メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1836件 |
No.556 | 5点 | 閃光 永瀬隼介 |
(2015/01/18 22:17登録) 硬質な文章で描かれた社会派推理、或いは警察小説か。 主人公の二人の凸凹刑事コンビ、三億円事件の犯人たちの現在、そして過去、謎のホームレス老人。これらが入り乱れてストーリーは展開し、やがて一点に収束していく。主要登場人物だけでも十人を超え、目まぐるしく場面が変わるので、物語を追いかけるのに集中力を要する。コンディション不良もあり、正直疲れた。よって、本来ならこれは力作だとか、素晴らしいプロットだとか思わなければいけないところだろうが、どうも今一つピンと来なかったのは否めない。 謎に包まれた犯人たちの行動は、実際の容疑者のそれをなぞったもののようだし、要するに本書はそれを軸に組み立てられた、半ノンフィクション小説と言っても良いと思う。作者は、目の前の三億円事件と言う材料を上手く料理したに過ぎず、さして称賛されるべき作品とは思えない。まあ、私の趣味ではなかっただけの話で、こういった社会性の強い、ドキュメンタリータッチの小説が好みの方には、これ以上ない逸材となっているのかもしれないが。 |
No.555 | 6点 | いつか、虹の向こうへ 伊岡瞬 |
(2015/01/12 22:16登録) 第25回横溝正史賞受賞作。どことなくロマンチックなタイトルに惹かれて購入。ハードボイルドだが、乾いた描写ばかりでもなく、人情味溢れた繊細な人物描写も随所にみられる。 主人公の尾木はアルコール依存症の中年警備員。元刑事でもある。彼は擬似家族のごとく、居候を三人も抱えて共同生活をしている。そこに新たな同居人となる若い女性、早希を新たに加えるが、そこから事件が始まり、彼はとんでもない災厄に巻き込まれることに・・・。 尾木は何度も殴る蹴るの暴力を受け、満身創痍となるまで痛めつけられるし、同居人も二人までがいたぶられる辺りは、さすがにハードボイルドの香りがする。しかし陰湿な雰囲気はなく、あくまで乾いた描写が多いので、読んでいて疲れるようなことはない。 途中挿入される、虹の種という絵本の話がとても印象深い。タイトルもここからきているので、意外と重要な挿話なのではないかと個人的に感じている。また、各人物の過去を描いたパートが生き生きしており、逆に現在進行形の物語がややつまらないのは残念だ。 それにしても本作が横溝正史賞とは、やや首を傾げたくなる。ほかに候補がなかったのだろうが、作風としてはあまり相応しくないのではないかと思う。まあ出来としてはそれなりな気はするが、なんといってもデビュー作なので、作品の完成度という点ではあまり高くない、もっとプロットなどに工夫の余地があったと思う。 |
No.554 | 7点 | 満願 米澤穂信 |
(2015/01/10 22:11登録) ミステリと文学の境界線を行ったり来たりしている風合い。捉え方によって、或いは読者によってもそのどちらをより強く感じるかは変わってくるだろう。その意味でも、私は本作を連城三紀彦を彷彿とさせる作風だと強く感じた。無論、個人的な感想で、みなさんが実際どのように受け止めるかは想像の域を出ないが。 本作、敢えて言えば70点台の短編がずらりと並んでいるように思う。だが、それぞれが佳作と呼べるような作品ばかりで、じっくりと味わいながら噛みしめるように読むべきではないだろうか。それでも、各ランキングの1位を独占しているのはいかがかと私は思う。確かにベスト10入りするのは間違いではないが、これを上回る作品が年間を通して出てこなかったというのは淋しい限りだ。 それぞれ横一線の印象を受けるが、好みとしては『関守』が一番かな。『夜警』も良かった。まあしかし、これだけ平均して及第点を超えている作品集も珍しいだろう。それだけは大したものだと思う。 |
No.553 | 6点 | 気分は名探偵 犯人当てアンソロジー アンソロジー(出版社編) |
(2015/01/06 22:39登録) 再読です。 表紙の猫がかわいいね。黒猫がカメラ目線でじっとこちらを見ているよね。 さて、この犯人当てアンソロジーだが、なかなか良質の短編が並んでいる。いずれ劣らぬパズラーが目白押しと言いたいところだが、出来不出来の差は見られるのはやむを得ないだろう。と言うか、ここまで来ると好みの問題なのかもしれない。個人的には、貫井徳郎の『蝶番の問題』が圧倒的に面白かった。投稿による正解率がわずか1%だというのだから、その難解さは群を抜いている。しかし、その割には実に明快で意外すぎる真相が光る逸品となっている。 他は安孫子武丸、法月綸太郎あたりが良かったかな。 巻末の筆者による座談会も興味深く読ませてもらった。やはり、こうした誌上掲載のキッチリした締め切りの犯人当てという企画ものには、様々な苦労が付きまとうものだということがよく分かる。 それにしても、当時も、そして今でもこのメンバーは豪華すぎる。これだけの執筆陣が揃っているのだから、期待しないほうがどうかしている。多くの読者にとっては、その期待を裏切らないだけのポテンシャルを持った作品集と言えるかもしれない。 |
No.552 | 6点 | 切り裂きジャックの告白 中山七里 |
(2015/01/04 22:52登録) 事前に予想していたが、本家切り裂きジャックとはあまり深い関わりはない。序盤で明らかになるが、それよりも臓器移植の問題に真正面から取り組んでいるところから、社会派ミステリとも取れるような作風である。私見ではどちらかと言うと本格寄りだと思うが、いろいろ考えさせられる辺りは、単なる本格ミステリではない。 主役は犬養警部補だが、登場人物が多く、誰に感情移入するかは人それぞれだろう。私の場合は涼子の気持ちが最も心に響いてきた。自分の息子の各臓器が、レシピエントの体の一部としてその機能を果たしているというのは、ある意味息子が生きているとも解釈できるわけで、それがストーリーの一部分を支えてもいるし、エピローグで生きてくるのである。 また、犬養とコンビを組むのは『カエル男』の古手川で、彼は以前に比べてずいぶん成長しているように感じられる。ややぶっきらぼうな態度は相変わらずだが、刑事としての資質がうまい具合に開花しているのが、本作に花を添えていると思う。 まあとにかく、ミステリとしては勿論だが、臓器移植問題を考える上でも一読の価値があるだろう。 |
No.551 | 6点 | その女アレックス ピエール・ルメートル |
(2015/01/01 22:21登録) 正直、それほど傑作とは思えなかった。世間的には、というか世界標準的にはサスペンス+警察小説+イヤミスの合わせ技一本といったところだろう。確かにそれぞれのジャンルで秀でているものがあると思うが、衝撃度或は、サプライズ感という点ではやや物足りなかった。 しかしながら、アレックスや捜査班の面々は十分に個性的でよく描かれているし、意外な展開という意味ではなかなかの出来だと思う。また個人的には本筋とは全然関係ないが、班長カミーユの飼い猫ドゥドゥーシュが癒し系でいい感じである。 ストーリーには触れない。これから読む人に恨まれたくないからね。また、Amazonのレビューも読まないほうが身のためであろう。本書を十分に楽しむためには、予備知識はいらない。まっさらな状態で挑んでいただきたいと思う。 |
No.550 | 4点 | ゴーストハント1 旧校舎怪談 小野不由美 |
(2014/12/29 22:30登録) ある高校の旧校舎、これを取り壊そうとするたびに事故が起こる。それを良しとしない学校側はゴーストハンターと呼ばれる、超常現象などを科学的に解析する調査事務所の若き所長を招聘する。さらにそれだけでは飽き足らず、巫女、僧侶、霊媒、エクソシストら霊能力者を呼び寄せ、除霊を行い工事を進めようとする。そこに、自称霊感少女がからんで、ドタバタ劇を繰り広げるというストーリー。 語るのは主人公で、ひょんなことから所長の渋谷の助手を務める麻衣だが、口語体が頻出する一人称の文章が安っぽさを助長している。本来怪談なので、雰囲気を出すためにそれなりの堅い文体を用いるのが常套手段のはずだが、若年層をターゲットにしているためか、語り口調を崩しすぎではないか。 ほぼすべての超常現象は理論的に証明されるわけで、その意味ではミステリとも言える。ホラーとしてもミステリとしてもなかなか光るものはあるが、せっかっくの逸材がコメディタッチの書きっぷりで台無しである。Amazonでは支持されているようだが、もともとのファンのレビューがほとんどで、そのため平均点が高くなっているように思う。正直期待外れだった。 |
No.549 | 6点 | 郵便配達人 花木瞳子が盗み見る 二宮敦人 |
(2014/12/27 22:20登録) 二宮敦人の新たな代表作と言ってもいいだろう。かなりの力作なのだが、細かいところで疑問点が若干気になるのでこの点数にした。しかし、内容的には7点でもよかった。 引きこもりの男性が毎日自分宛に手紙を出す謎、三人の佐藤さんに同じ文面の意味不明の手紙が届く謎と、序盤から中盤にかけては日常の謎的な作品なのかと思わせるが、やがてこれらの二つの不可解な出来事が繋がってきて、とんでもない惨劇を引き起こす。最初はこれらの二つの謎が独立したものなのだと勘違いしていたが、有機的につながりを持ってくるストーリー展開はなかなかのお手並みである。 男っぽい郵便配達の花木瞳子と先輩の持丸の掛け合いは軽妙で、陰惨な事件を扱った本作を、陰気なものになりそうなのをうまく中和している。 さらに、過去のモノローグのエピソードが所々に挿入されているのが、ささやかな感動を呼び、後味の良さに一役買っている。 |
No.548 | 7点 | 出版禁止 長江俊和 |
(2014/12/24 22:25登録) 以前から気になっていた一冊。行きつけの二軒の書店双方に平積みされているのを横目で見ながら、なかなか踏ん切りがつかなかったが、ついに購読に至った。なんと言っても、そのいかがわしそうなタイトルに惹かれての読了だったが、面白かった。 読者を選ぶのかもしれないが、読んでいてとても引きつけられるものを感じた、その吸引力は本物と言ってもよいだろう。 ストーリーの本筋はいたってシンプルで、ルポライターの私こと若橋呉成(仮名)がある有名人男性とその不倫相手の心中事件に疑問を抱き、死にきれなかった不倫相手に取材を行っていく。それを原稿化しまとめ上げたものがルポルタージュとして丸ごと作品に取り込まれている。そのルポが本作の大部分を占めているのである。言わば作中作の形式を取っているわけだ。 前半はすんなり読める代わりに、それほどの盛り上がりはない。終盤に至って本編の真骨頂とも呼べるような、いかがわしく不気味な本性を現す。これ以上はこれから読もうとする方のために控えるが、読者によっては怖いとか気持ち悪いとかの感想を抱くことだろう。その辺りが許容できる人にとっては、至福のひと時を過ごせるのではないかと思う。 後味はよくないが、問題作なのは間違いないだろう。年間ベスト10入りしてもおかしくないような充実した内容の傑作だと、個人的には感じる。 |
No.547 | 5点 | 大正二十九年の乙女たち 牧野修 |
(2014/12/22 22:44登録) 時は大正二十九年、舞台は逢坂女子美術専門学校。逢坂は勿論大阪のことである。心斎橋、松虫など実際の地名がはっきりと描かれているにもかかわらず、なぜか大阪だけが逢坂となっている。いずれにしても、時も大正二十九年という架空の時代となっているので、逢坂でも違和感はないが。 主人公は専門学校に通う四人の女学生たちで、それぞれ個性と特徴を持った彼女たちのリアルな青春模様と、彼女たちを襲う猟奇事件を描いた時代青春ミステリである。 青春小説としてはまずまずの出来だとは思うし、牧野氏がこんな小説も書けるのだという意外な一面を見せた貴重な作品とも言える。一方ミステリとしては決して褒められた出来とは言えない。フーダニットとかトリックとかとは無縁のいかにも表層的な形ばかりのミステリだ。だから、猟奇事件もひっくるめての青春小説ととらえるのが正しいのかもしれない。そう考えれば、それなりに楽しめるのではないかと思う。 陽子が見つけて飼っている炭鉱馬のクルミが可愛らしく、時に重要な役割を果たしているのが、好ましい。偉丈夫の逸子は強すぎて、真式道の試合がいまいち盛り上がらないのが残念。 |
No.546 | 4点 | 楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史 牧野修 |
(2014/12/19 22:26登録) 若干の面白さと大部分のわけの分からなさに溢れた短編集。 様々なジャンルが入り混じったような作品が目立つが、暗めのファンタジーとSFが主体になっているだろうか。多少エログロも見られるが、さして気にはならない程度にとどめている。 個人的に牧野氏は嫌いではないが、これはコアなファン以外は受け付けないかもしれない。なんと言うか、独特の美学のようなものは肌で感じるが、それよりも意味不明さのほうが上回ってしまって、残念な感じに終わっている。おそらく私だけではなく、多くの一般的な読者にとっても同様な印象を受けるのではなかろうか。しかしながら、これが牧野氏本来の姿なのだろう。真っ当なホラーやSFも書ける人だが、ファンに言わせればそれでは〝らしさ”が出ないということなのだと思う。 |
No.545 | 5点 | 仮面病棟 知念実希人 |
(2014/12/16 22:30登録) 元精神病院である田所病院に、コンビニ強盗が傷ついた人質とともに押し入った。主人公である当直バイト医師の速水と田所医院長、そして看護師二人、人質の若い女性とピエロの仮面をかぶった強盗の、閉鎖状況での恐怖の一夜が始まる・・・。 帯に「怒涛のどんでん返し!一気読み注意!!」との謳い文句が堂々と載せられているが、これは過大広告というものだろう。どんでん返しを期待すると拍子抜けするので注意が必要。ただ、一気読みできるだけのリーダビリティは確かに備えていると思う。 細かい点に誤謬があるのが気になるところだが、まあそれほど傷にはなっていない。内容的にはそこそこ面白いが、あまり新味はなくあっと驚くような意外性もない。どう贔屓目に見てもまずまずとしか言えない。 勘のいい読者はどことなく違和感のある、芝居じみたやり取りの中にヒントを見出し、真相を看破することも十分可能と思われる。ただし、たとえ真相を見破ったとしても、大したカタルシスは得られない気がする。見破れなかった人もあまり騙された感は覚えないだろう。 |
No.544 | 6点 | 失はれる物語 乙一 |
(2014/12/14 22:34登録) なかなか乙一らしい作品が揃えられているなという印象だ。出来にばらつきはあるものの、平均すればそれなりに評価できると思う。 表題作は起伏とオチがないので、いまいち。ダークさは好きなタイプなんだが、もっと生々しさが欲しかった気がする。『しあわせは子猫のかたち』が最もミステリ色が濃く、個人的には頭一つ抜きん出ていた。繰り返し短編集に掲載されているのも納得の出来だ。次点は『マリアの指』で、これもミステリ的要素が強い作品だが、犯人を断定する決め手に欠けている。よくよく考えてみれば非常にドライな主人公だと思うが、これもまた乙一の持ち味なのだろうか。他についてはまずまずではあるが、ファンにとってはこれぞ粒揃いと言ってもよい作品が並んでいるのではないかという気がする。 乙一は本格ミステリを書こうと思えば書けるし、しかもかなり優れた作品をものにすることも十分可能なはずなので、出来ることならば短編集でも連作でもいいのでもっとミステリに挑戦してほしいと私は強く願っている。 |
No.543 | 6点 | 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 桜庭一樹 |
(2014/12/11 22:38登録) これはミステリというより文学やね。うん、ラノベっぽいけど、やっぱり文芸作品だと思う。 それにしても票が割れてるねえ、まあ確かに好き嫌いがはっきりしやすい作品かもしれない。ミステリ性を求める読者にはかなり物足りないだろうし、一方そうではなく青春小説と割り切っての評価が許容できる読者には、むしろ好感度は高いと考えられる。 冒頭、いきなり二人のヒロインのうちの一人の末路が詳らかにされるが、これはどうなんだろうか。ミステリ的流儀では「なし」だね。だから、作者は最初からミステリを書くつもりはなかったのだろう。よって私はこれを文学作品と判じることになるわけだ。 ひとつ気になったのは、中学で飼っているウサギが惨殺された理由が推測でしか書かれていないこと。これがはっきりしていればもう1点評価が上がったかもしれないのに。全体の流れを損なってはいないと思うが、どうにも犯人の心情が掴めないのは気持ち悪い。 しかし、そうした瑕疵を些細なものにする美点が本作には息づいている。それはそこはかとない抒情性であろう。全編を覆う美しい抒情を読み取れるかどうかによって、評価は分かれることになるはずだ。強烈な印象はないものの、相当な佳作であるのは間違いないと感じる。決して少年少女向けのジュブナイルではない。 |
No.542 | 7点 | 読み出したら止まらない!国内ミステリーマストリード100 事典・ガイド |
(2014/12/09 22:31登録) 書評家、千街晶之氏が選ぶ国内ミステリの必読書100冊。とは言え、いくつかの縛りを設けているため、各作家の代表作とは限らない、いわば裏ベストと言っても良いような作品が並んでいる。その並びを見ると、やはりいまいちピンとこない感は否めない。例えば島田荘司氏の『摩天楼の怪人』、京極夏彦氏の『嗤う伊右衛門』、麻耶雄嵩氏の『メルカトルかく語りき』など、選出に首を傾げざるを得ないのもかなり含まれている。それと、安孫子武丸氏が選出されていないのも疑問だ。 しかしながら、千街氏なりに吟味を尽くして精選しているのも、その苦心の末の選択もその心情は何となく理解できる。本格ばかりでなく、ハードボイルド、ホラー、SF、サスペンス、警察小説からイヤミスに至るまで、およそ考えうるすべてのジャンルを網羅しながら、選別しまとめ上げられた第二部では、ほとんどのミステリ関係の作家が挙げられているのには感心させられる。よくこれだけの作品を読破しているものである。 書評家として個人的に好きな千街氏のガイド本でもあるし、私としては好みの範疇から取りこぼしている作品を発見できただけでも購入した価値があったと思う。 |
No.541 | 3点 | 〔少女庭国〕 矢部嵩 |
(2014/12/07 22:01登録) 内容はともかく、まず非常に読みづらい。難読漢字にはふりがなをうつべき。例えば、肉刺をなんと読むか、フォークと読める人は多くないのでは。ところが本書にはただの一つもかなを振っていない。こんな小説読んだことがない。それと、会話文はともかく、地の文に読点が欠損しすぎており、一瞬どう読んでよいのかわからない文章がかなりある。これも不親切ではないだろうか。 前半は若干面白い部分もあったが、後半はまるでつまらない。どれほどつまらないかと言うと、『経済原論』と肩を並べるくらいつまらない。後者はとりあえずためにはなるが、この小説はためにもならないし。 SF的な展開なのは別に文句はないが、説明されていない事柄が多すぎるだろう。石でできた部屋に少女が一人ずつ閉じ込められて、それがドアを通じて延々と続いている、特別問題ない。さらに開拓が進められて一つの国が出来上がる、それもいいだろう。だが、自転車はどうやって作られたのだろう、或は種は誰かのポケットに入っていたとしても、畑の土はどこから調達したのだろう。何より、閉じ込められた目的は?誰が?どうやって?SFとはそういった様々な疑問点を無視して、投げ出してもいいものなのか。奇想だ奇書だと称賛する声もあるようだが、私には理解できない。 ミステリなら1点だよね。 |
No.540 | 6点 | 拝み屋郷内 怪談始末 郷内心瞳 |
(2014/12/04 22:20登録) 現役の拝み屋郷内氏が見聞きした怪談を、これでもかと詰め込んだ短編集。ショートショート的なものが多いが、結構な長尺もあり、それは自身の体験した物語がほとんどである。視えてしまう者の辛さ、拝み屋という職業の苦しみがよく伝わってくる。私は霊感というものが全くないので半信半疑だが、やはり霊とか魂など視える人には視えるらしい。 タイトルに「始末」とあるが、怪談を自らが始末する、つまり切って捨てるように終結させるわけではなく、あらゆる怪異を読者に開示することによって、供養になるという想いからこのデビュー作を書き始めたらしい。だから、我々読者がこの一つ一つの短編を読むことによって、初めて始末がなされると解釈するわけである。 肝心の中身はありとあらゆる怪異を集めた実話なので、巷に溢れる怪談集と何ら変わりはない。だが、その独特の語り口調は一読に値するものであろう。世間の評価が高いのも頷けるはなしではある。 |
No.539 | 4点 | 探偵の探偵 松岡圭祐 |
(2014/11/30 22:41登録) 硬質な文章、乾いた筆致、容赦ない描写、どれを取ってもハードボイルド以外の何物でもない。この手のミステリが好きな読者には堪らない小説だろう。 高校を出たばかりの玲奈はスマPIスクールという、探偵養成学校に入学するが、彼女は普通の探偵になりたいわけではなく、探偵そのもの、すべてを知りたいのだった。常に冷静だが、我が強く時に語気荒く目上の者にも意見する。というより、文句をつける。笑わないヒロイン、望まず孤独な立場に居座り続ける彼女。新たな女性探偵像の登場である。 一見魅力的なヒロインのようだが、どうにも感情移入しづらいきらいがある。他のキャラもそれぞれ個性的だし、よく描きこまれているが、どれも人間味に欠けるので、乾いた印象しか受けない。 ストーリーとしては、対探偵課という部署に新人の琴葉とともに所属し、悪徳探偵と命を懸けて戦うというものである。相手も相手だが、ちょっとやりすぎじゃないかと思うくらい、暴力的な探偵ではある。 ハードボイルド好きな読者は一度読んでみる価値はあるだろう。続編も来月に刊行予定だし、玲奈の活躍に乞うご期待といったところか。 |
No.538 | 4点 | 四段式狂気 二宮敦人 |
(2014/11/27 22:26登録) 「必ず4度ダマされる」と謳っているが、最初だけだった。あとはもうミエミエでほとんどの読者が想像している通りなんじゃないかな。意外な展開とは程遠い、完全なる予定調和的四段。それと、帯にはホラーミステリーとあるが、これはサスペンスだろう。視点が目まぐるしく変わることもあり、心理サスペンスと言えるのではないか。 今や、「狂気」を描かせれば当代髄一の作家である二宮氏なので、その観点からすれば確かに心理描写は優れていると思うが、最終的に破綻してしまうのはいつもの悪いクセのようだ。 ストーカーから始まる物語はいかにも安易で、安っぽいB級の匂いが漂う。ストーリーもいたって単純で、登場人物も少なく、ミステリ中毒者としてはかなり物足りない。やや辛めの採点でこの点数に落ち着いた。 |
No.537 | 7点 | 拝み屋郷内 花嫁の家 郷内心瞳 |
(2014/11/25 22:34登録) 拝み屋とは一体どんな職業なのだろう。家内安全、交通安全、合格祈願、安産祈願、地鎮祭、屋敷祓い、先祖供養、ペット供養などを行うらしい。だが、その中のごく稀にとんでもない、およそ彼らの手に負えない代物が混じっていることがあるそうだ。この作品に収められている中編二作は、現役の拝み屋である作者が経験した、とてつもないまるで怪談のような実話である。 だが、これらは本当に実話なのであろうか。だとしたら、あまりにも非現実的すぎる。かといって、まるっきりのフィクションならば、これまた荒唐無稽すぎてわざわざ小説にはしないと思われるのである。いずれにしても、この二つの物語は怪談というより、ジャパニーズ・ホラーと呼ぶ方が相応しい。 最初の『母様の家 あるいは罪作りの家』のほうが私の好みである。ただし、物語のスケールが大きすぎて、人間関係が複雑なので、すべてを把握するのは一読しただけでは難しいと思われる。 中身に関しては読んでいただくしかない。とてもここで紹介できるものではないし、あまり書きたくないのである。なぜなら本気で障りがあるのではないかと心配するゆえだ。はっきり言えるのは、実話であるかないかに拘わらず、大変しっかりした小説であり、感動の物語であり、恐ろしい話でもあるということである。 |