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ミステリの祭典

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運命の八分休符

作家 連城三紀彦
出版日1983年03月
平均点6.18点
書評数11人

No.11 4点 虫暮部
(2024/10/25 12:24登録)
 イマイチ。トリックが世界観から浮いている。軽妙なユーモアを意図していると思しき部分は、その “意図” ばかりが目立って苦笑を誘う。心情が(否、文章が、かな?)直線的で、繊細な機微を描くには柔らかさに欠ける。
 シリーズとは言え短編集なのに、そのいまいちさが一貫している。ってことは、作者はこういう芸風を良いものだと考えて狙って書いたのだろう。『戻り川心中』との違いに首を傾げざるを得ない。

No.10 6点 take5
(2023/03/05 11:03登録)
人を待つ二時間で一気読み。
同じ男性を主人公とする連作5作品。
個人的には紙の鳥は青ざめてが一番
構図が全て反転する所は最盛期の名作を思わせるできでした。
しかし連城作品の五指に入るかといったら
難しいかも。
何を求めるかによりますが、
本短編集は、雰囲気も登場人物も
饒舌で軽めかなと感じます。

No.9 8点 斎藤警部
(2022/05/10 16:52登録)
連城にコミカルな演出は水合わず。爽やかムードくらいで止めときゃいいのに。。 自らのモテ体質を受け入れられない探偵役”風采の上がらぬ男、軍平”がこんなに頭良いとはとても思えない人物造形なもんだから、連作短篇の各ヒロインがもたらすちょっとした時のはずみのヒントから解決に至る流れ(安楽椅子バーテンダーもどきのセレンディピティ急襲!)が唐突過ぎる! 思わせぶり且つ具体性有るプロローグ趣向はまあ、邪魔してないってくらい。 ヒロインの名前企画に凝ってるけど、このペラさ加減なら、極端に言やあ登場人物名も「ポカ山ペケ美」とか「ラリ岡ヘベ造」とかでいいんじゃないかと思ったりもする。連城基準はそれくらいシレッと熾烈なわけさ、おいらのインナーユニヴァースじゃ。。なんて毒づいてしまうが、んだども、そうは言ってもミステリ俯瞰図の中で見たら充分に重い作品が並んでるんだよなあ、なんとなく明るく軽やかなイメージだけど、決してその方向だけじゃあないんです。 恋愛要素では心の動くシーンが結構あります。 主人公の人物設定が効いているんだと思います。

運命の八分休符    7点
死にネタとなったミスディレクションのディープな再利用など出来なかったものか。連城にこの安さは求めていない。たった”二分”のアリバイの壁なんて、ちょっとパロディめいてクスクスさせといて、真相の方向性から目を逸させたのは見事。タイトルに込めたトリックの隠喩(直喩か?)も熱い。ファッション業界のスター達を巡る殺人事件。ヒロインは人気モデル。 大仕掛けなショーの演出と、ちょっとしたトリックで大きな効果を生み出す偽装アリバイ。念を入れてた場所が、そっちだったとはね。。 謎かけダブルミーニング風のタイトルはアレですね、他に有名なとこで「抱きしめたい」とか。同じくビートルズ「It Won’t Be Long」ならより近い。

邪悪な羊    8点
誘拐事件をよくぞここまで複雑に、運命的に、痺れるような熱さで! 金持ちの娘と取り違えられ、貧しき者の娘が拐かされた。 ヒロインは歯科医で昔の同級生。 ちょっとコミカル過多なとこはあるが、おかげで少しくバランス崩したが、終わってみればそのへんのアラも呑み込まれてる。流石の連城反転魂! そして本作は、ラストシーンがたまらんのだ。。。 (ただ、あの人が、立場的に、心理的に、◯◯◯になるって、あるんだろうか..)

観客はただ一人    8点
こりゃあ、読んでて自然と仮説を立てまくらされるな。 数多の浮名を流した中年女優が、最後の舞台に立つ。 ヒロインは女優の卵。 大きな違和感持たざるを得ない或る描写がちょっとあからさまで、そこから真相は透けて見えもしたが・・・それでもこの重い文学的反転は刺さる! 心理の方に押されそうな物理トリックもよく溶け込んでいる。 或る事をするのか、しないのか、◯◯◯で決めるって、凄まじいなあ。。 さて、本短篇集で一番の泣かせどころは、本作の或るシーンではないか。呼応してのラストも、胸に迫る。。映画化したくなるよね。

紙の鳥は青ざめて    7点
ヒロインは、失踪した夫と妹を探す年増。 真相そのものはシンプルで深いのに、解決の見せ方がなーんだか無駄に複雑で、美しさを損なってるかも。 一方で、ブラウン神父そのものを色っぽくやられても、、更に捻って殴ってこその連城三紀彦じゃないか、って思いもありますね。 連城も俺に数回抱かれてから最後の推敲すりゃあ良かったのに、なんて考えもしたけど、読み切ったら満足。 最後は「犬」が妙にしみじみさせてくれました。

濡れた衣装    8点
良い意味で通常構造のミステリを純粋に楽しめそうな予感が溢れた。高級クラブを舞台に傷害事件発生。ヒロインはホステス。 いっやー、この、偽装のベクトルっつんすかね、これはもう、アウトオヴ想定もいいとこ! パラダイムシフトとか大袈裟な事口走っちゃいそう! 小道具の(文字通り)光るエンドは、沁みるねえ。。。。   “ 表情には店の名の通りの、青い微笑が混ざっていた。軍平、その微笑に東京の夜の世界で長年を生きてきた女の誇りのようなものを感じて、黙って頭を下げ、店を出た。”

そして連城のあとがきは、ほんとうに、なぜだかいつも、泣かせます。

No.8 6点 E-BANKER
(2022/03/22 18:04登録)
「オール讀物」1980年1月号より不定期に発表された作品をまとめた連作短編集。
全編、田沢軍平というシリーズ探偵が活躍するというのは、連城作品では珍しいこと(のようです)。
単行本は1983年に文藝春秋社より発表。今回は東京創元文庫にて読了。

①「運命の八分休符」=「装子」の章。「運命」とはかの有名なベートーヴェンの第五交響曲のこと。実際、「運命」は八分休符から始まるのが指揮者にとって最も難しいとのことである(本編より)。で、仕掛けとしては「場所」の逆説が鍵となる(ネタバレ?)。
②「邪悪な羊」=「祥子」の章。誘拐事件は連城の十八番中の十八番。本作はさすがに小粒なトリックだけど、やはり「逆説」のトリックがラストに炸裂。(こう見えていた構図が実は逆だったということ)
③「観客はただ一人」=「宵子」の章。大勢の男性と浮名を流した一人の大女優。彼女が自分の関係した男女を観客として招いた一人芝居の舞台上で射殺される。文字通り「劇場型」犯罪であるが、今回もラストで「構図」ががらりと一変させられる。
④「紙の鳥は青ざめて」=「晶子」の章。夫に蒸発された妻。しかも寝取られた相手は妹。ということで、昭和テイスト濃密な雰囲気の作品。地上波のTVで行方不明の家族を探す番組って、確かにあったねぇ・・・。で、今回の逆説はだいたい当初の想定通りではある。
⑤「濡れた衣装」=「梢」の章。舞台は「夜の女の世界」。大勢のホステス(死語?)がしのぎを削る「クラブ」で起こるナイフによる殺人未遂事件。アリバイが問題となるんだけど、大勢のホステスが出たり入ったり、聞いたりしているので、結構ややこしいことになってる。でも、個人的にはこの「梢」が一番好き。

以上5編。
上で書いてるとおり、プロットの軸は連城らしく「逆説」(或いは反転?)で、それまで見ていた構図が実は真逆だった、という真相が探偵役の軍平の口から語られる、という作品が続く。
もちろん、レベルは高いし、非常によくできてる作品揃いなのは確か。
ただね、個人的に大好きな「連城作品」かと問われれば、若干異なるという答えになる。何ていうか、「ねっとり」した作品世界と、どこかねじ曲がった登場人物。そして、現実感の乏しい「謎」というようなアクロバティックなミステリーをどうしても期待してしまうから。

いやいや、でも十分に高水準なんですよ、本作も。こんなレベルの連作短編集もなかなかないと思います。ただただ、連城という作家への期待値が高すぎるだけ。そういう意味では罪作りな作家ではある。
(全作品で軍平を好きになる女性が登場。結果、すべて恋は成就しないのだが、そういう恋愛小説的な面もあり)

No.7 5点 ボナンザ
(2021/09/18 21:13登録)
連城の文学面とミステリー面がうまく融合した連作だと思う。読んだ後しみじみする。

No.6 5点 ALFA
(2021/08/02 08:34登録)
それぞれ「ショウ子」と音読みできる女性を主人公にした5編の連作短編。コミカルな造形の素人探偵軍平が活躍する。
いずれも作者らしい反転の利いた本格構成で、その部分では楽しめます。
個人的には軍平のキャラ付けがわざとらしく、軽妙さが感じられない。むしろシリアスな造形の方が味わい深いミステリーになったはず。コミックはこの作者の柄ではないと改めて思いました。

No.5 7点 まさむね
(2021/07/25 11:47登録)
 同一探偵が登場する連作短編集。連城氏の同種の作品集として思い浮かぶのは、夕萩心中に収録されている「陽だまり課事件簿」くらい。そういった意味でも、興味深く読ませていただきました。
 探偵役は、ドングリ目に分厚い眼鏡の定職を持たない「軍平」くん。実際の読み方や漢字は違うものの、いずれも「しょうこ」とも読める5人の女性との切ない恋愛模様を描きながら、ミステリとしてキッチリと作り込まれています。ユーモラスで軽快な書きぶりながら、「画になる」シーンも多く、作者らしい構図の反転も十分に味わえます。数多くの名作短編を産み出しているだけに、作者の作品群の中で決して目立ちはしないけれども、初期の好短編集の一つと言えそうです。

No.4 8点 じきる
(2021/07/19 00:49登録)
連城らしい技巧が凝らされた軽やかなユーモアミステリ短編集。
個人的には、花葬シリーズには及ばずとも、例えば『夜よ鼠たちのために』あたりと比較しても近いレベルにはある秀作かと。

No.3 8点
(2020/08/11 12:11登録)
 『密やかな喪服』と『夜よ鼠たちのために』の間に挟まる、著者四番目の作品集。雑誌「オール讀物」に1980年1月から1983年2月まで、ほぼ年一作のペースで発表された五本の連作を収録している(第四話「紙の鳥は青ざめて」のみ雑誌「小説推理」掲載)。『戻り川心中』から『夕荻心中』まで、更に『宵待草夜情』をも含めた〈花葬シリーズ〉中心の「幻影城」掲載短編群、および『夜よ~』全収録作、『少女』前半収録の各短編と執筆時期が重なる。「戻り川心中」でデビュー三年目にして第34回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞しその後も何度も直木賞候補になるなど、最も創作意欲が旺盛だった時期の著作である。
 シリーズ探偵・田沢軍平を主人公にした連作恋愛ミステリー。連城には珍しい名探偵ものである(「唯一」とするかは『夕荻心中』所収の「陽だまり課事件簿」をどう判断するかで分かれる)。ドングリ目に分厚い眼鏡、空手の試合で相手を負傷させた事を気に病み、大学を出て三年、定職にもつかずぶらぶらしている軍平が、五人の女性とゆきずりの恋をしながら事件に巻き込まれ、その都度良い雰囲気になるも生来の引っ込み思案から、いつも恋は実らずに終わるという筋立て。最終話「濡れた衣裳」では、いろいろ可愛がってくれる大学時代の先輩・高藤から、〈頭もよく力もあるのに大きな図体でぼんやり寝そべっているのが好き〉な、〈死んだダンという愛犬に似ている〉と言われている。
 ユーモラスで軽めな筆致のため誤解され易いが、実は次作『夜よ鼠たちのために』と同じく、全編反転の構図で貫かれた短編揃い。シリーズ探偵らしく物理トリックも含まれるため、叙述一本槍で通した『夜よ~』ほどには目立たないが。北村薫や法月綸太郎、加山二三郎など本書をお気に入りに挙げるミステリ関係者も少なくない。著作リストを辿ると多作期にシリーズ約年一本と、かなり丁寧な取り組みをしたのが窺われる。初刊単行本あとがきにもあるように、〈胃弱な低カロリー体質のために自分の恋心さえ受け付けない〉主人公には、少なからず連城自身の思い入れもあるようだ。
 特に反転が鮮やかなのは後半三話。ミステリ的には後期誘拐作品のプロトタイプとも言える第二話「邪悪な羊」と、加害者が複雑に入れ替わる最終話「濡れた衣裳」を推したい。第三話「観客はただ一人」はダミー解決の方が良く出来ているが、ドラマ性を考えるとやはりこの結末がしっくりくる。ヒロインの魅力も含めると好みではこれが一番。他にも第四話「紙の鳥は青ざめて」で、観覧車から折紙の鳥を東京の空に飛ばす場面を筆頭に、視覚的に優れたシーンが多用されている。
 この頃の物としては少なくとも『変調二人羽織』『夕荻心中』と同格で、『密やかな喪服』や『瓦斯灯』などよりも上。初期の隠れた良短編集と言える。

No.2 6点 kanamori
(2015/04/28 18:52登録)
主人公の田沢軍平くんのキャラクターだけが記憶に残っていて、ユーモア交じりの軽妙な連作ミステリという憶えがありましたが、今回再読してみるとちょっと印象が違いました。どの作品も、作者のお家芸である”構図の反転”が効いており、まぎれもない連城ミステリです。その一方で、昨年の「小さな異邦人」の表題作に似た軽い語り口なので、粘着質で美文調の文体が苦手な人でも取っ付きやすいと思います。

東京・大阪間のアリバイトリックを扱った表題作は、サブトリックが山村美紗の某作と見事にカブっていますが、ベートーヴェン「運命」の八分休符の趣向をトリックになぞらえるという発想がすごい。
マクベイン「キングの身代金」を思わせる”人違い誘拐”がテーマの「邪悪な羊」は、連城の数ある反転ミステリの中でも上位に入る誘拐ミステリの傑作。後の某長編の原型と言えるかもしれない。
そのほかの「観客はただ一人」「紙の鳥は青ざめて」「濡れた衣装」も、主要人物の立ち位置や事件の構図が見事に逆転する連城マジックを堪能できる。ただ、さすがに連作で読み進めていくと、作者の狙いが透けて見えてしまうという側面もあるのは否めないかな。
軍平は、全5話で5人の運命の女性と関わることになるが、「邪悪な羊」を筆頭に、ラストに漂う哀愁も捨てがたい味わいがある。

No.1 5点 こう
(2009/10/31 23:20登録)
 貧乏で見かけはさえない主人公田沢軍平が探偵役を務め各作品毎のヒロインとのサイドストーリーを絡めた珍しい短編集です。蒸発した夫の帰りを待つ妻を描いた「紙の鳥は青ざめて」が気に入っています。ストーリーの反転はいかにも連城作品らしいですが各トリックはさほど面白みはなく「戻り川心中」の様な世界を期待する方には拍子抜けするほど軽いストーリーです。
 個人的にはまあまあ楽しめましたがやはりユーモアミステリ調は作者の本領ではなさそうです。

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