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ミステリの祭典

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赤の組曲
千草検事シリーズ

作家 土屋隆夫
出版日1966年01月
平均点6.82点
書評数11人

No.11 3点 虫暮部
(2024/10/18 10:56登録)
 大いにネタバレするが、わけが判らない。
 あまりの判らなさに二度読みしたがやっぱり判らなかった。

 そもそも主犯の計画とは。
 本命を殺す。学生Tも殺す。十六日午後二時、共犯者Cが偽本命として少年Mに対応。同日夜、温泉宿を訪れ、午後十時過ぎ、姿をくらます。その間、主犯はアリバイを作っておく――と言ったものだと思うのだが、

 アリバイで勝負するなら、或る程度は犯行日時・場所を確定させる必要がある。本命の死体を隠したままで行方不明、どっちつかずの状況にしておくのは矛盾している。アリバイはあくまで補助的な手段?

 事前に少年Mと偽本命を会わせた件。計画の中核に位置する、事前に手間隙かけて仕込んだトリックだが、具体的な目的は何か?
 【ビゼーとシューマン→新聞広告に気付く→刑事に相談する】と言う流れは偶然であり主犯にコントロールは出来ない。また、主犯自身が検事に相談しており、【少年M→刑事】ルートは特に必要は無い。
 十六日昼間に本命が生きていたことの証人に仕立てる、のはその夜に温泉に現われているのだからやはり不要。
 本命が多情っぽい女だと言うイメージを証言させたかった? それも確実性は乏しい。証言や日記の内容をコントロールは出来ない。
 強いて挙げれば【謎の訪問者を偽装→その会話をMが記憶・証言→刑事が列車を推測→行く先の大まかな方角を示唆】が成立する効果はあるか。

 温泉は長野県で管轄が違う。連携が悪くなるのはメリット?
 しかし【宿で消えた女=東京で失踪した本命】だと早めに気付いて貰えないと、記憶が薄れてアリバイその他の確認が難しくなる。検事に口添えして貰ったのはその為?
 旅館で、大人の客が、一晩戻らなかった程度で確実に警察沙汰になると期待出来るのか。もっと事件性を演出した方が良いのではないか?
 もっとも、警察が何も気付かず、温泉宿の件がまるっきり無視されたとしても、計画に大した支障は生じないかも知れない。仕込みが無駄になるだけで。

 千草検事は【本命殺しの罪をなすり付ける相手として学生Tを選んだ】と推理している。一方、【本命が逃走資金三十万円を銀行から引き出した】との件もあり、それなら【本命がTを殺した】と言うシナリオである。【それこそが偽装(そんな金額では全然足りない)】との意見も出た。
 行動がブレているから、本命を被害者・犯人、どちらに見せたいのか曖昧。主犯は何がしたかったのか?

 【三つの血のゼロ】の狙いは何か。検事はそれによって却って主犯に疑いを掛けているので、結果としては捜査をミスリード出来ていない。

 共犯者Cはどこから捜査線上に登場したのか。学生Tの死体が発見され、その足取りを追う中で【Tにコマされかけた女】としてである。そのエピソードの半分はCが証言した嘘であり、半分は証人がいる事実である。但し小芝居が含まれていて、その成り行きを意図的にアピールしているフシがある。
 ではその目的は何か、と考えてもメリットは特に無い。Tを人知れず拉致して殺せば済む話である。しかも、そうしていれば捜査陣はCの存在を認識しなかった可能性が高く、ひいては【偽本命】トリックも見破られなかったかもしれない。推理は出来てもじゃあ誰が演じたんだと言う話になるし、検事もCを知っていたからこそ閃いた。と考えると、Cの言動は犯人側としては逆効果である。
 因みに、「T=犯人」説で進めるなら、小芝居もそれを後押しするべく仕組まれていたことになる(Tの悪辣さを強調するとか?)。しかし意に反して死体が発見されてしまったので、最早あまり意義の無い芝居を、Cは続けざるを得なかったのである。

 主犯の心理描写に、ちょっとアンフェアっぽいかな~と言う部分あり。

 主犯が、警察署ではなくわざわざ旧知の検事に自ら相談する形で、事件を表沙汰にした意図とは?
 それに限らず、総じて見ると、もっと内輪で片付けられそうな要素に、わざわざ他者を関わらせている感がある。しかも、その他者が割りと期待通りに動くので、まるで大勢が結託して読者を驚かせようとしているように見えてしまう。
 但し、それらのとりとめの無い偽装行為が、或る程度捜査の攪乱の役には立っているようだ。
 場当たり的に連載を進めた結果、作者が矛盾に気付かないフリで纏めるしかなくなってしまった、と言う感じ。

No.10 8点 文生
(2023/07/13 11:10登録)
比較的地味な事件ながら、文学性の高さと次第に混迷を深めていく展開にはそこはかとない幻想味が感じられ、引き込まれました。五里霧中のなか、一つの閃きがきっかけとなって一気に謎が解けていく構成も見事です。大胆なトリックと二重三重に張り巡らされたミスディレクションの妙が堪能できる名品。

No.9 7点 ことは
(2022/05/04 18:53登録)
再読。(面白いと思った記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。メインの仕掛けすら忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
メインの仕掛けは、とても好み。これに気づけば、パタパタとすべてがはまるようにできている。いいなぁ、これ。ただ、新本格以降の作品をたくさん読んでいれば、想定の範囲内になってしまうかも。
構成も、(目次にあるとおり)きれいな4章構成。各章毎に、カタリと事件の様相が変わるポイントがあって、飽きさせない。
ただ、別作の感想にも書いたが、土屋隆夫の文学味はやはり好きでない。本作では、(多分当時でも)保守的な考えが散見して、気が削がれるところがあった。動機も「またか」というもので、土屋隆夫の文学的射程はせまいだろうと思う。
とはいえ、それらは少量で、ほぼ「事件の発生と、その解明」に費やされているので、ミステリを楽しむ邪魔にはならない。「ビゼーよ、帰れ。シューマンは待つ」という言葉や、真相に気づくきっかけなど、印象的な部分も多い。土屋隆夫の私的ベストは本作で決まりです。

No.8 8点 パメル
(2017/01/28 11:46登録)
フーダニット・ハウダニットとも十分に楽しめる作品
特に錯覚の心理を巧みに利用したトリックはハウダニットとして完成度が高い
展開されるプロットのどれにも伏線やミスディレクションが仕掛けられている
哀愁漂うラストも素晴らしくロマンティシズムが色濃く出た文学性が高い作品

No.7 6点 蟷螂の斧
(2015/10/30 13:30登録)
裏表紙より~『千草検事は、懐かしい友・坂口秋男の来訪をうけた。「警察署長を紹介してほしい」彼の妻が失踪したというのだ。千草は助力を約束する。坂口の妻らしき女性が、長野の温泉を訪れたという情報が入るが、その女性も失踪してしまう。犯人が残す「赤い」謎―。論理と直感が絡まり合い、ひきたて合い、鮮やかな結末を紡ぎ出す本格推理小説。』~

題名や目次にある「赤」に期待し過ぎたのか・・・。それほどの謎ではなかったのが残念。方言の扱い並びに刑事宅でのエピソードから解決への流れは光っていました。

No.6 7点 斎藤警部
(2015/05/25 13:43登録)
タイトルから受ける印象に比べると地味な本ですが、私の好きな土屋さんらしい、佳い作品でした。 冒頭から連発する謎、手掛かり、伏線の数々。その一部はあっさり解決したり、一部は長いこと引きずったり宙に浮かせたり。最後に全てのもやもやが一点に集約するという作りではなく、題名にある「赤」という言葉に纏わる強烈なイメージで引っ張るわけでもなく、若干「あれっ」と思う終わり方でしたが、さほどの肩透かし感が無かったのはやはりストーリーと結末意外性の質実剛健さあればこそでしょうか。

ネタバレ的な事を書くと、あの人物入れ替わりトリックは結構な盲点に隠れてたもんで、ちょっと驚きました。、旅館での指紋捏造は、トリックそのものより捏造である事を目くらましするための行動が面白い。指紋トリックとして最初に考えたと言う「グロテスクな仮説」には笑いました。土屋さんもジョークのつもりで書いたのかしら。 中心となる殺人の「意外な動機」が最後まで迷彩張られて見えなかったのは立派。但し、その動機に大きく関わる「本当の父親」が、意外っちゃ意外なんだけど、文中であまり描かれてない人物だから肩透かしかな。(私はもっと驚きの人物を想定していましたが。。流石にそこまで暗黒小説じゃなかった)

エピローグ、ミステリ的な感動とは違うけど、泣けますよね。。

No.5 7点 E-BANKER
(2014/08/15 23:29登録)
日本推理作家協会賞を受賞した「影の告発」に続いて、千草検事と野本刑事のコンビが活躍する長編の第二弾。
1966年発表作品。

~千草検事は懐かしい友人・坂口秋男の来訪を受けた。「警察署長を紹介して欲しい」・・・彼の妻が失踪したというのだ。千草は助力を約束する。坂口の妻らしい女性が長野県の温泉を訪れたという情報が入るが、その女性も失踪してしまう。犯人が残す「赤い」謎・・・。論理と直感が絡まり合い、引き立て合い、鮮やかな結末を紡ぎ出す本格推理小説~

格式高く、実に気品のある佳作・・・そんな印象だ。
依頼人の妻の失踪、容疑者の男の死と事件は展開するのだが、事件の構図そのものは、割と早い段階で判明したように見える。
ただし、それが作者が仕掛けた欺瞞。
中盤以降は、登場人物たちの裏の姿が次々に判明し、事件は次第に混迷していく。

「どういう風に決着付けるんだろう?」って思っているところへ・・・
ちょっとしたきっかけで千草検事が真犯人の仕掛けたカラクリに気付く。
そのタイミングが実に絶妙。
たったひとつのピースが埋まることで、事件全体のパズルが瞬く間に明確になっていく。
この辺りの手練手管こそ作者の真骨頂だろう。
解決のきっかけとなるある“ことば”についても、なかなか気が利いている。

とにかくプロットの丁寧さが光る作品だ。
終章も実に味わい深く余韻を残す。
派手なトリックや仕掛けはないので、若干の食い足りなさを感じる方もいらっしゃるかもしれないけど、個人的には「いいもの読んだなぁー」のひとこと。
(ちょっと褒めすぎか?)

No.4 8点 あびびび
(2014/07/12 11:29登録)
格調高い推理小説を楽しんだと言う読後感。寡作の作家だったらしいが、それだけにブレがない。

事件÷推理→解決、すなわち常に本格を意識して書いていたらしいが、それよりも登場人物のひとりひとりが実に魅力的で感情移入してしまう。まだ2作目だが、東京が事件現場ながら、ずっと住んでいた小諸、上田あたりが関連するのも実に楽しい。

No.3 8点 ボナンザ
(2014/04/08 00:57登録)
続けて読むとよくここまで水準の高い作品を連発できると感心する。切れ味では針の誘いに譲るが、話としてはこちらが好きだ。

No.2 7点 kanamori
(2012/04/06 18:04登録)
「ビゼーよ、帰れ シューマンは待つ」

千草検事シリーズの2作目。久々の再読で、憶えていたのは冒頭の謎めいたフレーズだけです。でも、これは謎でも何でもなく、早い段階で、”失踪した妻に呼びかける新聞広告の文言”だと明らかになります。
登場人物が限られているため、事件の隠された構図はなんとなく察することが可能ですが、大胆なメイントリックに関して普通に書けばアンフェアになるところを、少年から聴取した野本刑事の回想と少年の日記で処理するという工夫があり(微妙な記述もありますが)、フェア・プレイを強く意識している点を評価したい。また、検事が仕掛けに気付くきっかけが、方言と”野本刑事の初対面の妻”という意外性が秀逸です。
少年と少女の悲劇的なサブストーリーや、叙情的でやるせないラストシーンなどが強く胸を打つ、物語性豊かな本格ミステリの佳作と言えると思います。

No.1 6点 nukkam
(2009/05/15 18:44登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表の千草検事シリーズ第2作の本格派推理小説です。犯人が早い段階から見当のつきやすい土屋作品の中で本書は最後まで犯人当ての謎を残すプロットになっているのが個人的には気に入ってます。失踪という地味な事件で引っ張りますがプロットが堅固な上にスムーズな展開なので全く退屈しませんでした。容疑者が少ないので意外性は低いですが手掛かりが巧妙で、謎解きの面白さとリアルな捜査を両立させることに成功しています。

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