メルカトルさんの登録情報 | |
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平均点:6.04点 | 書評数:1835件 |
No.1135 | 7点 | 妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず 榎田ユウリ |
(2020/06/23 22:32登録) 突如発見された妖怪のDNA。それを持つものを「妖人」と呼ぶ。お茶室「妖〓(き)庵」の主である洗足伊織は、明晰な頭脳を持つ隻眼の美青年。口が悪くてヒネクレ気味だが、人間に溶け込んで暮らす「妖人」を見抜く力を持つ。その力のせいで、伊織のもとには厄介な依頼が絶えない。今日のお客は、警視庁妖人対策本部、略して“Y対”の、やたら乙女な新人刑事、脇坂。彼に「油取り」という妖怪が絡む、女子大生殺人事件の捜査協力を依頼された伊織は…。 『BOOK』データベースより。 別名義でBL物を書いている作者。世評が高いので興味本位で読んでみましたが、さすがの私も生理的に受け付けませんでした。そこで、本格ミステリ風のこちらはどうかと思って試してみたら、これが面白い。妖人とか妖怪とかが出てきて、京極の世界観に近いのかと期待しましたが、それはありませんでした。。しかし、これはこれで確固とした独自のワールドを確立しており、特に個々のキャラが鮮明に立っていて、その意味では文句なしの出来だと思います。強さ、優しさ、癒し、可愛さ、幼気、残酷さなどの要素が入り混じって、凄く良い味を出しています。これは広く一般読者にも受けるでしょうね。 ミステリとしては他愛もないものではありますが、それを補って余りある魅力的な探偵像。和装の似合う茶道の師範でありながら、物語で語られる妖人として生きていかなくてはならない宿命を背負っています。更に、まだまだ明かされない秘密を隠し持っており、それがまた本シリーズを牽引している要素の一つでもあると言えそうです。これまで全八巻刊行されていて、どれも好評なのが理解できる気がします。次回作にも十分期待できると思います。 |
No.1134 | 5点 | トップラン 第1話 ここが最前線 清涼院流水 |
(2020/06/21 22:39登録) 2000年1月1日。新しい千年紀と同時にハタチを迎えた音羽恋子の眼前に現れた「よろず鑑定師 貴船天使」と名乗る男は、札束を取り出して言った。「このテストに回答したら99万円あげるよ」。突如渡された33問のトップラン・テスト―回答者に値段をつけるための人間鑑定試験??奇妙な謎が謎を呼ぶ、書き下ろし文庫シリーズ第1話。 『BOOK』データベースより。 主人公の恋子がマクドナルドで偶然会った、貴船天使と名乗る男の胡散臭い取引に乗り、人間鑑定試験を受けるという内容。試験と言っても単なるアンケートのようなもので、少なくとも怪しげな裏がある様には思われません。ごく普通の性格診断のようなもので、誰でもが分かる、これを選べば相手に喜ばれるであろう模範解答を繰り返し選択するのみです。他にもホームドラマのような一面もありつつ、果たしてこのよろず鑑定師は何者なのか、何が目的なのかがはっきりしない分、不安を煽ってきます。その意味ではサスペンス小説なのかも知れません。 そして、その鑑定結果は果たして巨額を手にするものであって、これは予想通り。期間内に貴船を探し出さなければならない条件をどうやってクリアするのかも、予想通りです。何の捻りもありません。ですが、まだ物語は始まったばかりなので、今後の展開が読めません。取り敢えず次回は鑑定試験の答え合わせが明かされるそうです。自分の身に照らし合わせて、どんな結果が出るのか気になるところではありますね。 |
No.1133 | 6点 | 奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻 泡坂妻夫 |
(2020/06/19 22:14登録) 曾我佳城。若くして引退した美貌の奇術師。華麗なる舞台は今も奇術ファンの語り草である。もう一つの貌は名探偵。弾丸受止め術が自慢の奇術師がパートナーを撃ち殺してしまった。舞台に注目する観客の前で弾や銃を掏り替えた者は誰か。佳城は真相を見抜けるか?―など究極の奇術トリック満載の「秘の巻」。 『BOOK』データベースより。 単行本の方では絶賛されていますが、それ程とは思いませんでした。確かに、マジックとミステリを上手く融合させている手腕は素晴らしいです。しかし、途中でちょっと飽きてきます。何故ですかね。事件そのものの魅力がいまひとつだからでしょうか。それに、あまり余韻が残りません、いきなり解決編が始まり、それで終了みたいな感じで。尻切れトンボとまでは言いませんが、真相の意外性を感じるまでもなく唐突に切り捨てられたような感覚を覚えます。 『ジグザグ』辺りは個人的に好みではありました。途中で裏が読めてしまいますが。あとは『剣の舞』とか。動機が良かったですね、そこまでするのは逆恨みじゃないかとも思いますけど。 読んでいて何度も思ったのは、例えば山田風太郎だったらもう少し被害者の悲哀や、ストーリー性、ミステリ的趣向を充実させていたのではないだろうかというものでした。本書の場合はあまりに奇術に傾き過ぎたせいで、他がおろそかになってしまっているのではないかと思いましたね。 |
No.1132 | 6点 | 幽式 一肇 |
(2020/06/16 22:05登録) いるのかいないのか誰もが定義できない幽かな存在―亡霊。皇鳴学園高等学校一年、渡崎トキオはヘタレなうえに霊体験皆無のオカルトマニア。そんな彼の呑気な日常は、奇人にして美貌の転校生・神野江ユイと出逢ったことから揺らぎ始める!神野江は言う―「すべてが、逆なのだわ」。赤く染められた部屋、口にすると憑かれる言葉…この世にひそむ“霊かなもの”を次々と暴く神野江ユイに圧倒されながら、トキオが最後に辿り着いた彼岸の真実とは―?新感覚学園オカルティックホラーここに登場。 『BOOK』データベースより。 ホラーと言うよりオカルトですね。誰も彼も常軌を逸しているのに、物語として破綻していません。所謂情緒不安定な主人公の一人称で、それに対応するトリックも用意されています。と言っても、決してミステリではありませんので。 派手さはありませんが、神野江ユイがたまに暴走し、時ににオカルトサイト「異界ヶ淵」の管理人クリシュナ先輩がトキオを諫めるといった図式で物語は進行していきます。勿論、トキオにもユイにも重い過去という十字架を背負わされており、トーンは終始暗いです。それにしても、神野江はゲロ吐き過ぎ。 ラストは意外にも爽やかで救いがあります。どこがどうとは言えませんが、何か面白かったですね。リーダビリティも優れていて、オカルト好きな人にはお薦めです。装画、挿絵は好みではなかった、ちょっと酷いですね。 |
No.1131 | 5点 | 時計を忘れて森へいこう 光原百合 |
(2020/06/14 22:10登録) 同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。 『BOOK』データベースより。 日常の謎1割、癒し5割、優しさ4割な感じ。でも、その癒しと優しさは私には突き刺さりませんでした。何故だろうと考えるに、そもそも文章が青臭すぎるし、未熟過ぎて心に入り込ないからだろうと思います。全体的にぼんやりとした印象で、溢れる自然に囲まれた環境のはずなのに、あまりイメージすることが出来ませんでしたね。それに、一体何がしたかったのかが私には理解しかねます。作者は一応ミステリを意識して描いたようですが、第一話などは推理する程の謎でもなく、誰が考えても真相は同じでしょう。 Amazonなどで評判が良かったので思わず買ってしまいましたが、多くは女性或いは若年層の支持を受けたものと推察します。ミステリの鬼が揃った本サイトでは登録されていないだろうと思っていたのですが、流石に一票入っていましたね。まあ、ミステリ読みは読まなくて良い作品ですね。読み難いとかではないけれど、私の読解力以前の問題のような気がします。一冊の小説としての魅力があまり感じられないのは、残念な限りです。 |
No.1130 | 6点 | 星空の16進数 逸木裕 |
(2020/06/12 22:32登録) 「私を誘拐したあの人に、もう一度だけ会いたい」それは“色彩”だけを友とする少女の願い。すべての謎がとけたとき―私のいる世界は、こんなにも美しかった。 『BOOK』データベースより。 残念ながらデビュー作『虹を待つ少女』の名曲『ムーンリバ―』のような衝撃や感動は味わえませんでした。 誘拐された過去を持つ少女藍葉のパートと、藍葉に依頼された探偵みどりのパートの両面から描かれます。しかし、藍葉の大方は必要なかったと思います。無理矢理話を膨らませてページを稼いでいるだけにしか思えませんでした。それだけに冗長さはどうしても否定できないですね。 この作者特有の、多角的な視点から物語を紡ぐという美点は今回は見られません。ですから単調になりがちで、登場人物たちにもあまり個性が感じられません。一寸コミュ障気味の主人公藍葉と、私立探偵の資質を十分に持ったみどりの他は、探偵を陰のように支える浅川くらいですかね、それなりに人物が描けているのは。 真相はちょっとだけ意表を突かれましたが、そこに至るまでがあまりに長くて、それだけの為に読まされたような気がしたのは、いささか不本意ではありました。この作者に対する期待は個人的に高いものがありますので、それを考えるとやや期待を裏切られた感じがします。「色」に関する拘りなどは、正直興味を持てませんでしたね。 |
No.1129 | 7点 | 多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー アンソロジー(出版社編) |
(2020/06/10 22:59登録) レッドキング、チャンドラー、そしてマグラーが相争った「怪獣無法地帯」の真相に迫る―山本弘の表題作「多々良島ふたたび」。希少生物としての怪獣の保護を図る戦闘的環境団体とウルトラマンが対峙する―小林泰三「マウンテンピーナッツ」。生命の危険を顧みない、怪獣類足型採取士の死闘―田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」など、SF的想像力でウルトラ怪獣とウルトラマンの世界を生き生きと描く7篇。 『BOOK』データベースより。 SF、ホラー作家が真面目にウルトラ怪獣を描いた短編集。幼い頃、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンが再放送される度に観たという人は楽しめるはず。 作家陣は山本弘、北野勇作、小林泰三、三津田信三、藤崎真悟、田中啓文、酉島伝法の七人。これは錚々たる顔ぶれですね。ほとんどが変化球で、まともにウルトラマンと怪獣が対決するのは小林泰三の『マウンテンピーナッツ』くらいです。山本弘は多々良島のあの雰囲気を壊すことなく、新たな試みに挑戦しています。ピグモンとガラモンの意外な関係も創造していたりします。最も好感度が高かったのは未読作家の藤崎真悟で、メトロン星人を始め、チブル星人、イカルス星人などを登場させ、ウルトラセブンの世界観を見事に再現し、それでいてオリジナリティを持った逸品に仕上げていています。 田中啓文は結局ダジャレかよって感じ。三津田信三は己のスタイルを貫き、別にウルトラじゃなくてもよかったと思います。まあらしいと言えばそうなんですが。酉島伝法はいらなかったかな。怪獣が死んだ後始末を描いていますが、読みづらく、どう頑張っても情景が浮かんできませんでした。 |
No.1128 | 6点 | 赤と白 櫛木理宇 |
(2020/06/08 22:38登録) 冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれが周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく…。絶望的な日々を過ごす少女たちの心の闇を抉り出す第25回小説すばる新人賞受賞作。 『BOOK』データベースより。 初期の作品ながらこの作者の文章の完成度は見事なものです。小柚子と弥子の二人の主人公は歪んだ母親との関係性を持っています。又、その二人と最も関係の深い京香と苺実も含めて、青春と呼ぶにはあまりにねっとりとした女子高生たちのリアルを描いていると思います。日常的に酒に溺れたり、人に言えないトラウマや悩みを抱えていたりと、爽やかな青春小説とは対極に位置するブラックでダークな青春小説です。 冒頭にある事件の顛末が語られていて、そのホワイとフーに向かって、毎日のように降り続ける雪に閉ざされた閉塞感の中、物語は疾走を続けます。終わってみれば、何という事もない結末ではありますが、そこに救いはありません。 しかし、終章に於いて漸く光が僅かに差し込んでいき、それまでのやりきれないストーリーが少しだけ報われたような感覚に陥ります。これは作者の計算通りでしょう。まあ、一般受けはしないと思いますが、決して中身のない作品ではないですね。でもホラーじゃないと思います。怖いと言えば等身大の女子高生の真の姿が怖いですけど。 |
No.1127 | 5点 | 下町の迷宮、昭和の幻 倉阪鬼一郎 |
(2020/06/06 22:30登録) 田端にある古い銭湯の「昭和湯」の主人が旧式の柱時計を見るうちに…。飛鳥山公園の坂を上るたびに、母親の顔から「癒しの天使」となる女は…。かつての人気漫才師が、古巣の浅草にある蕎麦屋で聴いた歌謡曲は…。三十年ぶりに谷中を訪れた紙芝居屋が、千代紙を買った後に向かうのは…。現代の下町を舞台に、郷愁と恐怖が横溢する昭和レトロホラー。 『BOOK』データベースより。 倉坂鬼一郎がバカミス以前に描いた作品。作風の違いが如実に表れています。これはホラーと言うより幻想小説集でしょうか。ですから怖くはないです、ちょっと不思議でちょっと切ない、そんな雰囲気がそこはかとなく漂っている感じです。因みに昭和の匂いはあまりしません。個人的には郷愁も感じ取れませんでした。 詩的な文章でまさに行間を読むべき作品集と言えると思います。多分普段から純文学を読み慣れた人にとっては、比較的読み解きやすいのかも知れません。ミステリばかり読んでいる読者は、理論優先ではないのでどこをどう楽しめばよいのか理解できない可能性も否定できません。 巻末に作品一覧が載っていますが、あまり読んでないなと。まあミステリの人ではないので、そこまで固執する必要もないですね。 |
No.1126 | 5点 | 捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 加藤元浩 |
(2020/06/04 22:37登録) 念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃。しかし元アイドルという経歴のせいでお飾り扱いされてしまい、おまけに、驚異的な洞察力を持つ天才心理学者・草辻蓮蔵と、FBI出身で報告書の書き方に異様な執念を燃やす鬼才、「アンコウ」こと深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれることに!初めて挑む密室殺人事件の捜査は、一体どうなってしまうのか!?「小説でしかできないことをやりました」と著者自ら語る、傑作長編ミステリ! 『BOOK』データベースより。 ちょっと期待外れです。今後このシリーズを読むかは微妙ですね。ライトというか、なんとなくジュブナイルのような感覚で読みました。三つの事件は小ネタを寄せ集めたような感じで、あっと驚くようなものではありません。この辺りは漫画家の限界を感じます。 そして何と言っても致命的なのは、早い段階で大筋が読めてしまうことでしょう。それは主人公菊乃の勘違い的な雰囲気が色濃く作品に表出してしまっている為で、もう誰にでも見抜かれてしまうレベルですね。 まあね、草辻蓮蔵と深海安公の敵対などは面白かったですよ。でもねえ、警察小説としての完成度は低いし、警視庁捜査一課に広告塔として新人の菊乃を抜擢するなどあり得ないことから、リアリティにも問題ありです。それと、わざわざ菊乃をアイドルになる前からご丁寧に描く必要性が感じられません。「黒い奴」ってなんですか?これもあまり意味がないように思いますが。 |
No.1125 | 3点 | まどろむベイビーキッス 小川勝己 |
(2020/06/02 22:15登録) みんなと仲良くしたかった。いじめられたくなかった。邪険にされたり、疎んじられたりするのはもうたくさんだった。だから、だから…。キャバクラ「ベイビーキッス」で働く風間みちる。家ではSHIHOという名前でホームページを作り、訪れる人たちとのやり取りを楽しんでいた。ところが彼女の一言が「荒らし」を呼んでしまう。また仕事上でも他のキャバクラ嬢との関係が悪化し―。哀しい狂気が暴発する究極のエンタテインメント。 『BOOK』データベースより。 これは誰が見ても駄作でしょう、と思ったらそうでもなかったようです。108円じゃなかったら買わなかったとは言え、こういうのを読んだ自分が情けなくなります。いえ、作者が悪い訳ではありません、作家でも調子の悪い時もありますから。あくまで購買者の自己責任ですね。 一応ジャンルとしては倒叙物だと思いますが、虐められて、それが原因でアリバイトリックを考案し、殺害する。それだけで、そこに至るまでのプロセスが完全に排斥されており、どう言った心理状態で殺しに傾いたのかが全然語られていません。短絡的というか、どうにも解せないことが多すぎます。 イジメられたから殺す、誰にも愛されないから皆殺しにする、あまりにもいい加減過ぎませんかね。ネットでのやり取りや荒らしの実態、キャバクラ嬢同士の心理戦といったありきたりなテーマもうんざりですし、メイントリックもミステリ読みには驚きに値しないチャチなものでしょう。 |
No.1124 | 6点 | 都会のエデン 天才刑事 姉崎サリオ 高橋由太 |
(2020/06/01 22:34登録) 夕刻の池袋。一人の男がビルの屋上から突き落とされて死んだ。その妻をさらなる悲劇が襲う。三歳の息子が突然姿を消したのだ!父親の死と関係が?女装の巨漢で毒舌―捜査一課きっての名物刑事・姉崎サリオと相棒の孝太郎が捜査に乗り出す。その背後には、引退した「伝説の警察官」の姿が見え隠れするのだが…。あまりにも切ない「家族の事件」の真相とは? 『BOOK』データベースより。 前作『赤き虚空の下で』の鋭いナイフのような切れ味はないですが、姉崎警部のキャラの強烈さがそれを補って余りある魅力を醸し出しています。マツコ・デラックスにそっくりの姉崎はオネエ言葉も同様で、彼の台詞は私の頭の中でマツコ・デラックスの声に変換されるのでした。それが全く違和感響いてくるので、まるで本物のマツコが演じている錯覚すら覚えます。 事件は一見何気ない、大した謎もないように思えますが、人間関係が複雑に絡み合って悲劇を繰り広げます。それは家族の物語であり、悲しい境遇の人達の心の叫びでもあります。血縁とは何か、絆とは何かを読者の問い掛けているように思えますね。 しかし、この作品はシリーズ化はされないのでしょうか。一部のコアなファンはひそかに待っているのではないかと思うのですが。元々ミステリを書く人ではないので、あまり引き出しがないかも知れませんが、書こうと思えば書けるはずですよ。 読後、無性にポンデリングが食べたくなります。 |
No.1123 | 6点 | 人間じゃない 綾辻行人 |
(2020/05/30 22:24登録) 読んでいて何だか淋しい気持ちになりました。綾辻行人は館シリーズも久しく出ていないし、もう本格ミステリに対する情熱が薄れてしまっているような気がします。ホラーとかはポツポツ出ている訳ですが、もう叙述トリックを駆使した本格物を書き下ろしてくれはしないのではないかと不安に感じます。 さてこの中短編集ですが、それなりにらしさは出ているものの、イマイチ物足りなさを覚えますね。表題作は切れ味が鈍い感じがあり、捻りも効いているようないないような、中途半端な気がします。『赤いマント』は、大体の予測は付きますし、結末はやや拍子抜け。ホラーとミステリの融合は上手く出来ていると思いますが。 個人的に最も評価したいのは中編の『洗礼』でしょうかね。作者の思い入れが一番強そうだし、これが本当に京大ミステリ研時代に書かれた犯人当ての習作だとすれば、私にしてみればはなかなか良く書けていると思いました。そしてその結末が本当だとすれば、京大ミステリ研のメンバーがどれだけレベルの高い人間が揃っているんだと、驚きを隠せません。まあ私でも犯人は指摘できましたが、ダインングメッセージの本当の意味は推理できませんでしたね。 まだ老ける歳ではないと思いますし、綾辻氏にはもっと新作を期待したいと思います。エールを送ります。 |
No.1122 | 5点 | ダブ(エ)ストン街道 浅暮三文 |
(2020/05/29 22:07登録) あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」。キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。 『BOOK』データベースより。 うーん、微妙だなあ。そして評価が難しいです。少なくともメフィスト賞として相応しい作品でないことは間違いないですね。 まずダブ(エ)ストンという土地が茫洋として掴み所がなく、正直何がどうなっているのかが把握しきれません。そんなことは多分どうでも良いんでしょう。この不思議な世界観に浸って楽しめればそれでOKって事なんだと思いますが、作風が合わなかった読者にとっては退屈で仕方ないのではないかと。 異国情緒はやや感じるものの、そこに重点は置いていなくて、旅の途中で次々と現れる風変わりな人間たち、人外の者たちがやりたい放題で、そのユーモアな言動と主人公ケンとアップルの友情のあり様が読みどころになっています。 どこか西洋の童話風な感じで、それを無理やり大人の読み物に仕立て上げたような作品です。ファンタジーなのかエンターテインメントなのか、それすらも判然としない異色作ですかね。 しかし、この人は大成はしないなと思いますね、なんとなくですが。またしてもAmazonや読書メーターは高評価なんですが、そんなに面白いとは思いませんでした。やはり私がマイノリティなのでしょうかね。まあ後味は悪くはありませんでしたけど。 |
No.1121 | 7点 | 双蛇密室 早坂吝 |
(2020/05/27 22:45登録) 「援交探偵」上木らいちの「お客様」藍川刑事は「二匹の蛇」の夢を物心付いた時から見続けていた。一歳の頃、自宅で二匹の蛇に襲われたのが由来のようだと藍川が話したところ、らいちにそのエピソードの矛盾点を指摘される。両親が何かを隠している?意を決して実家に向かった藍川は、両親から蛇にまつわる二つの密室事件を告白された。それが「蛇の夢」へと繋がるのか。らいちも怯む(!?)驚天動地の真相とは? 『BOOK』データベースより。 正直、らいちの推理を読み終えた時、何だかなあと思いました。しかしそこに思わぬ人物が乱入し、そこから本番の真相解明が始まります。本シリーズに於いて、最もエロと犯行が直接結びついた、最高の一作と考えて良いのではないでしょうか。この密室トリックは余人には思いつかないものです。二番目の密室はどうなのかとか、あまりに非現実的過ぎてバカミスにもならないとか、色々ツッコミどころは有ろうかと思いますが、そんな事はどうでも良いのです、私にとっては。兎に角、その奇想が素晴らしいですし、物語としても面白かったですよ。らいち最高だと称賛したいです。 私の様に奇想天外なストーリーやトリックが好みの読者にとっては持って来いの逸品だと思いますが、一般読者や常識派のミステリファンの受けは決して良くないかもしれませんね。しかし細部までよくよく考え抜かれたという意味で、作者の知恵の限りを尽くしたものと私は考えます。 しかも、らいちならでは藍川ならではの作品には違いなく、このナイスコンビは永遠に続いて欲しいと思いますよ。 |
No.1120 | 7点 | デッドマンズショウ 心霊科学捜査官 柴田勝家 |
(2020/05/26 22:22登録) ドキュメンタリー映画の主役が次々とバラバラ死体で発見されるストーリー。怪しい人物がてんこ盛りでオカルティックな雰囲気も出しつつ、本格警察小説そして本格ミステリとして機能する完成度の高い作品。最後の最後まで良く練り込まれたミステリだと思います。ジャンルは警察小説としましたが、これは本格ミステリとしても十分通用します。 途中、霊気(りょうき)や怨度(おんど)といった造語がややこしく思えることもありましたが、そういった心霊、オカルト的な要素を排除しても作品として成立しています。ですから、殊更心霊科学というタイトルに惑わされる必要はないでしょう。それらを切り離しても、十分に楽しめます。 特に意外な犯人、足跡のトリックの斬新さ、死体をバラバラにした動機の必然性など、目を瞠るものがあります。また、キャラクター小説としても優れており、主要キャストの三人の個性が光る娯楽作にもなっています。ただ、主役の陰陽師、御陵清太郎の土佐弁だけは頂けないですけど。 これだけの傑作が世に埋もれているのは残念な限りです。この作者を読むのは二作目ですが、かなりの手練手管ぶりを発揮しているように思います。もっと注目、評価されても良い作家ではないですかね。 本シリーズも三作発表されていますし、まだまだ楽しませ貰えそうです。 |
No.1119 | 4点 | “菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕 高木敦史 |
(2020/05/24 22:30登録) “菜々子さん”が突然、3年前の事故は「事件だった」と語り出した。それは病床の僕にとってもはや検証不能な推理だけど、自然と思考は3年前に飛んでいた。そういえば、あの頃のキミって、意外と陰険だったよね―。“菜々子さん”が語る情報の断片は、なぜか次第に彼女が真犯人だと示し始める。“菜々子さん”が暴こうとしている真相とは一体!?可憐な笑顔の下に、小悪魔的な独善性が煌めく、まったく新しいタイプのヒロイン誕生。 『BOOK』データベースより。 Amazonの書評のあまりの高さに驚きを隠せません。またしても世評と己との乖離をつくづく思い知らされました。読者層がラノベ読みだから、その中身に物珍しさを感じたのか、ミステリ部分が目新しかったのか分かりませんが、そんな阿保なと思います。 ライトノベルのつもりで読んだのに、へヴィノベルだし、事件やトリックのあまりのショボさにがっかりだし、誰にも感情移入できないし、キャラも好きになれないし、どうでも良い描写が半分以上を占めているし、青春ミステリなのに清々しさの欠片もないし、その他諸々。褒めるべき点が一つも見当たりません。最終章までは0点でしたね。だから1点にしようと思っていましたが。 最終章とエピローグでちょっと盛り返し、評価点の底上げをせざるを得なくなりました。しかし、そこも回りくどいです。この人は、ラノベやミステリを書いちゃいけないと感じます。だったら何だったら良いのか、純文学でも志した方が賢明じゃないでしょうか。 尚、本作はスニーカー文庫の学園小説大賞優秀賞受賞作です。ホンマかいな。 |
No.1118 | 6点 | 怪しの晩餐 牧野修 |
(2020/05/22 22:18登録) さまざまな個人情報が取り引きされる名簿屋に勤める折原の元に、見慣れぬ名簿が舞い込んだ。そこには自分の情報の他に、最近世間を賑わしている連続惨殺事件の被害者たちの名前が載っている。一体何の名簿なのか?なぜ自分の情報が?にわか探偵となり謎を探るうちに―。殺人事件と記憶にある食卓の光景、さまざまなピースが嵌まるとき、衝撃のラストが待ち受ける。 『BOOK』データベースより。 怖さより気持ち悪さが際立っています。普通の感覚だと食欲が無くなったりするのかも知れません。まあ私にはこの程度では全然効きませんけどね。 二つのストーリーが並行して進み、やがて一つに収束していく手法はよくありがちですし、オチもちょっと脱力系です。勘のいい人はある程度予想出来る可能性があります。色々な意味で説明不足なのは否めず、最後までどうしても腑に落ちない点がありました。文体は問題ないのですが、ちょっと読者に対して不親切でしょうかね。 名簿通りに殺されていく被害者と、微かな記憶の断片に残る中華飯店の光景がどう繋がってくるのか、その辺りはミステリ的要素を存分に含んでいると思います。どこまでが現実でどこからが虚構なのか判然とせず、据わりの悪さが印象として残ります。でも結局は全てが・・・だったんでしょうね。「食」に対する拘りは強く感じます、テーマはそこにあるのではないかと思います。 でもなんだかんだで面白かったですし、ホラーとして十分に合格点でしょう。 |
No.1117 | 5点 | Xサバイヴ 都市伝説ゲーム 上甲宣之 |
(2020/05/21 22:43登録) この人はこんなんばかり書いているんじゃないですか。引き出しの少ない作家というのは嫌ですねえ。それを読んでいる私もどうかと思いますが。 良い意味での疾走感は最後まで損なわれることなく続きます。そこは評価できますが、如何せんワンパターンのそしりは免れませんね。 要するに都市伝説もどきの、得体の知れない女というか怪物に追われるヒロインが、ある事をきっかけにモビルスーツ的なものを装着し激闘を広げるという物語です。単純明快で、途中までは面白かったんですが、バトルに入ってから場面の切り替わりがほとんどなく延々と続き、読んでいてちょっとダレました。 ツッコミどころ満載ではありますが、あくまでゲーム、エンタメとして割り切らないと真面目に読んだ人ほど腹が立ってくると思います。この人はこういう描きかたをするのだという共有意識を持って挑んだ方が無難でしょうね。 しかし、続編があるなんて聞いてなかったですよ・・・。このままではあらゆる疑問が不明のままです。ですので仕方なく2を買わざるを得なくなりました。勿論入手しますよ、丁度良いところで終わってしまうアニメみたいな感じですからね、忘れないうちに早い段階で読まないといけませんね。 |
No.1116 | 5点 | 帝都探偵大戦 芦辺拓 |
(2020/05/19 22:04登録) 半七、銭形平次、顎十郎らが江戸を騒がす奇怪な謎を追う「黎明篇」。軍靴の足音響く東京で、ナチスが探す“輝くトラペゾヘドロン”を巡る国家的謀略に巻き込まれた法水麟太郎・帆村荘六らの活躍を描く「戦前篇」。空襲の傷が癒えぬ東京で、神津恭介が“あべこべ死体”に遭遇し、明智探偵事務所宛の依頼を受けた小林少年が奇禍に見舞われ、帝都を覆う巨大な陰謀に、警視庁捜査一課の名警部集団のほか、大阪など各都市からも強力な援軍が駆けつけ総力戦を挑む「戦後篇」。五十人の名探偵たちが新たな犯罪と戦うため、いま集結する。 『BOOK』データベースより。 ざっくり言うと煩雑、ですかね。黎明篇、戦前篇、戦後篇併せて総勢五十人の探偵が登場するわけですから、ただ名前だけでさして活躍しない人がほとんどですよ。一々各探偵が担当する事件が起こったらそれこそ大変なことになりますし。戦後篇なんかは何故金田一耕助が出てこないのか不思議ですし、明智小五郎も最後にちょっとだけ顔見せするだけ。神津恭介が最初に出てくるのは個人的には良かったですけどね。 しかし、相変わらずこの人は文章が下手というか、表現方法がちょっとずれているのではないかと思うんですよね。読みづらく、盛り上がりに欠けるのは毎度のことですね。 最も腑に落ちないのは、戦後篇の裏の主役がなぜあの人なのか、です。別にそんなビッグネームを出さなくても、二十面相で良かったじゃないですか。まあ確かに驚きましたけど。 作者は知っているけれど、探偵の名前はほとんど知らないというね、私も勉強不足でいけません。この作品は言ってしまえば、日本のミステリマニア中のマニアで、あらゆる名探偵に通じている人の為に書かれたとも言えるでしょう。私のような生半可なファンには敷居が高かった訳ですね。登場する全ての探偵譚を読んでいたら、それは楽しめたに違いありません。 |