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ミステリの祭典

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死と砂時計

作家 鳥飼否宇
出版日2015年01月
平均点6.44点
書評数9人

No.9 6点 パメル
(2021/02/15 17:10登録)
第16回本格ミステリ大賞受賞作。終末監獄を舞台にした奇想と逆説が横溢する連作長編。
この作者はどちらかといえば、独特な路線を歩んでおり万人受けする作品は少ない気がする(勝手に思っている)が、この作品は誰にでもお薦め出来る。
「魔王シャヴォ・ドルヤマンの密室」死刑が決まっている囚人が牢獄の中で殺されるという魅力的な状況。真犯人とどのように殺したかは分かりやすいが、ホワイダニットの部分が巧く出来ている。真相よりも前座で出されたダミー推理が印象に残った。
「英雄チュン・ウェイツの失踪」作者らしい逆説的な真相が最も効果的に発揮された一編。トリックには無理があるが。
「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」男子禁制の居住区で妊娠、出産したという謎だけでも奇怪だが、最終的に起こる展開は完全にバカミス。
「確定囚アラン・イシダの真実」遂に明かされるアラン・イシダの両親殺害に関する真実。今まで大人しくしていた作者がバカミス作家の本性をむき出しにして好き放題に暴れまくる展開。死刑執行で明かされるアレには笑うしかない。

No.8 6点 take5
(2018/10/14 21:14登録)
異国情緒を満喫できる不思議な作品。
一話ずつの情景がよく描かれています。
最後はちょっと力業でしょうか。

No.7 7点 メルカトル
(2018/09/09 21:39登録)
死刑執行前夜に密室で殺された囚人、満月の夜を選んで脱獄を決行した囚人、自ら埋めた死体を掘り返して解体する囚人―世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄で次々に起きる不可思議な犯罪。外界から隔絶された監獄内の事件を、老囚シュルツと助手の青年アランが解き明かす。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する渾身の連作長編。第16回本格ミステリ大賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

登場人物が多国籍であり、どことなく異国情緒を漂わせる本作はしかし、死刑囚ばかりが収容された監獄が舞台となっています。この閉ざされた異空間で様々な事件が起こります。その謎はとても魅力的なものばかりで興味が尽きませんが、トリックや殺害方法等にはいささか無理があるように思います。現実的にとても不可能であったり、細かい瑕疵がいくつか見られます。ですが、犯罪心理的或いは整合性という点でなるほどと思わせるだけの説得力は有しています。

どれも甲乙つけがたい佳作が並んでいますが、やはり最終話は掉尾を飾るに相応しい、読み応えのある納得の出来に仕上がっているように思います。途中から何となく先が読めてきますが、あの幕切れの衝撃は思わず心の中で叫ばずにはいられませんね。そんなバカな!と。

No.6 7点 名探偵ジャパン
(2018/03/10 19:40登録)
他の方も書かれているように、最終話の破壊力が全てでしょう。ラストの落ちには、「そっちかい!」と読んだ全員が突っ込んでしまったのではないでしょうか。せっかくいい話にまとまりかけてたのに(笑)
そこに至るまでの数話は、無理やり捻りだしたという力業のトリックが目立ったような気がしますが、あの最終話は、それまでの積み重ねがあるからこそ感動的(?)なわけで、どうしてもそこに至るまで、いくつかの事件の積み重ねが必要で、作者も苦労したのではないでしょうか。
勝手な印象ですが、アニメ化したら映えるような気がします。(1~5話までを二回に分けて、最終話に三話使って、ちょうど13話の1クールです)

No.5 5点 makomako
(2018/01/13 20:11登録)
 5点としたのは一番最後の確定囚アランイケダの真実がよかったからで、私の採点はこれがなかったらさらに低い点数となったと思います。
 皆さんが評価されている魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室は残念ながら絶対成り立ちません。発想としては面白いのですが、この方面の仕事をしている私にとって現実にはこれはあり得ないことがわかってしまっているので、がっくりです。
 こんなことが成り立つとよかったのですがね。
 2番目のチェンウェイツのお話もまずむつかしそうですね。これ程の人望があって国家からにらまれるほどの人物なら、こういったことにはなりそうもないように思います。
 後の話はぼちぼちですが、最後のアランイケダはどんでん返しにびっくり。
 鳥飼氏もなかなか人が悪いことがわかりました。

No.4 7点 E-BANKER
(2017/08/27 19:37登録)
~世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄でつぎつぎに起こる不可思議な犯罪。外界から隔絶された監獄内の事件を、老囚シュルツと助手の青年アランが解き明かす。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する渾身の連作集~
ということで、第十六回本格ミステリ大賞の受賞作。

①「魔王シャヴォ・ドルヤマンの密室」=“なぜ囚人は死刑執行前夜に独房で殺されたのか”がメインテーマとなる第一編。どうしても「密室」という単語が気にかかるが(確かに密室トリックもなかなか秀逸)、やはりホワイ・ダニットが主。(巻末解説によると、法月綸太郎氏の名作「死刑囚パズル」が本作執筆の強い動機になっているとのこと・・・なる程)
②「英雄チェイン・ウェイツの失踪」=“なぜ囚人は人目につく満月の夜を選んで脱獄したか”がメインテーマ。まさに「逆説」ということで、満月だからこそ脱獄した・・・というのが真相となる。ではなぜ? 革バンドの使い方は若干疑問符だが・・・
③「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」=“なぜ監察官は退官前に死ななければならなかったのか”がテーマとなる。その日に退官を迎える監察官をなぜ殺したか?という謎なのだが、真相はロジックとしては分かるけど、現実的にそんな理由で?こんな場所で?という無理矢理感は残った。
④「墓守ラクバ・ギャルポの誉れ」=“なぜ墓守は埋めた死体を自ら掘り返して解体したのか”・・・って書くと、相当強烈な謎のように感じる第四編。「○○」という一言で片付けられているので、どうしても強引な謎解きに見えてしまう。ただし、本作の特異な世界観とは絶妙にマッチしている。
⑤「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」=“なぜ女囚は男が誰もいない女子刑務所で身籠ったのか”-というわけで、まぁ普通に考えれば、体外受精とか人工受精したんだろ、って解法になるよな・・・って思いながら読み進めていたところ、思いもよらぬ展開に! ここから連作集はジェットコースターのように奈落の底へ・・・
⑥「確定囚アラン・イシダの真実」=“ぼくを終末監獄へ追い込んだ犯人は誰か”、ということで裏の構図がついに明らかとなる最終編。本作の語り手となっていたアラン・イシダには大いなる謎があった! けど、構図自体は予想がついたという読者が多そうな気がする。ラストは逆説的というか、皮肉な結末を迎えることに。

以上6編。
何ていうか独特の世界観。
「監獄」という究極ともいえるCCを舞台に、無国籍感漂う登場人物たちの多くは死刑囚という特殊設定。
この世界に慣れるまでにまずは時間を要してしまった。
チェスタトンを範にとった逆説的&捻りの効いた真相が各編ともに仕掛けられていて、本格ファンなら満足感を得られるのではないか?
連作短篇集としても、上質な出来だと感じた。
けど、合わない人は合わないかもね・・・

No.3 7点 HORNET
(2016/02/27 18:05登録)
「魔王シャヴォ・ドルマヤンの密室」
一短編として標準以上の出来。この一話目で、本物語の特殊な設定にも目が慣れる。凶器の在りかについてのくだりなど、秀逸。
「英雄チェン・ウェイツの失踪」
 予想はできるのだが、そのうえでやはりオチがよい。そうだろうとは思ったのだが。
「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」
 この話は”動機”が奥深くて面白い。禿頭にしていたことの説明も秀逸な仕掛けだと感じた。
「墓守ラクパ・ギャルポの誉れ」
 思い出せないが、何かの作品で似たような設定の話を読んだ気が…
「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
 非常に面白かった。ラストの結びにも関係してくるのが、連絡短編集の構成としてもうまい。
「確定囚アラン・イシダの真実」
 この話の、さらにラストが衝撃。いい気持にさせといて・・・やるなぁ。

No.2 6点 まさむね
(2016/01/31 19:42登録)
 国家戦略として、世界各国から死刑囚を引き取り、処刑を行うジャリーミスタン首長国。その終末監獄がこの連作短編の舞台。実母と義父を殺害したとして収監されたアラン青年が助手となり、監獄内で一目置かれる探偵役シュルツ老人とともに、監獄での事件を解決していく…というストーリー。
 収録されている6短編のうちの最初の5つは、なかなか魅力的な謎ではあるのですが、結構わかり易いモノもあったりして、標準的といったところでしょうか。
 ポイントは最終話でして、連作短編としての味を堪能できます。それなりに振り回された挙句に、あのラスト。いやはや、そう来ましたか。

No.1 7点 kanamori
(2015/01/24 10:01登録)
親殺しの罪で死刑囚として監獄に収容された青年アランは、獄中で牢名主と呼ばれる老人シュルツと出会う。シュルツ老は明晰な頭脳で次々と獄中で発生した怪事件の謎を解いていくが---------。

世界中の死刑囚を集めて収監する砂漠の中の終末監獄を舞台にした本格ミステリの連作短編集。
作者の「〇〇的」シリーズでは、チェスタトンやカーの作品名をもじった副題を付けていましたが、本書はタイトルがボルヘス「死とコンパス」のもじり。また獄中の囚人が名探偵という設定は「ドン・イシドロ・パロディ」にインスパイアされたもののようにも思われます。
さて肝心の中身のほうですが、第5話までは、死刑執行前夜に密室状況の独房で殺される死刑囚の謎や、闇夜ではなく明るい満月の夜に脱獄した中国人思想犯、一旦埋めた死体を掘り起こし損壊する墓守、男子禁制の女子監獄棟で妊娠した女囚マリアなど、不可能事象のハウダニットとともに、奇想と逆説が連発されるホワイダニットの妙が楽しめます。
なかには手掛かりや伏線の張り方が丁寧すぎて、途中で真相が見えてしまうものもありますが、編中の個人的ベストを選ぶとなると、動機の特異性で墓守の不可解な行動の謎を扱った”第4話”を推します。
しかしながら、なんといっても問題作はアラン青年の過去の親殺し事件を掘り起こす”最終話”でしょう。真相の一部は予想がついたが、最後は何かトンデモナイ方向に行ってしまった感がw

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