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ミステリの祭典

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もしもし、還る。

作家 白河三兎
出版日2013年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/03/30 16:53登録)
(ネタバレなし)
「僕」こと28歳の社会人・田辺志朗(「シロ」)は気が付くと、サハラ砂漠を思わせる赤い砂塵の広大な無人の砂原にいた。そこにひとつの電話ボックスが出現。事態の経緯もわからないまま、シロは助けを求めて119番に電話をかけるが……。

 文庫書き下ろし作品。
 評者は白河作品は2014年以降の新刊ばかり読んできたので、旧作として手にしたのはこれが初めて。

 いきなり不条理SF風のシチュエーションから開幕して、そのまま主人公シロのこれまでの半生が抱える複数の謎の興味に踏み込んでいく。
 一方でこの異常な世界の構造というか、成立の経緯についての探求はどちらかといえば消極的で、途中でたぶんそういうことなのかも知れないという示唆が読者に与えられる程度。
 ただしとにもかくにもシロは、この奇妙な空間での約束事やシステムをかなり柔軟に認識して思索や試行を進める。読者はそんなシロの視点に付き合った上で、彼の周辺に起きたいくつかの謎の真実を探るという、すごくゆるやかな意味でのSFミステリだといえる。

 主人公のひねた、しかし透明感でいっぱいの内面描写やキャラクター造形など、まさに白河節が炸裂という感じ。
 それだけに(Amazonのレビューで同様のことを言っていた人がいたが)終盤がかなり駆け足で舌っ足らず気味なのが惜しまれる。(中略)の正体などは、まあそういうこと……なんだろうけれど。
 あと主人公の(中略)の思考、白河作品で初めて「めんどくさいな、こいつ」的な思いを抱いた(汗)。評者のそんな感慨が当を得ているかどうかは、正直、自分でもよくわからないが。

 いずれにしても、作者のこの時期の作家としての器量を、改めて実感させられた一冊。
 佳作とか秀作とかいう前に、これはまずは白河作品、だと思う。

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