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ミステリの祭典

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虫暮部さんの登録情報
平均点:6.22点 書評数:1848件

プロフィール| 書評

No.1568 7点 トッカン the 3rd おばけなんてないさ
高殿円
(2023/10/28 13:55登録)
 巻を追うごとに事例がグレードアップして、それこそ徴税イメージアップキャンペーン教則本みたいになっていて可笑しい。守秘義務おそるべし。
 グルメ小説じゃないけど読後三日連続餃子を食べてしまった。栃木の人って、××食べるんですか……。


No.1567 7点 超新星紀元
劉慈欣
(2023/10/28 13:54登録)
 序盤は、こういうテーマを中国の作家が自国の上層部を舞台に描く、と言うのはなかなか興味深いな~、と余裕があったのだが、途中からどんどん悪夢のような方向へ傾き、その容赦の無さについて行くだけで精一杯に。『バトル・ロワイヤル』か『蠅の王』か?
 そしてミステリ的と言えなくもない着地。え~、たった30年で? あれがもっと気の利いたオチであれば。いや、そもそもエンディングに捻りが求められるタイプの話じゃないのだから、蛇足に思える。
 厳井くんが一貫して “メガネ” 呼ばわりされるのには苦笑。眼鏡男子のイメージって万国共通なんだろうか?


No.1566 7点 七人の証人
西村京太郎
(2023/10/28 13:54登録)
 証言が崩れて行く様がなかなか面白い。テーマがこれでも、重厚な社会派作品にならないところも良い。直線的な文章なのに(典型的な人物設定とはいえ)各キャラクターが上手く表現されていると思う。

 ところで、立場的に最も怪しまれず動き回れるのは十津川ではないか。冤罪つまり警察の不祥事を隠蔽する為に、彼が証言を翻した者を消した可能性は? 最後の場面の後で残りも全員始末されたかも(だからあんなぶった切ったようなラストなのかも)。


No.1565 5点 ジュークボックス
山田正紀
(2023/10/28 13:52登録)
 ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。


No.1564 3点 複数の時計
アガサ・クリスティー
(2023/10/28 13:52登録)
 これはバーナビー・ロスのパロディ(盲人も登場するし)?
 わざわざ死体を運び指定の時間に発見させるメリットが判らないが、それも原本に書かれていたのだろうか。主犯は “発見者の知人” と言う立場なのだから、そんなことしなければそもそも捜査陣の視界に入らなかったのに。
 犯人と被害者をつなぐ糸はごく細い。自動車を使えるなら、遠くに捨てて来れば “余所の事件” として無関係でいられたのではないか。
 身許を偽装しても、そのごく細い糸を辿られる僅かなリスクは変わらない。偽装で共犯者を増やすデメリットの方が大きそう。

 もっと上手に書ければ “不可解な小道具が残された犯行現場” そして “余計なことをして自滅する犯人” パターンに対する批評になったかもしれないが……。


No.1563 7点 怪物の町
倉井眉介
(2023/10/20 12:49登録)
 前作の文章がスカスカだと貶されて一念発起したのだろうか。ちゃんと小説になっているよ。ごみ袋おばさんとの対峙は怖くて笑ってしまった。主人公の一言が事件を招いてしまう因果関係の絡ませ方も、遣る瀬無くて良い。御見逸れしました。まぁ本来はここまで来てからデビューすべきなんだけどね。


No.1562 7点 ひかりごけ
武田泰淳
(2023/10/20 12:47登録)
 新潮文庫版。「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」収録。
 目当ての表題作をまず読んでしまう。そんな軽薄な解釈をするなと怒られそうだけど、終わってみるとこれは奇妙な味の法廷劇。もっともほぼ被告人の告白のみに頼って論争している裁判は茶番っぽい。“光の輪” は見事な効果を上げており、“読む戯曲” と言う形式は必然的な選択なのだなぁ。
 ところで人肉食って何罪? それしかないなら私は人肉でも食べると思う。

 勢いが付いたので「流人島にて」を遠慮無くサスペンスとして読む。オチは弱いが、薄皮を一枚一枚剥くような語り口がスリリング。
 あとの2編はまぁ純文学、なのだろうが、水面下の波乱を必死で抑えているような緊張感はミステリ要素の無いサスペンスとでも言えそうで、どこまで書くか、どこで切るか、作者と戦っているような気分だった。


No.1561 6点 復讐の女神
アガサ・クリスティー
(2023/10/20 12:45登録)
 何が起きているのか良く判らず、水面から顔を出した岩の頭を見て岩場の全体像を想像せよ、との命題。現れた深層/真相は人の思いが絡まり合った、なかなか読み応えのあるもの。
 しかし、これは犯人サイドを掘り下げて書けば、もっと深みを出せたのではないか。例えば犯人が某に注いだ思いの深さ等が、単に言葉による説明にしかなっていない。
 と考えると、“ミス・マープルに謎のミッション” と言う間接話法みたいな設定に使うにはちょっと勿体無いかな。

 過去をほじくり返したせいで新たな死者が出たことについて、もう少し何か言及があっても良い。
 また、“丘の斜面に丸石を転落させて歩行者にぶつける”――これに関して作中では “故意にやったのでなければ成功するわけがない” とされているが、私は逆に、狙ってもそうそう命中するものではないだろうと思う。


No.1560 5点 不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理
井上悠宇
(2023/10/20 12:45登録)
 近年のミステリ界の時流に乗っかっている感じはするが、それなりに独特の世界を纏め上げていると思う。

 ただ問題は第四章だ。
 要は、罪をなすりつけ、そうと知りつつ犯行に及んだと言うこと。なすり付ける相手は、或る程度の条件を満たすなら誰でも良かったわけで、これは無差別殺人に準ずるものだと思う。犯人の心理をじっくり描くサイコ・スリラーならともかく、(変則的とは言え)本格ミステリの真相としては理不尽でがっかり。台詞でサラッと説明されちゃって実感が得られないし。
 それに、ピースを積み上げて最後に犯人の名に至る論理展開なら、“無実と知りつつ、なすりつけた” というロジックは確実性に欠ける。“無実なんだから、奴には被害者を殺す動機が無い” と判断するほうが自然。最初に犯人を確定しちゃったからこそ、辻褄合わせの為にアリになる推測だよね。しかし当然ながら、探偵法に合わせて犯行がなされるわけではない。そのへんがズルいと思う。


No.1559 4点 アガタ
首藤瓜於
(2023/10/20 12:44登録)
 書くべきことを書いてないミステリ、それともミステリに見せかけて別の意図を持つ断片集のようなものなのか。見極めが難しい。しかしきちんと書かれたとしても、果たしてこのプロットは面白いのだろうか? 特に最後のどんでん返しは唐突過ぎて効果が無い。森博嗣の出来の悪い長編みたい。


No.1558 7点 人影花
今邑彩
(2023/10/12 12:54登録)
 厳選したと言うだけあって、“没後の落穂拾い” と言うエクスキューズは不要な高品質作品集(そういうのって玉石混交になりがちじゃない?)。どれも良くありそうなパターンながら、上手く料理している。他愛のないショートショートで一息つくことさえ必然的な流れに思えたりする。

 「疵」にはすっかり騙された。“目の前のビルと互いに丸見え” と言うのが伏線になるかと思ったけど……。
 「いつまで」は予想を微妙に裏切り続けて、“可愛いという気持ちさえも~” に辿り着く展開に共感。ストレートに感動してしまった。


No.1557 7点
劉慈欣
(2023/10/12 12:54登録)
 ヘヴィな現状認識に基づく作風が多い中、「円円のシャボン玉」のポジティヴィティが際立っている。
 全体的に、メインのアイデアは破天荒だけど結末が弱い傾向があり、オチと言う点では「鯨歌」「栄光と夢」「円」が良い。「円」はブラウン神父ものの某作みたいな歴史ミステリだと思う。


No.1556 6点 終末の海 Mysterious Ark
片理誠
(2023/10/12 12:53登録)
 ミステリの文脈で読むとアンフェアな真相だと思う。しかし冒険SFとしてはそれなりに手に汗を握りつつ、ホワイダニット(?)の飛躍で笑えるのもナイスだ。自動車ネタが伏線になっている点など上手いと思う。


No.1555 6点 犬神館の殺人
月原渉
(2023/10/12 12:52登録)
 “犯人の自殺” を前提にするとトリックの可能性は広がるけれど、反面それ相応の特異な心理状態について納得させてくれる必要がある。冷徹な傍観者たるツユリシズカの立ち居振る舞いは、今回そこにブレーキを掛けてしまった気がするのだ。この犯人の気持は “説明” では説明し切れない。もっと情緒的で演出過多な方が読者を巻き込めたのではないだろうか。


No.1554 6点 或るエジプト十字架の謎
柄刀一
(2023/10/12 12:52登録)
 2話目の、八田と言う名前、現場の床の粉、静物画の腐った梨――『Yの悲劇』からの引用だよね。と気付いたせいで、物語よりオマージュ探しに気を取られてしまった(それ以上は見付けられなかったが……)。
 アイデアは面白いが書き方が今一つ。鑑識による現場検証の結果が即座にピシッと提示されて、パズル小説として割り切ってるな~との印象。それとも現実でもあんなリアルタイムでデータが揃う程に技術が進歩しているのだろうか?


No.1553 7点 宇宙犬ビーグル号の冒険
山田正紀
(2023/10/06 13:08登録)
 一捻りした設定のおかげで、古式ゆかしい侵略もの冒険SFを素直に楽しめる。しかし、動物に仮託することで殺し合いの残虐さが中和されると言うのは、考えようによっては危険な手法かもね。


No.1552 7点 鵼の碑
京極夏彦
(2023/10/06 13:07登録)
 基本的には、このシリーズにしては薄味だけど、ミステリ的小説として良く出来ており楽しめた。
 しかし、長いブランクのせいか、作品世界の連続性が保てなくなったようにも感じる。登場人物が微妙に現代人っぽくなっていたり。関口が妙にまともに久住の相談に乗っていたり。中禅寺はちょっと角が取れた感じがする。事件の諸要素に託けて令和の世相を斬る、みたいなメタっぽい台詞は後出しジャンケンのようで鼻に付く(あんな言い方、以前からしてたっけ?)。
 何より、闇が薄くなって、ヌエがあまり怖くない。
 旧作は読んでいる間あの時代にトリップ出来たんだけど、本作は窓から覗き見るに留まってしまった。
 相変わらずの榎木津、救いは貴君だ。


No.1551 6点 トッカン vs 勤労商工会
高殿円
(2023/10/06 13:06登録)
 経済ミステリとしては、あまり難解な専門用語の世界には行かないので助かった。読み終えてみるとこの題名は意味深長だな。
 ぐー子に齎される気付きのアレコレは今一つ深みに欠ける。些細なことに大仰に反応し過ぎ。チワワのキャラクターが面白い。


No.1550 6点 カリブ海の秘密
アガサ・クリスティー
(2023/10/06 13:05登録)
 ことミステリの場合、ネタの使い回しに対しては視線が厳しくなりがちだが、私はACの手癖と言うか “良くやるパターン” に関して目くじらを立て過ぎていたかと少々反省している。
 作中に於ける犯人や手掛かりの配置が旧作に幾らか似ていると、そのマイナス評価ばかりに囚われて他の楽しめる部分を逃していたかもしれない。そういう部分は作者の得意技だから多用されるってことでいいのかもしれない。本作も、読む順番が違ったらもっと高評価だった気がする。

 西インド諸島のどこかの国と言う舞台設定にはあまり効果を感じず。ミス・マープルが翁にあしらわれる場面は新鮮。人違い殺人は余計なエピソード、もしくは発生が遅過ぎるのでは。
 かつてエスターの夫が事故死しているとの話に、“あ、実はこれが殺人で伏線か。見え見えだぜ” と思ったんだけどなぁ。


No.1549 6点 バートラム・ホテルにて
アガサ・クリスティー
(2023/10/06 13:05登録)
 組織犯罪と殺人事件を強引に混ぜるのはともかく、そこにミス・マープルを絡ませるのは食い合わせが悪い。
 作者は敢えてその変なミックスを試したかったのだろうか。“ミス・マープルなんだから聡明な筈” との思い込みも相俟って、作者が動かし方に苦労しているような、ぎくしゃくした印象を受けた。
 “壮大な与太話” であるこのプロット、ノン・シリーズにして、事態を判っているんだかいないんだか判然としないお婆ちゃんがウロウロしているうちに巨悪と対決、みたいにすれば面白いのでは?

 あと、殺人犯に目を瞑ったのはまずいんじゃない? だって自分の金銭的利益の為の、結構短絡的な犯行だ。条件が揃えばまた繰り返す危険があると思う。

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