メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.895 | 6点 | 第四の扉 ポール・アルテ |
(2018/10/14 21:37登録) 流石にカーの再来と言われるだけのことはありますね。ご本人もカーを信奉というか溺愛されているようで、不可能犯罪や怪奇現象、勿論密室もあり謎の提示は申し分ありません。そこまで大風呂敷を広げて収拾がつかなくなるのでは?という心配をよそに、怪事件の数々を合理的に解決に結びつけています。 しかしながら、手品の種明かしをされた時の様な拍子抜けの感は否めません。結局そんなことだったのか、確かに誤魔化しという訳ではないけれど、もっと意表を突くトリックを期待していただけに残念ではあります。 尚、作品の構成としては好きな部類で、解説の麻耶雄嵩が書いているように、まるで往年の新本格を彷彿とさせる作風にも感じます。しかし、その性質上名探偵のはずのツイスト博士が実際に事件に携わっていないのは物足りないですね。 又ジョン・カーターなる人物を登場させるなど、遊び心も忘れていません。本当はフェル博士を探偵役にしたかったのだそうですが、著作権の問題でしょうか、実現はしませんでしたが、他の作品でのツイスト博士の言動は、フェル博士にそっくりらしいですよ。 文体は平易で読みやすく、カーのファンにとっては一読の価値があると思います。フランスにもこんな作家がいるとは正直思っていませんでした。 |
No.894 | 6点 | 首無館の殺人 月原渉 |
(2018/10/10 22:06登録) 没落した明治の貿易商、宇江神家。令嬢の華煉は目覚めると記憶を失っていた。家族がいて謎の使用人が現われた。館は閉されており、出入り困難な中庭があった。そして幽閉塔。濃霧たちこめる夜、異様な連続首無事件が始まる。奇妙な時間差で移動する首、不思議な琴の音、首を抱く首無死体。猟奇か怨恨か、戦慄の死体が意味するものは何か。首に秘められた目的とは。本格ミステリー。 『BOOK』データベースより。 テンポよくストーリーが展開されるのはいいですが、連続して陰惨な殺人事件が起こるのだから、もう少しそれらしい雰囲気とか空気感が欲しかったですね。そこが一番悔やまれます。それさえクリアしていれば7点献上するに吝かではなかったです。 使用人探偵シズカの徐々に事件の核心に迫っていく推理は回りくどく、意味不明な点が多々ありますが、最後にはそれも納得のとんでもない真相が待っています。 伏線はそれほど多くはありませんが、主人公の言動や心理状態、宇江神家の人々のよそよそしさなどから、勘のいい読者はこの絡繰りに中盤で気づくかもしれません。読みながら挑戦してみるのも一興でしょう。 首を切断する理由、目的は他に類を見ないものだと思います。少なくとも私の読書歴の中では初めてです。顔を潰された死体が混じっているのもミソです。 そして『首無館の殺人』という仰々しいタイトルは伊達ではないと断言しても間違いとは言い切れません。 |
No.893 | 6点 | 図書館の殺人 青崎有吾 |
(2018/10/08 22:27登録) 個人的には、ロジックをあまりに重視したため、面白みと外連味がいささか足らなかったように思いました。しかし、サプライズ感はないものの、消去法を用いた裏染の推理は首肯せざるを得ません。ただ裏を返せばそれは重箱の隅をつつくようなもので、カタルシスを得られるような興奮は齎しません。少なくとも私にとっては。 更に言えば、そういう観点で語る作品ではないのは重々承知で敢えて書きますが、スケールが小さいです。論理性は重量級ですが、ストーリー性、プロット等に関してはあまり期待しないほうが良いですね。トリック重視、どんでん返し大好きという方にはお勧めできません。 意外な犯人像という点においては申し分ないですが、意表を突きすぎて「へ?」としかなりませんでしたね。まあしかし、普通に考えれば容疑者の中に明らかな動機を持っていそうな人物は見当たりませんし、結局そうなるのかーって感じですよ。論理と引き換えに、動機と犯人の心理面にまでは手が回らなかったような印象を受けます。 事件と並行して風ヶ丘高校の期末テストを巡る、各生徒の想いや意気込みなどが語られますが、正直どうでもいい気がしました。ただ、裏染と八橋の攻防はなかなか面白かったですが。 |
No.892 | 7点 | 赤い博物館 大山誠一郎 |
(2018/10/03 22:00登録) これは面白い。派手ではないけれど渋みのある、玄人好みのしそうな連作短編集の傑作。 いずれも世界が反転するのを目の当たりにすることができます。全体的に無理やり感はありますが、犯人の意外性、読者の目を欺く巧妙な仕掛け、大技ではないけれど切れのあるトリックなど、楽しめる要素が満載です。 館長で探偵役の緋色冴子警視の見事なまでのクールビューティーさ加減、良いですねえ。これ程まで沈着冷静で不愛想な主役の女性はこれまで存在しなかったのではないでしょうか。それに対して助手の寺田聡は個性があまり感じられず残念な人。 何人かの方が触れられていますが、『死に至る問い』の動機だけは納得できかねます。それに推理があまりにも斜め上に行き過ぎて、正しい道のりを辿るロジックとは言えないと思いますね。飛躍しすぎでしょう。これはフェアとは言いがたいです。 他の作品に関しては概ね成程と首肯でき、ハッとする瞬間がとても貴重な体験となりました。 いずれ劣らぬ奇想の連打といった珍品がラインナップされていると思います。どうしても地味な印象は拭えませんが。 |
No.891 | 6点 | 小鳥を愛した容疑者 大倉崇裕 |
(2018/09/27 22:09登録) 銃撃を受けて負傷した警視庁捜査一課の鬼警部補・須藤友三は、リハビリも兼ねて、容疑者のペットを保護する警視庁総務部総務課“動植物管理係”に配属された。そこでコンビを組むことになったのが、新米巡査の薄圭子。人間よりも動物を愛する薄巡査は、現場に残されたペットから、次々と名推理を披露する。 『BOOK』データベースより。 ミステリそのものよりも、十姉妹、ヘビ、亀、フクロウといった動物たちの生態や飼育法などの蘊蓄が楽しく、読みどころとなっている感じです。 動物たちが残した痕跡や、ふとした仕草などを鋭く見抜き、それらを犯人断定の材料として推理する薄圭子巡査のキャラは立っており、また過剰な動植物愛好家という新たな名探偵の登場とも言えると思います。元捜査一課の須藤友三との凹凸コンビの掛け合いは適度なユーモアを醸し出して、独特のいい味を出していますね。 勿論、動物と事件が有機的に繋がっており、十二分にその世界観を表現しています。ただし、ミステリとしては若干薄味でややインパクトに欠ける感は否めません。 薄と須藤のコンビネーションが次第にしっくりくるようになる様を楽しむのも一興ですし、動物についても目から鱗のためになる小説だと思います。 |
No.890 | 5点 | 異セカイ系 名倉編 |
(2018/09/23 22:09登録) 小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説通り悪の黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に…♪ってボケェ!!作者が姫を不幸にし主人公が救う自己満足。書き直さな!現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや!あれ、何これ。「作者への挑戦状」って…これ、ミステリなん? 『BOOK』データベースより。 なんじゃこりゃ!所詮、なろう系のラブコメだろう。こういうのを評価に値しないと言うんだよな。 これがメフィスト賞受賞作?落ちたもんだなあ。 こんなもん、2点で十分。 え?5点付けてるって。そうなんですよ、途中までは2点がせいぜいだと思いながら読んでました。正直、上記のような感想しか持てませんでした。 ところが、『作者への挑戦状』が出てきた辺りからなんとなくこの小説世界に入り込めるようになってきたんですよ。 メタにメタを塗り重ねたメタの多重構造に、いつのまにか自分まで取り込まれ、眩暈がしそうになりました。そして最後には「愛」が残ります。結局それかい、いい話で終わるんかい、つまり作者はすべての人、人類に対して愛を訴えたかったのだと思います。まあ、その心の叫びが読者全員に届くかどうかは疑問ですが、言いたいことやりたいことは伝わってきます。 なぜこの作品がメフィスト賞を?という素朴な疑問も、読み進むにつれなんとなく納得できたような気もします。それにしても最近の受賞作はどうも質が低下していると思われてなりません。 |
No.889 | 7点 | 女が死んでいる 貫井徳郎 |
(2018/09/19 22:24登録) 二日酔いで目覚めた朝、寝室の床に見覚えのない女の死体があった。玄関には鍵がかかっている。まさか、俺が!?手帳に書かれた住所と名前を頼りに、女の正体と犯人の手掛かりを探すが―。(「女が死んでいる」)恋人に振られた日、声をかけられた男と愛人契約を結んだ麻紗美。偽名で接する彼の正体を暴いたが、逆に「義理の息子に殺される」と相談され―。(「憎悪」)表題作他7篇を収録した、どんでん返しの鮮やかな短篇集。 『BOOK』デーベースより。 同名の初版はお笑いコンビ『ライセンス』の藤原をモデルに、グラビアと小説を合体させた単行本。 私が読んだのは同じ角川から8月に出版された文庫本で、『女が死んでいる』以外内容は全くの別物の短編集になっています。 貫井徳郎、流石だなあと思いました。一々面白く、切れ味鋭く、いずれ甲乙つけがたい秀作短編がズラリと並びます。本格度が高くなる程、トリックに関しては腑に落ちるというか、着地すべきところに着地している感じです。逆に本格から遠ざかるにつれ、意外性を発揮します。どちらが良いとも言えません、つまりはどれを取っても一級品なのではないかと。 本作のウリであるどんでん返しについては、これは凄いというのもあれば、まあそうなるだろうなというものもありますが、フェアプレイを貫いている姿勢は立派だと思います。 ミステリファンだけでなく一般読者にも広く読まれることを祈ります。 |
No.888 | 5点 | ナナフシの恋 黒田研二 |
(2018/09/12 22:29登録) 一学期の終業式、彼女は教室から飛び降り自殺を図った。夏休みが終わろうとするある日、親友の沙耶は一通のメールを受け取る。それは意識不明のはずの彼女から届いたメッセージだった。「明日の昼1時、私たちの新しい教室で待ってます」。集められたのは6人のクラスメイト。誰があたしたちを呼びだした?―。 『BOOK』データベースより。 それなりに面白いんだけど、場面設定が一貫して教室内だけなので、ちょっと飽きてしまうしダレます。もう少し変化が欲しかったところですね。プロットと言うか構成の問題でしょう。他の作家なら意識不明のクラスメイトの現在のシーンを挿入するなり、工夫を施したのではないかと思います。 青春小説としての一面も持ち合わせていますが、誰にも感情移入できず、中途半端な印象を受けます。それぞれ個性的に描かれているのは良いとしても、心の深奥までは程遠く、結果駒のように扱われているのがどうにも首肯できかねます。 それと、延々意識不明の少女の過去を詮索していますが、第一に問題となるのは果たして誰が6人を呼び出したかじゃないですかね。そこが端折られているのは読者として納得がいきません。 最終章の仕掛けというかトリックには驚きました、と言いたいところですが、予想通りでした。結局、このアイディアを生かしたいがために長々と物語は綴られているのだと思いますが、こういうのは短編で十分ですね。 |
No.887 | 7点 | 死と砂時計 鳥飼否宇 |
(2018/09/09 21:39登録) 死刑執行前夜に密室で殺された囚人、満月の夜を選んで脱獄を決行した囚人、自ら埋めた死体を掘り返して解体する囚人―世界各国から集められた死刑囚を収容する特殊な監獄で次々に起きる不可思議な犯罪。外界から隔絶された監獄内の事件を、老囚シュルツと助手の青年アランが解き明かす。終末監獄を舞台に奇想と逆説が横溢する渾身の連作長編。第16回本格ミステリ大賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 登場人物が多国籍であり、どことなく異国情緒を漂わせる本作はしかし、死刑囚ばかりが収容された監獄が舞台となっています。この閉ざされた異空間で様々な事件が起こります。その謎はとても魅力的なものばかりで興味が尽きませんが、トリックや殺害方法等にはいささか無理があるように思います。現実的にとても不可能であったり、細かい瑕疵がいくつか見られます。ですが、犯罪心理的或いは整合性という点でなるほどと思わせるだけの説得力は有しています。 どれも甲乙つけがたい佳作が並んでいますが、やはり最終話は掉尾を飾るに相応しい、読み応えのある納得の出来に仕上がっているように思います。途中から何となく先が読めてきますが、あの幕切れの衝撃は思わず心の中で叫ばずにはいられませんね。そんなバカな!と。 |
No.886 | 5点 | 夜鳥夏彦の骨董喫茶 硝子町玻璃 |
(2018/09/03 22:15登録) 女性客でにぎわう小さな骨董品カフェ『彼方』。そこには物腰が柔らかくて黒尽くめ、自らを「人間ではない」と称するあやしげな店主、夜鳥夏彦がいる。幸か不幸かそんな夜鳥に気に入られたアルバイトの大学生、深山頼政は、昔から「物」に触れるとかおしな映像が見えてしまう困った体質。そのために、曰く付きの骨董品や依頼人がくるたび、厄介なトラブルに巻き込まれてしまい…!?日常に潜む奇怪な現象に挑む、アンティーク・オカルトミステリ! 『BOOK』データベースより。 こうした作品は内容云々よりもまずキャラが大切です。頼政はともかく夜鳥夏彦の個性が変人ではあるものの、あまり魅力的な感じがしないのがどうも。怪しげな物語や悲惨な境遇に置かれた人間などが描かれている割りに、文体が軽いためどうしても薄っぺらな印象が拭えません。昨今流行のライトなミステリの範疇に入り、しかもシリーズ化されることを前提に書かれているので、今時の読者には幅広く受け入れられると思われます。当然、骨董に関する薀蓄などは語られません。 独創的な世界観は買えるものの、もう少しどうにかならなかったものかと強く感じますね。決して悪くはないんですが、すぐに忘れてしまいそうな、そんな作品です。 ちなみに、誤字脱字が非常に多いのも残念。 |
No.885 | 6点 | 症例A 多島斗志之 |
(2018/08/30 22:26登録) 精神医療に対する傾倒と情熱は、その夥しい参考文献を見るまでもなく十分に伝わってきます。作者はこの作品を執筆する前にさぞかし勉強されたことと思います。それは実際にカウンセラーの仕事をしている解説者の談からも分かります。 物語としては、ある精神病院と博物館のパートが交互に描かれていますが、正直後者はサイドストーリーであり余分だと個人的には感じます。それを思い切って省いてもう少しスリムにしたほうが、構成としてはすっきりして良かったのではないかと思わないでもありません。 この長い長い、実に丹念に描かれた作品の事実上のクライマックスは、なんと言っても岐戸医師の登場する件で、このシーンは特に引き込まれます。 ここで姿を現す症例は俄かに信じがたいものがあります(実際、映画や小説にはよく出てくるものの、本当に病気として存在しているのかどうか半信半疑な部分がおおいにある)が、それを実にリアルで本当かもしれないと思わせる筆力は流石です。 ミステリではないと思いますが、真正面から精神分裂病や臨床心理学、解離性同一性障害などと向き合う作者の真摯な姿勢は素晴らしいと思います。 |
No.884 | 7点 | 去年の冬、きみと別れ 中村文則 |
(2018/08/24 22:05登録) 芥川賞作家はどんなミステリを書くのかな、という興味本位で読み始めましたが、下手なラノベなどより余程読みやすく、クセのない文章で安心しました。最初はサスペンスを想起させる出だしでしたが、意外なほどしっかりとしたミステリに仕上がっていると思いました。ただ、プロットが少々入り組んでいてスッキリ爽快という訳には行きません。それは作品の性質上仕方ないですが、トーンが全般的に暗いですね。 確かにどこからが解決編なのか、やや判然としない印象もあります、というかいきなり真相が語られるため突如緊張感を強いられたりします。 トリック自体は少々無理がありそうな気もします。その程度の工作で果たして警察の目が誤魔化せるのか、その意味では現実味が薄いのではないかと思います。ですが、解説で作者自身が語っているように、総ての伏線が回収されているのはお見事ですね。 最後の一文が問題になっているようですが、被害者が仮名なので分かりづらいのかもしれませんが、そこをクリアすれば考えるまでもないでしょう。 面白いとかの物差しで計るべき作品ではない、それだけでは語り切れない、まさに異色作だと思います。地味なのにこれだけヒットした理由が分かる気がします。 |
No.883 | 7点 | 刑事のまなざし 薬丸岳 |
(2018/08/22 22:16登録) 良作が並ぶ刑事・夏目信人シリーズ第一弾の連作短編集。 どれも甲乙つけがたい作品ばかりですが、これといって突出したものはない印象です。しかし、なかなかの高水準を保っていると思います。 ヒーローではない、刑事らしくない優しさを持った主人公の夏目は、その心情が描かれていないためどこか謎めいていますが、人間の良心の象徴としての存在を表しているのではないでしょうか。 薬丸岳という人は、被害者が加害者に様変わりする構図を得意としているようですね。そこには理不尽とも言える現実に抗おうとして苦悩する生身の人間が描かれており、総ての作品において何が正義なのかを読者に問おうとしているように思われて仕方ありません。 ミステリとしては、それほど複雑な構造ではありませんが、程好い意外性が読んでいてなるほどと思わせ、そして静かに訴えかけてくるような短編集と言えると思います。 また、個人的に気になるのは夏目の娘で、彼女の未来には一体どんな境遇が待っているのか、どうかそれが幸福であることを祈るばかりです。 |
No.882 | 7点 | 闇の底 薬丸岳 |
(2018/08/17 22:10登録) 幼女に対する性犯罪、司法の在り方、被害者の遺族の憤りと深い憎しみ、「社会派」として色々考えさせられる作品でした。その割にはリーダビリティに優れているためか、すんなり読めます。重いテーマを巧妙にエンターテインメントに昇華しているとは思いますが、深く掘り下げられているかというと、そうでもない気がします。まあ、これ以上ディープに過ぎるとそれはそれで胃がもたれそうですが。 ミステリとしては一貫してフーダニットに拘っています。果たしてサンソンは誰なのか、最後の最後まで予測がつきません。見事にやられた感じですね。本格ではないので伏線や手がかりなどで犯人を推理できる仕組みにはなっていませんが、意外性は買えます。 ラストは意見の別れるところだと思いますが、個人的にはそうあって欲しくなかったなというのが正直な感想です。 しかし、どこまでも破綻することなくよく考えられたストーリーだと思います。テンポもいいですしね、時間があれば一気読みするのが理想じゃないでしょうか。私のようにいちいち立ち止って無駄に時間を掛けるのがもったいないような作品です。 |
No.881 | 5点 | 言壺 神林長平 |
(2018/08/12 22:07登録) 万能著述支援用マシン“ワーカム”に『言語空間が揺らぐような』文章の支援を拒否された小説家・解良翔。友人の古屋は解良の文章の危険性を指摘する。その文章は,通常の言語空間で理解しようとすると,世界が崩壊していく異次元を内包しているのだ。ニューロネットワークが全世界を繋ぐ今,崩壊は拡大されていく…第16回日本SF大賞受賞作品。 「BOOK」データベースより。 言葉を様々な角度から鋭く抉る本格SF小説。テーマがテーマだけに文章が非常に硬質ですね。もう少し柔らかくユーモアを交えても良かったのではないかと思います。 『私を生んだのは姉だった』この矛盾した文章をワーカムは当然のごとく受け付けません。小説家解良はいかにしてこの問題を解決に導くのかが読みどころの『綺文』など、奇想が連打される連作短編集となっています。 SFファンには堪らない内容となっているように思いますが、句点を排除した『乱文』などは私には全く理解不能でした。と言うか、途中で放棄したくなります。まあ短いのが救いでしたが。全体的に鮮やかなオチや収束を期待すると裏切られるかもしれません。 |
No.880 | 7点 | 死者のための音楽 山白朝子 |
(2018/08/05 22:12登録) 教わってもいない経を唱え、行ったこともない土地を語る幼い息子。逃げ込んだ井戸の底で出会った美しい女。生き物を黄金に変えてしまう廃液をたれ流す工場。仏師に弟子入りした身元不明の少女。人々を食い荒らす巨大な鬼と、村に暮らす姉弟。父を亡くした少女と巨鳥の奇妙な生活。耳の悪い母が魅せられた、死の間際に聞こえてくる美しい音楽。人との絆を描いた、怪しくも切ない7篇を収録。怪談作家、山白朝子が描く愛の物語。 「BOOK」データベースより。 乙一が山白朝子名義で怪談専門誌『幽』に寄稿した作品を纏めた短編集。 ジャパニーズ・ホラーというか怪談、いいですねえ。表題作はあまりピンと来ませんでした、『鬼物語』はただただ怖いだけであまり感心しませんが、その他はどれも佳作揃いと言っていいんじゃないでしょうか。いかにも乙一らしい、怖くておぞましいけれど、どこか切なく優しい面を覗かせる逸品が並びます。 経験がないのに懐胎してしまう女の物語『長い旅のはじまり』、最後にエッジを効かせた『黄金工場』も良いですが、個人的には『鳥とファフロッキーズ現象について』がイチオシですね。大型の名前も知れぬ鳥と、父娘との温かい交流と残酷な最後、これは泣けます。 しかし、最も氏の本領を発揮しているのは『井戸を下りる』でしょうか。この怪しげな世界観は最早誰にも真似できないといっても過言ではないと思います。 |
No.879 | 6点 | 黒百合 多島斗志之 |
(2018/08/01 22:27登録) 細かすぎて伝わらないモノマネ選手権じゃないけど、伏線とミスリードが細かすぎて伝わらないミステリって感じの作品。 探偵役がいない為、結局犯人の名前さえ明示されないとは。それくらい推理せよということだと思いますが、ちょっと不親切ではないでしょうかね。あまりにも説明不足です。ラストでえっ?とはなりましたが、一瞬それが何なのと。そしてよくよく考えてみれば・・・あれがああなって、あの人があの人でと、色々思い返してみて漸くなるほどと思えるみたいなね、もう頭が混乱して一度整理してみないとよく理解できない小説です。 一見青春小説としか思えないですが、一皮剥けば作者のずる賢い企みと欺瞞に満ちたミステリが徐に姿を現します。その意味ではなかなか稀有な小説だと思いますが、上手く融合されているとは言い難く、二種類の物語に分離されていると思われても仕方ないでしょう。 それにしても、この手の小説はせめて解説で断りを入れてネタばらしをしないといけないんじゃないですか。解説者も関係ない話に終始して肝心なところを省いてしまっちゃダメでしょうよ。 明快な解決編を楽しみたい本格ミステリファンにはお勧めできませんが、二度読み覚悟で自力で読み解き、達成感を得たい方は楽しめると思います。 |
No.878 | 6点 | 絞首台の黙示録 神林長平 |
(2018/07/27 21:53登録) 一読後、奇妙な小説だと思いました。面白いかどうかという観点に立てば、面白くはないです。しかし、これまで体験したことのないような不確かな、不安定な気分にさせられる作品であることは間違いありません。 信仰、宗教、意識、死、憑依、クローンなどのガジェットが入り乱れ、混沌とした世界を繰り広げ、何度も何度も繰り返し同じテーマが議論される様は、まさに堂々巡りの様相を呈しています。作者はそれを否定していますが、普通の作家が10ページで書くことを、この人はその何倍ものページ数を割いて、執拗に読者を追い詰めようとします。というか、自分で自分の首を絞めているような気さえします。 結局何がどうなったのか、誰が誰なのか、どのような世界観を体現しようとしているのか、細心の注意を払って読まなければ最後の最後まで分かりません。じっくり読んでも、おそらく作者の意図していることを十全に理解できる読者はほとんどいないかもしれません。 ジャンルとしてはSFだとは思いますが、幻想小説の色も濃く、何とも言いようのない怪作ということになるでしょうか。 断っておきますが、本作は万人受けする作品ではありません。多少頭が痛くなっても未体験ゾーンを味わってみたい人のみ読まれるのがよろしいかと思います。 |
No.877 | 7点 | MM9 山本弘 |
(2018/07/22 22:00登録) 地震、台風などと同じく自然災害の一種として“怪獣災害”が存在する現代。有数の怪獣大国である日本では、怪獣対策のスペシャリスト集団「気象庁特異生物対策部」、略して「気特対」が日夜を問わず日本の防衛に駆け回っていた。多種多様な怪獣たちの出現予測に正体の特定、そして自衛隊と連携するべく直接現場で作戦行動を執る。世論の非難を浴びることも度々で、誰かがやらなければならないこととはいえ、苛酷で割に合わない任務だ。それぞれの職能を活かして、相次ぐ難局に立ち向かう気特対部員たちの活躍を描く、本格SF+怪獣小説。 「BOOK」データベースより。 本格怪獣小説かつSF作品。充実した内容で特撮ファンは必須アイテムと思われます。 多重人間原理、神話宇宙などの多少小難しい理論が出てきますが、理解できなくても全く問題ありません。ただただ、気特対の活躍と、個性溢れる怪獣たちの暴れっぷりを堪能して楽しむ娯楽作と割り切ればいいのです。そうすれば必ず誰が読んでも満足できると私は信じます。 中でも気特対の部員で主役級のさくらと少女怪獣のヒメには思わず感情移入してしまいます。映画『キングコング』を彷彿とさせるシーンなど、一脈通じる部分があるようにも思えます。 ちなみに気特対はそう、科学特捜隊、略して科特隊をもじったものと推測できますね。忘れていましたが、MMとはモンスター・マグニチュードの略で、怪獣のスケール、被害の度合い(推定)を測る尺度です。 |
No.876 | 5点 | レスト・イン・ピース 6番目の殺人鬼 雪富千晶紀 |
(2018/07/16 22:20登録) 大学生の越智友哉は、中学の同窓会に参加することに。しかし集まったメンバー達は、一様に何かに怯えていた。そんな中、1人が突如変死する。実は既に元級友が6人も、謎の死を遂げているという。更に続く旧友の死に、友哉は元彼女のリカらと共に調査を開始。近現代の連続殺人犯たちをモチーフにした、テーマパークのホラーハウス、“殺人館”の呪いではと推測するが…。このどんでん返し、予測不可能!究極のホラーミステリ、登場!! 「BOOK」データベースより。 そりゃあ予測不可能ですよ。確かにどんでん返しですよ。でもねえ、そこに至るまでが。文章や構成が下手、もしこれを手慣れた作家が手掛けていればそれなりの傑作に化けたかもしれませんね。 例えば「息を吐いた」という文言が十回以上出てきます。表現力不足なのか、くどいのか分かりませんが、正直またかと何度も思いました。その度にやるせない気持ちにもなりましたよ。もう少し読ませてくれないと、若干飽きが来ます。人間も描けてません、全く無個性の学生たちがどんな言動をしようと、少しも心が動きませんよね。 内容的にはホラー半分ミステリ半分って感じです。 あるトリックが効果的に使用されていますが、多くの読者は最後まで騙されると思います。その意味ではまあ作者の狙いは成功なのでしょう。決してアンフェアという訳ではありませんが、やられた感やカタルシスは生まれません。何故ですかね。 |