home

ミステリの祭典

login
妖異金瓶梅

作家 山田風太郎
出版日1954年01月
平均点7.90点
書評数10人

No.10 10点 じきる
(2021/09/29 19:20登録)
連作短編として、類を見ない奇想とユニークなトリック、高い完成度を同居させた大傑作。
終盤、怒涛の展開とともにスケールの拡がりを見せるストーリーにも満足です。

No.9 7点 メルカトル
(2020/03/11 22:37登録)
性欲絶倫の豪商・西門慶は絶世の美女、潘金蓮を始めとする8人の妻妾を侍らせ、酒池肉林の日々を送っていた。彼の寵をめぐって女たちの激しい嫉妬が渦巻く中、第七夫人と第八夫人が両足を切断された無惨な屍体で発見される。混乱の中、西門慶の悪友でたいこもちの応伯爵だけは事件の真相を見抜くが、なぜか真犯人を告発せず…?美姫たちが織り成す凄惨淫靡な怪事件。中国四大奇書の一つを大胆に解釈した伝奇ミステリ。
『BOOK』データベースより。

先行書評をなぞる形になってしまいますが、『赤い靴』を読み終えた時点で、このレベルの短編が揃えば8点は堅いと思いました。この短編の衝撃はなかなかのものでしたよ。しかし、読み進めるごとに失速気味になり、マンネリ感を覚えてしまうのは自分だけではないと思いす。結局『赤い靴』と肩を並べる様な作品は現れず、非常に残念な思いをしました。

どうしても読んでいくにつれフーダニット、ホワイダニットへの興味が薄れていくのがこの連作短編の致命的な欠点ですね。大仕掛けがある訳でもなく、トリックとしてもどちらかと云うと小技の部類であったり、先行作品の変形だったりして独創性の点で優れているとは言えません。ただ、その見せ方が巧妙に出来ておりその意味では納得させられます。
長いのもありますが、何だか疲れました。それでも7点を付けたのは私の読みが浅かったとの反省からです。

No.8 7点 レッドキング
(2018/11/11 13:18登録)
第一短編の「赤い靴」単独でも、連作短編集としての全体としても評価は変わらない。「赤い靴」のフー・ホワイダニットの魅力は第二篇以降は失せる・・要するに繰り返しなのだから・・が、終わりに近づくにつれて「金瓶梅」を越えて「水滸伝」の世界にまで物語が拡がるところがよい。
それにしてもヒロインのエロチシズムの邪悪さ凄まじさ。それはいわば中国の闇の深淵さ。 我が日本文明など、深く壮大なシナ文明の闇に比すれば、遥かに及ばない破片のようなものか。

No.7 9点 tider-tiger
(2016/12/22 23:55登録)
舞台を金瓶梅の世界に移すことによって、本来は成立し得ないものが傑作になった。リアリティのなさ(逮捕されずにこんな連続殺人を続けていけるわけがない)と小粒なトリック(かなりいいものもあるし、使い方も巧みであると思うが)という欠点は吹き飛んだ。動機の異様さも長所でしかなくなった。この着想は素晴らしい。
変な世界を舞台に変な(恣意的な)設定を積み重ねて独自の世界観などと謳うミステリが最近増えている。そういうことをするのならシンプルな方がいい。ノートに名前を書いたら死ぬ、みたいな。個人的には大きな嘘(設定)を一つ、その一つの嘘を活かすべく、もっともらしい細部でリアリティをもたせるのが美しいと思う。
本作は金瓶梅でミステリやるよ~、と一言で説明可能な明快さに加えて、類例があまりない探偵と犯人の人物像や関係性、その他のキャラも良し、物語良し、テーマ良し、怒涛の後半は圧巻。世界は借り物でも咀嚼の仕方が素晴らしい。ワールドクラスのミステリだと思う。

No.6 10点 クリスティ再読
(2016/08/28 08:52登録)
本サイトだと「本格/新本格」カテになるんだけど、本作のカテって本当は「奇書」だよ。中国四大奇書がネタだってことだけでなく、「ミステリの枠を借りながら、ミステリの限界をユニークに突破した作品」という意味で黒死館とかドグマグとか供物同様の奇書だと思う...
まあ本作、なかなか類例も少なく実現の難しい魅力的な「名犯人小説」の上に、直接的な動機はもちろんその都度示されるのだけども、本当の意味での「性格的な動機」が一番の見せ場である「凍る歓喜仏」の中で犯人の啖呵によって示される...これが本当に感動的である。前半がある意味同じスキームを繰り返して強調していたのが、ここら辺から怒涛の結末を迎える。本作のまさに「エロスの論理」が、ミステリと水滸伝世界の「タナトスの論理」を凌駕し屈服させる力技を示すのだ!
まあ、前半の繰り返しスキームさえ、「愛する者」は「愛される者」の隠された罪を暴くのだが、それは「愛ゆえに」である...という遊戯のルールに則ったものである。だからそれがトリック的にファンジーだからどうだってんだ。本作はこういう遊戯性と愛で揺れる振幅の中にある作品なので、西門慶家での血の匂いのする酒池肉林は、その遊戯性ゆえに「ソドム百二十日」の形式性と極めて近いもののように思うよ。
評者風太郎作品ベストテン選べるほどには読んでないのだが、まあ本作風太郎最高傑作に挙げる人も結構いるようだね。それが頷ける風太郎的傑作であると同時に、極めて日本らしいジャンルである「奇書」にカウントしたい名作である。

酔いたまえ。

No.5 7点 いいちこ
(2015/04/09 14:32登録)
各短編はスケール感に乏しい小粒なハウダニットなのだが、本作の最大の見所は恐らく前例がないと思われる探偵役と犯人のユニークな関係。
四大奇書「金瓶梅」の舞台設定を活かして、この構想を実現したところが抜群の奇想。
エロティックな描写が満載であるにもかかわらず下品さを感じさせないストーリーテリングや、魅力的な人物造形も見事で、世評に違わぬ作品。

No.4 9点 ボナンザ
(2014/04/08 15:27登録)
どの短編も完成度が高いが、全体としてみても中々のもの。
明治断頭台と並ぶ不滅の名作。

No.3 6点 makomako
(2013/02/17 17:03登録)
 題名からも作者からもひょっとして(しなくても)エロ?と思ったが評価が高そうなのでネット購入した。届いてビックリ。こんな厚い本とは思わなかった。ネットだと時に思わぬことがありますね。
 読んでみると連作がつなぎ合わさっているようで、でも全体としてはきちんと一つの話としてできている。
 初めあんまりエロくないのに拍子抜けしていたが、読み進むに従って結構な短編本格推理小説のつなぎ合わせで、しかも主人公の好色大金持ちの西門慶、お調子者の応伯爵、とんでもない妖婦金蓮が個性豊かに描かれており、だんだん面白くなっていく。
 本格物として読むとちょっと甘いが、でもトリックも鏡を使ったり瞬間移動、ばらばら殺人など思ったより豊富でナカナカでした。

No.2 7点 蟷螂の斧
(2012/12/22 11:15登録)
連作の短編ミステリーです。というより後半は文学的かも・・・。登場人物、特にヒロインの潘金蓮が魅力的でした。動機や探偵役と犯人の関係等もユニークなものです。トリック自体はそれほどビックリするものはありませんが、ロアルド・ダールの奇妙な味的なものや、「女人大魔王」(死体トリック)あたりは気に入っています。余談ですが、金瓶梅については思いで深いものがあります。ラジオ深夜放送の「パックインミュージック」(野沢那智・白石冬実コンビ・1967~1982)で放送され、お色気満載の話にニヤニヤしたものでした。

No.1 7点 kanamori
(2010/07/07 23:29登録)
中国宋代を時代背景にした艶笑譚を元ネタにした連作ミステリ。
連鎖式短編集を読んでいくうちに、いつの間にか長編ミステリに変貌していきます。豪商の妻と7人の妾の間で次々と殺人事件が発生する様は、だんだんマンネリ感が漂ってきて、ミステリ趣向よりも、ある女性の人物造形に引き込まれる創りになっています。

10レコード表示中です 書評