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ミステリの祭典

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葬式組曲

作家 天祢涼
出版日2012年01月
平均点7.29点
書評数7人

No.7 6点 パメル
(2023/08/02 06:34登録)
舞台は宗教的儀式に批判的な風潮が高まったことで、「葬式」をしないで火葬する「直葬」が主流となった現代日本。そんな日本において、S県だけは反発し、唯一葬式の風習を残した。そのS県の北条葬儀社に焦点を当てた連作集。
個人の心の内の深いところを解きほぐす「父の葬式」や、霊安室から死体消失という密室トリックを描いた「息子の葬式」など、章ごとにそれぞれの葬式が行われ、そこで起きた謎や騒動を葬儀社の従業員が解き明かしていく。その謎や推理は、葬式ならではのもので独特の説得力があるし、バリエーションに富んでいて魅力的。また、葬式の舞台裏を知ることが出来る。仕事内容と情熱を把握できるのはもちろん、大事な存在を失った者の心の傷みが葬式という行為を通じて痛切に伝わってくる。
日常の謎ミステリとしての読み応えもあるが、ラストの「葬儀屋の葬式」になると、連作ならではの仕掛けが炸裂し予想外の展開に驚かされた。巧妙なミスディレクション、回収されていく伏線と見えていた世界が変貌していく感覚が心地よい。

No.6 8点 八二一
(2022/10/09 20:48登録)
葬式が廃れた未来の日本を舞台に、鋭い論理のアクロバットが炸裂。
最終話の推理合戦は圧巻。

No.5 8点 メルカトル
(2017/01/24 22:20登録)
これは文句なしの8点ですね。
タイトルからの印象は、社会派?それとも日常の謎的なジャンルかなという感じですが、第一話の『父の葬式』は確かにそうでした。しかし読み進むにつれて意外にもトリッキーな連作短編集だということに気づきます。お棺の遺体消失、祖母の火葬を何とか回避しようとする喪主、まるで本物のような幻聴などを葬式というテーマを絡めながら、見事に本格ミステリとして昇華しています。
さらに最終話での見事な回収、素晴らしいです。
デビュー作の『キョウカンカク』からは考えられないほど作風を変えて、堅実な作品に仕上げており、年齢層を超越した誰もが楽しめ納得できる傑作をものにした感が強いです。

No.4 7点 青い車
(2016/02/10 21:13登録)
以下、各話の感想です。
①『父の葬式』 亡くなった人物の意思を読み解く話。語り手の心情を描いたドラマが良くできている高水準な幕開けです。
②『祖母の葬式』 こちらは遺族の隠された思惑を探る話。火葬が大きな鍵となるこの世界ならではのストーリーです。
③『息子の葬式』 消失した遺体の謎をめぐる話。母親のとった行動が心理的に納得できない感もありますが、伏線は巧妙です。心を打つラストもいいですね。
④『妻の葬式』 亡くなった人物が起こした(?)奇妙な現象の謎を解く話、なのですが謎解きの快感は今ひとつです。幻聴のカラクリも知ってしまえば何でもない印象。
⑤『葬儀屋の葬式』 これまでのエピソードがすべてひとつの線でつながる最終話ですが、この手のオチは個人的に食傷気味であまり歓迎できません。

総合的に見ると、ほとんどの作品が殺人そのものでなく既に亡くなった人物の謎をテーマとしているにも関わらず、物足りなさを感じさせないのはうまいです。主要登場人物のいずれにも好感がもてます。最終話が若干ゴテゴテしすぎているのを除けば、安定したクオリティといえると思います。

No.3 8点 HORNET
(2013/08/30 20:21登録)
 「〇〇の葬式」と題された各章で、視点人物が入れ替わっていく構成が、真相に関わっていくその仕組みが秀逸。スゴイ。葬式という形態が否定された近未来の日本という設定も面白く、各章単品でも楽しめるが、やはりこれは一冊を通して一作品となっている面白さこそ肝。作者の構成力、考えられた仕掛けに舌を巻いた。

No.2 7点 まさむね
(2013/01/19 15:18登録)
 「葬式は無駄」との世論から高額の葬式税が導入され,事実上葬式が禁止されている日本。今日では,何ら儀式もせず速やかに火葬する「直葬」が一般的となっている。しかし,S県だけは,葬式助成条例の施行により,唯一葬式が行われる地域に。そのS県での葬儀社,その社員,葬儀に係わる人々を取り巻く連作短編です。
 この設定自体が興味深いのですが,私は第一話「父の葬式」で完全に引き込まれました。年を経るにつれ,自分の身内を含めて葬式というものがある意味身近になってきますからねぇ。
 各短編とも,ミステリとしても良いのですが,死と遺族というものを考えさせられる内容,しかし決して重くはない軽快な語り口に好感。その流れで最終話に突入するわけですが…。なかなか凝ったプロットでしたね。私はかなり楽しめました。

No.1 7点 黒い夢
(2012/08/08 08:16登録)
お葬式をテーマにした連作短編集です。
日本においてお葬式を行わなくなりつつあるという設定の中でお葬式に対するさまざまな思いが取り上げられており、物語自体もとても面白かったです。
各編で取り上げられる謎についてもお葬式というテーマをうまくつかっていてよかったと思います。
最後の展開は予想をはるかに超えていましたが個人的にはとても満足でした。

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