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ミステリの祭典

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赤の組曲
千草検事シリーズ

作家 土屋隆夫
出版日1966年01月
平均点7.20点
書評数10人

No.10 8点 文生
(2023/07/13 11:10登録)
比較的地味な事件ながら、文学性の高さと次第に混迷を深めていく展開にはそこはかとない幻想味が感じられ、引き込まれました。五里霧中のなか、一つの閃きがきっかけとなって一気に謎が解けていく構成も見事です。大胆なトリックと二重三重に張り巡らされたミスディレクションの妙が堪能できる名品。

No.9 7点 ことは
(2022/05/04 18:53登録)
再読。(面白いと思った記憶だけで、完全に忘れていて、初読の感覚でした。メインの仕掛けすら忘れていた。やはり、どんどん記憶を失っているなぁ)
メインの仕掛けは、とても好み。これに気づけば、パタパタとすべてがはまるようにできている。いいなぁ、これ。ただ、新本格以降の作品をたくさん読んでいれば、想定の範囲内になってしまうかも。
構成も、(目次にあるとおり)きれいな4章構成。各章毎に、カタリと事件の様相が変わるポイントがあって、飽きさせない。
ただ、別作の感想にも書いたが、土屋隆夫の文学味はやはり好きでない。本作では、(多分当時でも)保守的な考えが散見して、気が削がれるところがあった。動機も「またか」というもので、土屋隆夫の文学的射程はせまいだろうと思う。
とはいえ、それらは少量で、ほぼ「事件の発生と、その解明」に費やされているので、ミステリを楽しむ邪魔にはならない。「ビゼーよ、帰れ。シューマンは待つ」という言葉や、真相に気づくきっかけなど、印象的な部分も多い。土屋隆夫の私的ベストは本作で決まりです。

No.8 8点 パメル
(2017/01/28 11:46登録)
フーダニット・ハウダニットとも十分に楽しめる作品
特に錯覚の心理を巧みに利用したトリックはハウダニットとして完成度が高い
展開されるプロットのどれにも伏線やミスディレクションが仕掛けられている
哀愁漂うラストも素晴らしくロマンティシズムが色濃く出た文学性が高い作品

No.7 6点 蟷螂の斧
(2015/10/30 13:30登録)
裏表紙より~『千草検事は、懐かしい友・坂口秋男の来訪をうけた。「警察署長を紹介してほしい」彼の妻が失踪したというのだ。千草は助力を約束する。坂口の妻らしき女性が、長野の温泉を訪れたという情報が入るが、その女性も失踪してしまう。犯人が残す「赤い」謎―。論理と直感が絡まり合い、ひきたて合い、鮮やかな結末を紡ぎ出す本格推理小説。』~

題名や目次にある「赤」に期待し過ぎたのか・・・。それほどの謎ではなかったのが残念。方言の扱い並びに刑事宅でのエピソードから解決への流れは光っていました。

No.6 7点 斎藤警部
(2015/05/25 13:43登録)
タイトルから受ける印象に比べると地味な本ですが、私の好きな土屋さんらしい、佳い作品でした。 冒頭から連発する謎、手掛かり、伏線の数々。その一部はあっさり解決したり、一部は長いこと引きずったり宙に浮かせたり。最後に全てのもやもやが一点に集約するという作りではなく、題名にある「赤」という言葉に纏わる強烈なイメージで引っ張るわけでもなく、若干「あれっ」と思う終わり方でしたが、さほどの肩透かし感が無かったのはやはりストーリーと結末意外性の質実剛健さあればこそでしょうか。

ネタバレ的な事を書くと、あの人物入れ替わりトリックは結構な盲点に隠れてたもんで、ちょっと驚きました。、旅館での指紋捏造は、トリックそのものより捏造である事を目くらましするための行動が面白い。指紋トリックとして最初に考えたと言う「グロテスクな仮説」には笑いました。土屋さんもジョークのつもりで書いたのかしら。 中心となる殺人の「意外な動機」が最後まで迷彩張られて見えなかったのは立派。但し、その動機に大きく関わる「本当の父親」が、意外っちゃ意外なんだけど、文中であまり描かれてない人物だから肩透かしかな。(私はもっと驚きの人物を想定していましたが。。流石にそこまで暗黒小説じゃなかった)

エピローグ、ミステリ的な感動とは違うけど、泣けますよね。。

No.5 7点 E-BANKER
(2014/08/15 23:29登録)
日本推理作家協会賞を受賞した「影の告発」に続いて、千草検事と野本刑事のコンビが活躍する長編の第二弾。
1966年発表作品。

~千草検事は懐かしい友人・坂口秋男の来訪を受けた。「警察署長を紹介して欲しい」・・・彼の妻が失踪したというのだ。千草は助力を約束する。坂口の妻らしい女性が長野県の温泉を訪れたという情報が入るが、その女性も失踪してしまう。犯人が残す「赤い」謎・・・。論理と直感が絡まり合い、引き立て合い、鮮やかな結末を紡ぎ出す本格推理小説~

格式高く、実に気品のある佳作・・・そんな印象だ。
依頼人の妻の失踪、容疑者の男の死と事件は展開するのだが、事件の構図そのものは、割と早い段階で判明したように見える。
ただし、それが作者が仕掛けた欺瞞。
中盤以降は、登場人物たちの裏の姿が次々に判明し、事件は次第に混迷していく。

「どういう風に決着付けるんだろう?」って思っているところへ・・・
ちょっとしたきっかけで千草検事が真犯人の仕掛けたカラクリに気付く。
そのタイミングが実に絶妙。
たったひとつのピースが埋まることで、事件全体のパズルが瞬く間に明確になっていく。
この辺りの手練手管こそ作者の真骨頂だろう。
解決のきっかけとなるある“ことば”についても、なかなか気が利いている。

とにかくプロットの丁寧さが光る作品だ。
終章も実に味わい深く余韻を残す。
派手なトリックや仕掛けはないので、若干の食い足りなさを感じる方もいらっしゃるかもしれないけど、個人的には「いいもの読んだなぁー」のひとこと。
(ちょっと褒めすぎか?)

No.4 8点 あびびび
(2014/07/12 11:29登録)
格調高い推理小説を楽しんだと言う読後感。寡作の作家だったらしいが、それだけにブレがない。

事件÷推理→解決、すなわち常に本格を意識して書いていたらしいが、それよりも登場人物のひとりひとりが実に魅力的で感情移入してしまう。まだ2作目だが、東京が事件現場ながら、ずっと住んでいた小諸、上田あたりが関連するのも実に楽しい。

No.3 8点 ボナンザ
(2014/04/08 00:57登録)
続けて読むとよくここまで水準の高い作品を連発できると感心する。切れ味では針の誘いに譲るが、話としてはこちらが好きだ。

No.2 7点 kanamori
(2012/04/06 18:04登録)
「ビゼーよ、帰れ シューマンは待つ」

千草検事シリーズの2作目。久々の再読で、憶えていたのは冒頭の謎めいたフレーズだけです。でも、これは謎でも何でもなく、早い段階で、”失踪した妻に呼びかける新聞広告の文言”だと明らかになります。
登場人物が限られているため、事件の隠された構図はなんとなく察することが可能ですが、大胆なメイントリックに関して普通に書けばアンフェアになるところを、少年から聴取した野本刑事の回想と少年の日記で処理するという工夫があり(微妙な記述もありますが)、フェア・プレイを強く意識している点を評価したい。また、検事が仕掛けに気付くきっかけが、方言と”野本刑事の初対面の妻”という意外性が秀逸です。
少年と少女の悲劇的なサブストーリーや、叙情的でやるせないラストシーンなどが強く胸を打つ、物語性豊かな本格ミステリの佳作と言えると思います。

No.1 6点 nukkam
(2009/05/15 18:44登録)
(ネタバレなしです) 1966年発表の千草検事シリーズ第2作の本格派推理小説です。犯人が早い段階から見当のつきやすい土屋作品の中で本書は最後まで犯人当ての謎を残すプロットになっているのが個人的には気に入ってます。失踪という地味な事件で引っ張りますがプロットが堅固な上にスムーズな展開なので全く退屈しませんでした。容疑者が少ないので意外性は低いですが手掛かりが巧妙で、謎解きの面白さとリアルな捜査を両立させることに成功しています。

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