home

ミステリの祭典

login
いつか、虹の向こうへ

作家 伊岡瞬
出版日2005年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点
(2022/02/07 10:41登録)
ある不祥事で服役もした元刑事・尾木遼平。ボロボロのやさぐれ中年といった感じか。妻は逃げたが、売りに出す予定の家で3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんなところに一人の女性(少女)が転がり込んでくる。そしてその女性がからむ殺人事件に首を突っ込む。

4,5年前から、近くの大型書店で平積みされた著者の文庫本が気になっていた。
「悪寒」「代償」「奔流の海」などのタイトルからは、ちょっと重めの、古いスタイルの社会派風推理小説を若手作家が時代に逆らって書いているんだな、と勝手に想像していたが、本書はなぜか希望のある明るめなタイトルで、内容も想像と違っていた。
しかも若手作家ではなかった。ペンネームからなぜか若い人を思い浮かべていた。

本書は横溝正史賞を獲ったデビュー作。しかもハードボイルド。その後の作品のジャンルは定かではないが、デビュー作は、ミステリー風味は控えめにして、かっこよく文章で決めてやろう、という意気込みだったのだろうか。
でも本書は、文章はハードボイルドらしくないし、作風やスタイルも全くそれらしくない。読み進みながら、なぜと思うようなところがあれば、その後何ページか、何十ページか後に、懇切ていねいに説明してくれる。このパターンが多い。実に親切なつくりである。そしてスピード感もある。
主人公の尾木は敵にやられまくるが、それでも立ち向かっていく。あまりにも熱すぎる。クールさは感じられない。このぐらいのほうが読まれるのだろう。この点もハードボイルドらしくない。

ということで本書は、読みやすく万人受けするハードボイルド風ミステリーだった。
謎や謎解きに関しては、どんでん返し(的なもの)もあり、けっこう楽しめた。

No.1 6点 メルカトル
(2015/01/12 22:16登録)
第25回横溝正史賞受賞作。どことなくロマンチックなタイトルに惹かれて購入。ハードボイルドだが、乾いた描写ばかりでもなく、人情味溢れた繊細な人物描写も随所にみられる。
主人公の尾木はアルコール依存症の中年警備員。元刑事でもある。彼は擬似家族のごとく、居候を三人も抱えて共同生活をしている。そこに新たな同居人となる若い女性、早希を新たに加えるが、そこから事件が始まり、彼はとんでもない災厄に巻き込まれることに・・・。
尾木は何度も殴る蹴るの暴力を受け、満身創痍となるまで痛めつけられるし、同居人も二人までがいたぶられる辺りは、さすがにハードボイルドの香りがする。しかし陰湿な雰囲気はなく、あくまで乾いた描写が多いので、読んでいて疲れるようなことはない。
途中挿入される、虹の種という絵本の話がとても印象深い。タイトルもここからきているので、意外と重要な挿話なのではないかと個人的に感じている。また、各人物の過去を描いたパートが生き生きしており、逆に現在進行形の物語がややつまらないのは残念だ。
それにしても本作が横溝正史賞とは、やや首を傾げたくなる。ほかに候補がなかったのだろうが、作風としてはあまり相応しくないのではないかと思う。まあ出来としてはそれなりな気はするが、なんといってもデビュー作なので、作品の完成度という点ではあまり高くない、もっとプロットなどに工夫の余地があったと思う。

2レコード表示中です 書評