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ミステリの祭典

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火車

作家 宮部みゆき
出版日1992年07月
平均点7.21点
書評数99人

No.99 10点 ひとこと
(2023/05/28 19:56登録)
現代にも通じる社会派ミステリーの傑作

No.98 4点 みりん
(2023/01/21 23:52登録)
昔は夢を持っても「自力で叶える」か「諦める」しかなかったけれど今はクレジットカードやサラ金のおかげで"夢を叶ったような錯覚にひたる"ことができるし、その錯覚を起こさせてくれる媒体も随分と増えた。そんな当時の世相を反映させた社会派推理小説でした。 なぜ破産にまで陥るのかや多重債務者の性格分析など詳しく解説されていて興味深かったです。
ただ、そう言う作品だとは理解していても謎解き要素が楽しめなかった上にかなり冗長的です。

No.97 6点 ALFA
(2022/02/12 08:52登録)
話の出し入れといい人物造形といい、達者なストーリーテラーだと改めて思う。このところ本格派の名作をいくつか読んで、大胆なトリックや精妙なプロットのわりに薄っぺらな人物造形や晦渋な(要するにヘタクソな)文章で辟易していたから余計に新鮮。
500ページを超える長編だが、被害者も犯人も表に登場しないままWHO, WHY, HOWダニットが少しずつ水面に現れてくるのがスリリング。犯人は最後の3ページでようやく姿を現す。それも遠景で。

あえての瑕疵を
その1.弁護士の長大な演説はいらない。小説において、社会的メッセージは個人の問題として語られてはじめて意味を持つ。選挙演説のようなこの一節は、かえって作品全体のメッセージ性を薄っぺらなものにしている。弁護士は専門的な見地から問題点を語るだけで十分。
思うに作者は「社会派」という看板を背負って奇妙な使命感を持っていたのだろうか。あるいは取材した大物「社会派」弁護士宇都宮健児への義理立てか。
元祖「社会派」松本清張は社会的な問題をあくまで小説のモチーフとして消化したうえで再構成した。結果として社会的なメッセージ性を持ったということだ。「社会性」の扱いを誤ったためにこの作品は早々に古びてしまった。

その2.大阪梅田のスーツを着たサラリーマンは初対面の人間にあんな言葉遣いはしない。あまりにも馴れ馴れしいうえに、上方落語の高座でしか聞けないような言い回しもある。丸の内のサラリーマンが銭形平次の江戸弁をしゃべるようなもの。東野圭吾にアドバイスを受けたそうだが不思議だ。ここは高村薫の監修でも受けておくべきだった。そこまでの関係かどうかは知らないが・・・

その3.この作品に限らず、一部の比喩表現が陳腐。まるで古手のオヤジギャグみたい。

その4. やはり長い。2/3程度でいい。

エンディングはとてもいい。これ以上語るべきことも聞くべきこともないはずだから。
私的な捜査だから逮捕状もないはずだし、この後どうするんだろうというのは余計な心配かな。


No.96 8点 よん
(2021/09/17 15:36登録)
一つの手掛かりをもとに、少しずつ真相に迫っていく。複雑に絡んだ糸が解けたとき、他人事ではないと感じた。自分の固定観念をまざまざと覆された小説で、「面白かった」とひとことでは言えない考え深い作品でした。特に弁護士の話が印象的だった。

No.95 7点 じきる
(2020/08/23 20:41登録)
良作社会派ミステリー。
ラストシーンが非常に印象的。

No.94 8点 ぷちレコード
(2020/05/14 19:52登録)
クレジットやローンという現代社会の金融産業の異常な拡大と、その蟻地獄のような底なしのマネーの世界に呑み込まれてしまう、多くの犠牲者の姿。
現代社会の影のなかに、自分自身すらも失ってしまう人間たち。作者は、この異様な現実を、一本一本の糸を解きほぐすようにして描き出す。推理小説としても読みごたえがあり、同時に経済小説、社会小説としても面白い。火車とは「生前に悪事をした亡者を乗せて走る火の車」だという。いや、その「亡者」とは実はわれわれ自身であり、その車こそ、現代のこの社会自体である。

No.93 8点 雪の日
(2020/04/15 15:21登録)
いつ読んでもおもしろい作品。

No.92 8点 zuso
(2020/03/17 20:23登録)
婚約したばかりの女性が突然失踪した、調べてみると、一度「自己破産」をやっていた、そして次々に謎が出てくる、この女性は一体誰なのか。そして休職中の刑事を中心に、調査が進むにつれてとんでもない事実が明らかになってくる。
なぜ、平凡な人間が、犯罪を犯してしまったのか、それは社会や経済の仕組みに原因があるともとれる。犯人自体も被害者だというわけです。
ここに住宅ローンの破綻、消費者信用や自己破産の問題と絡んできて、なかなか勉強になります。啓蒙的な経済小説としても読めます。

No.91 8点 猫サーカス
(2020/02/18 19:10登録)
一つの犯罪を巡って熟年刑事である主人公が奔走し、その特異な犯罪を詳らかにしていく物語。真実に向かって一歩ずつ進み続け、そして最後には真実と対面する。ありふれたミステリ作品とは一線を画す、この過程の中にこそ、この物語の魅力があると言えるでしょう。しかしそれだけではありません。この物語が面白いのは、主人公は被害者と犯人の両者のことを最後まで「人伝て」でしか知らないという事。犯人を追う過程において、犯人のことを知る人物や、被害者を知る人物から、いろいろなことを聞いていきます。どういう人物なのか、何があってそうなったのか、それを主人公も読者も、誰かの話の中からしか知ることが出来ません。皆思い思いの言葉で彼女たちのことを語り、本当にそのすべてが正しいかどうかはわからないけれど、しかし確かに多くの人の生活に影響を与えていく。そして、どうしてその人物がそんな風に生きるようになったのかを、主人公と共に知っていきます。その話の中からヒントを見つけて、どんどんその人の核心に迫るような過去を知る誰かに出会えるようになっていく。この物語の結末は、意外に感じられます。真相に肉迫する中、「ここで終わるのか」と感じてしまう。それでも、ラストシーンはあのタイミングでなければならなかったと思う。この作品は、主人公が見知らぬ犯人を追う物語であって、そこに会話は必要ない。犯人が本当は一体どういう人物で、どんなことを思っていたのか、それは闇に葬り去られ、読者の想像に任せてくれてよかった。回答がない方が美しく感じるからです。

No.90 7点 レッドキング
(2019/06/27 21:57登録)
フー?・・「犯人は誰?」ではなく「彼女は何者?」のフー。文庫本約600頁の中で、ずっとそのフーであるヒロインが読者に現前する場面が、最後のわずか数頁というのが凄い。
水商売のネエちゃんに「人生論」語らせるのは愛嬌としても、弁護士に長々と「社会時評」ウンチクさせる場面はちとウザい。こういったあたりで眉に唾付けたくなるんだよな「社会派」とかいうやつ。
それはともかく、あのラストシーンが良いので点数は1~2点のオマケ付き。

No.89 3点 mediocrity
(2019/02/21 21:33登録)
内容のわりに冗長(無駄に1.5倍に引き伸ばしたような)。冗長なのに最後は尻切れトンボのような終わり方。推理小説としても読み物としてもそれほど面白いとは思えませんでした。

追記
カード破産て今はあんまり聞きませんよね。この小説が書かれた時代特有の事象だったのでしょうか。自分は100%破産者が悪いと思いますから、社会のせいみたいな感じで変に正当化?されていた事にものすごく違和感を感じました。正直全く同情できませんでした。同じ社会派でもずっと古い「点と線」はベタな政治汚職ネタでしたが、こちらの方がむしろ時代を感じなくて今でも読める気がしました。 
あと妙な比喩が多用されるのもマイナス評価。蕎麦屋でフランス料理のフルコース並みの料金がうんぬん、みたいな表現がちょっと離れた箇所で2回使われてましたが、繰り返すほどうまい比喩とは到底思えない。

No.88 7点 メルカトル
(2017/02/18 21:47登録)
世間的には宮部氏の代表作の一つに挙げられる作品として有名。社会派のお手本のような傑作ですね。ただ、個人的にはやや面白みに欠けるのかなという印象を受けます。優等生的な作風だけどどこか説教臭いのが鼻につきます。まあその辺りも高評価の一因と言えると思いますけどね。
カードローンや自己破産などがかなり詳しく書かれており、勉強になります。そうした社会問題を取り上げているものの、ストーリー・テリングをおろそかにしてはいません。ワクワク感とか高揚感とは無縁なのが残念ではありますが。
借金問題に苦しみ、人生を転げ落ちていく様を、蛇の脱皮になぞらえた文章がとても印象に残ります。なぜ蛇は命がけで脱皮するのかと問われての回答が以下の文章。
「一生懸命、何度も何度も脱皮していくうちに、いつか足が生えてくるって信じてるからなんですってさ。今度こそ、今度こそ、ってね」。
蛇だって足があったほうが幸せだと思っているそうです。切ないですね。

No.87 7点 パメル
(2016/01/18 18:59登録)
カードローンをはじめとする債務に苦しむ人々の状況は
決して過去のものではなく現代の読者の心も捉える普遍性の
ある問題だと考えさせられる
調査小説としての面白さを堪能させてくれるだけでなく
他者のパーソナルデータを奪う方法をめぐるハウダニット的興味が
盛り込まれたりと本格ミステリ的趣向もある社会派ミステリ

No.86 7点 けん
(2015/12/16 22:32登録)
社会派ミステリーというものには触手が動かなかったのだが、
あまりに評価が高いので読んでみた。
内容がカードローンに関することなのだがカード社会が悪い!
本人は被害者だ、といわんばかりの言い方がちょっと気になった。
最後のシーンは緊迫感があり、ぜひ映像で見てみたい。

No.85 8点 斎藤警部
(2015/06/30 14:25登録)
定番コースで「理由」の次に手に取った作品。 かの作の様なワン&オンリーの圧倒感は無かったが、やたらな読みやすさと快い怖さで一気に最後まで。 その最後がまた、予想外の不思議な終わり方! 思わず「宮部みゆきの火車も、俺達の夏も、まだまだ終わっちゃいないぜ!!」って海に向かって叫んでしまいそうになるね! それにしても、この作品における犯人像の不思議な描かれ方は格別だ。

No.84 8点
(2014/10/06 09:45登録)
失踪人の捜索といえば私立探偵の仕事。ただし、国内の推理小説で、現実感を重視すれば、『ゼロの焦点』のように当事者や一般人を捜索者に当てるのが自然です。本作ではその役回りを休職中の刑事にさせています。いいアイデアです。
警察組織を頼らずに捜索するので、その捜査は地道な聞き取りが中心です。読者は少しずつ解き明かされていく捜査過程を楽しむことができます。進展はゆっくりですが、それに合わせるようにじわじわとミステリー読書の興奮が湧き上がってきます。
これがいちばんの楽しみ方でしょう。盛り上がりなんて無くていい。あのラストも好みです。

本作についてはその他色々と感じるところはありますが、些細なことを1点だけ。
本間刑事の同僚の碇の初登場シーン。この場面は事件には関係ありませんが、この作家のうまさを象徴しているように思います。

宮部みゆき氏は社会派、時代物などなんでも書きますが、ひとことで言えばどういう作家なのでしょう。
ラストは大抵あっさり。謎解き解説はなし。だから本格派推理作家にはほど遠い。結局、ラストよりも中盤を重視したサスペンス作家なのでは、と思います。とはいえ本作は、主人公や読み手が感じるようなスリルはないので、狭い意味でのサスペンス作品とはいいがたいです。
と評価しましたが、じつは宮部長編は今回が初めて(映像ではけっこう観ているが)。本作のような力作を読むと短編をたよりなく感じます。むかし読んだ短編集は、内容はおろか表題すら忘れています。

久々の9点かと思ったが、それに及ばない何かを感じたので8点。
(追記)
本間の行動に執念が感じられたわりに、小説自体は社会派ミステリーとしての迫力に欠け、たんたんとしている。でもそれは、この小説の魅力でもあるようにも思う。

No.83 7点 アイス・コーヒー
(2013/11/02 19:24登録)
婚約者が失踪した親戚を持つ刑事の本間は、彼女が以前にカードローンで自己破産をしていることから捜査を始めるが…山本周五郎賞受賞作。
カードローンをテーマにした社会派として名高い作品だ。誰もがリスクを持ち、いつ転げ落ちてもわからないような奈落であるカードローンという問題。気を付けていれば大丈夫、という気やすいことではなかった。最近は「サービス向上」を謳った大手サラ金が勢力を伸ばしているが、リスクはより多くなっているのではないだろうか。現実的なテーマを深くえぐった大作だ。
また、人物の心の描写、恐怖や悲哀、未来への思いが細かく描かれていて心に直接刺さってくる。暗示や雰囲気も何とも言えず、見事だ。
うっかりしたら国民同士が共食いになってしまうような深刻な問題を真剣に取り扱ってる、それが読者に痛いほど伝わってくるのだ。軽率なマスコミなど相手にならない影響力を持っている。
ミステリかといわれると難しい。壮大な動機をテーマにしているのだから。宮部みゆきという作家をミステリの枠に閉じ込めることが間違っているのだろう。

No.82 6点 バード
(2013/09/28 12:26登録)
序盤~中盤あたりまでの謎をばらまく段階は読んでて面白かった。登場人物の発言もなるほどと思わせるものもありうまく書かれていたと思う。しかし中盤以降は喬子の行動をなぞり返すだけの作業を見せられているだけな感じがして正直少し読むのに飽きてしまっていた。序盤のワクワク感を維持できればなおよかった作品。

No.81 7点 E-BANKER
(2013/03/31 23:59登録)
850冊目の書評となる本作。
1992年発表、数ある作者の名作の中でも最高傑作と評されることも多い作品。
山本周五郎賞受賞作であり、各種ミステリーランキングでは必ず上位に押される逸品。

~休職中の刑事・本間俊介は遠縁の青年に頼まれて彼の婚約者、関根彰子の行方を捜すことになった。自らの意思で失踪、しかも徹底的に足取りを消して・・・。なぜ彰子はそこまでして自分の存在を消さねばならなかったのか? いったい彼女は何者なのか? 謎を解く鍵はカード社会の犠牲ともいうべき自己破産者の凄惨な人生に隠されていた。山本周五郎賞に輝いたミステリー史上に残る傑作~

社会派ミステリーとしてはさすがの出来栄え。
現代社会の病巣とも言えるカード・借金を背景とした事件に巻き込まれる休職中の刑事、事件を追い掛けるうちに浮かび上がるひとりの悲しい女性、そしてその女性をめぐる凄惨な不幸の連鎖・・・
まさに「社会派」として踏まえるべき体裁をすべて完璧に備えている・・・そんな感じ。
確かにちょっと「長いかな」という読後感にはなったが、それも作者の作品の特徴だし、刑事と犯人という主役級の二人だけでなく、息子の智や家政夫、女性の友人たちなど様々な登場人物の造形まで拘った結果なのだろう。

今の社会情勢からすると、本作で描かれているカード破産とか、サラ金地獄などの要素はちょっと古臭い感は拭えないが、社会の荒波に翻弄される人間の姿を浮かび上がらせる設定としては適切なセレクトだと思う。
本作でスポットが当てられる「彰子」と「○○(一応秘密)」の二人の女性・・・読んでてホントに切なくなってくる。
今でこそ自己破産や民事再生など法的救済策もメジャーになり、社会的な理解も深まったが、作中でも触れられているとおり、日本ではこういった金融教育があまり行われていないことが問題なのだろう(これは学校だけでなく、家庭でも教えないことが更に問題なのだが・・・)。
そういう面では20年前からそれほど進歩してないのかもしれない。

評価は迷うが、やっぱり根本的に作者の作品って評判ほどワクワクしないというか、ウマイけど個人的な好みからは外れてる。
まぁでも、非常によくできた作品なのは間違いないでしょう。
(ラストの一行が印象的なのは世評どおり)

No.80 8点 TON2
(2012/11/04 20:42登録)
実によくできた社会派ミステリーだと思います。
第一は、自己破産の仕組みやサラ金の取り立ての厳しさといった点の入門書となっています。今のミステリーは、単にトリックの奇抜さだけではなく、何らかの新たな知識が得られるようになっていることも重要なファクターだと思います。
第二は、実際の犯罪の生々しい場面がありません。全てが、休職中の刑事の推理として語られます。最後に犯人が現れることで、その推理が事実と一致していたことが分かります。

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