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ミステリの祭典

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がん消滅の罠 完全寛解の謎

作家 岩木一麻
出版日2017年01月
平均点5.25点
書評数8人

No.8 6点 麝香福郎
(2022/10/17 22:53登録)
日本がんセンター研究所に勤務する夏目典明は、生命保険会社の友人から不可解な相談を受ける。余命半年の宣告を受け、リビングニーズ特約に基づいて生前に保険金を受け取った患者のがん病巣が、跡形もなく消えたというのだ。しかも同様の事例がほかにも起きているという。医学上の常識を覆す奇跡が起きているのか、この殺人事件ならぬ「活人事件」の裏にあるもの、そしてがん消失そのものの仕組みが本書の中心にある謎なのだ。人体を一つの構造物に見立てた密室事件と表現してもいい。謎を綺麗に解かれることによってさらにその魅力を増すが、本書においては解答編も大胆かつシンプルで美しい。
主人公の恩師が「医師にはできず、医師でなければできず、どんな医師にも成し遂げられなかったこと」をするために突如職を辞して医大を去るというサイドストーリーがあるが、それも側面から物語を補強している。小説のすべての要素が最後に明かされるがん寛解の謎解きのために機能しており、医学ミステリの醍醐味を満喫させてくれる。

No.7 6点 文生
(2020/08/13 18:28登録)
末期癌のはずの患者が次々と完治するという謎が強烈でぐいぐいと引き込まれていきます。物語の深みといったものには欠けますが、テンポよく読めるので暇つぶしには最適な作品だといえるでしょう。
ただ、肝心のトリックは専門知識を要するものであり、本格ミステリの面白さを期待した人はがっかりかもしれません。
その代わり、お勉強ミステリーとしてはなかなかの佳品です。

No.6 5点 HORNET
(2020/08/10 19:27登録)
 診断で間違いなく転移していたがん患者が、きれいさっぱり寛解するという謎。医療ミステリとしてこの上ない不可能状況で、大賞選者たちが絶賛するトリックに期待して読み進めた。
 読んでいく中で医療的な説明もされているので、がんについての知識が深まりその点は興味深かった。が、明かされる真相がそうした医療的なことを超越していること(つまり、素人でもわかるような単純さで足元を掬われること)を期待していたので、結局医療的な内容のトリックだったことで「ふーん…」というようなリアクションにとどまってしまった。面白くはあったけど。
 蛇足だが、本サイトでもこの作品しか上がっていないのだが、この作者はこのあとも執筆・作品発表を続けているのだろうか?

No.5 5点 E-BANKER
(2019/10/23 21:54登録)
第15回「このミステリーがすごい!」大賞の受賞作。
作者は実際に国立がん研究センターでの勤務歴もある模様。(医師ではない?)
2017年の発表。

~呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付を受け取ったあとも生存、病巣も消え去っているという。同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうか・・・~

私自身、最近がんに罹った親族がいたりして、テーマとしては興味深いものだった。
親族が入院したのもがん治療専門の国営の医療機関だったわけだが、がん治療というのはまさに日進月歩。私のような門外漢は、がんと言えば切除手術というイメージだったけど、放射線治療にしろ抗がん剤治療にしろ、一昔前とは治療法もまったく違っていることを知らされることとなった。
がんって治る病気なんだね・・・
それでも、がん=死というイメージはいまだ根強いし、人類に立ちはだかる最強の敵に違いない。

で・・・いやいやそんなことは本筋に関係ないんだった・・・
ということで本作の書評なのだが、思ったより厳しい評価のようですね・・・
医療ミステリーは好きなジャンルということもあるけど、プロットとしてはよく練られてるのではと思った。
それもそのはず。巻末解説によると、本作は一度別タイトルで応募されたものを(その時は落選)、大幅に改稿して再度応募されたものとのこと。その分ミステリーとしてのお約束は十分に踏まえて書かれてると思う。
治るはずのないがんが消滅(完全寛解)するという謎も魅力的だし、それを可能にするトリックや動機についても一筋縄ではない、複雑な仕掛けが用意されている。保険会社という存在を加えているのも旨い。
問題は「書き方」「表現の仕方」なのかな。やや平板というか、盛り上げ方に欠けるというか、そこは確かに頷ける。
終章。いきなり派手な展開が用意されているけど、唐突すぎたような・・・

まぁでもデビュー作としては及第点だと思う。
まだまだ医療ミステリーにも未踏の分野はあるのだろうし、次作に期待したい。

No.4 3点 おっさん
(2018/06/23 11:18登録)
なんつー、ベタなタイトル。思わず「2時間ドラマかよ」と突っ込みたくなる(さきごろTBSテレビで、ズバリ、3時間枠のスペシャルドラマとして放送されたようですが、筆者は未見)本書は、第15回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した、もと国立がん研究センター勤務の著者の手になる、さながら初期のマイクル・クライトン、ロビン・クックばりの医学サスペンスです。
応募時のタイトルは、いかにも謎めいた『救済のネオプラズム』――最後まで読むとその意味するところが分かる――でしたから、変更には、おそらく版元(宝島社)の営業的な判断が働いたのでしょうね。
でもまあ、結果として、正解かな。なんだかんだいって、自分が興味をもって本を手にとったのも、そのベタなタイトルゆえですからw

普通なら治るはずのない、末期がんの患者からがんが「消失」していく、奇跡のような事案が連続する背後には、果たして秘められた治療法が存在するのか、それとも? 余命診断をした患者の、信じがたい完全寛解に直面した、日本がんセンターの医師・夏目は、天才肌の同僚や保険会社の調査部に勤める後輩(「事件」には、生保の生前給付金を狙った詐欺の疑いもある)とともに、この謎を追うことになるが、やがて浮かびあがってきたのは、学会では無名に等しいにもかかわらず、高い治療成績で各界の実力者の支持を得ている、民間病院の存在だった。しかし、この病院には――

さて。
アイデアは面白いが小説がすこぶる下手、とするか、小説は下手だがアイデアがすこぶる面白い、とするか……の二択ですねww
まあこのへんは、筆者の読んだ親本のソフトカバーの巻末に収録された、大賞選考委員各氏の「選評」でも、さんざん書かれていることではありますが。
専門知識を、小説のカタチで、分かりやすく伝えようという努力――たとえば「探偵」サイドの討議を、くだけた酒席の場でおこなうなど――は買えます。大人向けの情報マンガのようなものだと思えばいいのかな。文章やキャラクター造形は月並みでも、がん医療をめぐる最新の情報小説としては、それを期待する読者のニーズに応えます。
肝心の「不可能状況下でのがん消失事件」のプロットは、狙いの異なるタイプA(低所得者コースw)とタイプB(高額所得者コースww)が用意されているのですが、それぞれに医学的な情報が伏線として配置されているので、筆者のような門外漢の読者にも、理解できるものになっています。コロンブスの卵的な発想ですから、むしろ医学的な知識のある人ほど、そのアイデアの質には感心するかもしれません。
ただ、作中、その「消失」トリックとはまったく別な文脈で、次のような記述があります。

 それでも、世の中に絶対ということはない。ましてや自分たちが扱っているのは人間という生物なのだ。生物には多くの不確定性が存在する。故に医療に絶対はないのだ。(引用終わり)

これは本当に、その通りだと思うんですね。タイプAもタイプBも、その手段を使えば、理論上、がんが消えてもおかしくはない。しかし、消えない場合もあるのではないか? その場合、患者は完全にアウトです。そうした失敗例(殺人行為ですよ)をまったく無いものとしては、いけないでしょう。とくにタイプAのほうは、患者を、本人の知らぬまに、がんとは別なきわめて高いリスクにさらしているわけで、行為者の「動機」を考えると、素直に頷けないものがあります。

動機。
うん、それ。終盤、スリリングな展開と意外性を見せながら、逆にこの小説が失速し、あ~あ、になってしまうのは、結局、「犯人」とそのまわりのキャラクターの動機づけに、まったく説得力をもたせられなかったからです。
神を目指しながら、「正義」のために悪をなし堕ちていく――そんなダーティ・ヒーローとしての犯人像が描ければよかったのでしょうがね。ただのマッドサイエンティストじゃん。「マッド」になった経緯を、作者は「運命」にかこつけて、悲劇っぽくしようとしていますが……無理無理。異常のむこうに普遍がないから、理解も共感もできません。
こいつ(犯人)の家族、みんなおかしいよ (T_T)

No.3 5点 小原庄助
(2018/01/25 10:11登録)
余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険生前給付金を受け取ると、その直後に病巣がきれいに消え去るケースが立て続けに起こる。がん消失の謎に医師の夏目とがん研究者羽島が挑む。
会話が多く、またキャラクターは役割の域に出ておらず、ほとんどラジオドラマのようで小説的感興に乏しい。だが「最前線でがん治療に当たる医療現場」を「圧倒的ディテールで描く医学ミステリ」であることは確か。がん消失をめぐるアイデアとトリックも優れているし、サプライズのラスト一行も効いている。
ただ、がんに苦しむ患者や家族たちの思いを十分にくまず、がんをあくまでも謎解きゲームの手段にしていることに抵抗を覚える読者もいるだろう。
機械的なトリックばかりでなく、医師としての倫理や葛藤を打ち出したほうが、物語に厚みが出たのでは?

No.2 6点 まさむね
(2017/07/17 20:57登録)
 第15回『このミステリーがすごい! 』大賞受賞作であります。
 余命半年の宣告を受けたがん患者が生命保険の生前給付金を受領した後に、なぜか病巣が消失する事象が立て続けに起きているという設定。いわば「がん連続消失事件」で、つまりは「殺人事件」ならぬ「活人事件」であるという機軸は、なかなかに斬新で興味をそそられます。
 国立がん研究センターでの勤務経験を活かしたのであろうディテールの描写や、最後の最後まで何か仕掛けようとする意識など、新人賞応募作品ならではの(?)面白味がある一方で、キャラクターの設定は全体的に弱く、リーダビリティも高いとは言い難いかな…と。この辺りは次回作に期待したいと思うのですが、再び医療ミステリで行くのかな?

No.1 6点 メルカトル
(2017/01/31 22:08登録)
第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
がんの成り立ちから治療法、寛解や医療全般に関する記述が多くを占め、肝心のストーリー性、ドラマ性、キャラクター造形などがおろそかになっているきらいがあります。また文章に色気が感じられず、お世辞にも上手とは言えません。「お前が言うな」というご意見は承知の上で。
正直、この作品が賞金1200万円とはねえと思います。まあ勉強にはなりますし、一応がん消滅の謎は理論的にというか、医学的に頷けるものでしょうが。
終盤の畳みかける展開はそれなりに読みごたえがあり、逆に言えばそれがなければもっと評価は下がったと思いますね。


【ネタバレ】


ラスト一行は意表を突かれました。と言うか「お前もか!」って感じでしたね。

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