メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1836件 |
No.436 | 6点 | 鬼の探偵小説 田中啓文 |
(2014/03/06 22:18登録) 再読です。 ミステリの側面と、警察小説の側面と、伝奇小説の側面がいい塩梅に合成された連作短編集。乱暴に言ってしまえば、京極堂のいない「百鬼夜行シリーズ」的な。当然異論もあろうが、これはあくまで総合的に見た印象からの直観的感想である。 しかし、『探偵小説』はちょっと違うんじゃないかとは思う。いい意味で昔懐かしい探偵小説を期待される向きには、期待外れとなる可能性が高いだろう。ただ、個人的にはこの作風は非常に気に入っている。誰が何と言おうと、それは私の嗜好の問題だから仕方ないのである。 奇抜な死体装飾や不可思議な現象の数々に加えて、アメリカ帰りのエリートと冴えない主人公の、刑事同士の対決も見物だ。 田中氏得意のダジャレもほぼ封印して、気合の入った作品集に仕上がっていると思う。本当ならもう少し加点したいところだが、一般受けしそうにはないので、この点数に留めた。 |
No.435 | 5点 | 鬼頭家の惨劇 折原一 |
(2014/03/04 22:15登録) 再読です。 ミステリとしては非常に弱い、ジャンル的にはサスペンスだろうか。でも、それなりに楽しめた。なんだか似たような作品があったような気もするが、気のせいなのか。 オチはどこにでも転がっている、使い古されたパターンだが、見抜けなかった。再読なのにね。やっぱり、読み直してみると分かるが、10年も前の作品だと、すっかり忘れている作品もあれば、ところどころ憶えているのもあったりする。その時の精神状態や、読んだ時の状況がかなり影響してくるものだと思うね。 本作は、結局何が書きたかったのかよく分からないが、取り敢えず氏独自の仄暗さや、シチュエーションを楽しめばいいのではなかろうか。 前に書かれている諸氏の評価が低いのは、折原という作家に対する期待の高さの表れなのだと解釈したい。 |
No.434 | 4点 | 青い館の崩壊 ブルー・ローズ殺人事件 倉阪鬼一郎 |
(2014/03/03 22:01登録) 再読です。 主人公はゴーストハンターと名乗る吸血鬼。彼はあることから手に入れた自費出版らしき小説のタイトルや作家名などから、作者が目の前のブルー・ローズというマンションの管理人だと目星を付ける。そして、オペラグラスで観察を始めたところ、怪しげな挙動を目にし、さらには自らを名探偵と名乗るほどの推理力で、マンションで何が起きているのかを推理し始める、というストーリー。 執筆に一年費やしたと言っているが、この程度、森博嗣なら一ヵ月足らずで書き上げてしまうだろう。勿論、森博嗣はこんな下手なものは書かないけれど。 手掛かりはその小説の暗号だけで、さしたる伏線もないまま、ゴーストハンターは勝手に推理し、吸血鬼の仲間と共にマンションに乗り込む。まさに、作者のご都合主義全開で、読者は置いてけぼりに。と言うか、それ以前にミステリとしての体裁も保っていないので、ミステリとしてはもっと点数は低くてもいい。 そんな箸にも棒にもかからないような訳のわからん小説を、二度も読んだ私は、まるでクズのような人間である。いや、人間のクズと言ったほうがいいだろうか。 |
No.433 | 5点 | 『クロック城』殺人事件 北山猛邦 |
(2014/03/01 23:25登録) 再読です。 デビュー作だけあって、全体的に荒削りな印象を受けた。 設定が世紀末で人類が滅亡するという、例の予言のもとになされているので、警察組織は形骸化しており、その代わりということなのか、SEEMとか11人委員会とかが登場してきているが、意味が分からない。別にそれらの組織など絡ませる必然性は全くなかったと思う。がしかし、その中の各中心人物が妙に存在感を示しているので、何とも言いようがないが。 それはさておき、ストーリー的にはそれ程見るべき点はなさそうである。袋綴じされたメイントリックは、まあそれなりによく考えられているとは思うが、例のアニメのほうが先らしいので、それをヒントにしているとしたら、ちょっと噴飯ものではある。 そのトリック解明以降は、展開が二転三転し、それまでやや煩雑だった流れが突如として引き締まったものになり、面白さも倍増する感じがする。 首を切断した理由も納得というか、前代未聞であり、これには感心した。だが、殺害の動機はあまり納得のできないものとなっている。北山氏は大抵そんなものなので、今更どうこう言う必要もないけれど、そこさえ首肯できれば評価も少しは上がったとは思う。 まあ、こんなもんだろうね、メフィスト賞受賞作とは言っても。 |
No.432 | 6点 | 絶叫城殺人事件 有栖川有栖 |
(2014/02/27 22:24登録) 再読です。 どの短編もある程度の水準をクリアしており、良質の短編集と言える。平均して面白いので、あとは読み手の好み次第となろう。 個人的には、『黒鳥亭殺人事件』>『絶叫城殺人事件』>『月宮殿殺人事件』の順で評価したい。だがあくまで先にも述べたように好みの問題なので、他の作品が劣っているとは思わない。 土地勘のある大阪や京都が舞台となっている作品が多いので、その点私にとっては情景が浮かびやすかったし、親近感を覚えた。これも好感度がアップする要因となっている。 表題作はこれから読む方にとっては、おそらく想像していたものとは全く違った印象を受けることと思われる。だからと言って、それが悪い方向に向いてしまっているとは言い難い。短編にしては相当構想から練り上げられている感触である。 他の作品にも言えることだが、全体的にプロット、トリック、ストーリーとも充実した一冊となっていると思う。 |
No.431 | 3点 | 迷宮 Labyrinth 倉阪鬼一郎 |
(2014/02/25 22:14登録) 再読です。 言いたくはないが、よく編集者がOKを出したなと思う。これは世に出してはいけないレベルの作品。帯にも作者への賛辞は書かれているが、作品に対しての推奨の言がなかったのも頷ける。 内容としては、ミステリ、ホラー、幻想小説の要素を盛り込んだだけの「がらくた」。探偵も推理も捜査もあったもんじゃない。 一応、不可能犯罪を謳われているが、その真相は一体どうなったのだろうか。犯人だけは分かったが、事件の顛末は一向に明かされないと思ったら、そのまま終わってしまった。この小説は一体何が言いたかったのかさっぱり分からない。 もし最後の一行がなかったら2点だったな。本来であれば、1点でもおかしくないが、私は温厚なので(笑)3点付けさせていただいた。 |
No.430 | 6点 | 芙路魅 積木鏡介 |
(2014/02/24 22:23登録) 再読です。 密室本だけど、最早密室は関係なくなってしまっている。ミステリと言うよりも、ホラー色のほうが濃い。ホラー・サスペンスなのだろうか。 時系列がどうにもスッキリしないので、多少理解しづらい面はあるものの、徐々に全貌を現してくる一連の事件や因果関係は、暗くてじめじめした感触だが、読者を引っ張り込む力を持っている。総じて、何とも言いようのない魅力を持った作品に仕上がっているのではないかと思う。 短いページ数の割には、中身がギュッと詰まってそこかしこに読みどころが散見され、凡百のホラー小説とはまた違った面白さを味わえる、なかなかの怪作ではないだろうか。 ただ、もう少しまとまりが欲しかった気はする。二度読みすればもっとその世界観に浸れるのは間違いないはずだが。 |
No.429 | 4点 | 十字屋敷のピエロ 東野圭吾 |
(2014/02/23 22:14登録) 再読です。 正直、どこが面白いのか分からない作品だった。どこをどう叩いても面白いとか楽しいとかの要素が見当たらない。感情移入する余地はないし、登場人物がまるで人形のように個性が感じられない。探偵役の人形師も、只のいい人って感じで、もっとこうアクの強さを押し出してもいいのにと思ってしまう。それが物語のアクセントになり得るのなら、当然個性的な探偵を用意すべきだろう。 トリックも使い古されたもので、全く魅力を感じないし、ピエロの視点も大して功を奏してはいないと私は思う。その上、ストーリーは平板で起伏に欠けるきらいがある。はっきり言えば読んでいて退屈なんだよね。 この作品をありがたがって面白いと言える人は、とても幸せな読者だと思う。決して皮肉ではなく本心である。このような作品にもどこかしら美点を見出して、高評価を与えることのできる優秀な読者に私も出来ればなりたかったが、自分に正直になるのなら、やはり点数はこんなものじゃないかと思うね。 結論としては、どこにも特筆すべき点がない平凡な作品ということ。 |
No.428 | 5点 | 雪密室 法月綸太郎 |
(2014/02/21 22:25登録) 再読です。 確かに法月綸太郎シリーズの中では、特に本格志向の高い作品と言える。まあしかし、ストーリーといい、プロットといい、どうにも突出したものが見当たらない。それに加え、既視感のあるトリックは単純明快さはいいけれど、あっと驚くような要素がない。 ただ、本作では法月親子、特に法月警視ががんばっているのは読んでいて楽しい。その他の登場人物は特に目立った者はいないが、要所で幼女の香織が意外にも重要な役割を果たしているのは、とてもいいアイディアというか、ナイスな人選だったと思う。 しかし、総体的には至って普通の出来との印象が強く、凡作とまでは言わないが、特記すべき事柄があまりない。 シリーズ第一作ということで、他に見られるような、綸太郎の苦悩も垣間見えないし、気楽に楽しめばいい作品じゃないかな。 |
No.427 | 7点 | 努力しないで作家になる方法 鯨統一郎 |
(2014/02/20 22:28登録) ミステリ作家、鯨統一郎がその名を伊留香総一郎と変えて書き上げた、事実をもとにしたフィクションであり、思いの丈をすべてぶつけたような自伝的作品。 幼少の頃から、学生時代、会社勤めの時代を経て、プロの作家デビューにいたるまでの涙ぐましいまでの苦労とささやかな幸せ、妻との愛、生まれたばかりの子供に対する愛情などが赤裸々に描かれていて、その人となりが十分に伝わってくる秀作に仕上がっている。 作中には、子供の頃に見た映画やアニメ、小学校時代から読み始めた、純文学、SF、ファンタジー、ミステリ、時代小説にいたるまでの様々なジャンルの小説のタイトルや作家の名前が実名で登場する。他にもフォークシンガーや海外のポップ歌手、果ては野球選手まで出てくる。 これだけでは、さして食指は動かないと思っている方々に言いたいのは、本作は非常に面白い小説だということである。それはもう、時間が許せば一気読みしてしまいたくなるような面白さと言ったらいいのだろうか。 中には、私の涙腺を直撃する、涙なくしては読めないシーンもあり、また、もやし炒めだけという貧しい食卓を家族で囲むシーンなどもあったりして、読んでいるこちらまで切羽詰まった気持ちになるほど、波乱万丈の人生を送る主人公に、エールを送りたくなってしまう。 果たして伊留香総一郎はデビューできるのか・・・ 鯨統一郎を何冊も読んでいる人は勿論だが、むしろそんな作家知らないという人にこそ読んでもらいたい逸品である。 |
No.426 | 5点 | となり町戦争 三崎亜記 |
(2014/02/19 22:23登録) ある日突然、僕は郵便受けに入れられた町の広報で、となり町との戦争が始まることを知った。曰く「となり町との戦争のお知らせ」、開戦日は9月1日、終戦予定日は3月31日とある。 そして何日か後に、町役場総務課となり町戦争係の香西という女性から電話で、僕を戦時特別偵察業務従事者に任命する旨を知らされる。僕は香西さんと協力し、与えられた任務を全うしようとするが・・・というなんだかよく分からないストーリーである。 正直、もっとアクションシーンがふんだんに盛り込まれているファンタジー小説を想像していたのだが、その意味では肩透かしを食らった。全編を通して、戦争の生々しい惨状を描写するでもなく、なんとなく戦争を実感できないまま物語は進行していく。 むしろ、僕と香西さんの交流が主に描かれており、戦争とは一体どういうものなのかという問いかけは二次的な副題となっているようだ。 そんな中でも、ユニークな人物が何人か登場し、ユーモアも忘れてはいない。しかし、町内での通り魔殺人や、僕の会社での出来事など、色々放り込みすぎて幾分まとまりがない感じを受ける。 終始なぜ隣の町と戦争を始めなければならないのか、という疑問に苛まれての読書になるのは間違いないが、これは文庫化に際して加筆したという、別章で多少は読者に説明されている。 だが、どうにもスッキリしない読後感であるのは否定できない。 |
No.425 | 6点 | バビロン空中庭園の殺人 小森健太朗 |
(2014/02/17 22:28登録) 再読です。 内容は完全に忘れていて、全然期待していなかったのだが、想像以上に楽しめた。 古代バビロニアの空中庭園で起こった(実際の事件ではなく作者の創作)、セミラミス王女の消失の謎と、それを研究し論文として発表しようとしていた矢先に墜落死した大学教授の事件を追う、女探偵星野君江の活躍を描いた佳作。 主人公は私こと小森(高沢のり子)で、新連載で取り扱う上記の王女消失事件を巡って、四苦八苦する姿をいかにも作家らしい視点から描写しており、好感の持てるなかなかの作品に仕上がっていると思う。 大学内で起こったのは、屋上からの墜落死だが、いるはずの犯人の姿が消えてしまう、こちらもある種の人間消失トリックを扱っている。このトリックが結構秀逸で、読者の盲点を突く、あっと驚くものとなっている。 一方、王女の空中庭園からの消失は、オマケ程度で、はっきり言って子供だましのようなものである。これがもう少し納得できるトリックであればもっと高得点だったのだが、その点だけは残念だった。 |
No.424 | 4点 | 空中密室40メートルの謎 浅川純 |
(2014/02/16 22:25登録) 再読です。 文庫本、改題名『浮かぶ密室』にて読了。 地上40メートル、クラブハウスを土台にして聳え立つゴルフ場のシンボル、帆船タワー。その屋上で烏に食い荒らされた白骨死体が発見される。虚空の密室とも言える謎に、TV局の朝の情報番組で結成された元刑事達による特捜班の面々が挑むというストーリー。 物語自体は単純なもので、犯人も途中から割れてしまうので、興味はいかにして密室状態の屋上に死体を移動できたのかという点と、何故犯人はそんな無謀な行動に出たのかという点に絞られる。 トリックは複雑で、一度読んだだけではとても理解不能だが、死体移動の理由は、犯人にとっては切実なのだろうと想像できる。 まあしかし、いかにも冗長で面白味が感じられない。一生懸命書いたのだろうが、はっきり言ってミステリの読者を相手にするにはまだまだと思われる。 どうでもいいが、電話の送受器を上げたり下ろしたりの描写が多すぎて鼻につく。大体送受器ってなんだろう、普通に受話器ではいけないのかね。 |
No.423 | 8点 | 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? 詠坂雄二 |
(2014/02/15 23:19登録) 待ちに待った文庫化、もうね、読めただけで幸せ。内容なんかどうでもいいのよ。 という訳にもいかないので、少しだけ感想を。 取り敢えず、佐藤誠というキャラが茫洋としていてつかみどころがない、これが逆にこの作品を異色で特別な物足らしめている気がする。彼を追い詰めた探偵がほんのわずかしか出てこないのが残念だが、全編を通してドキュメンタリータッチで緊迫感がある。文体は相変わらずクセがあって読みやすいとは言えないが、それもまたこの作品の味わいなのだろう。 主題はとにかくサブタイトルにあるように「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」に尽きる。一応の真相には賛否が分かれるかもしれないが、これぞ究極のホワイダニットと言っても過言ではないと思う。 さあ、みんな書店へ急ごう。そして本書をゲットするのだ。 |
No.422 | 5点 | 僕の殺人 太田忠司 |
(2014/02/13 22:22登録) 再読です。 上質の食材を用意したのに、調理が下手なため台無しになったような作品、だと思う。 第一に、記述者が記憶喪失で正体不明のため、物語全体に紗がかかったようにどことなく漠然とした印象を受ける。さらに、メリハリがないので、情景が浮かんでこないし、今一つ頭に入ってこない。つまりインパクトに欠けるわけである。 太田氏の作品は10冊ほど読んでいるが、決して文章が下手なわけではないのに、本作ではその手腕が発揮されているとは言い難い。と言うよりむしろ、わざと下手に書いているとさえ感じられる。この作品に高評価を与えている諸氏には申し訳ないが、私にはお世辞にも面白いとは思えなかった。 主人公の僕は、被害者、加害者、証人、探偵、トリック、記述者の6役をこなしている?が、それはあくまで「ある意味」ではという注釈つきであり、未読の方の期待に応えるようなアクロバティックなものではない。 二転三転するラストの急展開は、多少読み応えがあるものの、私にとっては全体的にイマイチな印象だった。点数は甘めにして5点がせいぜいである。 |
No.421 | 4点 | 京極夏彦の謎 事典・ガイド |
(2014/02/12 22:41登録) 再読です。 中禅寺秋彦 「覚醒者の憂鬱」、関口巽 「夢幻の淵を彷徨う」、木場修太郎 「美学と現実の背理」、榎木津礼次郎(まま) 「哄笑する神」 といった百鬼夜行シリーズの主なキャストは各章に分けて分析されている。「」内はそれぞれのキャラのキャッチコピー的なものらしい。本書は『姑獲鳥の夏』から『絡新婦の理』までの各登場人物を解析することにより、京極夏彦という作家のあり様を探ろうという目論見のもとに著されたガイドブックのようである。 だが、内容は各作品からそれぞれの特徴が描写されている部分を抜粋し、それを元にごく表層的な解析を試みているに過ぎない。だから、京極作品の本質に迫ろうとかの、いわゆる論説とは事を異にしているので注意が必要である。 例えば、中禅寺秋彦の場合、猫が欠伸をしただけで目を覚ます眠りの浅い男、とか、「京極堂」の屋号は妻の千鶴子の実家が営む和菓子屋から拝借した、など、要するにファンなら誰もが知っている豆知識の復習のようなものなのだ。 京極作品を広く浅く知りたい、もう一度その京極ワールドに浸りたいという人向けのガイドである。ただし、目から鱗が落ちるごとき謎解きは出てこないので、その辺りはご承知置きいただきたい。 蛇足だが冒頭に既述したように、榎木津の名前を「礼次郎」と一貫して誤認しているようなので、せめて出版社で訂正すべきだったと思う。まあその程度の書籍だということではあるが。 |
No.420 | 6点 | 恍惚病棟 山田正紀 |
(2014/02/11 22:23登録) 再読です。 舞台は聖テレサ医大病院精神神経科老人病棟。主人公の女子大生美穂は担当の7人の痴呆性老人、今で言う認知症の老人たちにおもちゃの電話を与え、テレフォンクラブと呼んで症状の軽減を図っていた。 ところが、その患者たちが次々と不審な事故死を遂げる。美穂はそれらの事故を研修医の新谷らと調査に乗り出すのだが・・・ といったストーリーで、本作は社会派の一面を覗かせながらも、しっかりとした本格ミステリとしての精神を貫いた、異色の意欲作である。 冒頭からラストまで、様々な大技小技の仕掛けが施されており、最後の最後まで息を抜けない。およそ世間での知名度は無きに等しいが、これは山田正紀の隠れた代表作なのかもしれない。 まだ看護師が看護婦と呼ばれていた時代の作品なので、若干古さを感じさせるが、今読んでも新鮮さは変わらないと素直に思った。 |
No.419 | 4点 | まほろ市の殺人 冬 有栖川有栖 |
(2014/02/10 22:31登録) 再読です。 有栖川有栖ともあろう者がこの体たらくではねえ、何とかならなかったものでしょうか。まあ途中までは普通の出来ですよ。季節が冬だけに暗くじめじめした感触が残るのは仕方ないだろうし、ストーリーがこんなんだから、ある程度サスペンスは効いている。その辺りに関しては文句はないけれど、やはり問題は死んだはずの双子の兄がなぜか生き返ったかのように自分の目の前に現れ、しかも他の人間にはなぜか見えないという謎に対しての真相。これはさすがにいただけない。 色々制約等もあったのだとは思うが、この解決編はある意味禁じ手とも言えそうなもので、本格ミステリ的な謎解きとしてはかなり程度の低いものだろう。それはないでしょ?って感じかな。 まあね、中編だから許されるかもしれないが、これが大長編だったりしたら、それこそ大顰蹙だったと思うよ。 それと、本作品は本格ではないんじゃないかねえ、サスペンスでしょう。 |
No.418 | 5点 | まほろ市の殺人 夏 我孫子武丸 |
(2014/02/09 22:25登録) 再読です。 なんだか全体的にトーンが暗いねえ。 私は恋愛小説も嫌いではないし、こういった雰囲気の作品も悪いとは思わないが、やや私には合わなかった気がする。 出だしは折原一の世界を彷彿とさせるものがあり、良い感じでスタートするも、最後までそのままうまくゴールできなかったきらいがあるのが残念である。 このトリックというか仕掛けは、多くの読者が驚愕の声を上げたのかもしれないが、私にとってはなるほど程度にしか感じられなかったし、それほど驚かなかった。まあよく考えられてはいるし、決して記述に矛盾点はないので、フェアプレイの精神は大いに買えるとは思うけどね。 だけど、こんなに多くの人が高得点を与えるような作品ではないと私は考えている。それはやはり私がミステリファンとして、色んな意味でマイノリティに属しているせいなのかもしれない。 |
No.417 | 6点 | まほろ市の殺人 春 倉知淳 |
(2014/02/08 23:24登録) 再読です。 つくづく倉知氏は読み手に優しいミステリを書く人だなと思う。『壺中の天国』のような実験的な作品は例外として、ほとんどが極悪人と呼べるような人間は出てこないし、軽妙なタッチで普段あまりミステリを読まないような人でも、割合すんなりと読めてしまう作品ばかりだ。しかも、登場人物の造形もしっかりしているし、どのキャラも憎めないところがあって好感が持てる。 さて本作であるが、おそらく途中までは魅力的な謎が提示されていて、読者は物語に引き込まれることは間違いないだろう。問題は解決編。この脱力感漂う暫定的な真相は多くの人が不満の声を上げることだろう。だが私は、たとえご都合主義とか偶然が過ぎると言われようが、この結末は好きである。作者が自ら書いているような、幻想的で悪夢のような光景は豪く映像的で、強烈な印象を与えてくれる。 ただ一つの疑問を除いては、個人的にとても気に入っている。だがやはり本格ミステリとして、出来る限り公平を期するためこの点数とした。 |