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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.962 6点 東京輪舞
月村了衛
(2019/05/22 22:07登録)
昭和・平成の日本裏面史を「貫通」する公安警察小説!
かつて田中角栄邸を警備していた警察官・砂田修作は、公安へと異動し、時代を賑わす数々の事件と関わっていくことになる。
ロッキード、東芝COCOM、ソ連崩壊、地下鉄サリン、長官狙撃……。
それらの事件には、警察内の様々な思惑、腐敗、外部からの圧力などが複雑に絡み合っていた――。

昭和・平成史上最も重大な事件の裏には、こんな物語もあったかもという、あくまでフィクションであり警察小説の大河ドラマの様な感じです。
警察庁や警視庁、その傘下である公安の官僚を始めとする各ポストの登場人物が次々と現れ、頭を整理するのにやや苦労します。まあ私の読解力と頭の弱さの問題もありますが。結構な大作でスケールの大きさは感じますが、砂田という異動を繰り返す主人公を中心とした人間ドラマでもあります。

元々興味本位で読んでみたのですが、政治や時事問題に関心のあまりない人は読まないほうが良いと思います。特にロッキードと言われてもピンと来ない世代(私も含め)は正直難解な面がありますね。物語はロシアや北朝鮮も絡んできて、国際問題にも言及していますが、最後は悉く砂田の敗北という形で終焉します。そりゃあそうですよね、歴史は変えられないんですから。その意味でのカタルシスは訪れません。しかし、結末は哀愁に満ちており確かな余韻を残すものとなっています。


No.961 3点 増加博士の事件簿
二階堂黎人
(2019/05/17 22:10登録)
半分に千切られたトランプ、血染めの五芒星、握られた釣り餌、口の中の割れた茶碗、鼻の穴に突っ込まれた指…凶悪事件現場に遺されたあまりに不可解なダイイング・メッセージ。その真相に巨漢の名探偵・増加博士と痩身の羽鳥警部のでこぼこコンビが挑む!不可能犯罪、トリック、ユーモア、そしてウンチクがたっぷりと詰まった“頭脳刺激”系ミステリー誕生。
『BOOK』データベースより。

基本的にワンアイディアでお手軽に出来上がったショートショートの作品集。
それにしてもダイイングメッセージ物が多いですねえ。しかも、どれもこじ付けやダジャレみたいな感じのばかりで、総じて脱力系です。フェル博士をモデルにした増加博士なのに密室は僅かで、全く楽しめません。買う前にせめてAmazonでレビューを確認すれば良かった、失敗でした。ブックオフで100円だったから、まあいいか。でも時間の無駄遣いでした。
はっきり言って、やっつけ仕事感が半端ないですね。ちょっと頭を捻れば素人でも書けそうなものばかりで、これが二階堂黎人の作品集かと疑わしさすら覚えます。唯一面白かったのは『人工衛星の殺人』くらいでした。


No.960 5点 パラドックス学園 開かれた密室
鯨統一郎
(2019/05/15 22:24登録)
パラドックス学園というよりパラレル学園のほうがしっくりきます。確かにパラドックスに関しても記述はありますが、本筋はあくまでパラレルワールドですね。世界に名だたる若き日のミステリ作家たちが同じ学園に通う世界。しかも、彼らはミステリ小説に対する知識すら持っていない。そんな中で起こる密室殺人事件。これはなかなか魅力的な設定ではありますね。
しかし、大多数の人が何じゃこりゃと思うんじゃないでしょうか。特に本格志向の強い人ほどそのトリックの馬鹿馬鹿しさに怒りすら覚えるかもしれません。こんなものはミステリではないと一蹴するのは簡単ですが、あくまでメタミステリとの解釈により、個人的には納得できる内容でした。私は面白ければ何でもOKなくちですからね、このようなバカミスでも十分許容範囲内ですよ。

解決編はどんどんあらぬ方向へ向かって突っ走っていきますが、最終的にまさか作者が犯人とか言い出すんじゃないだろうなと危惧しましたが、何とか杞憂に終わり安堵しました。とは言え、犯人は意外すぎる人物で、しかもトリックがあれでは本を壁に叩き付けたくなる気持ちも分からないでもありませんが、それは出来ないような仕組みになっていたりします。
ともかく、「マトモ」なミステリではないので、それを了解したうえで読む分には支障はないですが、読者を選ぶ作品なのは間違いありません。
余談ですが、エラリー・クイーンの二人の正体には正直驚きました。油断してましたね。


No.959 6点 殺意は必ず三度ある
東川篤哉
(2019/05/13 22:25登録)
連戦連敗の鯉ヶ窪学園野球部のグラウンドからベースが盗まれた。われらが探偵部にも相談が持ち込まれるが、あえなく未解決に。その一週間後。ライバル校との対抗戦の最中に、野球部監督の死体がバックスクリーンで発見された!傍らにはなぜか盗まれたベースが…。探偵部の面々がしょーもない推理で事件を混迷させる中、最後に明らかになる驚愕のトリックとは?
『BOOK』データベースより。

殺人事件が起こるまでは非常にユーモアに富んだ文章で笑わせてもらいました。それ以降は、まあ普通の本格ミステリの範疇に収まると思いますが、全体的に緩い展開で緊張感はあまり感じられません。
問題のメイントリックに関しては、色んな意味で無理がありそうです。その奇想は認めざる得ませんが、現実味が薄いと個人的には言うしかありません。下手をするとバカミスになりそうなのですが、盲点を突いているのは確かです。しかし、わざわざ危険を冒してまでそんな面倒なことをするかという疑問は残ります。そりゃあフィクションだから、ミステリだから別にいいじゃん、みたいな意見は否定しませんけど。

一方、見立て殺人の理由は概ね納得の行くものであり、こちらはなるほどと思いました。
決して派手な作品ではありませんが、野球好きの方はさらに楽しめるでしょうし、そうでなくても老若男女誰でも気軽に手に取ることのできる好編ではないかと。肩が凝らなくて笑えるのがいいですね。


No.958 6点 傷物語
西尾維新
(2019/05/10 22:11登録)
全てはここから始まる!『化物語』前日譚! 全ての始まりは終業式の夜。阿良々木暦と、美しき吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハードアンダーブレードの出逢いから――。『化物語』前日譚!!

安定の面白さですね。安心して読めますが、どこか突出したところがあるかと言うとそうでもない。でも程々にスリリングで、萌え要素に関しては文句の付け様がありません。
これは阿良々木自身の物語であり、彼が人ならざる人間に変身してしまった原因を描いており、シリーズにとって欠かすことのできない作品でしょう。そして忍野との出会いも勿論明かされます。阿良々木暦の人間性にも迫りますが、前作でそれ程目立たなかった感のある委員長羽川翼の存在が、何より大きいのは誰もが認めるところではないかと思います。実際私の中では好感度急上昇です。それなのに、阿良々木が彼女の気持ちに気付いていないかのような振る舞い、或いは本当に気付いていないのか?判りませんが、ちょっと酷すぎるのではないかと。
あとがきにあるように、『化物語』よりも先にこちらを読んでも全然問題ないと思います。ただ、こんな事があったのに何故他の女子を?という疑問を抱かざるを得ないかもしれませんね。


No.957 7点 病葉流れて
白川道
(2019/05/06 22:36登録)
本作はミステリではありません。本格麻雀小説です。が、まあピカレスク・ロマンと言えなくもないので、その意味ではミステリと通じるものがあります。どなたが登録されたのか分かりませんが、そういった事を鑑みての登録だったのかもしれません。

麻雀小説はどうしても金字塔の『麻雀放浪記』と比較されると思いますが、ストーリー性などを比べると遠く及ばないものの、博打の世界にのめり込む主人公のあまりに苛烈な青春の日々や、闘牌シーンの迫力、アクの強い好敵手たちの描写は見るべきものがあります。
中でも大学の先輩である永田が博打に関する心構えを、主人公の梨田に伝授する言葉にはギャンブル全般に通じる金言が含まれており、なるほどと思わせます。それは取りも直さず作者の博打に対する考え方や発想であり、白川氏はその道でもかなりの腕を発揮したのではないかと想像します。
麻雀を打たない人にはピンと来ないでしょうから、お薦め出来ませんが、ギャンブル好きには堪らないと思いますよ。ただ、『麻雀放浪記青春編』などのように、最後の対決に臨む面子のそれぞれの境遇などにはページを割かれていませんので、その意味ではやや物足りなさを覚えるかもしれません。
麻雀を覚えて半年程度の大学一年生が、麻雀の猛者たちにどう立ち向かって行くのかが読みどころとなっています。娯楽小説としても一級品だと思います。


No.956 6点 ルビンの壺が割れた
宿野かほる
(2019/05/02 22:17登録)
「突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください」――送信した相手は、かつて恋人だった女性。SNSでの邂逅から始まったぎこちないやりとりは、徐々に変容を見せ始め……。ジェットコースターのように先の読めない展開、その先に待ち受ける驚愕のラスト。覆面作家によるデビュー作にして、話題沸騰の超問題作!

これはなかなか。Amazonで散々こき下ろされていますが、そんなに酷いとは思えません。確かにほとんど伏線なしでの種明かしはあまり感心しませんが、だからこそ驚愕が生まれるのではないでしょうか。別に本格ミステリという訳ではなし、読者が論理立てて推理できる余地が必要とも思いませんし、こうした形式の作品に限っては、特段アンフェアだの説明不足だのといった尺度で測るようなものではない気がします。イヤミスの突然変異的な新タイプと考えれば、十分納得の行く出来だと思います。

名探偵ジャパンさんは危惧されておられますが、大丈夫ですよ。私のような面白いものなら何でも読むという人間は意外と多いと思います。そういう人が本作を読んでもっと違ったミステリにも触手を動かすことは、すなわちミステリの裾野を広げるってことですから、今後のミステリ界に寄与する結果にもなり得るでしょう。
ミステリ小説というジャンルは、古の名作を超える斬新なアイディアをどんどん取り入れて進化を遂げて、様々に派生し、飽和し、それを破壊し、その中から新たな古典と呼ばれる作品群を生み出す、そうした歴史を繰り返すものじゃないでしょうか。少なくとも本作によって影響を受けた作家が出現する可能性も否定できませんしね。


No.955 4点 地球人類最後の事件
浦賀和宏
(2019/04/30 22:22登録)
世界中から見捨てられ、愛してくれる人などいない。孤独な高校生・八木剛士が持つ唯一の武器―それは敵弾にも倒れない不死身の力だった。この力をきっかけに出会った謎の美少女・松浦純菜へ抱いた初めての恋心。しかし彼の激しい被害妄想によって二人の絆は修復不可能に…。不幸のどん底に落とされた剛士を襲う、さらなる事件とは。
『BOOK』データベースより。

どうなんですかね、これ。流石に水増し感が半端ないと言いますか。リフレインと堂々巡り。正直くどいです。特に八木の己の容貌の醜さと、女に対する感情、どうしようもないリビドーなどが繰り返し綴られ、シリーズの他作品と同じ心理描写が食傷気味です。
一方、スナイパーに関する内情や組織は提示されますが、肝心の「なぜ八木が狙われるのか」が未だ判然とせずすっきりしません。ダラダラとした展開でいい加減うんざりしているところ、最後に話が急変します。次作が最終巻となるわけですが、一体どのような結末を迎えるのか、不安しかありません。

作品の出来不出来の差が激しいと言われる作者ですが、ここに来てあの日古書店でずらりと並んでいた浦賀和宏の名前の誘惑に負けて、本シリーズを置いてあるだけ総て購入したことが正しかったのか間違いだったのか、悩むところです。これまではそれほど悪くは思いませんでしたが、本作だけはちょっといただけませんね。完全にタイトル負けしていますし、内容はともかく次を読まざるを得ないような構造になっているあざとさも悪質と思えてなりません。最終巻に期待するしかありませんね。


No.954 6点 今昔百鬼拾遺 鬼
京極夏彦
(2019/04/27 23:29登録)
「先祖代代、片倉家の女は殺される定めだとか。しかも、斬り殺されるんだと云う話でした」昭和29年3月、駒澤野球場周辺で発生した連続通り魔・「昭和の辻斬り事件」。七人目の被害者・片倉ハル子は自らの死を予見するような発言をしていた。ハル子の友人・呉美由紀から相談を受けた「稀譚月報」記者・中禅寺敦子は、怪異と見える事件に不審を覚え解明に乗り出す。百鬼夜行シリーズ最新作。
『BOOK』データベースより。

百鬼夜行シリーズ最新作、だけど京極堂、榎木津、関口、木場(の四兄弟)が出ない抜け殻のような百鬼夜行。それよりも新シリーズ発進ということなのでしょうか。我々は10年以上も『鵺の碑』を待ち続けているんですよ、京極さん。原発問題で出せないとかとの噂もありますが、完成はしているはずですよねえ?出版できないのなら、とっとと次の作品に着手して欲しいのですが。それは順序として矜持が許さないんでしょうね、きっと。だからと言ってこんな形でお茶を濁そうなんて、そうはいきませんよ。敦子が主役ではいかにも荷が重いんです。で、結局このようなシリーズにしては極薄の小品になってしまっているじゃないですか。
まあ、面白かったですけどね。雰囲気だけは確かに『百鬼夜行』だけど、いつもの蘊蓄や憑き物落としや先の四兄弟の絡みがないと、やはり全然物足りません。なんと言っても、このシリーズはキャラの濃さが一つのウリなわけで、それがない本作はせいぜいスピンオフとしての価値しかないと思います。勿論、作品の骨格はしっかりしていますし、フーダニット、ホワイダニットがメインの本格ミステリではあります。ありますが、スケール感然り事件の入り組み方然り、到底京極ファンが納得いく出来ではない気がします。でも、結局『河童』も『天狗』も読みますよ、そりゃあね。


No.953 7点 きみのために青く光る
似鳥鶏
(2019/04/24 22:16登録)
青藍病。それは心の不安に根ざして発症するとされる異能力だ。力が発動すると身体が青く光る共通点以外、能力はバラバラ。たとえば動物から攻撃される能力や、念じるだけで生き物を殺せる能力、はたまた人の死期を悟る能力など―。思わぬ力を手に入れた男女が選ぶ運命とは。もしも不思議な力を手に入れたなら、あなたは何のために使いますか?愛おしく切ない青春ファンタジック・ミステリ!
『BOOK』データベースより。

これはなかなかの良作連作短編集です。とは言え、それぞれが独立完結した物語であり、共通点は青藍病患者が主人公であることと、静という性別不明の人物が登場することですかね。設定はファンタジーでありながら、より現実に即しており切実です。それは特に最終話によく顕れており、これだけでも読む価値は十分にある佳作揃いだと思います。最終話と似たような話を何作か読みましたが、これが一番現実的で異能を持ってしまったが故の深刻な心の葛藤がよく伝わってきます。

所謂いい話系が多く、また青春物としても優れていると思います。心に静かに語りかけてくるような、或いは思わずほろりと来るような、そしてスリリングな短編集です。性別年代を問わずお勧めできる隠れた名作と言っても過言ではないでしょう。


No.952 6点 脳人間の告白
高嶋哲夫
(2019/04/21 22:05登録)
日本の脳研究の最前線を走る医師・本郷を襲った突然の自動車事故。気が付けば彼は一筋の光もない暗闇の中にいた。感覚のない身体、無限にも感じる時間、そして恋人・秋子への想い…次第に彼の精神は、恐怖に押し潰されそうになる。やがて彼は、自らの置かれている驚愕の状況を知り絶望する。「何てことをしてくれたんだ!」―突然の刑事の来訪で揺れるK大学医学部脳神経外科研究棟三〇五号室を舞台に、衝撃の物語が幕を開ける!
『BOOK』データベースより。

生きているのか、死んでいるのか、生かされているのか・・・。
これは脳外科医本郷が事故である状況に置かれてからの、独白をベースにした物語です。彼の元に現れる同僚、恋人、刑事、肉親らを本郷は観察し、独自の目線である時は回想に耽り、又ある時は己の境遇を嘆き絶望します。
これ以上は何を書いてもネタバレに繋がりかねませんので控えますが、出来れば何の予備知識もなく読むのが最善です。勿論、解説すらも先に読んではなりません。と言うか、ここまで読んでしまった以上、そうも行かなくなったわけですが、余程の物好きな人しか読まないでしょうから、私が多少とも内容に触れたことは許していただきたく思います。でないと書評になりませんので。

重いテーマを扱っていますが、決して小難しい訳ではなく、むしろ淡々とした文章で読みやすい部類だと思います。専門用語も少なからず見られますし、多分に哲学的な面も内包してはいますが、エンターテインメントとしても十分機能しているのではないかという印象を受けます。いずれにせよ色々と考えさせられる異色の作品なのは間違いないですね。


No.951 6点 月の扉
石持浅海
(2019/04/18 22:25登録)
沖縄・那覇空港で、乗客240名を乗せた旅客機がハイジャックされた。犯行グループ3人の要求は、那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を空港まで「連れてくること」。ところが、機内のトイレで乗客の一人が死体となって発見され、事態は一変―。極限の閉鎖状況で、スリリングな犯人探しが始まる。各種ランキングで上位を占めた超話題作が、ついに文庫化。
『BOOK』データベースより。

サスペンスと本格、幻想(ロマンティシズム)小説が良い塩梅に融合されている印象。ハイジャックの実行犯と警察の心理戦だけでも結構読ませるのに、それにプラスして機内で殺人まで起こるという豪華さ。しかし、スケール感に対してショボすぎる不可能犯罪のトリックが肩透かしを食らわせます。ただ、座間味くんの緻密な推理と懇切丁寧な説明には頷かざるを得ません。これだけ親切に描写されては、ミステリファンばかりでなく、一般の読者をも引き込むのに十分な魅力を放っていると思います。

一方で師匠の存在感が薄く、その辺りもっと深堀していれば更に小説として深みが増したのではないでしょうか。タイトルにもなっている「月の扉」の意味もはっきりせず、なんとなくモヤモヤした感じが拭えません。
まあ、離着陸が麻痺した空港を舞台にしたシチュエーションはイマジネーションを掻き立てますし、それを月と対比すると一層美しさを増し、非常に絵になります。
何だかんだで面白かったです、最後のオチも好みの範疇ですしね。


No.950 2点 探偵・花咲太郎は閃かない
入間人間
(2019/04/15 22:02登録)
「推理は省いてショートカットしないとね」「期待してるわよ、メータンテー」ぼくの名前は花咲太郎。探偵だ。浮気調査が大事件となる事務所に勤め、日々迷子犬を探す仕事に明け暮れている。…にもかかわらず、皆さんはぼくの職業が公になるや、期待に目を輝かせて見つめてくる。刹那の閃きで事態を看破する名推理で、最良の結末を提供してくれるのだろうと。残念ながらぼくはただのロリコンだ。…っと。最愛の美少女・トウキが隣で睨んできてゾクゾクした。でも悪寒はそれだけじゃない。ぼくらの眼前には、なぜか真っ赤に乾いた死体が。…ぼくに過度な期待はしないで欲しいんだけどな。これは、『閃かない』探偵物語だ。
『BOOK』データベースより。

もうね、あれこれ書きたくないんですよ、愚痴になるから。一応2点にしましたが、二章がなかったら0点ですよ、0点。
タイトルが探偵は閃かないと言う位だから、推理しないのは自明の理であります。しかしそこはそれ、何らかのオチがあると思うじゃないですか。それが皆無なのです。花咲太郎は推理しないどころか、推理できないんですね。名探偵じゃないので。殺人が起きたり、殺し屋が現れたりして一応ミステリの体裁は備えているものの、全く推理しないで犯人が分かってしまうという、誠に荒唐無稽な内容のとんでもない代物です。
よくもまあ、このような作品を世に出したものだと感心するやら呆れるやら。これ程くだらない小説は生まれて初めて読んだ気がします。それでもAmazonのレビューに星5つつけている人がいるんですねえ。いやまあ、価値観の違いとしか言いようがありませんけど、それにしても・・・。出来れば、無かったことにしたいです。


No.949 6点 きみの分解パラドックス
井上悠宇
(2019/04/13 23:33登録)
天使玲夏は普通じゃない。感情表現が希薄で何事にも冷淡な態度を取る一方で、物をバラバラにするということに対して人並み以上の情熱を持っている性格は、きわめて異質と言わざるを得ない。天使玲夏の幼なじみで何よりも平穏を望む少年・結城友紀は、彼女と共に総合パズル研究同好会へと入部する。部長のカワシマ、片瀬愛莉、長谷部環希、玲夏、友紀の同好会メンバー5名は“アドレス”と呼ばれる犯人による、バラバラ連続殺人事件の謎を追うが、興味本位で調査を進める最中、校内で1人の生徒が殺害され―。
『BOOK』データベースより。

上記の内容紹介に一つ誤りがありますので一応訂正しますと、正確には「バラバラ連続殺人事件」ではありません。詳しい記述はありませんが、ただ単に何者かによる連続殺人事件というだけです。最後の事件では死体の一部が欠損していますが、他はその全容が明らかにされていません。

時折見せる、ハッとさせられるような表現が幾度となく私の琴線に触れます。そのせいもあり、この人の文章が私は好きです。本当に何気ない言葉であったり台詞であったりするのですが、うーん、なかなか説明が難しいですね。これは言わば感性の問題であって、分かる人には分かると思います。
さて本作ですが、天使を始め結城や他の同好会のメンバーや教師たちそれぞれが、どこかに異常性を持った人間ばかりで、青春ミステリと言っても爽やかさとは無縁の世界となっています。表面上は和気藹々に見えても、その裏で各々秘めた内面を隠しており、ダークな一面を醸し出しています。ミステリとしては決して派手ではありませんし、高度なトリックを駆使しているわけでもありません。しかし、独自の世界観を押し出しているのは間違いないと思います。物をバラバラにすることに生きがいを感じる天使と、それを元通りに復元する結城のコンビネーションが、作品に意味を持たせることにもなっています。


No.948 6点 連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山七里
(2019/04/11 22:27登録)
凄惨な殺害方法と幼児が書いたような稚拙な犯行声明文、五十音順に行われる凶行から、街中を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件”。それから十ヵ月後、事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、その跡からは粉砕・炭化した死体が出てきた。そしてあの犯行声明文が見つかる。カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった埼玉県警の渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし…。破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢の先にあるものは―。
『BOOK』データベースより。

必ず前作から読みましょう。でないと本作でも人間関係がよく理解できなかったりして、多分イライラすると思います。更には前作のネタバレをしていますので、その意味でも望ましくないでしょう。
残虐な事件の数々は雰囲気的に前作を踏襲しています(グロさも健在です)。それに加えて刑法第39条、ネット社会の問題点などを盛り込み、更に御子柴まで登場させて作品に厚みを加えていますが、構造は意外と単純ではあります。警察機構全体の動きが緩慢な嫌いがありますが、渡瀬と古手川のコンビがその分活躍して真相を追い、テンポは悪くありません。特に個人的に渡瀬の人間性が好みですね。ただ、中山が作家として成熟してしまって、前作と比較すると逆に荒々しさのようなものが薄れてしまっている気がします。続編としては成功の部類だと思いますが、やはり少々物足りなさを感じますし、前作と肩を並べる、或いは凌駕しているとは思いません。


No.947 4点 魔女の家 エレンの日記
ふみ-
(2019/04/07 21:52登録)
フリーホラーゲーム史上初、ゲーム原作者による書き下ろし! 「魔女の家」のはじまりに至る物語。
病気がもとで父と母に見放された7歳の少女“エレン"。両親を×したエレンは、逃げ出した先の路地裏で一匹の悪魔と出会う。
「エレン。君に“家"をあげるよ」
悪魔に誘われるまま、エレンは森の奥深くにある家で“魔女"として暮らし始めるが――。

Amazonで66レビューの内、86%が星5つ、9%が星4つという高評価なので読んでみました。しかし、私にはピンときませんでした。ゲームから入った人にとってはなるほどそうなのか、となるのかもしれませんが、そちらに興味のない読者にはふーん位にしか思えないのではないでしょうか。それ以前に、読み物としてどうかと思います。ストーリーも単純で何の捻りもありません。ホラーだからと言ってそうした技巧が不要なのかと疑問に思います。また、考えてみれば結構残酷なシーンでも、直截的な表現がなされていないので、禍々しさや怖さも伝わってきませんね。

Amazonの評価が一般的に普通の感覚なのか、私がマイノリティなのか分かりませんが、個人的には本作の良さが、残念ながらよく理解できませんでした。こういう低刺激なフワフワしたホラーが受ける時代なのでしょうか。


No.946 6点 化物語
西尾維新
(2019/04/05 22:19登録)
阿良々木暦を目がけて空から降ってきた女の子・戦場ヶ原ひたぎには、およそ体重と呼べるようなものが、全くと言っていいほど、なかった―!?台湾から現れた新人イラストレーター、“光の魔術師”ことVOFANと新たにコンビを組み、あの西尾維新が満を持して放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。(上巻)

青春を、おかしくするのはつきものだ!阿良々木暦が直面する、完全無欠の委員長・羽川翼が魅せられた「怪異」とは―!?台湾から現れた新人イラストレーター、“光の魔術師”ことVOFANとのコンビもますます好調。西尾維新が全力で放つ、これぞ現代の怪異!怪異!怪異。(下巻)
『BOOK』データベースより。

怪奇譚とラブコメのハイブリッドって感じです。まあ突き詰めれば、西尾流の純愛小説になるんだろうなと思いますが。勿論、キャラクター小説としても秀逸です。
しかし、戦場ヶ原と神原の個性が強すぎる反面、語り手で主人公の阿良々木はどこか優柔不断で影が薄い印象を受けます。自身も怪異に関わった人間ではありますが、次々に怪異に襲われる女性キャラたちを前に右往左往、お世辞にも格好良いとは言えませんね。彼は凡庸ですが、それが逆にヒロイン達を際立たせているので、損な役回りなのかもしれません。それにしてもこのハーレム状態は羨ましい限り。「萌え」が好きな人にはお薦めですが、私の様なおじさんにはちょっとどうかと。
本当は7点でもいいかと思いましたが、取り敢えずこれがシリーズ一作目で基準となりますので無難なところで6点としました。


No.945 6点 愚行録
貫井徳郎
(2019/03/29 21:54登録)
ええ、はい。あの事件のことでしょ?―幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家四人が惨殺された。隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。確かな筆致と構成で描かれた傑作。『慟哭』『プリズム』に続く、貫井徳郎第三の衝撃。
『BOOK』データベースより。

一家四人惨殺事件の被害者夫婦の過去を知る人々の独白が、ほぼ全編を占めていますが、これがかなり冗長でくどい印象を受けます。しつこい位に被害者の愚行を抉った上に、語り手自身の醜い面をも晒すことになります。この辺りは作者の特徴がよく出ていると思います。お世辞にもサクサク読めて気分爽快とは言えない貫井の面目躍如といったところでしょうか。

しかし読み終えてみて初めて、作者の心憎いまでの構成の妙を知ることになります。しかも最後の最後で意外なオチも付いてきます。道中は果たして上手く収束できるのか心配でしたが、見事に着地を決めてくれました。なるほどこんな手があるのかと、作者に賛辞を送りたくなりましたね。後味の悪さも健在ですが、これがまたクセになりますよ。


No.944 7点 七つの会議
池井戸潤
(2019/03/26 22:21登録)
きっかけはパワハラだった!トップセールスマンのエリート課長を社内委員会に訴えたのは、歳上の部下だった。そして役員会が下した不可解な人事。いったい二人の間に何があったのか。今、会社で何が起きているのか。事態の収拾を命じられた原島は、親会社と取引先を巻き込んだ大掛かりな会社の秘密に迫る。ありふれた中堅メーカーを舞台に繰り広げられる迫真の物語。傑作クライム・ノベル。
『BOOK』データベースより。

これはエンターテインメント小説の一級品でしょう。正直、主要登場人物一覧を見た時、その多さに果たして全容を十全に把握できるのか心配でしたが、それは杞憂でした。キッチリと各キャラを描き切っており混乱することはありません。
連作短編の形を取っていますが、長編として捉えるのが本来の姿ではないかと思います。最初は小さな違和感から次第に波紋が広がっていき、最終的には大企業をも巻き込む大問題に発展する様は、まるでパニック映画を観ているような興奮を呼びます。

各短編はそれぞれ視点が変わって、いわば語り手となる人物の性格や人となりだけではなく、家族との絆や確執、或いは生き様やその人物の抱える懊悩なども無駄なく描写されており、人間ドラマとしても優れています。
正義を貫くことと企業を守ることの二律背反に心が揺れることのない主人公は、まさにヒーローであり人間の善意の象徴として巨悪に立ち向かいます。しかし隠蔽しようとする側の措置も一概に責められないと思うのは、私だけでしょうかね。


No.943 5点 りぽぐら!
西尾維新
(2019/03/23 22:11登録)
リポグラムとは特定の語、特定の文字を使わないという制約のもとに書かれた作品のこと。
収録作品は『妹は人殺し!』『ギャンブル札束崩し』『倫理社会』のオリジナルとそのリポグラム版それぞれ4編の合計15編です。各々異なる平仮名10文字又は16文字を禁止ワードとし、それらを一切使わず同じ話4編を完成させるという、誠に奇矯で無謀な試みに挑戦した意欲作です。

オリジナル自体は面白いのですが、読者は全く同じストーリーを5回読まされることになり、いい加減飽きてくるのは致し方ないと思います。多少の忍耐力を要求されます。ただ、禁止ワードが異なることにより、作風も必然的に様々なものになり、例えればスープは同じで麺が違うラーメンを何度も食べるようなものって感じでしょうか。古文体であったり、耳慣れない単語を駆使したり、或いは造語を使ってみたりと苦労の後が伺えます。
段々レベルが上がって難易度が高くなっていくので、最後は何とか読解できるギリギリの線になってしまいます。特に「は」と「を」が禁止ワードに含まれている最終話はほぼ箇条書きに近く、これだけ読んだら疑問符の連続だったのではないかと思いますね。
システム上5編なのはやむを得ないですが、せいぜい3編位が限界でしょう。余程のファンでない限り正直キツイです。

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