救国ゲーム |
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作家 | 結城真一郎 |
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出版日 | 2021年10月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 6人 |
No.6 | 6点 | 八二一 | |
(2023/10/19 20:39登録) 崖っぷちの日本の「救国」という他人事では済まされない難しいテーマに、鉄壁の謎と緻密な謎解きの火花散る勝負で迫った超絶本格ミステリ。特にドローンボックスに格納された被害者の頭部をめぐる推理が読ませる。 |
No.5 | 6点 | パメル | |
(2023/05/04 06:44登録) 過疎問題や地域再生を扱った作品。少子高齢化の加速で国家の経営が危機に瀕していた。その対策として全国民を大都市圏への集住をネット動画で訴えていた謎の仮面人物・パトリシアが、自分の計画通りにしなければ地方をドローンで無差別テロを決行すると告げる。 ドローンや自動運転車両を用いて限界集落を活性化しようと地方創生のスターとして活躍してきた神楽零士が殺される。遺体は首が切り離され、胴体だけが自動運転車両に乗せられ、山中へ送られていた。事件のあった集落の住人・晴山陽菜子は真相解明のため、旧知の中で死神の異名を持つ官僚・雨宮に協力を要請する。 出だしは謀略パニックものだが、話の興味は謎解きに一転する。現代の社会問題をYouTubeやドローンといったメディアやツールを駆使しているところが新しく、個人の訴えが広く伝わるソーシャルメディアの感覚などが、巧みに物語に取り込まれているのが上手く魅了される。ドローンの特有の動きが盲点となり、アリバイを成立させているところや、ある証言が最後のどんでん返しの有効な手掛かりへと翻る展開などが工夫されている。 フーダニットに関しては、早い段階で明かされてしまうが本作は、緻密なアリバイ崩しの過程と犯行計画に至った経緯が読みどころなので問題はないだろう。 真相が明らかになり事件が収束する終盤には、そうまでしなければならなかった切実さが胸に突き刺さる。社会問題を突き付けられ考えさせられる作品。 |
No.4 | 8点 | HORNET | |
(2023/01/08 12:08登録) 過疎集落に単身移住し、集落を見事復活させたことで一躍時の人となった美男子・神楽零士。しかし時を同じくしてYoutubeでは、能面を被った《パトリシア》なる人物が「国家存続のために、過疎地域は切り捨てて都市圏に集住するべし」との主張をし、神楽と論争に。ある時《パトリシア》は、「60日以内に政府は全ての過疎対策を撤廃せよ。さもないと次なる行動に出る」と言い残して姿を消す。何事もなく60日が過ぎた後、神楽零士が惨殺死体となって発見される― 能面を被った不気味な人物によるYoutubeでの予言、過疎化した集落を舞台に行われた不可能殺人、人口減少の一途をたどる日本のあるべき未来を問うという題材など、非常に魅力的な物語設定。 さらに、切断された首の謎、運搬方法の謎など、仕掛けも十重二十重に施され、謎解き主眼の本格ミステリとしての魅力も十分である。 地理的要素や時間軸の問題、さらにはドローンや自動運転技術など、謎解きに関わる要素が多くあり、ちょっと複雑に感じるところもあったが、一つ一つ丁寧に解きほぐして真相に迫っていく過程は読み応えがあった。 物語の前半で探偵役によって早々に真犯人が名指しされるため、ハウダニットの色合いが強かったが、読み進めるにつれ「そもそもなぜ、こんな犯行を?」という興味(ホワイダニット)も高まる。すべてが解き明かされるラストでは、作者の綿密な仕掛けに唸らされた。 |
No.3 | 6点 | いいちこ | |
(2022/11/17 12:26登録) ミステリとして、真相解明に至るプロセスの論理性はある程度評価する。 ただ、この真相に到達するのであれば、十分な説得材料が必要で、提示された社会派としてのテーマ、課題認識は悪くないものの、そこに特段の主張がある訳でもなく、掘り下げが圧倒的に足りないと感じる。 全体として一定の水準には達しているものの、それ以上の迫力はない |
No.2 | 6点 | メルカトル | |
(2022/10/30 22:38登録) 人質は国民八〇〇〇万人。日本崩壊のカウントダウンが迫るなか、全ての鍵を握るのは、“無傷"の首なし死体。 日本推理作家協会賞受賞後初作品は、堂々たる本格ミステリ長編。 “奇跡"の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた。 否応なく迫られる命の選別、そして国民の分断――。 最悪の結末を阻止すべく、集落の住人・陽菜子は“死神"の異名を持つエリート官僚・雨宮とともに、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。 Amazon内容紹介より。 思った以上に本格度が高かった作品。ある意味社会派の側面もあるものの、そちら方面は薄い印象です。もっと日本中がパニックに襲われたりする描写が有っても良かった気もしますが、飽くまで本格ミステリですので。 序盤から中盤にかけて、謎めいた事件に翻弄され、かなり面白く読ませてもらいました。シチュエーション的には私好みでしたし。しかし、そこから話をあまり膨らませる事が出来ず、やや冗長に感じました。やはり謎が多いとは言え一つの案件でこれだけの長編を引っ張るのは無理があったのではないでしょうか。 そしていよいよ謎解きの段階で、探偵役の雨宮の推理に一々過剰反応して感心する関係者一同には、ちょっと辟易してしまいました。これでは作者の自画自賛になってしまってますよ。肝心のトリックは驚くほどでもなく、どちらかと言えば小粒な印象でした。 更に言えば動機が飛躍し過ぎだろうと感じました。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/02/02 07:07登録) (ネタバレなし) 加速する限界集落問題に呻吟する、202X年の日本。岡山県K市の北部にある過疎集落「奥霜里」で、元経産省官僚の青年・神楽零士の生首、そして胴体が別々の状況のなかで発見される。零士は6年前に官僚を退職後、単身で限界集落だった奥霜里(霜里)の地に活力を与えて復興させた、現代の奇跡の立役者だった。だが事件は多くの謎をはらみ、そして地元の容疑者たちには堅牢なアリバイがある、この殺人事件の話題で日本中が騒然とするなか、謎の仮面の人物「パトリシア」がネットにて、全国民に向けて、とあるメッセージを放った。 2018年に新潮ミステリー大賞でデビューした作者の、長編第三作。 評者はこれが初めて読む作者の著作だが、ほとんどまったく予備知識なしにページをめくり始めた。 内容は、現実の日本がはらむ課題に問題提起する社会派ミステリっぽいが、それ以上に、どのような経緯で凄惨な事件は起きたか? なぜ首を切られたか? その前後の奇妙な状況は? そして鉄壁のアリバイは? ……など、もろもろの謎解きへと読者の興味を引き込んでいくガチガチのパズラーだ。 特にアリバイ崩しに関わる事件現場(首切り関連もふくめて)のロケーションには運搬用ドローンや無人カー(除雪車)などの現代メカニックが重要な小道具として使われており(これはネタバレにならない大前提なので言っていいだろう)、本作をすでに高評している一部のミステリ作家や評論家たちからは「21世紀現代の『黒いトランク』」といった主旨の称賛まで受けている(!)。 (個人的には、最後まで読んでメイントリックの真相を認めると『黒いトランク』よりは、むしろ……『(中略)』みたいだ、と思ったが……。) 歯応えのある謎解き作品だが、一方である種の方向にポイントを絞り込んだため、(中略)の部分はあえて犠牲にした印象もある。 で、作中の重要キャラのひとりで謎のテロリスト活動家の訴える「地方を整理して都市圏に人口を密集させる日本全体の合理化構想」。 メッセージそのものは真剣かつ重厚だが、理想論&強硬論をふりかざされても現実にすぐ何かができる問題でもなく、この辺の主題にマジメに付き合ってかなり疲れた。まあそういう種類の刺激を凡庸な読み手に与えることも、この作品の刊行意義のひとつなのであろう(評者の場合、このあと続けて、もうちょっとこの作品のそういった部分についてモノを言いたいけれど、それをやったら、なんか負けだという気もする~汗~)。 しかし作者が東大出ということもあって、同じ出身の古野まほろのある種の側面あたりに、非常に近しいものを見やったりした。 力作だと思うし、骨太で真剣な一冊だとも認めるけれど、これで素直に7~8点もつけたくないなあ、というワガママな気分でこの評点で(汗)。 たぶんこのあと、ほかの人がどんな評点をつけても、きっとそれぞれの高い低い点数に対して、評者は安心しちゃう。高い点をつけてくれた人は、オレのかわりに高い点をつけてくださった、という気分だし、逆に低い点なら、ああ、やっぱりこの作品に対してそんなに構えて評価せんでいいのだな、と気持ちが楽になるから。そんな感じの一冊じゃ。 |