないとも限らないし、警察も “その証言は嘘” と判断し易いのではないか。

 と難癖を付けたがるのはミステリ読者の悪い癖だ。でもこれはまさにそういう面倒な読者をこそ対象とする作品だよねぇ。


No.1700 7点 猟奇文学館3 人肉嗜食
アンソロジー(国内編集者)
(2024/05/02 14:30登録)
 このアンソロジーには陥穽があった。
 普通に読めばサプライズになる筈の “人肉嗜食” と言う要素が、本書では前提事項になってしまうのだ。インフレ状態しかも半分ネタバレしているようなもの。故に以下タイトルは伏せる。とは言え、こうやって纏められなければ手に取る機会の無かった作品もあるので痛し痒しである。

 江戸川乱歩の猟奇短編みたいで、食った後に一捻り加えた村山槐多はシンプルながらインパクト大。高橋克彦は怖いけど “いい話” で感動。山田正紀の名品が加筆訂正版で収録されていることも重要だ。“実話” と言う箔付けを除くと牧逸馬は今一つ。
 美味しそうに描いている双璧は中島敦と生島治郎。
 ところで、人も牛のように熟成させた方が美味いのではないかと思う。その点で、墓を暴いて得た肉に舌鼓を打つ描写には納得。
 厳密を期すなら人間でないものも混ざっている、と揚げ足を取ったりして……。


No.1699 4点 人喰い
笹沢左保
(2024/05/02 14:30登録)
 冒頭の遺書には吸引力がある。直後の佐紀子周辺の成り行きにも引き込まれた。
 しかしそれ以降の事件の展開には首を傾げる部分が色々と見受けられた。最終的な目的がアレで、その為にああいった内容の犯行、と言うのは非常にこじつけがましい。
 犯行の為の犯行、トリックの為のトリック。いっそ “サイコパスの愉快犯” にした方が説得力がある。作者は視野狭窄に陥って、全体像を俯瞰出来ていなかったのではないか。

 犯行動機。ソレの為にそこまでやるか? 共感は出来ないが、故に “意外な動機” としてそれはそれでアリかな~。


No.1698 7点 湘南人肉医
大石圭
(2024/05/02 14:30登録)
 人肉嗜食に関する深い思索が窺われ共感を誘う。残虐描写でなく淡々と描かれる食肉処理が怖くてナイス。
 細かなスパイスも多々ちりばめられていて、“権利” を与えた老人の話は絶妙な不条理さが効いた。顔の皮とか耳とか美味しそうだけど食べないんだ? どう終らせるのか心配だったが、テクニカルな幕引きで良い匙加減。
 “肥満体” との設定には何か狙いがあるのか。目撃者の印象に残るリスクとか機動性の低さとか、作者が主人公に架した(必要性の無い)枷、と言う感じがするけれど……立場が逆転した時に多くの胃を満たせる、と言うバランス感覚?


No.1697 7点 死体の汁を啜れ
白井智之
(2024/05/02 14:29登録)
 ブツ切りの具がゴロゴロ入った死体汁である。書き下ろしなのに出し惜しみせずこんなにネタをぶち込んで大丈夫? しかもこの人の場合、謎が登場人物の各々勝手な行動と不可分なケースが多く、否応無しにストーリーが生じる。アイデアの羅列では終われないのだ。必然的に奇天烈なキャラクターもガンガン生まれる。大丈夫? 探偵側が多発する事件にズブズブ飲み込まれて “自身の事件” に変貌する流れが面白いと言うか “うげっ” と言う感じ。


No.1696 7点 君の膵臓をたべたい
住野よる
(2024/05/02 14:29登録)
 マニアックな内臓選びだな。五臓六腑にも含まれてないんだぜ……まずタイトルで勝ち。しかも看板倒れとは言わせない。流れるような会話劇はイマドキの作家の基礎教養と言った感じだが、Xデーのその先、ああいう内省をキッチリ伝わるように書けるのは高評価。
 ただ、狙いや効き目がちょっと判らない演出もあって、そういうものが常に無駄とは言わないが、本作に関してはスマートに凸凹を削ぎ落とした方が良かったんじゃないかと思う。


No.1695 7点 鬼怒楯岩大吊橋ツキヌの汲めども尽きぬ随筆という題名の小説
西尾維新
(2024/04/25 11:50登録)
 これは非常にツボを突かれた。謎と仮説めいたものも含まれるが、基本的に内容は無いよー。内容が無いものが劣っていると言うことではない。自己言及的なツッコミを繰り返して隘路に迷い込む楽しみは楽しく楽しい。あまりにも私の気持にフィットする文言が散見され、頭の中を覗かれているような気分だ。頭の中を覗いても脳味噌があるだけで、それを見たからと言って考えている事柄が判るわけではないが。長年に亘り愛読者なので私の思考の志向が影響を受けたのだろうか。それはちょっと嫌だにゃあ。

 そう言えば『ドラえもん』に、のび太が上下に分かれる話があったよね。


No.1694 6点 堕天使殺人事件
リレー長編
(2024/04/25 11:47登録)
 ツギハギ死体事件! それは “この作品もツギハギですよ” と言う首謀者(?)・二階堂黎人による自虐的メタファーである。ストーリーよりも各作家による主導権争いが可笑しい。
 トリの芦辺拓は苦労しただろう。“ゲームセンターのビデオ映像に映った被害者達” を提示した小森健太朗が功労賞、飄々と自分の領域を守った村瀬継弥に技能賞。


No.1693 5点 時の睡蓮を摘みに
葉山博子
(2024/04/25 11:46登録)
 小川哲『地図と拳』の普及版て感じ。劣化版と言う意味ではなく、短めに打ち切っているので疲労困憊する前に読み切れると言う意味で。
 1940年前後のインドシナ界隈を疑似体験した気分になれる筆力は評価出来る。ここまで “学ばない” 主人公を描ける作者の冷徹さも瞠目に値するだろう。何やってんだ鞠!
 一方で、そのしっかりした筆致のせいで或る種の鈍重さが物語の足許に纏わり付いてしまったのも否めない。頑張って読んだのだからそれに見合うサプライズを、と期待してしまうのはエンタメ読者の悪しき性だろうか。


No.1692 5点 少女は黄昏に住む マコトとコトノの事件簿
山田彩人
(2024/04/25 11:45登録)
 ミステリ的なポイントは充実している。後出しとはいえ犯人の動機や心情が相応に設定されている気配りも良いと思う。
 一方、演出のせいでやや小粒に見えてしまった嫌いがある。マコトとコトノのやりとりも、頭の中で自分なりにちょっと変換すれば楽しめるが、本当は変換無しで直撃して欲しいよね。ユーモアの匙加減は難しい。作者は恥をかくのを躊躇している、と感じた。

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