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ミステリの祭典

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七つの会議

作家 池井戸潤
出版日2012年11月
平均点7.60点
書評数5人

No.5 7点 メルカトル
(2019/03/26 22:21登録)
きっかけはパワハラだった!トップセールスマンのエリート課長を社内委員会に訴えたのは、歳上の部下だった。そして役員会が下した不可解な人事。いったい二人の間に何があったのか。今、会社で何が起きているのか。事態の収拾を命じられた原島は、親会社と取引先を巻き込んだ大掛かりな会社の秘密に迫る。ありふれた中堅メーカーを舞台に繰り広げられる迫真の物語。傑作クライム・ノベル。
『BOOK』データベースより。

これはエンターテインメント小説の一級品でしょう。正直、主要登場人物一覧を見た時、その多さに果たして全容を十全に把握できるのか心配でしたが、それは杞憂でした。キッチリと各キャラを描き切っており混乱することはありません。
連作短編の形を取っていますが、長編として捉えるのが本来の姿ではないかと思います。最初は小さな違和感から次第に波紋が広がっていき、最終的には大企業をも巻き込む大問題に発展する様は、まるでパニック映画を観ているような興奮を呼びます。

各短編はそれぞれ視点が変わって、いわば語り手となる人物の性格や人となりだけではなく、家族との絆や確執、或いは生き様やその人物の抱える懊悩なども無駄なく描写されており、人間ドラマとしても優れています。
正義を貫くことと企業を守ることの二律背反に心が揺れることのない主人公は、まさにヒーローであり人間の善意の象徴として巨悪に立ち向かいます。しかし隠蔽しようとする側の措置も一概に責められないと思うのは、私だけでしょうかね。

No.4 9点
(2019/01/23 10:15登録)
「シャイロックの子供たち」と同様の連作短編スタイルであるが、本書はさらに進化させた、まぎれもない長編ミステリーである。著者にとって、短編ごとの謎解きなんてどうでもよかったのだろう。短編をつないでどうやって大きな真相にもっていくのか。一話まるごとが伏線で、しかも一話ごとにも楽しめる。
どんな事件が待ち受けているのだろうか?何が謎なのか?中盤になってもわからない。そこがこのミステリーの面白いところ。

(以下、ネタバレ風)

じつは、本書のストーリーは、5,6年前にNHK版の「七つの会議」を観て知っていた。原作とは主人公が変えてある。というか原作には、短編ごとに主人公がいても全体としては、くせ者ぞろいの群像劇スタイルなのではっきりしない。「東京建電」という企業が主人公といってもいい。しかし、最終的には、ある人物が主人公で、他のある人物が最大の悪者であると判明する。だからこそ、晴れ晴れとした120%の満足感は得られたが、犯罪小説に徹してみるのもよかったのかも。
その点だけが個人的にはマイナス要素だった。なおテレビ版では悪側で苦悩する主人公がよかった。
まもなく公開される映画版は、原作に近いのか、テレビ版に近いのか、それともさらにガラッと変えてあるのか。配役を見てある程度想像できたが・・・

東京建電の親会社である企業の会社名がすごい。これは、映画ではもちろん、スポンサーのないNHKでも使わなかった。
この親会社の社長だけはまともかと思いきや、この人物も出来がよくない。内部告発の可能性を考えれば最後の判断はダメ。あんな状況だから判断も鈍るのか。

No.3 8点 麝香福郎
(2018/09/26 20:11登録)
組織で不祥事が起きたとき、正義を貫くことの困難をオムニバス調に描いている。
「東京建電」は古い体質の中堅電機メーカー。男社会で縦社会。女性社員が自由にものを言える雰囲気はない。冒頭の理論から言えば、職場環境は最悪だ。業績を追求するあまりに強度不足のネジが横行し、幹部たちは隠蔽に走る。
実際に日本の大企業でも同様の事件が後を絶たない。組織内で一人一人にプレッシャーがかかると、間違いは起こり得る。心の中では不正をただしたいと思う人も多いのだろうが、上司の圧力や自分の地位を守るため、見て見ぬふりをしてしまうのかもしれない。
物語では、一見ぐうたらと思われていた社員が不正を告発する。「虚飾の繁栄か、真実の清算か」。最終盤の一文がピリッと効いて印象的。もちろんその社員が選んだのは後者。私も白と思うことは白と言える自分でありたい。そう強く感じた。

No.2 6点 haruka
(2016/03/13 19:33登録)
一話ごとに主人公を変え、東京建電という会社を舞台に物語が進んでいく。「シャイロックの子供たち」と同様の作風で、自分も東京建電の社員になった気持ちで読んでしまう。

No.1 8点 E-BANKER
(2013/01/19 18:12登録)
作者の新刊は、十八番の連作短編集。
日本を代表するメーカー・ソニックの関連会社・東京建電が本作の舞台。

①「居眠り八角」=東京建電恒例の営業会議。営業部のエース・坂戸課長が熱弁を振るう中、いつものように居眠りするのが部下の八角。八角に対し強硬な態度を続けていた坂戸がパワハラで訴えられたことで、社中に謎と激震が走る。もうひとりの課長・原島の視点を軸に物語はスタートを切った。謎を残して・・・。
②「ねじ六奮戦記」=ねじ製造業を営む中小企業・「ねじ六」。三代目として悩みながら会社経営に奮闘していた逸朗の元に、東京建電・坂戸から無理難題なコストカットが通知される。悲嘆にくれるなか、一筋の光明が訪れるのだが・・・。
③「コトブキ退社」=不倫に破れ、日常の仕事にも飽き飽きした東京建電のOL・優衣。予定もないのに結婚退職すると通知した彼女が、自分を変えるために最後に挑んだのが社内での軽食販売プロジェクト。腰掛けOLが自分の殻を破っていく姿には何だが考えさせられるが・・・。
④「経理屋稼業」=本編の主人公は経理部課長代理の新田。しかも彼は③に登場した優衣の不倫相手。コストアップの原因となっている営業部・原島課長の行動に疑問を抱いた新田は単独調査を始めるのだが・・・。この新田の人となりとか、人当たりはねぇー身につまされる。物語はこの辺から急展開していく。
⑤「社内政治家」=本編の主人公は出世競争に破れ、閑職へ押しやられた男・佐野室長。顧客からのクレームを調査していくうちに、佐野もまた社内の謎、不審に気付き調査を始める。そして起こした行動が内部告発。ただし、これは動機がちょっと不純。まぁ、部下を徹底的に馬鹿にする上司ってどこにもいるものです。
⑥「偽ライオン」=東京建電を牛耳る営業部長・北川。野心を抱き、ライバルを蹴落とし、出世競争を勝ち抜いた北川は、しかし失ったものも多かった。そして、ついに暴かれる社内ぐるみの旧悪。
⑦「御前会議」=親会社からの出向役・村西がついに知ることになった社内の旧悪。それは、親会社の屋台骨をも揺るがしかねない大事件だった。そして開かれる親会社での役員会議。その結果は・・・会社の論理といえばそれまでだが。
⑧「最終議案」=揉み消されるはずだった旧悪がついに露見。それぞれの人生を賭して働いてきた男たちの行く末は実に皮肉なもの。まぁこれが「勧善懲悪」ということかもしれないが・・・

以上8編。
うーん。重いねぇ・・・
最近やや軽め・明るめの作品が続いていただけに、初期の作風に戻ったかのように重厚で考えさせられるストーリーだった。
いつもなら時代劇ばりの勧善懲悪で、勝者と敗者の姿をくっきりと象徴的に浮かび上がらせるのだが、本作の登場人物には明解な勝者は存在しない。「会社の論理」という見えないルールに縛られ、翻弄されていく男たちの姿はよく理解できるだけに切なくなる。
みんな頑張ってるんだけどなぁ・・・。家族のため、生活のため、会社のため、そして自分のため。
でもそれだけではダメなんだろう。
一人の人間として「矜持」を持って、この厳しい時代・世の中を生きかなければならない・・・実に青臭いがそんなことを考えさせられる作品。
サラリーマンにとっては、自身の仕事や人生を振り返るためにも一読してみてはいかがだろうか。

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