虫暮部さんの登録情報 | |
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平均点:6.22点 | 書評数:1938件 |
No.1658 | 4点 | 網走発遙かなり 島田荘司 |
(2024/03/09 13:54登録) 二回読んだがピンと来ない。登場人物達の素性・つながりが少しずつ明らかになって、しかしだからと言って各話の謎に深く関わるわけではなく、それで? と言う感じ。謎そのものもあまり面白いとは思えなかった。 悪戯で玩具の銃で、結果として人が死んだのに、当事者が平然としているあの場面は何なのだろう。起訴するなら何罪? |
No.1657 | 8点 | 家畜人ヤプー 沼正三 |
(2024/03/01 14:00登録) 誇張ではなく本当に1ページごとに “なんじゃそりゃ” の乱舞。ただその驚きの方向性が、“幻の異端作家の禁断の書” みたいなイメージのせいで “情念のほとばしり” 的なぐしゃっとした混沌を予想していたら、意外にも非常に理路整然として無駄に博覧強記なのだった。 勿論、突っ込みどころは多々あるけれど、それさえも “作者の中では完結しているのだなぁ” と言う説得力に通じるのだからあな怖ろしや。 読み始めは当然アイロニーだろうと思っていたが、作者の言によればこれが真のユートピア。これだけ徹底して描かれると圧倒されざるを得ない。何より “最後の選択” で少なからず感動してしまった私の心は大丈夫だろうか。 食用畜についてはもっと色々なメニューを紹介して欲しかった(ヤプーは人間ではないのでカニバリズムにあらず)。殺したてじゃなくて牛肉のように熟成させた方が美味なのでは? 確かにあまりの改造描写でこちらの肉体感覚も歪み精神的負荷の大きさ故に一日一章読むのが精一杯。全49章の長さがハードルではある。が、そこまで隔絶した存在でもない。白井智之や小林泰三や式貴士や団鬼六や駕籠真太郎や根本敬がOKなら本作もいけるのではないか。 |
No.1656 | 7点 | エイダ 山田正紀 |
(2024/03/01 13:59登録) 照れ隠しのような演出を施しつつの物語原理主義宣言である。断片的にばらまかれる様々な “現実” に於ける “物語”。個々で見るとそれぞれ読み応えのあるエピソードなのだが、それらが収斂する結末でやや推進力が落ちてしまったのが如何にも惜しい。 読んでて良かったメアリ・シェリー『フランケンシュタイン』。本作中で言及されるイメージは原典でないと摑みづらいんじゃないかと思う。ホームズも登場(一応言っとく)。 |
No.1655 | 7点 | 結ぶ 皆川博子 |
(2024/03/01 13:57登録) 冒頭に置かれた表題作のインパクトがあまりに強くて、他の作品が記憶に残らないなぁ。 と言いつつ注目作を挙げておく。「花の眉間尺」「蜘蛛時計」「U Bu Me」「心臓売り」。 そもそも同系統(幻想小説)の短編のセレクションであり、収録作品には壊れ物のようで実は強固な文体や半透明な情景を重ね合わせるような構造と言った共通点が見られる。その為まとめて読むと似ていると感じられるものもまぁあるので、座右に備えて折々に少しずつ読むのが相応しかろう。それじゃ病んじゃうか。創元推理文庫版には4編追加。 |
No.1654 | 5点 | 紅葉街駅前自殺センター 光本正記 |
(2024/03/01 13:57登録) タイトルそのまま。粛々とした書きっぷりが却って出口無しの苦しさを感じさせる。予想通りの赤紙も唐突に明かされる “犯人” もまぁ許容範囲内だとして、最後の最後で不条理に転んでしまうのはどうなんだろうか。あれは踏み留まった方が良かった。始まりが夢の描写だから或る意味で整合性は取れているのだろうか。 語り手の自死直前数日間の暮らし方が連休時の私そっくりで苦笑。 |
No.1653 | 5点 | 羊たちの沈黙 トマス・ハリス |
(2024/03/01 13:52登録) 面白くないわけではないが、素材のポテンシャルで引っ張れる以上に長く引き伸ばし過ぎ。捜査陣が勢力争いでゴタゴタするあたり皮肉が利いていて良いとは思うが、過積載の一因にもなっている。また、終盤にこれといった大きなサプライズがあるわけでなく、サスペンスが最も高まるべき人質救出の場面が消化試合になってしまった。 |
No.1652 | 6点 | 妖怪変化 京極堂トリビュート アンソロジー(出版社編) |
(2024/02/22 13:45登録) 参加者は、あさのあつこ/西尾維新/原田眞人/牧野修/柳家喬太郎/フジワラヨウコウ/松苗あけみ/諸星大二郎/石黒亜矢子/小畑健。イラスト・漫画も含む。 あの文体は割と模倣し易いのかも。そしてどうしてもイメージが京極夏彦に収斂してしまうので、他者が使っても京極まがいを書く以外に使い道が無いのかも。新しい何か、ってものではないが、そういう企画だからいいのだろう。 西尾維新は独特のアレもやっている。まぁもともと行換えの多い人だし。 |
No.1651 | 6点 | るん(笑) 酉島伝法 |
(2024/02/22 13:41登録) 変な宗教モノの極北。しかも、超自然現象は含まれていない。視点・解釈の違いだけでこの異界が出来上がっている。つまり実は我々の隣に存在すると言うことだ。超常現象的な記述が科学的に解明されるタイプのミステリの、結末を読者に委ねたもの、とも言える。 信じるものの違いで世界が変わる。AB型とか四〇四号室とか、リアルな切り口に苦笑、じゃ済まないかもしれないよ。 説明に終始して物語的なダイナミズムに欠けるのは否めない。“お山の上にお口が三つ” は病の名前だよね。 |
No.1650 | 6点 | ブラウン神父の醜聞 G・K・チェスタトン |
(2024/02/22 13:39登録) 「緑の人」「とけない問題」が良い。ミステリ的な核は小粒なのに大仰な書き方なのでバランスがおかしいが、ここまで来るとそのこと自体が絶対的な個性に思えてしまう。 ところで、ブラウン神父は、有名な素人探偵なのか、市井に穏やかに潜む無名の人なのか、シリーズ中(本書に限らず)に設定が混在して矛盾を来してない? 訳者による入魂の解説「ブラウン神父の世界」について。くどくど五月蠅い、と私は感じてしまった。 確かにどんな物語にも、何がしかの予備知識や共通認識が求められはする。風刺は対象を知らないと通じないから、チェスタトンには特にその傾向が強いかもしれない。 しかしそれがどうした。作者の意図に合わせる義務は無い。そうやって正解(だけ)を求める行為は読書をつまらなくするよ。読者は作品を自由に曲解する権利を持つのである。 |
No.1649 | 5点 | 恐怖 筒井康隆 |
(2024/02/22 13:38登録) もはや何を書いてもストレートな読み方はされない自己のポジションを前提に、読者がひねくれた読み方を出来るような作品を書く、或る種の共犯関係に基づいた、ミステリのようでミステリにならない物語。 謎解きと言う程のものは無い。過去の優れた短編と比較して “恐怖” の表現が深化したとも思えない(タイトルで損してない?)。ドタバタを平熱の文章で描くのはこの人の持ちネタであって、筒井作品群の中では小粒な一作だと感じる。 とは言え、刑事の転倒は何度読んでも笑ってしまうし、あの一場面だけでも価値があるのだ。 |
No.1648 | 3点 | 影の告発 土屋隆夫 |
(2024/02/22 13:37登録) 各章冒頭の断片的な情景、子供を使ったトリック、公園にブツを予め仕込む、など『危険な童話』を想起させるネタが幾つか。使い回しが全て不可だとは言わないが、重複させ過ぎ。 ミステリ的に面白いトピックを導入する為に登場人物に強引な行動をさせている、と言う感が強く、全体的に不恰好な話だと思う。 犯人は何故エレベーターの中でああいう殺し方をしたのか?(明確に書かれてはいないが、少なくとも理由の一つは)アリバイ・トリックを仕掛けるので犯行時刻を明確にする必要があったから。 何故アリバイ・トリックを仕掛けたのか? 警察に過去の経緯を掘り出されると、自分が疑われる可能性があるから、それに備えた。 しかしその殺し方のせいで名刺を落とし、早々に警察から目を付けられた。 つまり結果論として、余計なトリックは使わない方が良かったと言える。 作者は、アリバイ・トリックは “万一に備えた” ものだと犯人に思考させたりしているが、そのへんの状況の滑稽さを前面に出す気は無いようで、これは後付けの言い訳のように思える。 写真の件は、作者も実験の上で採用したそうだし、トリック自体はまぁ可能なんじゃないか。 寧ろ難点は、一発勝負であること(しかも事前に出来栄えをチェック出来なかった)。そして、自分で撮ったものと “通りがかりの人に頼んで撮ってもらった” もののピントの甘さが共通であること? 第二の殺人で、被害者は “両者(犯人と少女)の結びつきを知っている、もう一人の人物” だったから殺された、と千草検事は考えたがこれは間違いである。既に結びつきが警察に知られた、と言うことを犯人も知っている、のだから今更殺しても意味が無い。 実際の動機は取って付けたような後出しの情報だ。これも作者、殺しちゃった後で “意味が無い” ことに気付いて慌てて捻り出したんじゃないだろうか。 ところでこの当時、電話は何処から何処に掛けたか記録が残らなかった? |
No.1647 | 7点 | アクアポリスQ 津原泰水 |
(2024/02/17 11:23登録) 海上警察? と思ったらスペルは Aquapolis 。 言葉に淫する部分は抑え気味で、明快なベクトルや敵味方の認定など、エンタテインメント寄りで良い意味で判り易い。やれば出来るじゃないか。少女小説と言う出自は伊達じゃなかった。但し、この作者にしては薄味ではある。喫茶店のネタ元はさだまさし。 |
No.1646 | 7点 | 黒翼鳥 月原渉 |
(2024/02/17 11:21登録) 密室成立の理由には唸らされた。犯人の告白によって初めて明らかになる裏事情が多過ぎる気はする。 容疑者のヴァリエーションが少ないので、フーダニットでは驚けない。しかし軍隊はそもそも個人の差異を削る組織だから、良く似た制服が居並ぶそういう書き方は良く出来た批評かも。 |
No.1645 | 6点 | 呪殺島の殺人 萩原麻里 |
(2024/02/17 11:21登録) 色々勘繰って下さいと言わんばかりの設定。 私は、性別誤認トリックでは、と疑った。だって意識を回復した場面でこうだよ。 “部屋の中には僕だけじゃない。もう一人、女性がいたのだ” “僕” が女で、更に女性がもう一人、とも読めてしまう。古陶里の態度を見るに、読者だけに対する叙述トリックではなく、作中の同宿者に対しても実際に二人共謀して嘘を吐いているな、と。 また、監視カメラの映像の自分を見て、記憶喪失の語り手が “僕の顔” とスンナリ認識しているので、アレッ? と思った。 それ以前にシャワーを浴びたりしているから、自分の顔を知る機会はあったのだろうが、クッションとしてその場面を書いておいた方が良かったのでは。 それとも敢えて書かないことで、記憶喪失に対する疑惑を読者に抱かせようとしたのか。 |
No.1644 | 5点 | ダイニング・メッセージ 愛川晶 |
(2024/02/17 11:20登録) 登場人物の関係性が多分に戯画的で、しかもそれが結構大きなウェイトを占めているので、“こいつらマジか!?” と言う思いが否めない。すぐ容貌の話になるのは、まぁしかたないかな……。 加害者が自殺しそうだからと言って被害者がアレを許容しちゃうのは、展開上の要請とは言え納得したくない。 カニの話は好物なので楽しめた。 |
No.1643 | 7点 | そして誰も死ななかった 白井智之 |
(2024/02/17 11:20登録) 後半は笑いっぱなし。ここまで来るともうユーモア・ミステリと認定しても宜しい。多重に仕掛けられたロジックは見事なんだか何なんだか、真相解明がどうでもよくなって来る(“爆発” 説が一番好き)。ここまで盛り沢山だとインフレでどの要素も特異点たりえず流されてしまうと言う、それが落とし穴だったか。 |
No.1642 | 7点 | 厳冬之棺 孫沁文 |
(2024/02/09 13:22登録) 冒頭の推理小説家の件も含め、四つの密室のアイデアはどれも驚きで嬉しくなった。が、ツッコミどころもあるんだなぁ。うーむ。 (陸家)第一の密室:トリックに使った或る道具に、そこまでの強度は無いだろう。そしてそれ以上に、あの方法では水圧に逆らってドアを閉められないだろう。 第二の密室:現場見取図を見ると、そもそも棚のうち一つが家具の配置のせいで使えない。 しかし、私の部屋でも本棚の前には溢れた本が積んであって、いちいちどかさないと奥の本を取り出せない。こういう不便がうっかり生じるのはよくあることだ。 つまり、作中で予め指摘しておけば “よくあることだ” で済むのに、トリック解明時にいきなり注目するから “不自然な配置が推理に都合良く存在した” ような印象になってしまう。 |
No.1641 | 7点 | 君が手にするはずだった黄金について 小川哲 |
(2024/02/09 13:22登録) 評価や人気を手にした作家が、より本質的な表現に迫ろうとして、敢えてキャッチーさを排した書き方をしたパターン。そういうタイミングって編集者より相対的に立場が強くなって好きなように書けるけど、コケることも多いんだよな。 と読み始めは思っていたが、三章目から俄然面白くなった。話題のコアが明確に示されたのはやはり強い。 比べて冒頭二章は、形而上学的な思索でフワッとした雰囲気モノに終始し、それが言語を超えたような奇跡にはつながらなかったのである(出た、形而上学)。 |
No.1640 | 7点 | 少女を殺す100の方法 白井智之 |
(2024/02/09 13:21登録) 鮮やかな色彩感覚が読者の想像力を刺激し、繊細な言語感覚で人間的実在の真実を喝破する。好きな色は赤と黒。作者一流の美意識をこれでもかとばかりに詰め込んだ昇天必至の一冊。神代も聞かず竜田川。平山夢明や小林泰三のファンにもアピール出来そう。 「少女ミキサー」。犯人は何故、“単純に考えるとこうだね” ではない、面倒そうなやり方で切ったのか。“手掛かりを提供する為” としか思えない。 |
No.1639 | 6点 | 折鶴 泡坂妻夫 |
(2024/02/09 13:20登録) いにしえの和の世界が、今の自分とも地続きの筈なのに異国の話のよう。単純に “時代の流れに乗り損ねた者の恨み節” とも言い切れない自己言及的な展開を孕み、重層的な興趣が柔らかな言の葉で編まれている。 ただ、ミステリ部分が “諸要素の一つ” として紛れがちでどっちつかず。だったら刑事事件になるような展開は省いて人情話に徹した方が良かったかも。 |