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ミステリの祭典

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愚行録

作家 貫井徳郎
出版日2006年03月
平均点5.67点
書評数12人

No.12 5点 パメル
(2024/07/07 19:26登録)
第135回直木賞候補にもなり、映画化もされた作品。
静かな住宅街で起きた一家四人惨殺事件。被害者となったのは、エリートの夫、美しい妻に二人の子供。幸福を絵に描いたような家族が、なぜ無残にも殺されなくてはならなかったのか。
取材を受ける関係者の証言と、兄と会話する妹の告白が交互に繰り返される。初めは被害者を悼んでいた証言者たちが、インタビューが進むにつれて徐々に心に潜む悪意がむき出しになっていく。被害者たちにまつわるエピソードも、それを語る証言者たちも、自分のことは棚に上げて他人を陥れるように話そうとする愚かなものばかり。幼児虐待やスクールカースト問題についても触れていて、人間の嫌な部分が多く描かれている。
もう一つのポイントとなるのが少女の独白。この少女の暮らしぶりが悲惨で、読むのが辛いと感じる読者も多いのではないか。少女自身が自分の生活を普通に受け入れてしまっているところが、いっそう哀れで仕方がない。彼女の独白が、本筋である殺人事件と思いがけないところで結びついていく過程は見事。

No.11 6点 メルカトル
(2019/03/29 21:54登録)
ええ、はい。あの事件のことでしょ?―幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家四人が惨殺された。隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。確かな筆致と構成で描かれた傑作。『慟哭』『プリズム』に続く、貫井徳郎第三の衝撃。
『BOOK』データベースより。

一家四人惨殺事件の被害者夫婦の過去を知る人々の独白が、ほぼ全編を占めていますが、これがかなり冗長でくどい印象を受けます。しつこい位に被害者の愚行を抉った上に、語り手自身の醜い面をも晒すことになります。この辺りは作者の特徴がよく出ていると思います。お世辞にもサクサク読めて気分爽快とは言えない貫井の面目躍如といったところでしょうか。

しかし読み終えてみて初めて、作者の心憎いまでの構成の妙を知ることになります。しかも最後の最後で意外なオチも付いてきます。道中は果たして上手く収束できるのか心配でしたが、見事に着地を決めてくれました。なるほどこんな手があるのかと、作者に賛辞を送りたくなりましたね。後味の悪さも健在ですが、これがまたクセになりますよ。

No.10 6点 斎藤警部
(2018/05/02 08:46登録)
個人的にイヤミスってのはスカッと爽快になりたい時に(80年代のヤングが山下達郎を聴く感じで)読みたいもんなんですが、本作はあまりに文芸として優れているせいか(?)中途半端に嫌な気持ちを沈殿させたままで終わるのか。。と思いきや最後に、嫌悪よりも哀しみの方角に大きく舵が切られ、おかげで読者の気持ちは美しく締まった。。。。ってそりゃなんて理不尽な感動だ!! 被害者夫婦の裏の顔みたいなものは、おぞましいとは言えないレベルではないかな(ストーカー撃退の件は若干エグかったですが)、その割に、結果として引き起こされた犯罪の限り無い重篤さ。。。その根本原因は被害者よりも犯人側の育ったあまりに悲劇的環境の方に大きく比重が偏っていますよね。そこに、ミステリとしては一抹の不満が。。 さて本作、真犯人が現在おかれている状況に一ひねり+αあるのが推理小説としての美点ですね。●●●●●●臭さを感じさせない、格調ある物語構成も良し。

No.9 5点 haruka
(2017/03/04 20:06登録)
いろいろな企みに満ちた作品だと思うが、いまひとつ何が言いたかったのか分からなかった。オチが気になって最後まで一気に読んだのだが、ちょっと期待外れな結末だった。

No.8 5点 まさむね
(2017/02/26 17:55登録)
 長らく我が家で積読状態になっていた本書。映画化され、公開されるとのことで本棚から引っ張り出してきた次第です。相変わらずミーハー気質ですみません。(私は誰に謝っているのだろう?)
 エリートサラリーマン一家4人の惨殺事件について、ある週刊誌記者が行なった、複数の関係者らへのインタビューが物語の基軸となります。インタビュー形式の各話の間に、ある女性の独白が小出しにされ…という構成。まぁ、タイトルどおり、様々に「愚か」です。そして哀しくなります。どうにもやるせない。
 ミステリとしてはこの位の採点としますが、確かに映画向きのような気がします。(凄く暗くなりそうな予感もありますが。)監督がどう料理するのか、映画も観たくなりましたね。

No.7 7点 パンやん
(2017/02/07 11:51登録)
それぞれの証言者たちの主観で築かれていく殺されたエリート家族の実像以上に、サイコパスとなった犯人が哀しい。キレる人はいるが、皆殺しにするという理性の欠けた人間が生まれる過程(家庭でもある)が怖い。目新しくはないが奇抜な構成のトリックの妙を堪能されたし。

No.6 6点 モグ風
(2014/12/29 17:36登録)
一家惨殺事件を
たくさんの人(近所や職場などの周辺人物)のどうでもないような日常的な話から事件の真相に迫っていくというストーリー。
どういったことがどの様につながっているのか、誰々はどういった人物であるのかを少しづつ描いて暴いていく様がこの本の要であり見どころなのかな❔
オチはイマイチでした。全体としてはこういうプロットもありと思ったのでこの点数にしました。

No.5 4点 E-BANKER
(2012/07/03 22:31登録)
2006年発表。ノンシリーズ長編作品。
作者らしい「企み」が光る実験的作品かな。

~幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。池袋からほんの数駅の、閑静な住宅街にあるその家に忍び込んだ何者かによって、深夜一家が惨殺された。数多のエピソードを通して浮かび上がる、人間たちの愚行のカタログ・・・。「慟哭」の作者が放つ、新たなる傑作~

評価しにくい作品だなぁー。
正直なとこ、よく分からなかったというのが本音。後でパラパラと読み返してみて、やっと「分かった」という感じだった。
本作は未解決事件として有名な「世田谷一家惨殺事件」をモチーフとして、殺された夫婦の関係者のコメントを通じ、2人の人間性が徐々に明かされる・・・という趣向。
で、その中にミステリー的「仕掛け」が施されている。
(まぁ、ほとんどの登場人物が最初名前が明かされず、一人称でしゃべるという形態・・・なんかあると思うよなぁ。)

確かに相当練られたプロットなのだろうと推察するのだが、如何せんテーマが見えにくいのが難点。
文庫版解説の大矢氏によると、「愚行」なのは殺された夫婦なのではなく、夫婦のことを「あれやこれや」と批判めいてしゃべる方なのだということらしい。
あとは、途中に挿入されてくる「ある兄弟」のパート。
これは冒頭の新聞記事とつながってくるのだろうが、この女性って後で指摘されないと分からないレベルの登場人物なんだよなぁ・・・。
(これって叙述トリックを狙っているのか?)

というわけで、ちょっと消化不良気味に終わったというのが全体の感想でしょうか。
「お勧め」というわけにはいかないなぁ。
(慶応義塾大生の生態をここまで事細かく書くなんて・・・よっぽど嫌いなんだね!)

No.4 8点 3880403
(2011/04/05 23:33登録)
読み易くオチも個人的には悪くないような気がした。
自分は湊かなえの「告白」よりはこちらのほうが好きかもしれない。

No.3 4点 ウィン
(2010/09/25 12:02登録)
確かに愚行。
愚行だらけかもしれません。
話は終始殺害された田向一家に関係のある人たちがインタビューに答えるという形で展開していきます。
最初の方はそうでもなかったんですが、最後の方になるにつれて、早稲田大学では大学から入った人を内部進学をした人が結構差別的な目で見てるとか、何かどんどんブラックになっていきます。
最初は田向夫妻も「いい人」っていう印象を与える話だったけど、最後になるにつれて良い地位、印象を人に与えるために行っていた愚行的なことがバレていきます。
どうもこういうインタビュー的な形式は途中でしんどくなってくるので好きじゃないので評価は星二つです。

No.2 7点 シーマスター
(2009/03/01 18:14登録)
これは貫井氏らしい作品。

人の多面性・・・人は単純に善悪に分類できるものではない、見る方向、接する角度によって様々な人物像を呈するものである・・・そう、氏の『プリズム』を彷彿とさせるタッチで話は進む。

舞台は明らかに現実の『世田谷一家殺人』に重ねたものであり、あの事件の現在までの経過を思うとちょっと不謹慎ではないかという気がしないでもない内容だが、人の内面の汚さを剥き出しにではなくジワジワ浮き彫りにしていく展開はヌックの独壇場と言えよう。(そんな愛称はない)
ただドロドロ感が、ありそうにして実はさほどではなかったという印象は拭えず、これだけ丁寧に人間性をあぶり出しながら結局の動機が今ひとつ抽象的だった点も少し物足りない。「あの人が語った実態」も活かしてココを思いっきり生臭いものにして欲しかった。

またリアリティ面での処理も、もう少し何とかしていただきたかったね。
始めのおばさんはともかく、無名のルポライターに初対面で各々そんなに丁寧にそこまで話すか・・・もちろん「話したい気持ち(王様の耳はロバの耳)」の描写もそれなりに配慮されてはいるが、少なくとも物産のご令嬢に自らの醜態をそこまで語らせるほどの必然性は感じられない。(育児ストレスの発散みたいな形で説明づけしようとしているが、とてもそれだけで受け入れられるものではない)
慶應の話も・・・感じ方は個人差が大きいらしいが、あの人は大袈裟に感じ過ぎ。

まぁ、何だかんだ言っても抜群のリーダビリティに塗され「読後感の悪い読みもの」として面白かった。

No.1 5点 いけお
(2009/02/11 02:36登録)
読中ストレスを感じる内容だが、不快ではなかった。

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