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ミステリの祭典

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兄の殺人者

作家 D・M・ディヴァイン
出版日1994年01月
平均点7.22点
書評数18人

No.18 6点 ミステリ初心者
(2022/01/23 09:50登録)
ネタバレをしています。

 この作者の推理小説は3冊程度読んだ経験があり、どれも端正な本格でした。なので、高評価作品を買いました(笑)。

 この作品もよくできていました。
 殺された兄の殺人者の究明、兄の恐喝者としての過去への疑問、知り合いの女性の無実の証明などを目的とした主人公の話です。
 兄の過去と犯人の動機探し・アリバイ検証など、淡々と事件を追っていくだけではありません。彼と別居している妻や、その父、主人公の兄の妻など、いろいろな人間模様もあり、ストーリーもしっかりしていて、読者を飽きさせない工夫が凝らされています。とはいっても、私は少し読むのに苦労しましが(笑)。
 ほのかな恋愛要素もあり、主人公にとって救いのあるラストなのもいいですね。

 推理小説部分について。
 アリバイトリック・意外な犯人とドンデン返しが楽しめる作品です。
 犯人の過去が明かされたとき、今まで疑問があったことや、伏線が一気に回収されるところは、流石アガサ・クリスティーが褒める作品だけありました。

 難癖部分について。
 意外な犯人系ではあるのですが、それほど読者を騙すのに成功しているとは思えません。推理小説を読む人ならば、ストーリー前~中盤に浮上する怪しい人物は犯人ではないと察するのですが、私もそうでした(笑)。ファーガソンが犯人ではないのなら、真犯人の目星はなんとなくついてしまいます。ファーガソンの娘だったとはわかりませんでしたが(笑)。しかし、これはフェアさゆえのことかもしれません。
 あと、アリバイトリック自体は、それほど独創性のあるものではありません。この点ではややガッカリ感はありました…。

 総じて。
 丁寧に書かれている推理小説です。ただ、7~8点をつける作品よりかは、もう少しとがった部分が欲しいです。

No.17 6点 レッドキング
(2021/09/05 18:49登録)
ディヴァイン処女作。夜遅くに共同経営者の兄に呼び出された弟弁護士。そこには兄の殺害死体が・・弁護士として「男」としてヤリ手だった兄は恐喝屋でもあった。審査員アガサ・クリスティー推奨のコンクール応募作品。第一人称叙述ものなので、まさかあのネタ?・・てことはなく、あっちの方のネタのアリバイトリックもので、兄嫁・別居妻・元カノ・秘書と美女4人の豪華容疑者メニューから、まるでクリスティー作品の様な人物入代りオチが待っていた。
※こんな事を言うのヤボだが、「他にはいません、犯人はこの部屋にいるのです」とはいい切れなくね?

No.16 4点 メルカトル
(2020/10/22 22:40登録)
霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄オリバーから急にオフィスに呼び戻されたサイモンは、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていたオリバーを殺したのは、一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めたサイモンは、兄の思わぬ秘密に直面する。英国探偵小説と人間ドラマを融合し、クリスティを感嘆させた伝説的デビュー作、復活。
『BOOK』データベースより。

クリスティが絶賛したと言われる本格推理小説。
ですが、何度か挫折しかけました。面白くないから。ショボいアリバイトリック、意外性のない犯人、探偵の不在、上っ面だけの人間模様、起伏のないストーリー、どれを取っても詰まらなさの塊のようなものです、少なくとも私にとっては。私は古の良質本格推理小説を読み解ける審美眼も持たないダメ人間なのでしょうか。しかしよく考えてみて下さい。例えば現在の日本でこの作品が新人のデビュー作として発表されたとして、果たして読者に受け入れられると思いますか。私には大した話題にもならずに読み捨てられるような気がしてなりません。

正直、心に残っているのは記述者で主人公のサイモンとある人物の対決のシーンくらいです。事件の陰に隠された醜い人間のさがのようなものには嫌気が差しました。その分逆に印象深いと言えばそうなのですが。海外ミステリのファンを敵に回すわけではありませんが、本作のどこがそんなに魅力的なのかさっぱり解りません。多分私が馬鹿垂れなのだと思います。それにしても本サイトもAmazonも評価が高すぎるのではないですかね。

No.15 7点 人並由真
(2020/09/02 05:14登録)
(ネタバレなし)
 ディバインは最後に刊行された邦訳2冊(『医師』『紙片』)しか読んでなかったのだが、だいぶ前に古本で買った本作の教養文庫版が蔵書の中から見つかったので、このたび一読してみる。

 うん、評価の高い作品だけあって、ストーリーはハイテンポ、主要登場人物も描き分けられている。先に読んだ2冊よりずっと面白い。
 3~4時間でイッキ読みしてしまったが、クライマックスはまんまと直前のミスリードに引っ掛かった。まあそんな甘ちゃんのおのれ自身に苦笑しながら、一方でそういうタイプの読者だから(中略)……と自分を慰めてみたりする(笑)。

 ただしメイントリックは、刊行された時代を考えれば、思い切り旧弊なものだよね。警察の捜査会議の場で、列席した刑事の誰ひとりとして<その可能性>を取り沙汰さなかったのか、かなり不自然な感じがしないでもない。
 あと、真相がわかったあとで考えれば、(中略)でこれまで乗り切れてきたというのも、今後もそのままのつもりだったというのも、かなり無理筋では? 
 いや、とにかく読んでいる間は十分に楽しめたんだけれど。

No.14 8点 斎藤警部
(2018/03/30 12:30登録)
真相究明ロジック披瀝、その丁寧な仕事の心意気に打たれ、犯人カンで当たっちゃった怨みもふっ飛びました。 真犯人意外性よりも真相の意外性、その全貌の思いのほかの深さ。 また一見大味な大小トリックと緻密なロジックとの連関も極めてクレバー且つ感動的。 道具立てを見りゃ時代物のアリバイ工作も、推理小説での使い方の勘所は古びてない。 大胆伏線の繊細な置き場所が、読み返せば初夏の海の様にキラキラ輝いています。 ラストシーン、ご都合っぽいけど素敵。




【ここより強いネタバレ】


原題(My Brother's Killer)、邦題ともなんだかダブルミーニング的微妙な表現な気がするんですが、これもミスディレクションなのかしら、無意識にどこかで「主人公=語り手=被害者の弟が真犯人では。。」と疑わせてかなり強力な目くらましに。 それと、紛れもなく重要な登場人物が中盤からやっと登場し、”十戒”厳守だったらこれは真犯人ではないなと感じつつ、いつの間にかそれ(途中出場の人物が犯人)も全然アリそうな展開に自然となっていたりとか。。 クリスティ技の伝統を処女作から強力に引き継いでいたわけですね。女史が絶賛したのも納得です。

No.13 7点 了然和尚
(2015/12/30 14:44登録)
3、4年前に他の作品を読んだときには、他視点もので馴染みにくい感じがして評価が低かったですが、本作は良かったです。巻き込まれ型主人公の一人称スタイルなので、まあ読みやすさは確実なのですが、本格としての手がかりの散らし方も良くできていました。個人的には犯人に目星がついたので、その検証(犯人であり、オリバーの相手である)を考えながら読みましたが、否定の仕方(ごまかし方)が嘘的なことが多くてやや不満で残念でした。
今後もデヴァインは続けて読もうかと思いますが、なんか本作が最高とかいう評価をちらちら見ますので、気になりますねえ。

No.12 7点 ボナンザ
(2015/09/10 22:01登録)
実に良くできている。
デビュー作にして最高傑作と呼ばれるだけある名作。

No.11 7点 初老人
(2015/02/09 18:22登録)
最後の真犯人があぶり出されるくだりが淡々としており、カタルシスを得る事が出来なかった。尤もそれは犯人を外した事から来る単なる僻みなのかもしれない。
この作家のあまり誇張し過ぎない感じが気に入ったので、機会があれば次作以降も追いかけていきたいと思う。

No.10 9点 あびびび
(2014/08/11 12:56登録)
ミステリの魅力のほとんどを備えている良質のミステリだと思った。これほどの読後感はめったに味わえない。犯人についてはだいたいの見当がつくのだが、その背景が読み切れなかった。

しかし、生まれながらの悪人はほとんど改悛することはないんだなと、現代の複雑怪奇な事件をいろいろ思い浮かべてしまった。

No.9 8点 蟷螂の斧
(2014/02/13 14:14登録)
トリック自体はそれほどでもないのですが、それを解明する鍵(主人公が感じた違和感)が秀逸だと思いました。人物像もよく頭に入りましたし、構成もかなり凝っていて、非常に読みごたえがありました。今までの著者の評価は「悪魔」5、「ウォリス家」6「災厄」7でしたが、本書(デビュー作)を最初に読んでいれば、前者の評価も違ったものになっていたかも?。当初、作風がどうも・・・といったイメージを持ってしまったためです。物語全体のリーダビリティからすれば9点以上としたいのですが、トリックが好きなので、ポリシー通り8点としました。

No.8 7点 take5
(2013/09/29 22:46登録)
ネタバレです
いかにも英国調な始まりと終わり、主人公の肩入れがミスディレクションを生む構成、クリスティーが絶賛したことが私には犯人理解の足掛かりになりました。しかし、イギリス物は、根っから救いようのない子とその隣で悩む親ってよく出てくる…(偏見!)

No.7 6点 mini
(2013/02/27 09:59登録)
本日27日に創元文庫からD・M・ディヴァイン「跡形なく沈む」が刊行となる
ディヴァインの出版上の最終作は「ウォリス家の殺人」だが、「ウォリス家」は作者の死後に刊行されたもので実際の執筆はもっと早くて生前はお蔵入りになってたとも言われている、つまり実質的な最終作は今回出る「跡形なく沈む」であろうと思われる

「跡形なく沈む」が実質的最終作ならばデビュー作が「兄の殺人者」である
私が今は無き教養文庫でディヴァインを初めて読んだのもこれだった、現在のような人気作家になる以前で”このミス”で高評価だったのが理由だが、当時は一部のマニアしか知らぬ存在だったのになぁ、後に創元文庫から復刊されるとはねえ
これを読んだ時はびっくりした、初めての作家だったのでどんな風に仕掛けてくるのか得体が知れなかったからね
あぁこういう風にくる作家なのね、と知ってから「ロイストン事件」や「五番目のコード」を読むと、案外と仕掛けが見えちゃってガッカリした
プロットが複雑なのは作者の特徴であって決してデビュー作だからが理由ではない、なぜなら「ロイストン事件」なんかもっとゴチャついていて整理されてないし
てなわけでその作家の初めての作なので印象が強烈で、ちょっと採点は甘いかも知れない
それと私は解決編で容疑者全員を一堂に集めて探偵役が謎解きを披露という、クリスティがよく使う解決場面の演出が基本嫌いなのだが、この作品ではその手法が効果的だった

「五番目のコード」が仕掛けがはっきりしていて慣れたすれからし読者なら容易に見破れる作なのに対して、「兄の殺人者」は慣れた読者だと変に考え過ぎてしまい、かえって素直な初心者の方が見破れるかも知れない

No.6 9点 ミステリーオタク
(2012/10/08 23:17登録)
巧みを凝らした職人業

No.5 7点 りゅう
(2011/06/06 20:41登録)
 作者のデビュー作品であるためか、ストーリーテリングがこなれておらず、わかりにくい印象を受けました。事件の背後に複数の謎が隠されており、プロットが複雑なせいもありますが。真相に関しては、ほぼ想定どおりでした。終盤で、サイモンが事務所メンバーの2人に推理を語る場面があるのですが、これが真相では平凡すぎると思い、サイモンが犯人として指摘した人物以外にも、犯行が可能で、より意外性のある人物がいることに気付きました。劇的な犯人逮捕の後、真相が語られるのですが、この真相説明は状況がきっちりと説明されていて、ロジックもしっかりしていると思いました。

No.4 7点 E-BANKER
(2011/05/03 18:56登録)
ディヴァインの処女長編。
発表当時、かのクリスティーも絶賛したレベルの高い作品です。
~霧の夜、弁護士事務所の共同経営者である兄から急にオフィスに呼び戻された弟は、そこで兄の射殺死体を発見する。仕事でも私生活でもトラブルを抱えていた兄を殺したのは一体何者か?警察の捜査に納得できず独自の調査を始めた弟は、兄の思わぬ秘密に直面する~

評判に違わない良作。
英国伝統の本格ミステリーらしく、非常に丁寧に作り込まれてます。
兄弟やそれぞれの妻、義父、そして職場の同僚といったごく「近しい」人々との間のドロドロした人間関係を軸に、ダミーの犯人役が次々に登場し、読者を迷わせるプロットは、本格好きの読者にはやっぱりたまりません。
アリバイトリック自体は、「ふーん」という程度のものですが、フーダニットについてはサプライスも十分あり、伏線の置き方なども満足できる水準でしょう。
敢えて難を言えば、真犯人の「秘密(○○○○)」の部分ですかねぇ・・・(何となく気付きましたが)
作中では簡単に流してましたが、実際やるとすればリスキーかなぁと思ってしまいます。(周りに気付かれそうな気がする)
まぁ、重厚な本格物好きの方なら十分に満足できるという評価で良いでしょう。
(ロンドンの霧ってやっぱりすごいんですね・・・変な所に感心)

No.3 7点 kanamori
(2010/08/03 21:03登録)
とてもデビュー作とは思えない完成度の高い本格ミステリ。
殺された兄と主人公で探偵役の弟、ふたりそれぞれの人間関係が序盤から丁寧に描写されていて、単なる本格パズラーとして読むと冗長と感じる部分にもキッチリ伏線を張ってあり、なかなか巧妙なプロットになっています。
アリバイに古典的アイテムが使われている点は時代を感じますが、心情描写などによるミスディレクションに優れており、現代ミステリと比べて遜色ない内容だと思います。

No.2 8点
(2010/01/14 09:52登録)
プロットが秀逸です。ていねいに練られているという印象を受けます。しかも海外ミステリにしては人物造形がよくできていて、まるで国内物のように登場人物を頭の中に描きながら物語に浸れるのも良かったです。そんなわけで、すくない登場人物にもかかわらず簡単にだまされてしまいました。
それから、被害者の弟であるサイモンが仕事そっちのけで事件に首を突っ込んでいくストーリーの自然な流れも気に入っています。素人探偵が必死で謎解きに執心する、こういったスタイルは結構好きですね。
密室もなく、凝ったトリックもなく、連続殺人もなく、キャラの濃い探偵の登場もありません。だから、ケレン味を期待すると肩透かしを食いますが、渋くて味のある本格ミステリをお好みの読者には絶対におススメです。

No.1 10点 nukkam
(2009/10/05 11:34登録)
(ネタバレなしです) 書かれた作品がわずか13作ながら駄作なしと評価の高い英国のD・M・ディヴァイン(1920-1980)の1961年発表のデビュー作です。謎解きと物語がどちらも高い水準で両立した、文句なしの本格派推理小説の傑作です。アガサ・クリスティーも絶賛しただけあって読者を騙すテクニックは巧妙で、どんでん返しの面白さを堪能できます。人物描写も個性豊かです。ウイリアム・アイリッシュの「幻の女」(1942年)の有名な冒頭シーンを連想させる場面をエンディングに持ってきているのには思わずにやりとしました。

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