home

ミステリの祭典

login
白銀荘の殺人鬼
二階堂黎人との合作/元版は、覆面作家「彩胡ジュン」名義で刊行

作家 愛川晶
出版日2000年06月
平均点6.86点
書評数7人

No.7 7点 人並由真
(2024/05/30 15:02登録)
(ネタバレなし)
 元版のカッパ・ノベルスの綺麗な古書を帯付きで、ブックオフの100円棚でしばらく前に入手。
 あんまり趣向をわめきまくるので、当然これは(中略)だろうと思って読み進めていたら、色々とその奥があった。あの件は結局どうなるんだろう? とずっと思っていたあたりも、セオリーというかパターンというか、だが、うまく捌いてある(分かる人には分かるだろうが)。
 でもって、見せ場のシーンの演出でも自明なように、狙いというか構想の出発点のひとつは、新本格作品のあの名作へのリスペクト兼チャレンジだろうし(こう書いても本作にも当該策にもネタバレにはなってないと思う)、もしそれが当たってるなら、なかなかうまく着地してるんじゃないかと。

 とはいえミステリ初心者さんがご講評の<ネタバレ>部分で語っておられることの問題点、特にその2つめは実にごもっともで、これに関しては良くも悪くも謎解きフィクション的な田舎芝居を見せられた感じ。ただまあ、そこにまたなんか妙な愛嬌を感じたりして、嫌いにはならない。
 虫暮部さんのおっしゃる、(ある程度)よくできた作品としての妙な摩擦感めいたもの、という感覚もたぶんよくわかる。新本格というジャンル自体が既存の謎解きパズラーの成分を踏まえて80年代半ばから日本に生じたメタ的なものだというなら、これは正にそのメタのメタの部分もあるだろうし。

 弱点は、こういう作りだから、フツーに読めばフツーに盛り上がる筋立てのところ、何かその向こうにある、と常に考えて、読み手(少なくとも評者)の感興の念を相殺すること。
(中略)と(中略)の星取りゲーム勝負なんて、それ自体が面白いお話のネタのはずなのに、妙に頭が冷えて高揚しない。まあ、仕方がないか。
 あちこちの面で難点はあるが、得点的には、色々と良質な作品だとも思う。

No.6 7点 虫暮部
(2024/04/04 14:37登録)
 共作と言うことで、互いの持ちネタが上手く噛み合い、暴走は賢明に中和されている。
 でも意地悪なことを思ってしまった。これ、はなから70点狙いで書いてない? 企画を逆手に取って赤点 or 150点の大冒険をしよう、なんていう気持ではないよね。それでちゃんと70点になっているから立派だけど、せっかくの機会がちょっと勿体無いんじゃないの。

 再刊時に共作ペン・ネームを捨ててしまったのは、とても野暮なことだなぁと思う。しかも正体を明かしたせいで “ネタを使い回している感” が生じてしまった(自業自得?)。

No.5 6点 ミステリ初心者
(2021/11/28 19:15登録)
ネタバレをしています。

 シリーズ初作のKillerXは読了しております。軽く調べてみますと、この白銀荘~を最初に読むのがいいと書かれていたので、今回は本作を購入しました。
 文章は本格度が高く、かなり読みやすかったです。読了までに時間がかかりませんでした。
 主人公格の人物が三重人格であり、ほぼストーリーの主観の文が美奈子という女性の人格です。美奈子による倒叙形式のミステリのような感じでした。さらに、美奈子が意識を失い、他の人格に支配されているときは読者からは何が行われているのかがわからず、美奈子の人格が再び起こった時にはまた新たな殺人が起こっています。美奈子は殺人者でもあり、他の人格が起こした殺人を推理するものでもあるという、非常に奇妙な状況が個性的です。
 文章の相性が良かったのか、すいすいよめたのですが、若干不快な描写がありました。

 推理小説部分について。
 黒岩が露骨に女性っぽいし、最後まで生き残っている。晴代の人格が現れている?ときには主観の美奈子は認知できない。こうなると、推理小説のお約束そして、美奈子が殺した描写がない部分は黒岩が殺人を犯している…というところはまあ予想しました(笑)。ただ、黒岩の性別詐称の推理小説的な狙いと、カオリンの首無し死体の意味、そして序盤の弁護士岩室とその部下の存在がいまいち私の中でつながってこなくて、真相を当てる事ができませんでした(涙)。


 難癖点。
・一人二役系にもかかわらず、カオリンと黒岩どちらも見ている人物がいます。主人公もいれて2人でしょうか? 大幅な変装をしていないと思うし、黒岩の行動が成功するとは思えません。
・美奈子の人格が消えるとき、都合よく黒岩が殺人を犯すというタイミングができすぎている。これは、ドンデン返しを構成するうえでは仕方ないことですが。
・真相を当てられてない私で恐縮なのですが、本作全体的に個性的な部分が足りてはないと思います。たしかに三重人格が主人公というのは面白い趣向でしたが、黒岩の性別詐称と二人一役は珍しくありませんね。

 ちょっとわからないことなのですが、結局灯油を抜いたり、死体を掘り起こしたりしていたのは晴代なのでしょうか? 最後の文章からは、案外順一の人格も現われていて、メモを書いていたようですが…殺人鬼が二人という文は、いろいろ察していたのでしょうか?

No.4 6点 メルカトル
(2020/02/25 22:25登録)
スキー客で賑わうペンション「白銀荘」。そこに血腥い殺人鬼の匂いを纏った客が紛れ込んだ。多重人格症に悩む彼女は、ある目的を果たすため、連続殺人をもくろんでいた。おりしも、豪雪により白銀荘は外界と遮断された密室状態に!そして、相次ぐ殺人―。さらなる悪夢が。今、血の惨劇の幕が開く!本格推理の鬼才二人によるサイコ・ミステリーの傑作、登場。
『BOOK』データベースより。

所謂吹雪の山荘もの。殺人鬼は多重人格者の中の一人「あたし」ですが、これが何とも軽薄でいい加減。多数の人間を葬り去ったというのに緊張感に欠け、綿密な殺人計画に則った行動とはかけ離れています。最後までこの調子だと嫌だなと思いながら読み進めましたが、流石にそんな事はありませんでした。上手く多重人格を利用したトリックはお見事で、読者の多くが予想もしない展開に唖然とさせられると思います。ネタバレになるのであまり詳細は書けませんが、面白く読みました。

愛川晶のサイコサスペンス的要素と、二階堂黎人の捻りの効いた裏技的仕掛けが上手く融合している感じがします。でも、事件後警察が本気を出せば真相は割と呆気なく暴けたのではないかという気もしますけど・・・。
一読の価値はアリとしておきましょうか。

No.3 6点 蟷螂の斧
(2015/04/12 21:13登録)
キラー・エックスシリーズ3部作(黒田研二氏・二階堂黎人氏)の前哨戦的な作品でしたね。多重人格ものは、あまり好みではないのですが、本作ではうまく扱っていると思います。倒叙的要素が強いので、緊迫感の点でやや物足りない気がしました。

No.2 10点 公アキ
(2015/04/05 06:03登録)
 もしもミステリ小説の価値を、ファンタジックで不可解な謎、スリリングな展開、予想外の結末やどんでん返しではかるとしたら、この作品は文句無しに最上級に素晴らしいミステリ小説だと言えると思います。
 サイコ・ミステリ、クローズドサークル。もう少し具体的に言えば、多重人格症、雪の山荘。読み進めていくと、すぐにそれらの異様なハーモニーを味わうことができます。

No.1 6点 シーマスター
(2012/02/08 22:20登録)
二階堂黎人との合作。
ガチガチのサイコミステリー。
日本列島が最強寒波に席捲されていた頃に読み始めたので、本書の「猛吹雪の山荘」という設定に結構リアルな情感をもって臨むことができた。

トリックの一つ(多分メイン)は早々に分かってしまったが、さすがにこの二人、一筋縄や二筋縄ではいかない。いろいろと凝っていて楽しめる。
ただこの手のミステリーは「少々無理があっても派手にやる」ことに異論はないが、事件のオリジンはもう少しきちんとして欲しかった。その辺はミステリーの読後感にも少なからず影響すると思うので。

ところで「合作」ってどういう創作活動になるんだろう。
二人でべったりくっついてあれこれ話し合いながら書いていくのかな?(まさかね) 
粗筋とネタを決めた上でかわりばんこに書いていくのかな?(にしちゃあ文体の統一性に問題なさすぎ)

7レコード表示中です 書評