メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.575 | 5点 | ポケットにライ麦を アガサ・クリスティー |
(2015/04/05 22:01登録) 再読です。 連続殺人はテンポ良く起こるが、その後話が拡散される感じがして、どうにも退屈さを抑えきれない。情けないことに、読みながらどうでも良くなってしまったことを告白しなければならない。 マープルが出てくる場面だけはちょっぴり引き締まるが、その他はなんとなく進行する感が否めない。見立て殺人の意味もイマイチ納得できないし、動機も犯人像も言ってしまえばありきたり。個人的にはとても傑作とは思えない。 ただ、ラストは哀切が漂い、涙を誘う。作品の締めくくりとしてはよく考えられているし、非常に印象深いと思う。 |
No.574 | 6点 | 撓田村事件 iの遠近法的倒錯 小川勝己 |
(2015/03/31 22:10登録) 再読です。 その名の通り、因習深い村で起きた連続猟奇殺人事件を扱った本格ミステリ。ちなみに、タイトルはしおなだむら事件と読む。 横溝正史の流れを汲む作品と言えるが、その冗長さとリーダビリティにおいて、まだまだ正史の域には達していないと感じる。 主題はホワイダニットとフーダニットだが、犯人の意外性はさほどない。なぜ殺人を犯したのか、というよりも、なぜ死体を切断したのかという理由については、ある程度納得のいくものではあった。全体を通して、ややメリハリがなく盛り上がりに欠けるきらいはあるが、横溝を標榜し、さらに独自の世界観を追求する姿勢は褒められるべきと思うが、それが必ずしも成功していると言えないところがつらい。 色々瑕疵があるものの、良作ではあると私は思う。 |
No.573 | 6点 | 映画篇 金城一紀 |
(2015/03/25 21:56登録) さまざまな映画にまつわるエピソードを絡めた、青春、恋愛、アクションなどの短編集。 ミステリではないので、本来書評は差し控えるべきところだが、なぜか登録されていたので少しだけ書こうと思う。 なんと言っても最終話『愛の泉』が素晴らしい。祖父の一周忌を迎えるにあたって、落ち込んでいる祖母を何とか励まそうと、孫の「僕」が祖母の思い出の映画をどこかの劇場で上映しようと奮闘する姿を生き生きと描いている。「僕」のいとこも個性豊かな面々で、それぞれが非常によく描き分けられている。 また、映画がテーマになっているだけに、どの短編にも少しずつだが数多くの映画が紹介されており、例えば『愛の泉』ではいとこのリカが一番好きな映画は『天空の城ラピュタ』と言っていたり、主人公の映画オタクの友人に『ローリングサンダー』のDVDを26回観たとか言わせたりしている。私もこの二作はかなり好きだが、26回は多すぎるだろうと思わず苦笑してしまった。 まあとにかく、この中編『愛の泉』だけでも読む価値は十分あると思う。他はそれなりの出来だろうか。 |
No.572 | 7点 | 体育館の殺人 青崎有吾 |
(2015/03/18 22:00登録) 平成のクイーンの名は伊達ではない。面白味には欠けるものの、端正なロジックを積み重ねて真相に迫る作風は、現在の軽いミステリが蔓延しているシーンに一石を投じる意味で貴重と言える。 一本の傘から、これだけの推理を展開させて一人の女生徒を救い、密室を打ち破る手法は見事の一言に尽きる。そればかりか、久しぶりの「読者への挑戦」を挿入している辺りは作者の自信と意気込みを感じる。 ただし、登場人物が多すぎて頭の中で整理が十分つかないのはマイナス要素か。これは読者にもよると思うが。私のような頭の弱い者にはちょっと辛かった。 さして勉強もしないのに群を抜く成績を上げ、天才的な探偵能力を発揮する一方、アニメオタクで自堕落な生活を送る高校生探偵は、魅力的とは思うが、やや双方向に極端すぎる気もする。 いずれにしても、これだけらしい本格ミステリを今読めるというのは、幸せと言えるだろう。 |
No.571 | 6点 | さよなら神様 麻耶雄嵩 |
(2015/03/14 21:46登録) 麻耶雄嵩としては大人しめな感じがする。正直期待通りかと問われれば、否と答えざるを得ない。 主人公の周辺で次々と起こる殺人事件、とても小学生とは思えない大人びた会話、相変わらず現実味をシャットアウトしたプロットは、本領発揮と言えよう。アリバイ崩しも、動機なども一筋縄ではいかない辺りはらしさが出ている。 一方、途中で明かされるある仕掛けは、予想通りであった。実は1ページ目から怪しいと思っていたが、まさか的中しているとはね。ちょっとみえみえな気もするが。 ラストはやや意外な展開ではあったが、麻耶氏くらいになれば当然とも言えるだろう。 それにしても最近、連作短編ばかり読んでいる気がする。これも時代ゆえなのか。 |
No.570 | 6点 | 天久鷹央の推理カルテⅡ ファントムの病棟 知念実希人 |
(2015/03/11 21:54登録) 前作に続き、天医会総合病院副院長にして、統括診断部部長天久鷹央が活躍する、連作中短編集。二短編と一中編という構成だが、いずれも舞台は天医会病院であり、事件は殺人事件というわけではない。どれも医療が関係した、不可解なものだ。 鷹央のキャラは相変わらず際立っているが、残念ながら今回は他の人物の影が薄い。それはいいが、本作の最大の欠点は医学に関する専門知識がないと、いずれの謎も解けないことだろう。医者や看護師でなければ、謎解きに参加できないのは、ややフェアさに欠けるとの意見も上がるかもしれない。 だが、そんな欠点を補うだけの面白さを持った作品集ではないかと私は思う。特に最終話はかなり切ない。そんな要素がミステリに不可欠とは言わないが、一篇の小説として魅力的だとは言えると思う。 |
No.569 | 4点 | スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 友井羊 |
(2015/03/07 21:48登録) スープ屋しずくのマスター麻井が、朝訪れる女性客の、ささやかな日常の謎を解き明かす連作短編集。 なんとなくソフトタッチで、読み心地は悪くないのだが、ミステリとしていささか弱すぎる。友井氏の前二作を私は買っているが、これはいけません。特に最終話は過去と現在が交錯するのだが、正直何がどうなっているのか理解するのに苦労した。端的に言うと読みづらいのだ。 ただ食事、特にスープに関する描写はそそられる。素材にこだわって、いかにも身体に優しく、滋味深い感じのするスープやポトフなどは、一度でいいから食べてみたい衝動に駆られる。しかし、いくらこういった作風が現在のトレンドだと言っても、肝心のミステリの部分がないがしろにされているようでは、それこそ本末転倒なのではないだろうか。もういい加減、似たようなシチュエーションの日常の謎を扱った作品はいいんじゃないかな。そろそろ、本格に戻る時期が来ていると思うのだが。 |
No.568 | 6点 | 虹の歯ブラシ 上木らいち発散 早坂吝 |
(2015/03/04 22:03登録) 下ネタに特化し、そこにトリックを絡めるという、新ジャンルを開拓した功績は大きい。本格ミステリではこれまであまり下ネタに触れることがなかったため、付け入る隙は小さくないだろう。そこに目を付けた作者の着眼の良さは褒められるべきだと思う。 しかも、下品と取られる前に本格として十分に機能しているため、品格を重んじるプロはだしの評論家たちにすら有無を言わせぬだけのポテンシャルを保持しているのは素晴らしいことであろう。 だが、最終話は賛否が分かれるところではないか。度重なるどんでん返しに驚嘆し、もろ手を挙げて賛辞を捧げる人も多いだろうが、その反面安易なメタに逃げているとの誹りを浴びせる読者も少なくないと感じる。私はどちらかと言うと後者だが、それでも本作の評価を著しく下げるわけではない。ただ、それまでの展開とあまりにかけ離れているため、違和感を覚えるのは確かである。 最後に、前作の書評で氏は一発屋の可能性が高いと私は述べたが、どうやら私の見解が間違っていたようだ。早坂氏とファンの方々にお詫びしたい。 |
No.567 | 5点 | バスジャック 三崎亜記 |
(2015/03/01 22:17登録) 普通の感覚では絶対に書けない類の、ファンタジー短編集。ファンタジーと言っても決して壮大なものではなく、よくある日常の中に突如姿を現した異常や不可解を描いた、一種異様な物語の数々である。 例えば、町内に回ってきた回覧板の内容は、二階に扉を取り付けるようにとの指示。町内で自分の家だけまだ取り付けていないことを知った主人公は早速業者に依頼するが、その作業がまた一筋縄ではいかない。 或いは、マネキンとも人形ともつかない者と同居する人たちが共同生活をしているアパートに、母を訪ねてきた少女。彼女と「その人たち」の行く末とは。 といった、意味不明とも取れるストーリーが次々と展開する。だが、それぞれが決して絵空事ではなく、しっかりとしたリアルさを伴っているところがまた厄介だ。読者の想像の斜め上をいく奇想を持った短編集は、力強く我々の心をえぐるように食い込んでくる。 |
No.566 | 7点 | アトポス 島田荘司 |
(2015/02/27 22:05登録) 再読です。 長尺な割に、解決篇があっさりし過ぎている印象。だが、これだけの大作を冗長さを感じさせず、最後まで読ませる手腕はさすがだ。読者にもよるだろうが、無駄な描写は個人的にはあまりなかったと思う。 初読の際に印象深かったのは、冒頭のエリザベートのくだりと途中の魔都のエピソードだったが、やはりその二つの物語は今回読んでみてもインパクトという点において図抜けている気がする。 謎が強烈なだけに、その真相はやや拍子抜けというか、現実離れしている感が否めないが、それでも真実の「連鎖」は驚くべきものがある。いくつもの要素が偶然のように重なって奇跡的な様相を呈しているのに、いとも簡単に謎解きをしてしまう御手洗は、ちょっと人間離れしており、数多の読者を置き去りにしているような感が無きにしも非ずである。それでも本作は島荘ならではの傑作であり、しっかりとツボを押さえたシリーズの白眉と言えなくもない。 |
No.565 | 5点 | 約束の森 沢木冬吾 |
(2015/02/21 22:07登録) 妻を亡くした、元公安刑事が渋く、アクションは派手に活躍するハードボイルド。 主人公の元公安、奥野侑也はかつての上司から潜入捜査を依頼される。依頼の内容は海岸沿いのモウテルで、見知らぬ男女と三人で疑似家族を演じるという不可解なものだったが、のちにとんでもない災厄に見舞われることになる。 主役は奥野と、疑似家族を演じる若い男女の隼人とふみの三人だが、なんといっても目立つのが、警備犬(警察犬をレベルアップしたもの)になり損ねて、人間不信に陥っているドーベルマン、マクナイトだ。物語は、奥野とマクナイトの時に暖かく、時に泣ける交流を中心に進む。この元警備犬候補が周りの人間や、ふみが飼っているオウムのどんちゃんに、次第に心を開いていく過程は読んでいても心が和むが、肝心の謎の組織であるNや謎の人物スカベンジャーに関しての記述が、もやがかかっているような不透明感を感じる。はっきり言って分かりづらい。 帯には「一生手元に置いておきたい作品」と謳っているが、それは大げさすぎる。まずまずの出来だとは思うが、そこまでの傑作ではないだろう。誇大広告はやめていただきたい。 |
No.564 | 5点 | 悪夢の観覧車 木下半太 |
(2015/02/14 21:55登録) 異様に読みやすく、半端なく薄っぺらな誘拐サスペンス。 主人公の大二郎は、大阪天保山の観覧車を身代金目的の誘拐のために停止させ、ある整形外科医に6億円の身代金を要求する。また、各観覧車内にはそれぞれの家族や仲間と一緒の、怪しげな客が搭乗していた。 ストーリーとしてはまあ面白いが、描写が浅いため、スピード感は感じられても物語の深みは残念ながらないと言わざるを得ない。だが、終盤の展開はなかなかのもので、一気読みできるのは間違いない。どうやって身代金を受け取るのか、衆人環視の中どう脱出するのか、登場人物の意外な関係とは。それぞれ興味が尽きないが、あくまで軽く、そして笑いがあるいは苦笑いか、がふんだんに盛り込まれているので、どうしても作品としては軽んじられるのもやむを得ないだろう。 |
No.563 | 7点 | 明治断頭台 山田風太郎 |
(2015/02/12 21:26登録) 再読です。 明治時代ならではの大胆なトリックと仕掛けが炸裂する、連作短編集。と言うか、長編として捉えるべきなのかもしれない。 主役は復活した弾正台の大巡察の二人、香月経四郎と川路利良。弾正台とは現在でいう警察機関のようなもので、勿論その頃は組織立っているとはお世辞にも言えず、個人プレーに走る者が多かったようだ。彼らも独自のやり方で正義のために悪を駆逐してく。 この作品には探偵役は存在しない。大巡察の二人も奇妙奇天烈な事件に振り回されるだけで、捜査も推理もしない。事件が一段落すると、巫女姿をしたフランス人エスメラルダが死者の霊をおのれに憑依させ、事件の顛末を明らかにするという、一風変わった解決法を取っている。そのどれもが驚くべきもので、明治時代でしかあり得ないような真相となっている。 この奇想は素晴らしく、初出が三十数年前にもかかわらず、現在に至ってもその輝きを失わない。そして、最終話のとんでもない仕掛け、それこそ開いた口が塞がらないというところだろう。 |
No.562 | 6点 | 七色の毒 中山七里 |
(2015/02/07 22:14登録) 異なる社会問題をテーマやテイストにした、中山氏らしい本格ミステリの連作短編集。主役となる刑事は犬養隼人で、前作『切り裂きジャックの告白』でも活躍している。シリーズ第二弾ということになる。 それぞれの短編が標準を超えており、お得意のどんでん返しが味わえるが、世界が反転するような派手なものではなく、ちょっと気の利いた切り返しと言えるだろう。中でも驚かされるのは『白い原稿』で、これはなんとあの出来レースと噂されたポ○○社が有名俳優に新人賞を与えて話題となった、あの作品をモチーフにしている。しかも、鋭く出版業界の内幕を暴いて、相当な問題作と思われる。 他の作品も、色合いがすべて異なっており、読者に飽きさせない努力が認められ、好印象である。 それにしても、この人の刊行ペースは驚くべきものがあるが、その割には質が落ちないのが素晴らしいところだと思う。すでに独自のワールドと呼んでも差し支えないような、登場人物の系図を展開しているのも、ポイントが高い。 |
No.561 | 6点 | からくり探偵・百栗柿三郎 伽古屋圭市 |
(2015/02/05 22:26登録) 大正ミステリ第二弾。発明家にして名探偵の、百栗柿三郎と、最初の依頼人でありその後助手となる千代、さらに招き猫型ロボットのお玉さんの二人と一匹の活躍を描く、連作短編集。 4篇からなる短編集だが、どれもなかなかよく練られており、面白い。特に第二話は二つのバラバラ死体を扱ったものだが、これまでのこのジャンルになかったからくりが用意されていて、かなりの高評価。 各作品の間に幕間として、大震災後の様子が差し挟まれているが、これが連作と有機的に繋がってきて、最後に見事に着地を決めている。まあ使い古された手だが、最終章でそれまでの違和感や謎が明らかになり、しかも後味の良い結末を迎えるようにうまくまとめられている。文章も手慣れたもので、軽妙な作風なりに印象深い作品となっていると思う。 |
No.560 | 5点 | まどろみ消去 森博嗣 |
(2015/02/02 22:07登録) 想像していたよりも砕けた印象の短編集だった。もっとこう、堅苦しいのかと思っていたが、意外とふんわりと柔らかい感じの作品が多く、正直拍子抜け。と同時に、森博嗣もこんなのが書けるのだという認識を新たにした感じ。 まともなミステリと呼べるものは一作としてなく、中には意味不明なのも混じっており、一般受けはしないだろうなと思う。だが、それぞれが味のあるものであり、それなりに面白かった。 個人的に一番好みなのは『やさしい恋人へ僕から』。これと言って特徴のある作品ではないが、何と言うか読んでいてとにかく楽しかった。独特の語り口調も心地よく、特に大阪に関する描写はなるほどと感心した。じっくり読めばミエミエなんだけど、オチもちょっと意外だった。 他は楽屋落ち的なものが多く、まああまり感心はしないが、肩ひじ張らずに楽しんで書いている作者の姿が見え隠れしており、微笑ましく思う。 |
No.559 | 6点 | 静おばあちゃんにおまかせ 中山七里 |
(2015/01/30 22:13登録) 孫娘円(まどか)が持ち込んでくる日常の謎を、静おばあちゃんが安楽椅子探偵よろしく解明していく物語、ではない。 基本的には真っ当な本格ミステリで、れっきとした殺人事件を扱った短編集である。しかも、不可能趣味が加味されており、トリックなどに新味はないものの、どことなく引き込まれる筆力はさすがだと思う。 流れとしては全話を通して共通しており、刑事の葛城が奇妙な殺人事件を担当する→円に協力を求める→円が静おばあちゃんに事件の概要を伝える→静おばあちゃんがあっという間に真相を暴く→円が葛城にそれを教え、事件解決というもの。 最終話では意外すぎる真実が明らかになり、口あんぐりとなること間違いなし。続編を期待するも・・・な感じに。 個人的には第一話が特に印象深い。最終話では涙を誘うシーンもあり、粒揃いの短編集と言えるだろう。 |
No.558 | 5点 | 絶叫 葉真中顕 |
(2015/01/27 22:18登録) なんだろう、やはりジャンルとしてはイヤミスだろうな。鈴木陽子という平凡な名前の平凡な女性が、少しずつ少しずつ人生の落とし穴にはまり込んでいく過程を描いた、嫌悪感溢れるミステリ。 大作だが、比較的肩の力の抜けた書きっぷりで、サラッと読める。しかし、年間ベストテンに名を連ねるような作品ではないと思う。それなりの面白さで、それなりの内容だが、特別これと言って特筆すべき点もないし、あっと驚くようなトリックもない。よって、帯にあるような驚愕は味わえないだろう。 それと、詳述は避けるがこの犯罪にはかなり無理があると思う。どう考えても、どこかで真相の一端が発覚するはずだ。そこまで警察も○○もボンクラではないだろう。 全体的にやや冗長で、緊張感に欠けるきらいがあるし、もう少しコンパクトにまとめられなかったものかと思う。どれを取っても、いま一歩な感じで、言ってしまえば残念な作品なのだ。 |
No.557 | 5点 | 消失グラデーション 長沢樹 |
(2015/01/22 22:28登録) 主人公の康は女に見境なく手を出して、全く鼻持ちならない存在である。さらには多数の女子高生たちが登場するのだが、どれもこれも可愛げがなく、感情移入する余地がない。青春小説の一面を持つ本作だが、その意味で面白味がないと感じるのは個人的な印象なのだろうか。 事件はなかなか発生しない。それまで延々といわゆる青春群像劇を読まされるわけだが、少々退屈である。主人公の「僕」はなんとなく覇気がなく、相方の真由はやや生意気で、ダラダラした感じが否めない。 メインとなる転落、消失事件は至って単純で、特段魅力的な謎ではない。さらには、この事件を追う前述の二人の素人探偵ぶりもなんだかもたついていて、パッとしない印象だ。しかも真相は虫暮部さんがおっしゃっているように、いかにもご都合主義が過ぎる気がする。 この作品の肝となる仕掛けは、二重三重に張り巡らされており、その意味では目新しくはあるのだが、驚かされたのは最初だけで、なんだかアンフェアな気分にさせられるため、損をしているのではないだろうか。素直に騙されたという感慨が感じられない。 |
No.556 | 5点 | 閃光 永瀬隼介 |
(2015/01/18 22:17登録) 硬質な文章で描かれた社会派推理、或いは警察小説か。 主人公の二人の凸凹刑事コンビ、三億円事件の犯人たちの現在、そして過去、謎のホームレス老人。これらが入り乱れてストーリーは展開し、やがて一点に収束していく。主要登場人物だけでも十人を超え、目まぐるしく場面が変わるので、物語を追いかけるのに集中力を要する。コンディション不良もあり、正直疲れた。よって、本来ならこれは力作だとか、素晴らしいプロットだとか思わなければいけないところだろうが、どうも今一つピンと来なかったのは否めない。 謎に包まれた犯人たちの行動は、実際の容疑者のそれをなぞったもののようだし、要するに本書はそれを軸に組み立てられた、半ノンフィクション小説と言っても良いと思う。作者は、目の前の三億円事件と言う材料を上手く料理したに過ぎず、さして称賛されるべき作品とは思えない。まあ、私の趣味ではなかっただけの話で、こういった社会性の強い、ドキュメンタリータッチの小説が好みの方には、これ以上ない逸材となっているのかもしれないが。 |