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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1902件

プロフィール| 書評

No.1082 7点 妖異金瓶梅
山田風太郎
(2020/03/11 22:37登録)
性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。
『BOOK』データベースより。

先行書評をなぞる形になってしまいますが、『赤い靴』を読み終えた時点で、このレベルの短編が揃えば8点は堅いと思いました。この短編の衝撃はなかなかのものでしたよ。しかし、読み進めるごとに失速気味になり、マンネリ感を覚えてしまうのは自分だけではないと思いす。結局『赤い靴』と肩を並べる様な作品は現れず、非常に残念な思いをしました。

どうしても読んでいくにつれフーダニット、ホワイダニットへの興味が薄れていくのがこの連作短編の致命的な欠点ですね。大仕掛けがある訳でもなく、トリックとしてもどちらかと云うと小技の部類であったり、先行作品の変形だったりして独創性の点で優れているとは言えません。ただ、その見せ方が巧妙に出来ておりその意味では納得させられます。
長いのもありますが、何だか疲れました。それでも7点を付けたのは私の読みが浅かったとの反省からです。


No.1081 7点 スクールアタック・シンドローム
舞城王太郎
(2020/03/08 22:38登録)
崇史は、俺が十五ん時の子供だ。今は別々に暮らしている。奴がノートに殺害計画を記していると聞いた俺は、崇史に会いに中学校を訪れた。恐るべき学校襲撃事件から始まった暴力の伝染―。ついにその波は、ここまでおし寄せてきたのだ(表題作)。混沌が支配する世界に捧げられた、書下ろし問題作「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を併録したダーク&ポップな作品集。
『BOOK』データベースより。

正直表題作と『我が家のトトロ』は何となく読み終えてしまい、あまり印象に残りませんでした。特にオチがなく、起承転結のメリハリが付いていない気がします。何だか話が無茶苦茶なところは共通していると思いますし、それが舞城王太郎の特性なのでしょう。ですから、好みははっきり分かれるタイプの作家であるのは間違いないですし、本作品集を読んでこれは駄目だという方は避けて通るのが無難だと思いますね。

問題は『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』です。これは傑作ですよ。近親相姦、カニバリズム、スカトロなどエログロな面があり、万人向けとはお世辞にも言えませんが、直截的な描写が少ないのが救いです。個人的には舞城作品の中でも屈指の出来栄えではないかと思います。これは先に述べた起承転結がしっかりしており、普通の感覚で捉えることは難しいですが、この作家の作風を理解できるのであれば必須アイテムでしょうね。


No.1080 6点 新しい十五匹のネズミのフライ
島田荘司
(2020/03/06 22:33登録)
「赤毛組合」の犯人一味が脱獄した!ワトソン博士のもとに、驚天動地の知らせが舞い込んだ。だが肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態…。犯人たちの仰天の大計画とは。その陰で囁かれた謎の言葉「新しい十五匹のネズミのフライ」とは。そして「赤毛組合」事件の書かれざる真相とは。果たして、われらがホームズが復活する時は来るのか―。さまざまなホームズ作品のエッセンスを、英国流のユーモアあふれる冒険譚に昇華させた大作。
『BOOK』データベースより。

叩き台となっている本家の『赤毛同盟』(本作では『赤毛組合』表記)、を読んでいた方がより楽しめると思いますが、未読でも意味不明にはならないのでご安心を。タイトル通り、ホームズではなく助手のワトソンが主役であります。事件解決に一役買っているのは無論ホームズですが、一応全編通して冒険しているのはワトソンです。しかしやはりホームズの個性は強烈で、出番は少ないもののかなりの異彩を放っているのは間違いありません。特に終盤退院してからのエキセントリックな言動は本領発揮と言ったところでしょうか。『赤毛同盟』自体が面白かっただけに、更にその先に意外な真相が隠されている本作が面白くないはずがありません。
ただ、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎だけで最後まで引っ張るのは、やはりちょっと強引だったのではないかと思います。それなりの大作の割にトリックがショボかったのもマイナス要因ですね。それを補って余りあるストーリーテラーぶりは流石だとは思いますが。

島荘は近年かつての輝きを失いつつあり、語り手としての熟練度は増しているように思いますが、トリックの独創性やスケールの大きさが枯渇している気がしますね。今後もまだまだビッグネームに恥じない作品を期待したいですね。本作でもらしさは見られるものの、やや存在感の希薄さを感じます。


No.1079 7点 学園祭の悪魔
浦賀和宏
(2020/03/04 22:57登録)
あの日から、世界は壊れはじめていたのかもしれない。首なし死体、連続猟奇殺人事件、そして…。私の周りに“死”が堆積していく。学園祭で出会った笑わない“名探偵”安藤直樹は、すべてを解決してくれるのだろうか?凄惨!壮絶!明かされる事件の真相!日常の意味が消失する浦賀エンタテインメント最新作。
『BOOK』データベースより。

一体浦賀和宏は安藤直樹をどうしたかったのでしょうか。安藤直樹シリーズで最大の衝撃を受けました。しかしホラーはないでしょう、青春小説ですよ。ラストのショッキングな事実がなければね。物語は主人公の女子高生幸の一人称で語られますが、やはり一人称という形式には、身構えて掛からなければいけない訳で、だからと言って安易な叙述トリックではありませんよ。そんな生易しいものではありません。
言ってしまえば名探偵の宿命が、捻じれた形で表現されているのかも知れないですね。逆説的な名探偵論にもある意味納得です。他の作家は絶対やらない禁忌に触れていますし、シリーズ全体のあり様を作者自ら破壊しようとしています。

本作は全体がプロローグのようなものであり、本編は小説が終わってから始まるのです。次回作『透明人間』を読まなければ分かりませんが、おそらくその後の物語は永遠に書かれることはないと思いますね。
惜しいですね、安藤直樹シリーズがあと一作で読み終わってしまうのは。それにしてもなんだか久しぶりに安藤直樹が前面に出ていたと思ったらこれだから、浦賀は油断できません。世評の低さも理解できますが、個人的には気に入っています。と思ったら読書メーターでは割と評価されていました。


No.1078 4点 ハナカマキリの祈り
美輪和音
(2020/03/02 22:13登録)
私は真尋、不破真尋。会社の飲み会の後、深夜に出会った彼女はどこか翳のある、優しくて有能な女性だった。つらい過去に囚われて苦しむ真尋は密かに彼女のようになりたいと願うが、次々と不可解な出来事に巻き込まれ、追い詰められた末に人を殺めてしまう。そこに彼女から、ある提案が―。私は真尋、不破真尋、なの?圧倒的な筆力で、驚愕のラストシーンまで主人公を追い詰めていく。「強欲な羊」でミステリーズ!新人賞を受賞した著者が贈る渾身の初長編。
『BOOK』データベースより。

序盤から中盤にかけて、方向性が定まらず右往左往させられます。どこに重点を置いて読めばよいのか分からず、どれを取っても中途半端な印象を受けます。そして人間関係が煩雑で解りづらいですね。カラクリは単純なのですが、それを上手く纏め切れていない感じが凄くします。サスペンスなのかホラーなのかイヤミスなのか判然としません。
女性作家の為か痛い描写が生温く、あまり残酷性が見られないのもインパクト不足と言って良いでしょう。ラストのオチは想定内でした、まあよくあるパターンですしね。

前二作の短編集は個人的に好意的に評価していました。どうやらこの人は長編が肌に合わないのかも知れないと思ったりもします。もう少し抑揚を付けるとかサプライズ的な趣向を凝らさないと、読んでいて中弛みしたり退屈さを覚えてしまうのではないでしょか。あまり期待はしていませんでしたので、裏切られた感はありません。でももう少し描き様があった気がしますねえ。


No.1077 7点 黒い春
山田宗樹
(2020/02/29 22:57登録)
覚醒剤中毒死を疑われ監察医務院に運び込まれた遺体から未知の黒色胞子が発見された。そして翌年の五月、口から黒い粉を撤き散らしながら絶命する黒手病の犠牲者が全国各地で続出。対応策を発見できない厚生省だったが、一人の歴史研究家に辿り着き解決の端緒を掴む。そして人類の命運を賭けた闘いが始まった―。傑作エンタテインメント巨編。 
『BOOK』データベースより。

それは全くの偶然でした。400冊余りの積読本から引き抜いた一冊、それが本書でした。まるで運命の糸に操られたように・・・。勿論自分で選んで入手した物ですが、あまりに時間が経ちすぎていて中身などまるで覚えていません。それにしてもまさかこのタイミングで、と驚きを隠せませんでした。今まさに日本全土で或いは全世界で新型コロナウイルスが猛威を振るい、パンデミックに突入しかねないこの時に。なんと不吉な。北海道では緊急事態宣言が出され、安倍首相は小中高の臨時休校を全都道府県の各自治体に要請しました。それは取りも直さず、子供を守る為ではなく子供を介しての社会全体に感染拡大を阻止するもの。それが英断だったのか、それともやけくその場当たり政策だったのか。

いずれにせよ、読み始めてしまったからには読了しなければならないと思いました。それどころか読み出したら止まらないリーダビリティを秘めていて、ストレスフリーで読み終えてしまいました。

さて前置きが長くなりましたが、本作は死亡率100%の未知の感染病に、監察医、東京都立衛生研究所真菌研究室室長、国立感染症センター病原診断部の研究者の三人がチームを組んで立ち向かう物語です。ミステリ的に言えばミッシングリンク物と言えるかもしれません。滋賀県を中心に広がる感染者に共通するものは何か、そして中間宿主となる存在は、という命題に三人のスペシャリストが探究の末辿り着いた先に待っているものは。
政府特に厚労省が動かないのには大いに違和感を覚えますし、検査希望者が一万人余りに過ぎないのも疑問です。他にも細かい瑕疵はありますが、人間ドラマとして、家族愛を描いたサスペンスとして優れていると思います。そして歴史ミステリの側面も兼ね備えています。
次は高嶋哲夫の『首都感染』ですかね。それを読むのは現在抱えている新型ウイルスが終息してからにします。


No.1076 6点 幻獣遁走曲 猫丸先輩のアルバイト探偵ノート
倉知淳
(2020/02/27 22:34登録)
ある時は幻の珍獣アカマダラタガマモドキの捜索隊員、ある時は松茸狩りの案内人、そしてある時は戦隊ショーの怪人役と、いっぷう変わったアルバイトに明け暮れる神出鬼没の名探偵・猫丸先輩が遭遇した五つの事件。猫コンテスト会場での指輪盗難事件を描いた「猫の日の事件」、意外な真相が爽やかな余韻を呼ぶ「たたかえ、よりきり仮面」ほか三編を収録した、愉快な連作短編集。
『BOOK』データベースより。

これは面白い。相変わらずの猫丸先輩、毎回怪しげなアルバイトで登場しています。本シリーズの中で一番笑わせてもらいました。いずれも日常の謎は魅力的ながら、謎解きが終わった後には脱力するみたいな作品です。しかし、猫丸先輩の慧眼は鋭く、見た目はのほほんとしていたり躁病の気があるような不思議な人ですが、真相を暴く時の立て板に水の推理は素晴らしいですね。絶対的な根拠がある訳でもないとは思います。でもまあそうなんだろうな、それで良いんじゃないの?と何となく納得させられる思いがします。

大抵、短編集で書下ろしが混じっているとそれは他と比較してイマイチな場合が多い気がしますが、本作品集ではそんなこともなく、平均して状況がいかにも不可思議で、一種の不可能趣味が堪能できます。心情的には7点付けたいところですが、手品の種明かしの様なガッカリ感が少なからずあったので6点にしました。


No.1075 6点 白銀荘の殺人鬼
愛川晶
(2020/02/25 22:25登録)
スキー客で賑わうペンション「白銀荘」。そこに血腥い殺人鬼の匂いを纏った客が紛れ込んだ。多重人格症に悩む彼女は、ある目的を果たすため、連続殺人をもくろんでいた。おりしも、豪雪により白銀荘は外界と遮断された密室状態に!そして、相次ぐ殺人―。さらなる悪夢が。今、血の惨劇の幕が開く!本格推理の鬼才二人によるサイコ・ミステリーの傑作、登場。
『BOOK』データベースより。

所謂吹雪の山荘もの。殺人鬼は多重人格者の中の一人「あたし」ですが、これが何とも軽薄でいい加減。多数の人間を葬り去ったというのに緊張感に欠け、綿密な殺人計画に則った行動とはかけ離れています。最後までこの調子だと嫌だなと思いながら読み進めましたが、流石にそんな事はありませんでした。上手く多重人格を利用したトリックはお見事で、読者の多くが予想もしない展開に唖然とさせられると思います。ネタバレになるのであまり詳細は書けませんが、面白く読みました。

愛川晶のサイコサスペンス的要素と、二階堂黎人の捻りの効いた裏技的仕掛けが上手く融合している感じがします。でも、事件後警察が本気を出せば真相は割と呆気なく暴けたのではないかという気もしますけど・・・。
一読の価値はアリとしておきましょうか。


No.1074 6点 “文学少女”と繋がれた愚者(フール)
野村美月
(2020/02/23 22:06登録)
「ああっ、この本ページが足りないわ!」ある日遠子が図書館から借りてきた本は、切り裂かれ、ページが欠けていた―。物語を食べちゃうくらい深く愛する“文学少女”が、これに黙っているわけもない。暴走する遠子に巻き込まれた挙句、何故か文化祭で劇までやるハメになる心葉と級友の芥川だったが…。垣間見たクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去に縛られ立ちすくむ魂を、“文学少女”は解き放てるのか―?大好評シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。

今回は武者小路実篤の『友情』がモチーフ。『友情』を題材に遠子先輩が、心葉のクラスメイトの芥川くんや琴吹さん、一年生の竹田さんらと文化祭で劇を披露するまでの、あれやこれやの物語。
それにしても昼ドラばりのドロドロした男女の愛憎劇が、青春ミステリらしからぬ凄さを見せつけています。それでいて最後には爽やかな一陣の風の様な雰囲気で終えるのは、本シリーズの良さではあると思います。しかし、心葉の抗いがたい過去の疵に芥川君が絡んできて、これからどうなるんだと先行きが気になるところでエンディングとは心憎いですね。おそらくこの事件の顛末は最終巻まで引っ張られる事になるのでしょう、まあそれも一つの趣向として割り切るしかないのだと思います。

本作ではミステリ的要素がやや薄いのと、麻貴先輩の出番が少なかったのが少しだけ不満でした。しかし、芥川君から目が離せなくなりそうです。彼がこれほど重要な役どころを担うことになろうとは思いませんでした。本シリーズまだまだ楽しませて貰えそうです。


No.1073 6点 0番目の事件簿
アンソロジー(出版社編)
(2020/02/21 22:41登録)
人気作家のアマチュア時代作品を無修正で大公開!作家志望者、ミステリファン必読の“前代未聞”本。
『BOOK』データベースより。

収録順に有栖川有栖『蒼ざめた星』、法月綸太郎『殺人パントマイム』、霧舎巧『都築道夫を読んだ男』、安孫子武丸『フィギア・フォー』、霞流一『ゴルゴダの密室』、高田崇史『パカスヴィル家の犬』、西澤保彦『虫とり』、初野晴『14』、村崎友『富望荘で人が死ぬのだ』、汀こるもの『Judgement』、綾辻行人『遠すぎる風景』。

一様に皆さんがあとがき解説で書かれているのは、赤面するとか恥晒しとかです。しかしながら、満更でもなさそうな様子が伺えるのは微笑ましいところですね。
『人形館の殺人』の原型である『遠すぎる風景』は別格として、意外と霞流一の短い中によく詰め込んだ密室トリックが面白っかったです。あとは初野晴が本格ではないけれど、とても印象深くラストの捻りも好感が持てました。有栖川有栖や安孫子武丸辺りはらしさがよく出ていると思います。
汀こるものはちょっと訳が分かりませんでしたし、西澤保彦に至っては最初から最後までほぼ理解不能でしたね。しかし総合して及第点ではないかと思います。ただやはり、若書きとか粗削りな感は否めませんね。


No.1072 1点 セイギのチカラ アングラサイトに潜入せよ!
上村佑
(2020/02/19 22:40登録)
しょぼ~い超能力者たちが大活躍する、「セイギのチカラ」シリーズ第三弾!今度の主役は天才プログラマー・水野と、美少女イタコ・有江。互いのチカラが重なり合ったことが原因で、プログラムの世界に放り込まれてしまった二人。戸惑いつつも、問題サイトを摘発しようとするうちに、巨大な闇組織の陰謀に近付いてしまい…。いつものヘンテコ超能力者たちも登場する、ドタバタストーリーから目が離せません。
『BOOK』データベースより。

断言します、これは駄作です。シリーズ一作目のあの感動を返してほしいです。一体どうしてしまったのでしょうか。もうね、読んだ事を無しにしたい、記憶から消したいですよ。読むべきではなかったと今さらながら後悔しています。一作目の後即続編を購読しなかった、過去の自分の判断は正しかったと言えましょう。

中身はペラペラです。あれ程ユニークで魅力的だったキャラたちも、何だか平板にしか描かれていませんし、ストーリーも足早過ぎてほとんど頭の中を素通り。話に付いて行けません。一作目ではそのスピード感が逆に良い方向に出ていましたが、こちらは駄目です。
面白いとか以前の問題。小説として余りにも出来が悪すぎですね。110円でも高すぎた位で、速攻でブックオフ行きです。読む時間は僅かで済んだので、それだけが救いでしょうか。


No.1071 5点 さよならのためだけに
我孫子武丸
(2020/02/17 22:12登録)
「だめだ、別れよう」「明日必ずね」ハネムーンから戻った夜、水元と妻の月はたちまち離婚を決めた。しかし、少子晩婚化に悩む先進諸国は結婚仲介業PM社を国策事業化していた。PMの画期的相性判定で結ばれた男女に、離婚はありえない。巨大な敵の執拗な妨害に対し、二人はついに“別れるための共闘”をするはめに―。孤立無援の闘いの行方、そしてPMの恐るべき真の目的とは。
『BOOK』データベースより。

どうにも平凡な作品という印象しかないですね。もっと物語にメリハリを付けて欲しかったところです。
大体、短期間で結婚を決めた相手に対して、結婚式を終えた後速攻で離婚を決意する月の思考回路が理解できません。何故もっと時間を掛けて熟考しなかったのか、いくら仲介会社の判定が特Aだからといって、慌てる必要はなかったはず。
それに些細な事かも知れませんが、水元が自分の勤める会社のキーパーソンである重役を知らなかったのも解せません。その重役が登場してからの展開はちょっと面白かったですけど。

人間はよく描けています。男女二人の一人称が交互に並ぶ構成で、その都度その都度の二人の心理状態は賛同はできなくとも分からないでもないですね。脇を固める二人は軽すぎます。こうも簡単に男や女を乗り換えられるものか、惚れっぽいのか分かりませんが。いずれにせよ、どの人物にも感情移入できず、十分楽しめたとは言い難かったと思います。ジャンルは敢えて分類すればSFのようなファンタジーのようなものですが、実はどちらでもないと云うのが正解かも知れません。


No.1070 4点 弟切草
長坂秀佳
(2020/02/15 22:45登録)
弟切草…その花言葉は『復讐』。ゲームデザイナーの公平は、恋人奈美とのドライブで山中、事故に遭う。二人がやっとたどり着いたのは、弟切草が咲き乱れる洋館だった。「まるで俺が創ったゲームそのものだ!」愕然とする公平。そして、それは惨劇の幕開けだった…。PlayStation版話題のゲームを乱歩賞作家の原作者がオリジナル小説化。
『BOOK』データベースより。

序盤で紹介される主役の二人の過去に問題あり過ぎ。なので、それがどう物語に影響を及ぼすのかに興味が湧いてくるのは確かです。やはりと言うべきか当然と言うべきか、それが数々の怪異の謎を解くカギになっていますね。
二人が迷って辿り着いた館に足を踏み入れて以降、終盤に至るまではゲーム感覚と言うよりお化け屋敷に入ってキャーキャー騒いでいるようなものです。現象だけ見れば小谷里歩(三秋里歩)でなくても腰を抜かすほど悍ましいですが、全然怖くないのは文章が下手なせいでしょうかね。一時的に危機を脱してもまだまだ命が危険に晒される場面で、一々キスをするってあり得ないと思いますが。

最終章でミステリ的趣向に突入しますが、最早どうでも良くなっている自分がいました。謎解きは専らそれぞれの過去の過ちに終始し、●●トリックに逃げている感があり、あまり好ましいものではありませんでした。まあこれを読んで喜ぶのは余程プレステのゲームにハマった人だけじゃないですか。ご都合主義や偶然性が色濃く見られるし、人間関係が無駄に複雑すぎと云う気もします。
作者によれば飽くまでオリジナルとの事ですが、小説としてホラーとして褒められるべき作品ではないと思いますね。


No.1069 7点 猫物語(白)
西尾維新
(2020/02/13 22:45登録)
“何でもは知らないけれど、阿良々木くんのことは知っていた。”完全無欠の委員長、羽川翼は二学期の初日、一頭の虎に睨まれた―。それは空しい独白で、届く宛のない告白…「物語」シリーズは今、予測不能の新章に突入する。
『BOOK』データベースより。

何よりこれまで阿良々木暦の一人称だったのが、委員長羽川翼の一人称になったのに新鮮さを感じます。更に正直あまり掴み所のなかった戦場ヶ原が人間臭くて、これまた個人的に嬉しい誤算ではありました。しかもいいままで出番のなかった阿良々木家の父母が出ているではありませんか。チョイ役ではありますが、阿良々木母の台詞には痺れました。
結局何がしたかったのかがはっきりしているのに好感が持てます。それは愛、家族間の愛、兄弟愛、男女の愛なんだと思います。今回虎の怪異が主となっており、猫対虎の図式が描かれますが、その裏には羽川の生々しい感情が隠されていて、それが前述の愛に繋がります。

阿良々木暦は取り込み中で、ほぼ出てきません。それと主要キャラの神原、真宵、仙石も。代わりにファイヤー・シスターズ、戦場ヶ原ひたぎ、忍がそれぞれいい味を出しています。いやしかし、<物語>シリーズ七冊読みましたが、初めて阿良々木暦がカッコ良いと思いましたね。安定して面白い本シリーズですが、本作が最も私の好みに合う作品のような気がしました。


No.1068 5点 時の誘拐
芦辺拓
(2020/02/11 22:15登録)
府知事候補の娘樹里が誘拐された。身代金運搬に指名されたのは全く無関係の青年阿月。だが大阪の都市構造を熟知した犯人の誘導で金を奪われ疑いの目は阿月自身に。彼の汚名をすすぐべく乗り出す素人探偵森江だが、捜査の先には戦後の大阪で起きた怪事件の謎が!?過去と現在が交錯する著者屈指の傑作長編。
『BOOK』データベースより。

相変わらずこの作者の作品は盛り上がらないなあ、と思いました。序盤の身代金運搬方法と強奪の大胆不敵さと綿密さは、当時のハイテクを駆使しており、ううむと唸らされました。そこまでは良かったんですが、いきなり過去の不可解な殺人事件に呑み込まれて、なんだか誘拐事件の影が薄くなってしまったのは惜しい感じがしましたね。
まあどちらの事件に重きを置いているという訳でもないですが、過去の事件についての記述が長いので、誘拐事件はどうなってるんだってなりますよ。そして、全体のボリュームに対して森江の解決編がかなり短く、やや物足りない気もしました。

エピローグはなかなか印象深かったです。でも犯人の決定的証拠が薄いように思います。特に主犯がね。最初からある人物が怪しいと感じていましたが、やはりある役割を果たしていましたね。
プロットと文章がもう少しこなれていれば相当な傑作になったかも知れません。素材は上質だったのに料理の腕が問題だったとしか言えません。


No.1067 6点 フォークの先、希望の後
汀こるもの
(2020/02/09 22:13登録)
政治家の息子が飼う魚の世話で日給五万円、ただし飼い主の少年が現れると誰かが死ぬと噂あり。家庭の事情で高額バイトを探していた女子大生・彼方が屋敷へ向かうと理想の男性・高槻が目の前に…オクテな少女は恋に落ちた!だが戦慄の事件が続発。噂の少年“thanatos666”の呪いはやはり本物だった!?彼方の恋と命の行方は?恋愛&恐怖の“タナトス”最新刊。
『BOOK』データベースより。

タナトスシリーズ第三弾。ストーリーらしいストーリーもなく、事件と言っても変わった魚が盗まれるくらいでさして進展がありません。何だかこう、ミステリのようなものを読まされている感じが犇々とします。でもそこが良くも悪くも本シリーズの特徴と言うべきなのかも知れません。結局は双子の兄美樹が事件に関わり、それを弟の真樹が事件を解説するだけで、誰かが誰かを積極的に殺そうとする訳ではありません。なので本格ミステリと冠するのもおこがましいですが、こういうのが好きな人も結構いるんですよね。魚の蘊蓄にうんざりしながらの双子萌え的な感じで。まあ確かにキャラは良いんですよ、私も嫌いではないですしね。

魚+死神の存在が故に起こってしまう事件+兄弟愛ということになるのでしょう。本作の場合誰も傷つかず元の鞘に収まる、そこが救いと言えば救いですかね。
郭公の托卵は知っていましたが、その先があるのは流石に初耳でしたよ。一つ勉強になりました。尚、タイトルに深い意味はありません。


No.1066 5点 六とん4 一枚のとんかつ
蘇部健一
(2020/02/07 22:27登録)
ある日曜日、六人が殺された。死体は岐阜・明智鉄道の六つの各停車駅の近所で発見され、犯人は電車を利用して犯行に及んだとみられる。最有力の容疑者には犯行時刻に鉄板のアリバイがあり、事件は迷宮入りする―「一枚のとんかつ」。他、全11編を収録。伝説のアホバカミステリが、さらにパワーアップして帰ってきたぞ。
『BOOK』データベースより。

表題作のアリバイ崩しは割と真面な方で、所謂時刻表トリックですが、単純明快で解りやすくまずまずの滑り出しです。『聖職』『犯行の印』『ひとりジェンカ』『修学旅行の悪夢』『翼をください』『追われる男』は最終頁のイラストで結末が分かる仕掛けになっています。これは同作者の『動かぬ証拠』の流れを踏襲するものですね。この中では『聖職』が一番ピンときますが、『追われる男』のラストが判然としません。どういうオチだったのでしょう、今考えてもスッキリしません。因みにこの一篇、主人公の女芸人のモデルはオアシズの光●靖●のようです。
意外と心に残るのはミステリでも何でもない純愛小説の『恋愛小説はお好き?』です。ミステリ作家としては駄目な人ですが、こういった異ジャンルの小説の方が体質に合っているのかも知れません。

蘇部健一はキング・オブ・バカミスの称号を与えられているようですが、本書はバカミスにすらなっていない気がします。でもあまり期待せず読めばそれなりに楽しめるのではないかと思いますよ。ユーモアミステリの一種ですが、笑えないネタが多いですね。


No.1065 7点 もう教祖しかない!
天祢涼
(2020/02/05 22:47登録)
寂れた団地で人々の心の隙間を埋めるように広がる新宗教“ゆかり”。大企業スザクに勤める六三志は、自社の顧客を守るため、教団潰しを命じられた。ところが若き教祖・禅祐は、宗教を用いて金儲けをたくらむ頭脳派。信者の前で正体を暴こうとする六三志の告発をかわしてしまう。教団の存亡を賭け、どちらが住民の支持を得られるのか、激しい心理戦が始まった!気鋭の放つ傑作長編ミステリー。
『BOOK』データベースより。

本格とは言えないですが、一応広義のミステリには含まれるでしょう。
教団側とスザク側の直接対決のシーンは少ないものの、両者の火花散る激突が読んでいてワクワクします。良いですね、気分が高揚してきます。カリスマ性の強い教祖禅祐と、一介のサラリーマンでありながら熱血な面と頭脳明晰な面を持ち合わせる六三志の心理戦。それに加えて、キーパーソンとして禅祐の妹桜子やスザクの会長朱雀慶徳の存在も見逃せません。又敵か味方か分からない橘真理佳も神出鬼没でいい役どころを演じています。その他新たに信者となった高齢者稲葉や若者斎藤、六三志の頼りない上司小山内、部下の松山などキャストは豊富で、それぞれきっちり性格や人となりが描き分けられています。その辺りも高評価に繋がりますね。

この新興宗教対大企業の図式だけでも読み応えがあります。特に最後の勝負の場面はスリルと緊迫感を味わえます、更に当然ミステリ的な仕掛けも施されており、只では済まない結末にも注目したいところです。
おそらく好き嫌いが分かれるタイプの作品だと思いますが、個人的には何故もっと話題にならなかったのか不思議なくらい気に入っています。


No.1064 5点 多重人格探偵サイコ 西園伸二の憂鬱
大塚英志
(2020/02/03 22:25登録)
連続殺人犯の射殺をきっかけに新たに生まれた人格・雨宮一彦。そんな彼に興味を抱いた精神科医・伊園磨知だったが、雨宮とともに何者かに拉致されてしまう。そして雨宮は、犯罪専門の海賊FM局「ラジオ・クライム」のスペシャル・ゲストに。街で次々と発生する童話をモチーフにした犯罪、明らかになるカニバリズム事件の犯人・田辺友代の秘められた過去、覚醒する第四の人格・久保田拓也。彼と伊園磨知の関係とは?六〇〇万部を突破したベストセラーコミックの原作者自身によるノベライゼーション。
『BOOK』データベースより。

間違えて本格で登録しました。ジャンルはサスペンスだと思います。
前作で残った謎である連続殺人鬼、島津寿は何故千鶴子を殺さなかったのかはやはり曖昧なままでした。その事件はもう終わった事として処理されています。まあ前に進むのは良いですが、なんだか消化不良な感じですね。本作は第四の人格が登場しますが、ほんのチョイ役で主に雨宮と西園が前面に出てきます。物語は精神科医津葉蔵により操られた患者四人が童話の見立て通りに事件を起こし、その模様を海賊FM局で実況する流れが中核となっています。短い中にあれもこれもと詰め込み過ぎて、結果どれもさして印象に残らない残念なものになっている気がしますね。

コミックなら確かに面白いのかも知れません。又ノベライズする作家によってはもっと優れた小説になった可能性も捨て切れません。しかし現状はコミックはベストセラーでも小説は駄目なパターンのようです。大して世間に見向きもされず、そのまま静かに記憶の彼方に葬り去られたような作品とでも言うのでしょうか。ブックオフで110円で買われ、読み終わったら又ブックオフに売られるのが定めの様な感じですね。手元に置いておく意味がないとしか思えません。


No.1063 3点 ゴースト≠ノイズ(リダクション)
十市社
(2020/02/01 22:58登録)
高校入学七ヶ月目のある日。些細な失敗のためクラスメイトから疎外され、“幽霊”と呼ばれているぼくは、席替えで初めて存在を意識した同級生にいきなり話しかけられた。「まだ、お礼を言ってもらってない気がする」―やがてぼくらは誰もいない図書室で、言葉を交わすようになる。一方、校舎の周辺では小動物の死骸が続けて発見され…。心を深く揺さぶる青春ミステリの傑作。
『BOOK』データベースより。

欝々とした青春の日々を回りくどい筆致で描かれた青春ミステリ。傑作ではありません。
正直、早く終わらないかなと思いながら読んでいました。まず気に入らないのが文章。比喩が多すぎる点が一つ。そしてやたらと長い文章が散見されるのが二つ目。長すぎず、短すぎずというのが小説の基本中の基本でしょう。長すぎる文章に比喩的表現が絡んで、頭が混乱しそうになりました。過分に読者に対して想像力を課すのはどうかと思いますよ。
そして、人間が描かれていないのも難点ですね。キャラに全く魅力が感じられません。それは作品の性質上仕方ないのかも知れませんが、特にヒロインの高町が掴みどころがなく、どうしても絵が浮かんできませんでした。

本作最大の仕掛けが中盤に施され、読者を翻弄しますが、その必然性が全然ないじゃないですか。しかもいつの間にか用意周到に。いつどこでそんな物を調達できたのか不思議で仕方ありません。私はミステリ小説に於いて騙されるのは大歓迎です。しかしこの作者の手法はあまりにもあくど過ぎると思いますね。ただ欺くためにのみ施されたトリックなど必要ありません。
解説者は本書を絶賛していますが、それには同意しかねます。一体何がしたかったのか意味が解りませんし、トーンが暗くお世辞にも救いがあったとも言えないです。しかも、序盤の最大の謎であった連続小動物殺傷事件がなんとも簡単に流されているのにも不満を覚えました。呆気無さ過ぎて唖然としました。
この作者ははっきり言って小説家には向いていないと思いますね。デビュー以降の活動を見ても大した実績を残せていませんしね。そう云う事ですよ。少し言葉が過ぎました、不快に思われた方には申し訳ありません。

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