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ミステリの祭典

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石黒くんに春は来ない

作家 武田綾乃
出版日2016年11月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 メルカトル
(2017/01/27 22:15登録)
注意!最後にややネタバレ気味の発言があります。

いわゆる学園もので、スクールカーストやいじめの実態をリアルに描いた青春小説。ミステリかどうかは読み手の捉え方次第だが、ガチガチのミステリでないことは確かです。
まあ簡単に言えば、目には目を、歯には歯を、スマホにはスマホをという感じでしょうか。しかし、恐ろしいですねスマホ社会は。かのベ○キーの不倫騒動もこのアプリから流出したのがきっかけでした。
主人公のクラスには女王様とその取り巻きが存在しており、その女王様のいじめを受けて一人の生徒が自殺未遂?事件を起こします。その最上位のカーストに対して、誰がどのように立ち向かうのかが読みどころになります。しかし、それはいじめと言うより、女王様の身勝手な発言により狙われた生徒が次々と傷ついて不登校になるというもので、それほどハードなものではありません。そこが個人的には生ぬるいというか、いまひとつ逆襲のカタルシスが得られない要因となってはいますね。
例えば、北乃きい主演のドラマにもなったコミックス『ライフ』にも設定が似ていますが、こちらは一人の生徒を徹底していじめ抜くわけで、立場が逆転した時の爽快感は段違いです。
本作は終盤でようやくミステリとして機能します。やや意表を突かれますが、それほどのサプライズとは思いません。しかし、孤立した女王様を追い詰めるシーンは読みごたえがあります。

No.1 6点 人並由真
(2017/01/11 17:07登録)
(ネタバレなし)
 とある共学高校の2年B組に在籍する「私」こと、北村恵美。彼女は同じクラス内に存在する、読者モデルで<友人思い>を標榜する美少女・久住京香を頂点とするスクールカーストの現状に息苦しさを感じていた。そんな中、級友の男子・石黒和也が京香に恋心を告白した直後、スキー合宿で行方不明になり、やがて意識不明の状態で発見される。地味な印象の和也はまったく京香の眼中にはなく、その失恋の傷みが今度の惨事に繋がったとみられるが、一方で恵美は読書が好きな者同士としてその和也に秘めた思いを抱いていた。京香たちは病院で昏睡状態の和也の覚醒を待つ名目でLINE上に「石黒くんを待つ会」を創設し、その実、自分の取り巻きたちと無神経な冗談や弱者への攻撃に酔いしれる。だがそんなある日「石黒くんを待つ会」に思いがけない参加者の名前が…!

 実力派のアニメスタジオ・京都アニメーションの製作で話題を読んだ青春音楽アニメの秀作『響け! ユーフォニアム』の原作者・武田綾乃が著した初めてのミステリ。筆者はアニメ『ユーフォニアム』は一期も二期も楽しんで観ていたが、そっちの原作は正編も派生作品も未読のため、武田作品を読むのは今回が初めてとなった。
 
 それで内容については実に読ませる一冊で、強圧的なスクールカースト制に染まったクラス内に多様なキャラクターを配置し、じわじわとその状況が推移していく過程をじっくりと描き出す。もっともいわゆる犯罪性は希薄なため、ミステリというよりはサプライズやツイストもある現代のフツーの青春小説の範疇だろ、という部分もないでもないが。
 とまれ、少なくとも最後の真相露見と同時に言いようもない切なさ、そして人間の怖さともろさが読む側の眼前に迫ってくるあたりは<青春ミステリ>という形質でこの物語を語った意味が十分にあると思えた。
(ただしツイッターでも、おおむね絶賛の中で、本当にごく一部の人が疑問を投じていたが、この物語には一カ所、前提の部分で大きな疑問を感じさせる。ネタバレになるのでこの場では詳しく書けないが、むしろ「なんでそうなる」のソコの部分を強く押していったら、この作品はあと1~2点さらに評点が高くなったのにな、という気もするものだった…。)
 
 ちなみに読んだあとで知ったけど、作者はまだ女子大生だそうで、その意味でもこの筆力に感服。ミステリを引き続き執筆してくれることを願う。 

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