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ミステリの祭典

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まさむねさんの登録情報
平均点:5.86点 書評数:1195件

プロフィール| 書評

No.515 7点 人間の顔は食べづらい
白井智之
(2015/02/07 21:49登録)
 ヒトクローンを工場で生産し,食用とすることが合法化された日本が舞台。しかも食べられるのは,自分の遺伝子から作られたクローンのみ。工場からは首を切断したうえで出荷される…何ともスゴイ設定です。グロい表現も少なくありませんし,現実感とか,モラル感に突っ込みたくなるとの意見もございましょう。
 一方で,ミステリとしての質は相当に高いです。探偵役が不明な中での推理の応酬,終盤の反転,ロジックの冴え,伏線の配置…素晴らしい。横溝正史ミステリ大賞の最終候補に残り,有栖川有栖氏と道尾秀介氏が絶賛したとの評も素直に頷けます。
 あの点については設定上当然に考慮すべきだった…と読後に悔いた訳ですが,それ以上に,そこをグロさを含めた全体構成に溶け込ませた手腕に感心いたしました。(ちなみに,個人的には登場させた意義,というか強調的に描いた意義が良く分からない登場人物がいるのですが,何か深い意図があるのでしょうか。単に驚かせたかっただけ?…って疑問がなければ,さらに加点したくなるところ。)
 今後の活躍に期待したくなる作家であることは間違いありません。作者は千葉県出身の東北大学法学部卒とのことで,伊坂幸太郎サンの後輩に当たります。早く次回作を読んでみたいですね。


No.514 5点 探偵少女アリサの事件簿 溝ノ口より愛をこめて
東川篤哉
(2015/02/01 17:57登録)
 東川さん,またまた新キャラを持ってきました。今回の探偵役は,ロリータ服を着こなす,10歳の美少女・有紗(アリサ)。コンビを組むのが,「なんでも屋」を開業する,31歳独身の橘良太。
 この設定,人によって好き嫌いはあるでしょうが,個人的にはなかなか使い勝手が良いような気がします。人気子役を配したドラマ化を狙っているのか?(でも,事件が溝ノ口を中心とした南武線沿線限定ってのがネックか?)
 で,内容としては,正直,これまでの別キャラ短編集に比して小粒。「単に探偵役が変わっただけ?」といった印象もありますが,キャラ自体は悪くないし,有紗の両親も含めてもっと設定を活かせるような気がするので,今後に期待しましょう。


No.513 6点 奇談蒐集家
太田忠司
(2015/01/29 23:28登録)
 「求む奇談!自分が体験した不可思議な話を話してくれた方に高額報酬進呈。ただし審査あり」という新聞広告に導かれ,老若男女が,指定されたバーで「奇談蒐集家」&性別不詳の美形助手に奇談を話す…というスタイルの連作短編集。
 最終話までは典型的な安楽椅子探偵モノ。正直,真相(の一部)が判りやすい短編も多いのですが,「水色の魔人」のラスト5行や「金眼銀眼邪眼」の伏線など,個人的に好きなタイプの仕掛けもあって,悪い印象はありません。
 また,最終話「すべては奇談のために」における,連作短編ならではの纏め方も好きなタイプ。楽しめました。


No.512 6点 タルト・タタンの夢
近藤史恵
(2015/01/25 22:59登録)
 下町の商店街にある,小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」を舞台にした短編集。
 正直,安楽椅子モノのミステリとしては弱いです。と言いますのも,なぜこの答えと推理したのか,他にも可能性があるだろうに…っていうケースが多すぎます。しかし探偵役のシェフってば百発百中でズバズバ的中(笑)!
 とは言え,うまそうな料理の情景,これにビストロのスタッフの雰囲気も相まって,読み心地はなかなか良いです。ここぞという場面で登場する,三舟シェフ秘伝の「ヴァン・ショー(ホットワイン)」を飲んでみたい。
 ちなみに,ベストは「割り切れないチョコレート」。レストラン名同様,「パ・マル」(悪くない)な短編集でしたね。


No.511 9点 戻り川心中
連城三紀彦
(2015/01/24 09:29登録)
 この短編集は,謎ときというよりも,個人的には「反転小説」というタームも思いつくのですが,しかしながら,その反転に「やーい,騙された」というような軽さは一切なく(そういう軽さも決して嫌いではないのですが…),読後に唸らざるを得ない短編揃いです。
 ベストはやはり表題作「戻り川心中」。そして,ともに遊郭街を舞台にした前半の2作品「藤の香」「桔梗の宿」の構成や作品世界も見事。「桐の柩」のホワイ,「白蓮の寺」の反転も良いですが,他の3作に比べると一段落ちる印象かな。
 理論では必ずしも割り切れない何かが,人としてそれぞれあるわけで,だからこそ哀しさも生まれるし,ソコも含めて,人生の意義があると思うのです。反転や伏線と言った技巧もさることながら,この点を流麗な筆致で綴られていることが何よりも素晴らしい。私などは,物語に完全に身を委ねながら,何とも言えない満足感で読み終えることができました。
 パズラーとしての傑作短編集はいくつか思い浮かびますが,もっと広い視点でミステリーを捉えた場合,年代を超えて確実に上位に位置する伝説的な短編集と言えましょう。


No.510 7点 小さな異邦人
連城三紀彦
(2015/01/17 13:09登録)
 生前,雑誌に発表したままになっていた8編の短編が収録されています。
 男女の心理を巧みに描きつつの,視点の転換が見事な作品が並んでいますが,その流れで辿り着く最終話(表題作)が個人的なベスト。作者には珍しい(?)ユーモアタッチの語り口なのですが,「誘拐されたのは誰なのか?」等々の魅力的な謎に対して示される真相には驚かされました。読後にタイトルが浮き出てくる感覚もいい。誘拐短編として出色です。
 時効寸前の事件に絡む女と刑事を描いた「無人駅」,交換殺人のプロットを活かした「蘭が枯れるまで」,無理筋な面がありつつも反転が際立つ「白雨」も良作。また,恋愛小説的な側面が強いですが,「さい涯てまで」のラストの情景も個人的には印象深いですね。


No.509 6点 街の灯
北村薫
(2015/01/11 21:18登録)
 作者の第3シリーズ(ベッキーさんシリーズ)の第一作品集。
 上流階級の女性が主人公という点で「覆面作家シリーズ」が想起されますが,若き女性「わたし」の一人称スタイルという面や全体の雰囲気は「円紫さんと私シリーズ」により近い印象を受けました。
 ミステリーとしては,派手な演出や奇抜なアイデアがある訳ではありませが,舞台となる昭和初期の風景や世相の描写が綺麗で,かつ,それをミステリーに巧く絡めています。イイ話だけでは終わらせない,毒の盛り方も作者らしいです。
 次々にページをめくらされましたので,次作も読むことになりそうです。


No.508 4点 人柱はミイラと出会う
石持浅海
(2015/01/04 23:22登録)
 人柱,黒衣,お歯黒,厄年,参勤交代やらの日本古来の風習が,今でも生活に密着した形で残っている…という設定自体は面白いと思います。探偵役が「人柱職人」で,アメリカからの留学生リリーがヒロイン的役回りというのも良く考えられています。
 しかし一方で,各短編のロジックは微妙。いくらなんでも強引すぎない?…ってことで辛目の点数に。


No.507 5点 ノックス・マシン
法月綸太郎
(2015/01/02 22:38登録)
 全体的に小難しいなぁ。正月に酒飲みながら読むべき作品ではなかったなぁ…。怒られちゃうかもしれないけど,すごく単純化して紹介するとすれば,海外古典作品をSF的に表現した「楽屋ネタ」ってことで括れるのではないかなぁ…と。
 正直,「ノックス・マシン」&「論理蒸発」は,私には面倒すぎて厳しい。「バベルの牢獄」も面倒なのだけれども,(短くてストレスも少なかったし)結末にはニヤリとしたのでまぁいいかな。「引き立て役倶楽部の陰謀」はパロディとして楽しめたので,総合的には,まぁこのあたりの採点になるのかなぁ。


No.506 5点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題
法月綸太郎
(2014/12/30 10:00登録)
 法月綸太郎・星座シリーズの短編集。
 牡羊座から乙女座までの各星座をモチーフにした企画モノなので,やむを得ない面はあると思うのですが,ちょっとコトバ遊びに傾注しすぎてはいないかなぁ…と。勿論,提示される謎自体は興味深く,流石と思わされるのですが。
 初出が犯人当て小説の2作品,「(双子座)ゼウスの息子達」と「(蟹座)ヒュドラの第十の首」がベストかな。作者の名短編「都市伝説パズル」を想起させる「(乙女座)冥府に囚われた娘」がその後に続く感じかな。


No.505 7点 ずっとあなたが好きでした
歌野晶午
(2014/12/28 22:37登録)
 恋愛小説短編集。って言いながら歌野氏だからなぁ…と念頭に置きながら読み進めますと,やっぱり表題作や「舞姫」のような捻りの効いた作品もありつつ,あれ?純粋な恋愛小説もあるし,ははぁ,今回はこういった雑多感を楽しむ趣向なのかねぇ…などと結構中だるみを感じた頃に…ねぇ。
 スラスラ読ませつつも結構な分厚さ。ソコも狙いなのでしょうが,なるほどねぇ。ははぁ,なるほどねぇ。


No.504 6点 純喫茶「一服堂」の四季
東川篤哉
(2014/12/23 08:50登録)
 舞台は鎌倉。探偵役の女性は極度の人見知り…ってあたりで「ビブリア古書店かよ!」と突っ込み,喫茶店そして女性のバリスタが探偵役…ってあたりで「珈琲店タレーランかよ!」と突っ込まざるを得ない舞台設定。そしてこの表紙って!
 東川篤哉氏だからこその芸当と言えるのですが,これらすべてを見事に「利用」した“全体構成”がお見事。(評価は相当に割れると思いますが…)
 ちなみに,内容としてはビブリア&タレーランとは一線を画す,十字架磔死体,首なし死体,バラバラ死体など,思いっきり人が死ぬ本格系統。これまた両作品とは一線を画す,東川流ユーモアも全開。個人的には結構好きなパターンの連作短編でしたね。


No.503 6点 クローバー・リーフをもう一杯
円居挽
(2014/12/19 21:35登録)
 作者初の連作短編集(だと思う)。
 「ルヴォワール」シリーズで作者の技巧を見せつけられてはいますが,同シリーズには「面倒くささ」が同居していたのも事実。
 この作品は,その辺りも意識しているのか,結構読みやすい展開。その分,謎も軽めではありますが,4話目の「ペイルライダーに魅入られて」と最終話「名無しのガフにうってつけの夜」に作者らしさを感じます。
 前半での青春ミステリ的な盛り上げが,後半に活かしきれていないことが惜しいですね。遠近クンと青河さんの展開も気になるなぁ。今回の登場人物たちを使った続編は出ないものか。(もしかして作者の営業戦略に乗せられているのか?)


No.502 7点 時鐘館の殺人
今邑彩
(2014/12/13 22:08登録)
今邑さんの短編集の中でも,かなり高水準ではないでしょうか。
①「生ける屍の殺人」:いかにも今邑女史らしい作品。でもラストのホラー帰着が個人的にはどうにも微妙。
②「黒白の反転」:伏線や反転を含めて綺麗に纏められた良作。そこかしこに巧さを感じます。良作。
③「隣の殺人」:オチが読みやすすぎるため,逆に何かあるのか…とすら思わせる。でも思い過ごしでしたねぇ。凡作。
④「あの子はだあれ」:SF短編として良質。余韻を残す反転も見事。
⑤「恋人よ」:20ページ程度の分量の中でしっかりと雰囲気を作っています。最後の捻りも私は結構好き。
⑥:「時鐘館の殺人」凝ったプロットです。遊び心にも溢れています。文庫版ではノベルス版にはあった箇所を大幅に削除しているとのこと。理由の一つが「実在する作家の方々を揶揄するような表現が多々あることが気になったから」とのこと。気になるなぁ。

 ⑥・②がベスト2。④と⑤も好み。①は個人的には評価しにくいが,いかにも作者らしい。③のみ凡作か。


No.501 7点 月光ゲーム
有栖川有栖
(2014/12/07 22:13登録)
 良くも悪くも「若い」です。
 人物が多すぎる…とか,動機が何とも…とか,ダイイング・メッセージはやり過ぎだろう…等々,気になる点は少なくありません。
 とは言え,読者挑戦モノとしての気概は天晴だし,やはり読んでいてワクワクしちゃいます。七色の変化球を操る投手も好きですが,やはり直球で押すルーキーの魅力には敵わない。内角に直球を投げ込めない投手は,結局変化球も活かせないものです。
 ってことで,思い入れも入りつつ,この点数。


No.500 5点 乱れからくり
泡坂妻夫
(2014/11/30 21:52登録)
 泡坂ファンのみならすとも,「言わずもがな」な有名作品。ベスト100モノでは常連(?)といってよいでしょう。
 玩具を絡めた発想,それぞれのトリック,終盤での伏線の回収と転換,そして何よりも「騙し」へのこだわり…等々,自分なりに評価の高さの理由を理解しつつ,しかしながら,緊張感やスピード感は…とか,こういう設定(ネタバレを避けて詳細は書きませんが)だったら何でもアリでは…といった,おそらくは素人的であろう感想を持ったのも事実。初期作品なら,個人的にはアノ短編集の方が好み。
 勿論,楽しめたのですが,敢えてこの点数にしましょう。


No.499 5点 幻色江戸ごよみ
宮部みゆき
(2014/11/23 23:06登録)
 「本所深川ふしぎ草紙」が結構楽しかったので手にした次第。
 勝手に「岡っ引きの茂七親分」が登場するシリーズものだと思い込んでいたので,純粋な短編集であることにちょっとびっくり。(私が勝手に思い込んでいただけで作者には何ら非はないのですが。)
 内容としては,人情&ホラーを重視した時代小説といったところか。「器量のぞみ」「庄助の夜着」「神無月」あたりが良かったかな。


No.498 7点 去年の冬、きみと別れ
中村文則
(2014/11/17 19:57登録)
 芥川賞作家が描くミステリー作品。ミステリーとして「異色」とまで言えるかは別として,なるほど,確かに芥川賞作家らしい筆致で,登場人物の心情も含めて,緊張感に満ちた構成です。
 序盤からミステリーとしての「匂い」がプンプンと漂う展開で,あれこれ想定しながら読み進めざるを得なかったのですが,浅はかな想定を上回る終盤の展開は見事。登場人物たちの,それぞれの「狂気」が読後ににじみ出てきます。とある団体に関して,不発気味というか,ちょっと投げっぱなしになっていないか?との疑問もありますが(単に読みが甘いだけか?),個人的には「いつもと違う読書」を満喫できましたね。
 こういう系統の作品は,かなり好き嫌いが分かれると思うのですが,中編と呼んでもよいくらいの分量ですし,一読する価値はあると思います。


No.497 7点 魔球
東野圭吾
(2014/11/11 22:01登録)
 作者の初期の長編作品。
 心に訴えかける結末です。「悲しい」という一言では言い表すことのできない余韻があります。野球部員の殺人事件のみならず,一見無関係にも見える他の事件を絡ませることで,ストーリーの厚みが格段に増しています。その事件の真相の一つとして明かされる,とある人物たちの墓前でのやりとり,そしてその両者の心情については,特に記憶に残りそうです。
 読者が犯人を論理的に特定できるような構成ではありませんが,作者の構成力,ストーリーテラーぶりが,当時から十分に発揮されていたことを認識できる作品と言えましょう。


No.496 5点 大癋見警部の事件簿
深水黎一郎
(2014/11/03 23:13登録)
 メタミステリーとしてどう評価していいものやら。
 目次から拾ってみても、「ノックスの十戒、アリバイ、密室殺人、叙述トリック、レッドヘリング、ダイイング・メッセージ、ヴァン・ダインの二十則、後期クイーン問題、正確な死因、お茶会で特定の人物だけを毒殺する方法、二十一世紀本格、「見立て」の真相、バールストン先攻法にリドル・ストーリー、警察小説、歴史ミステリーおよびトラベルミステリー、さらには多重解決」…というように、ガンガンに詰め込んでいます。そのせいなのか、個々のネタについては、小ぶりの印象が否めません。
 気軽に読む分には良いと思うのですが、個人的には「天下一大五郎」センセの方が好みかな。

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