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ミステリの祭典

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メルカトルさんの登録情報
平均点:6.04点 書評数:1835件

プロフィール| 書評

No.1455 6点 狂乱家族日記 八さつめ
日日日
(2022/06/11 23:00登録)
予言された『来るべき災厄』とは、月香に恋する最強宇宙人の来訪だった!?強欲王と人類の戦いが膠着状態に陥る中、「ナス子さん。ご飯食べようね!」破壊神なのにすっかり懐柔?された月香の「妹」は凰火たちと夕餉の最中だった。そんな楽しい団欒の中、月香は強欲王の求婚に応えると爆弾発言をするのだった。騒然とする一同。どうするSYGNUSS!どうする凰火?ついでに地球の運命は?馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語最大の山場。
『BOOK』データベースより。

いやーいけませんねえ。二ヶ月間空いただけでかなり前作の終盤辺りを忘れていて・・・ダメじゃん自分。それでも読み進むうちに徐々に思い出してきました。そう言えばかなり混沌としながら内容テンコ盛りだったなあとか。兎に角再三再四シリーズを通して語られてきた来るべき災厄の正体が判明し、しかしそれが又大した事でもなくて拍子抜けの感が否めませんでした。それに加え、凶華がある意味不在で何だか話が締まらないです。

中盤まではそんな感じであちこち飛んで、最早収拾が付かない様相を呈しています。終盤漸く凶華が復活し、鶴の一声で決着を付ける方法が決まります。やっぱり混乱を一刀両断するのは彼女以外にいないですね。ここからかなり面白くなりいつもの調子を取り戻します。
最後はやはり愛なんですね。ここでは家族愛ではなく、男女の愛ですが。作者によればここまでがミステリで言うところの問題編、伏線を張り謎を散りばめていくパートで、次巻からいよいよ解決編らしいです。

尚、前作の書評で次回は番外編を読むと書きましたが、予定変更、順次本編を読み進めることにしました。出来ればもう少し間を詰めて。


No.1454 6点 綿いっぱいの愛を!
評論・エッセイ
(2022/06/09 23:25登録)
40歳を目前に控え、忙しくものほほんと過ごしているオーケン。まあヤングの頃はなんだかいろいろあったけど、最近は意外にいーじゃん人生って、なーんて思う毎日を送っている様子。ぶらりぬいぐるみ旅に出かけたり、女の子のいるお店に招待されたり、時にはロリコン殺人犯に怒ったり。勝ち組負け組みなんてくだらないモノサシをぶっ飛ばし、ひたすらロッカー(ぽくない)道をホテホテと突き進む、ププッと笑かすエッセイ集。
『BOOK』データベースより。

本書はSideAとSideB、Bonus Trackに分類されています。Aでは比較的普通のよくあるエッセイで、ジーン・シモンズや中島らもの人となり、手塚治虫のエロい漫画など色々紹介されています。一方Bでは作者の恐怖体験やエロ事件などややダークな内容が中心となっています。ボーナストラックはプロレスの裏話が印象的。

どの話もそれなりに面白く、たまにクスッと笑えるエッセイとなっています。特にオーケンにとって造詣の深いロック(プログレ、ヒップホップ含む)や映画の知識をある程度持っている方には楽しめると思います。
いずれ、無駄なと云うかどうでも良い豆知識が増えることは必至ですね。又オーケンの交友関係や自身の人物像、40手前に思う事などが知れて、ファンにとっては嬉しい内容となっているのではないでしょうか。


No.1453 5点 すでに宇宙人が話しかけています
田村珠芳
(2022/06/07 23:04登録)
超能力による読取り(サイキックリーディング)に、驚異の的中率を誇るこの女性が、あなたの明日の真実を明らかにする。
『BOOK』データベースより。

本書は2009年に刊行されました。まずそれを念頭に置いてください。作者田村珠芳は結婚し三人の子供をもうけたのち、闘病生活に入り、その間に見た夢が三日後に現実のものとなったという体験をし、夢占いから心理学を学んだのがこの道に入った切っ掛け。彼女はある日木花咲耶姫から「講演会を開きなさい」と言われたといい、その後執筆活動も始めたそうです。
で、本書の内容は、宇宙人は地球に住み着いている。宇宙人の中には地球人との子供を作った者もいる。UFOは地球に飛来した大型隕石を破壊して被害を防いでいる。宇宙人は地球をパトロールし救おうとしている。
第三次世界大戦は起こる。EU大統領が決まった後世界政府大統領も横滑りして決まる。日本人とユダヤ人の祖先は同じ。ロシアのプーチンは核でアメリカを狙っている。地球の地軸が動き、北極と南極が逆転する。等々。

どうですか、無茶苦茶ですね、言いたい放題で。ここまで来ると笑ってしまいます。
私はUFOや宇宙人の存在に関してはどちらかと言えば肯定派です。壮大な宇宙の中で唯一地球という星だけが高度の文明を持った、知能の高い生物が生存しているというのがどうにも納得がいかないんですよ。それとこれだけUFOが目撃されたり映像画像が広まっているのを全面的に否定する事は出来ないのではないか、即ち宇宙人も存在するという結論になります。まあでも、掲載されている宇宙人の顔のアップ写真を見て不謹慎乍ら大笑いしてしまった私の戯言など信用するには足りませんけどね。
本当は4点にしようと思っていましたが、110円で大いに笑わせてもらったのとその馬鹿馬鹿しさで楽しませてもらったので5点にしました。


No.1452 7点 アーモンド
ソン・ウォンピョン
(2022/06/06 23:12登録)
扁桃体が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない十六歳の高校生、ユンジェ。そんな彼は、十五歳の誕生日に、目の前で祖母と母が通り魔に襲われたときも、ただ黙ってその光景を見つめているだけだった。母は、感情がわからない息子に「喜」「怒」「哀」「楽」「愛」「悪」「欲」を丸暗記されることで、なんとか“普通の子”に見えるようにと訓練してきた。だが、母は事件によって植物状態になり、ユンジェはひとりぼっちになってしまう。そんなとき現れたのが、もう一人の“怪物”、ゴニだった。激しい感情を持つその少年との出会いは、ユンジェの人生を大きく変えていく―。怪物と呼ばれた少年が愛によって変わるまで。
『BOOK』データベースより。

本書はミステリではありません。まあ脳内ミステリーと呼んでも良いとは思いますが。脳内の偏桃体(アーモンド)が通常より小さい為、感情がほぼ変化しない主人公のユンジェ。それに伴い彼は一般的には生後3日で人は笑うと言われているのに、少年になっても笑ったことがありません。そんな彼の一人称で描かれる日常は様々な出来事や事件で埋め尽くされています。しかし、それはどれもドラマティックではありません、飽くまで淡々とした文章で進んでいきます。何故なら彼には感情がないから・・・。読後にあんな事もあったこんな事もあったと思い返してみると、如何にユンジェが波乱万丈な人生を送ってきたかが漸く理解出来て来ます。
感情がないとは、これ程人生を味気ないものにするのかという同情の様なものが其処で湧いてきました。果たして彼は人としてどう生きるのか、そして感情を取り戻し明るい未来を手に入れる事が出来るのか。

本当に翻訳された小説なのかと錯覚する程、日本人が書いたとしか思えない作品でした。訳者が素晴らしいのと原文が読み易いのとが相まってこうした秀作が生まれたのは非常に喜ばしい事であります。世界十三の国で翻訳出版されたのも頷けますね。尚作者に関しては訳者あとがきに詳しい。


No.1451 6点 夜の写本師
乾石智子
(2022/06/04 23:15登録)
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。呪われた大魔道師アンジストに目の前で育ての親を殺されたことで、彼の人生は一変する。宿敵を滅ぼすべく、カリュドウは魔法ならざる魔法を操る“夜の写本師”の修業をつむが…。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションをまき起こした著者のデビュー作、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

魔術、魔法ものとは言えよくあるラノベとは一味違います。中身が重いです。物語は面白いんですが、描写力というか表現力に問題がある為、もっと盛り上がっても良い場面でイマイチテンションが上がりません。
写本師とは聖書等の精緻を極める書物をそっくりそのまま書体まで書き写す職業で、それをマスターすることで魔導師にも劣らない力を得る主人公のカリュドウ。ストーリーはその魔術の業を駆使して最強の魔導師アンジストに、千年の時空を超えて復讐を誓うというもの。

総勢30人近い主要登場人物に混乱しながら読んでしまったのもあって、すんなり頭に入って来る様なやわな話ではなかったのは間違いありません。飽くまで硬質でエンターテインメント性が足りない分、文学として優れていると言えるのかも知れません。私にとっては読み難いとも言いますが。一般受けするとは思いませんでしたが、Amazonの評価は結構高いのでやはり私の読解力が足りなかったとしか考えられませんね。


No.1450 7点 魔術師
佐々木俊介
(2022/06/02 22:55登録)
神秘学に傾倒する伝説的実業家の住む洋館には、
独自の英才教育を受けて育った4人の子どもが暮らしていた。
当主の龍斎とその血族、奉公人たちの集う館に招待された聖は、
徐々にその異様な雰囲気に飲み込まれていき……。
読むほどに謎が深まる、再読必至の館ミステリ「魔術師」。
Amazon内容紹介より。

事件が起こるまでは、説明文がほとんどで少々退屈しました。やや長すぎますしね。しかし、一人目の犠牲者が出てからはテンポよく進み、楽しめました。所謂館ミステリです、描かれたのはそれ程前ではないのに随分古めかしい雰囲気を醸し出しています。たまに携帯電話とかのワードが出てくると、物語にそぐわない為あれっと思ったりしました。

事件の真相はミステリをある程度読んでいる読者であれば、おおよそ見当が付くと思います。私も絡繰りは推測通りでした。しかし本作はその外側に仕掛けがあり、誰もそこまでは辿り着けないのではないでしょうか。そして動機に関しても、私にとっては想像の斜め上を行くものでした。ただ、肝心な部分が説明されていないと感じたのが率直なところ。その為、どこか腑に落ちない印象が残ってしまったのはマイナスポイントではないかと思います。
それにしてもパラケルススとか錬金術、オートマタ、ホムンクルスなんかが出てくるとワクワクするのはミステリ読みのさがでしょうかねえ。


No.1449 7点 わたし、二番目の彼女でいいから。
西条陽
(2022/05/30 22:49登録)
私も桐島くんのこと、二番目に好き」

 俺と早坂さんは互いに一番好きな人がいるのに、二番目同士で付き合っている。
 それでも、確かに俺と早坂さんは恋人だ。一緒に帰って、こっそり逢って、人には言えないことをする。
 だけど二番目はやっぱり二番目だから、もし一番好きな人と両想いになれたときは、この関係は解消する。そんな約束をしていた。
 そのはずだったのに――

「ごめんね。私、バカだから、どんどん好きになっちゃうんだ」

 お互いに一番好きな人に近づけたのに、それでも俺たちはどんどん深みにはまって、歯止めがきかなくて、どうしても、お互いを手放せなくなって……。
 もう取り返しがつかない、100%危険で、不純で、不健全な、こじれた恋の結末は。
Amazon内容紹介より。

ラノベです。高校が舞台の恋愛小説です。でもラブコメではなく、結構シリアスです。私は夢中になると周りが見えなくなるタイプなので、どうも主人公の桐島や早川さんの気持ちはイマイチ理解できません。好きな人がいながら、二人が二番目に好きな者同士で付き合うというのはどういう心境なんだろうという素朴な疑問に応えようとしているのだと思いますが、何か裏がありそうな感触を残しています。結構エロく、しかし良いところで寸止めして妄想を掻き立てられます。
一話完結だと思っていたら、既に三作目まで出ていたのね。何作まで続くのか不安になりながらも、続きが気になってモヤモヤしています。ラノベのシリーズは長いからなあ。

作者はどうやらミステリが好きなようで、桐島がミステリ研究部の部長だったり、国内外のミステリ作品のタイトルとその作者の名前が次々と出てきたりします。そして体操服盗難事件の犯人を桐島がサクッと指摘します。
文体は飽くまで簡潔でラノベ特有の、妙に捻くれたような嫌らしさはありません。私の様な文法的に微妙におかしな点が見られる、いささかくどい文章を書く人間にはこうした潔さが憧れの的であります。この人は全くもって羨ましい限りの文才の持ち主なのです。


No.1448 8点 夜行堂奇譚
嗣人
(2022/05/28 23:07登録)
外道箱と血に狂う赤黒い犬、ないはずの右腕を掴む手、皮袋を引きずり徘徊する童殺し、化粧箱を泳ぎ回る異形の魚、ループする隧道(すいどう)…

隻腕の見鬼(けんき)・千早と、オカルト嫌いな県庁生安課・大野木は、骨董屋「夜行堂」店主によって引き合わされ、多発する怪異の解決に挑む。人の情念や想いが、人ならざるものとなり引き起こす、数々の呪いと悲劇。その様を静かに眺める、夜行堂店主の真の目的とは…。SNSで話題の怪異譚、待望の書籍化!
Amazon内容紹介より。

今現在Amazonの評点、138の内5点満点が94%、4点が4%です。これはなかなか見ないグラフですよ。因みに私が本書を購入した時は読者が100に僅かに満たない時でしたが、5点が96%でした。この評価をサクラも含めたとして全面的に信用する訳ではありませんが、やはり気になって購読に至りました。確かに面白い。それほど複雑な話はありません、しかし怪異の数々の因縁を暴きそれを解決として一件落着するパターンがほとんどで、不快さが残らない読後感が持ち味です。そして何と言っても人間が描けているのもポイントが高いですね。特に主人公の千早と大野木、そして夜行堂店主の三人の個性が際立っており、その人間模様が一つの読みどころとなっていると思います。

敢えて苦言を呈するなら、各話によって一人称の語り手が変わる為、どこか据わりの悪さを覚えました。そこは全て三人称にした方が良かったのではないかと。ただ、その分心理描写がおろそかになる可能性は否定できませんが。
そして、時系列がバラバラで頭の中で整理する必要が生じること。普通に順序を踏んで進行しても問題なかったのではないかと思いますね。
あとは個人的な感想ですが、結末が呆気なくてあまり印象に残らなかった点でしょうか。私の予感では本作の中で最も象徴的なエピソードを除いて、幻の様に儚く私の記憶から徐々に消え去っていき、その時はまた読まなければいけなくなりそうです。それはそれで幸せな事かも知れませんけどね。


No.1447 7点 三月は深き紅の淵を
恩田陸
(2022/05/25 23:02登録)
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上探しても見つからない稀覯本『三月は深き紅の淵を』の話。たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
『BOOK』データベースより。

本書を読む切っ掛けとなったのは、先日読んだ『本格ミステリ・ディケイド300』でした。実は『黒と茶の幻想』を読もうと思ったんですが、順序としてこちらを先に読んでおいた方が賢明だと考えた訳です。恩田陸、思えば二作読んだだけで何故か見切りを付けていました。自分にはあまり合わないとのちょっとした誤解からですが、私は間違っていました。やはり読まず嫌いはいけませんね。

兎に角流れるような筆致にグイグイ惹き込まれました。第一章ではミステリのマニア心をくすぐる趣向にやられ、第二章では作者の底知れぬ才能に畏怖を覚え、更にそこはかとない旅情をとことん堪能しました。第三章では生々しい人間関係と悲惨な青春の物語に悲嘆し、第四章ではメタミステリ要素を未完のまま見せつけられました。
これは幻想小説とアンチミステリを掛け合わせたような、異形の作品だと私は思います。確かに中途半端な部分もありますし、次作に繋げるための序章に過ぎないという意見も見逃せません。しかし、プロローグだけでこれだけの作品を描いてしまう恩田陸の底力を本書に見た気がします。確かな実力を持った作家であるのは間違いないと思いました。


No.1446 6点 数字を一つ思い浮かべろ
ジョン・ヴァードン
(2022/05/22 22:31登録)
数字を一つ思い浮かべろ。その奇妙な封書にはそう記されていた。658という数字を思い浮かべた男が同封されていた封筒を開くと、そこにあった数字は「658」!数々の難事件を解決してきた退職刑事に持ち込まれた怪事は、手品めいた謎と奇怪な暗示に彩られた連続殺人に発展する。眩惑的な奇術趣味と謎解きの興趣あふれる華麗なミステリ。
『BOOK』データベースより。

第一部は静、第二部は動、そして第三部は進展と云った具合に明確に色分けされています。それにしてもこれ程の大作とは思いませんでした。勿論それに見合った内容である訳ですが、主人公で元刑事のガーニーとその妻マデリンの、心の交流が結構な分量を占めており、それは要らなかったかなと個人的には思います。数々の謎は物語の進行に従って徐々に解されていき、本格ミステリのお約束の様な最後の最後に関係者を集めて謎解きが行われるというものではありません。その中でもメインとなる658という数字の関するトリックは、納得はいくもののアッと驚く程ではありませんでした。理論的には成立しますが、若干疑問に思う部分も無きにしも非ずです。

本作を読んでいて、いかにもアメリカらしいミステリだなと感じました。映像化すれば、と云うかした方が面白くなりそうです。主にハウダニットに重きを置いている感じもしますが、ホワイもフーもおろそかにされている訳ではありません。全体として良く出来ているとは思いますが、名作傑作の部類に入るとは言い切れませんね。文体もこなれていない印象を受けましたし。


No.1445 6点 真珠郎
横溝正史
(2022/05/18 22:32登録)
鬼気せまるような美少年「真珠郎」の持つ鋭い刃物がひらめいた!浅間山麓に謎が霧のように渦巻く。無気味な迫力で描く、怪奇ミステリーの最高傑作。他1編収録。
Amazon内容紹介より。

短めのページ数の中に色々詰め込み過ぎて、あまりスッキリしない読後感と置いてけぼりを喰らった様な孤独感が後に残りました。やや説明不足の感が否めないと思うのは私だけでしょうか。それでも金田一耕助シリーズには見られない幻想味には見るべきものがありそうです。所謂首なし死体ものとはちょっと違う趣向が凝らされており、その意味でも意外性を感じました。

探偵由利麟太郎が登場して初めて、あっと思いました。ノンシリーズだと疑わず読んでいましたので。しかし、折角の名探偵が一向に活躍しないのは如何にも残念です。ラストの真相判明の手法は個人的にあまり好みではありませんし、正直カタルシスも得られませんでした。勝手にハードルを上げてしまい期待外れに終わったのは悔やまれます。横溝の傑作群と比較してしまった私のせいでもありますが。
しかし、思ったよりも本格ミステリ度が高かったのは間違いありません。


No.1444 8点 三人の名探偵のための事件
レオ・ブルース
(2022/05/15 23:07登録)
サーストン家で開かれたウィークエンド・パーティーの夜、突如として起こった密室殺人事件。扉には二重の施錠がなされ、窓から犯人が逃げ出す時間はなかった。早速、村の警官ビーフ巡査部長が捜査を開始するが、翌朝、ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父を彷彿とさせる名探偵たちが次々に登場して…華麗なる名探偵どうしの推理合戦と意外な結末。練り上げられたトリックとパロディ精神、骨太なロジックに支えられた巨匠レオ・ブルースの第一作にして代表作、ついに文庫化!
『BOOK』データベースより。

読み始め、原文を直訳している感じで、文章が硬いと感じました。読み難い訳ではありませんが、もう少し平明で分かり易い翻訳を心掛けて欲しいものだと思いました。ただ、話としては悪くありません。丁度良いタイミングで事件が起こり、窓は一つ開いているものの密室殺人だと判明します。まあ、現在となってはありきたり過ぎる位で、むしろ地味と言えるとは思います。

依頼されてもいないのに三人もの名探偵が次々と現れ、警察を尻目にめいめいに捜査を開始するのを傍観している巡査部長という図式は、余りにも非現実的過ぎてなんだかなあって感じです。しかし、いよいよ探偵達の謎解きが始まると俄かに面白くなります。この趣向、この解決編、この真相、正に良く出来た新本格を読んでいる様な錯覚さえ覚えます。ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父をパロった探偵の果たして誰が真相を言い当てるのか、興味津々で読み進められました。しかも三人が三人とも遜色ない推理を披露し、伏線を回収しまくります。所謂多重解決ものの白眉と言っても過言ではないでしょう。


No.1443 7点 本格ミステリ・ディケイド300
事典・ガイド
(2022/05/12 23:09登録)
ゼロ年代デビュー作家による書き下ろしミニエッセイ。映像からアニメ・コミック、ゲームのゼロ年代を俯瞰するコラム。作家ガイド付き索引。
『BOOK』データベースより。

大変良く出来ました。花丸をあげましょうね。2001年から2010年までの十年間の国内本格ミステリ総決算。
数えてみたら300冊中既読だったのは114冊でした。如何にも中途半端な読者の私でも、タイトルを知っているけれど中身は知らないものや、中には全く聞いたこともないものもあり参考になりました。しかし、だからと言って即これは読みたいと思うような作品はそれ程ありませんでしたね。やはり自分好みの作品にはある程度手を付けていたという事になりそうです。或いは入手困難で読みたいけれど、諦めている作品とかですね。

内容としてはあらすじ半分解説半分って感じでしょうか。これだけの数ですから、どうしても微に入り細を窺つ訳には行かないのはやむを得ないです。それでも十分言いたいことは伝わってきました。勿論ネタバレは皆無です。私は最近になって、例えば「この作品は叙述トリックを使用しています」と書いただけで既にネタバレだと思うようになりました。その意味でも細心の注意が払われています。
これは本格ミステリではないだろうとか、何故これが入っていてあれが入っていないのかとか、あの作家の作品はネームバリューに比して取り上げられすぎじゃないかとか、色々疑問に思うところもありましたが、飽くまで私見ですので仕方ないんでしょう。万人に認められる300冊にするのは至難の業でしょうから。


No.1442 6点 高速ばぁば
福谷修
(2022/05/08 23:00登録)
アイドルグループ、ジャージガールのアヤネ、ナナミ、マユコの3人は、ある番組の撮影で廃墟となった老人ホームを訪れる。廃墟に持ち込んだカメラには、とても人間とは思えない速さで走る老婆の姿が映っていた。撮影後、帰宅した3人の周りでは奇怪な現象が続き、身体にも不気味な症状が次々と現れる。恐怖の連鎖を食い止めるため、再び老人ホームを訪れた彼女らを待ち受けていたのは、怨霊の跋扈する想像を絶した地獄だった―。凄惨なる都市伝説ノベル!!
『BOOK』データベースより。

三人のアイドルが廃墟で肝試しをし、そこで怪異に襲われその後も不可解な出来事が連続するという、王道ホラーです。映画のノベライズにしては良く出来ている方だと思います。そこそこ怖くてグロも適度に含有しているし、それなりに臨場感も備えています。また、終始七海目線で描かれていますが、その時々の心情が事細かに描写されていて、三人組の微妙な位置関係も良く分かるように出来ています。

都市伝説を上手く絡めて、実はこの怪異の発端はこんな感じだったのではないかという解釈の元に、過去の事件を要領よく纏めて、程良く奥行きを感じさせる作品となっています。コンパクトながら内容はグッと詰まっている感じで好感が持てます。タイトルから色物扱いされがちかも知れませんが、色眼鏡を外して読んでみるのも一興かと思います。アイドルも色々と大変だなと云うのも分かります。


No.1441 5点 自由研究には向かない殺人
ホリー・ジャクソン
(2022/05/07 22:54登録)
イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)"に取り組んでいた。題材は5年前の少女失踪事件。交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。調査と推理で次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった謎解き青春ミステリ!
Amazon内容紹介より。

読み終わった達成感より、やっと終わったかという徒労感の方が強いですね。手を変え品を変えての凝った構成は認めるものの、どうにも面白味がないです。最も惹かれたのはインタビューでの受け答えですが、その度に容疑者に加えていくのが単なる憶測に近いものがあり、所詮素人の調査でそれほどまで真相に迫れるものかと云う疑念も抱かざるを得ませんでした。警察の捜査も杜撰な気がしますしね。過去の事件として描かれているので、詳細は不明ですが。

更に言うと人間が描けていない為、主役の二人以外誰が誰だか分からなくなり、何度も冒頭の登場人物一覧を見返すことになりました。没個性で人間ドラマとしてはまるで機能していないと感じました。最後の真犯人の指摘は非常に唐突な感が強く、何を根拠に判明したのかが理解出来ませんでした。ラストは良い雰囲気の締め方でそこはまあ褒められても良いかなと思います。しかし、これがベストセラーで各ランキングを席巻したとは、私には俄かには信じがたいものがありました。タイトルに惹かれた私が悪かったのでしょうか。どちらかと言うとジュブナイルに近い作風だと思います、いずれにしても私には肌が合いませんでした。


No.1440 7点 こなもん屋馬子
田中啓文
(2022/05/02 23:04登録)
その店は、大阪のどこかの町にある。仕事に、人生に、さまざまな悩みを抱える人びとが、いかにも「大阪のおばはん」の女店主・蘇我家馬子がつくるたこ焼き、お好み焼き、うどん、ピザ、焼きそば、豚まんなど、絶品「こなもん」料理を口にした途端…神出鬼没の店「馬子屋」を舞台に繰り広げられる、爆笑につぐ爆笑、そして感動と満腹(!?)のB級グルメミステリー!
『BOOK』データベースより。

気分が落ち込んだらこれを読め!必ず笑える事をお約束します。日常の謎から怪奇現象まで大阪のおばはん馬子が、サクッと事件と悩みを解決する連作短編集。と言ってもミステリはほんの味付け程度で、様々な粉もんを通じて客と馬子との心の触れ合いを描くのが本筋。彼女は大阪のどこにでも居そうな肥えて爆発したような頭をし、虎の顔のTシャツなんかを着こなした大阪文化の象徴のような女で、暴言や暴力も遠慮しません。しかし、彼女の作る料理の数々は一見の客を唸らせる逸品ばかりなのに、作り方は至ってシンプルという不思議かつ神秘的な腕の持ち主であります。それぞれの登場人物の心の呟きで、どれ程馬子の料理が素晴らしいかを語り尽くします。

流石に大阪出身の田中啓文、ギャグのセンスも抜群で中でも大阪では『ありがとう 浜村淳です』で有名な浜村淳ならぬ『おめでとう 浜崎純です』の浜崎純も登場したり、大笑いさせてもらいました。特に第一話は必見で何度笑った事か。勿論駄洒落も健在ですよ。それだけではありません、各短編の完成度が異様に高く人情話としても十分楽しめます。
個人的に特にお気に入りは『焼きそばのケン』で、流しとラッパーの対決が素晴らしいです。


No.1439 5点 流行作家殺人事件
赤川次郎
(2022/04/30 23:01登録)
超ベストセラー作家・牛田竜介は本当に実在するのか。原稿の受け渡しも、常に秘書の久江を介してのみ行なわれ、編集者の誰一人として彼の姿を見た者はいないのだ。その仕事場で起きた殺人事件。犯人は姿を消した牛田なのか。捜査に乗り出した大貫警部と井上刑事のコンビが突き止めた思いも寄らぬ真相とは。
『BOOK』データベースより。

ユーモアミステリだと思いますが、肝心の大貫警部は大して活躍しません。ただその言動が一般人と異なると云うだけで、推理もしなければ捜査もしないという、階級に相応しくない人物で、あまり笑えません。結構長く続いているシリーズで人気もあるそうですが、何処が面白いのかイマイチ理解できませんでした。プロットなどは成程こなれているのは認めます、しかし色々説明不足な点が多く、何だか内容があまり頭に入って来ません。これじゃあ別に文庫化する必要性ないじゃんと思ってしまいました。まあ、気軽に読みたい、あまり頭を使いたくないという読者には良いのかも知れませんが、逆に読み難くないかなという気がしてなりません。

表題作はそれらしい謎や意外性がありプロットも確りしていて、最もミステリらしい作品です。トリックはショボいですけどね。それ以外の二編は語る価値もない程度と考えて頂ければ、と思います。正直個人的にはやはりもっと骨のある作品が読みたかったですし、シリーズ全体のAmazonでの評価が高いだけに期待していたのですが、残念でした。


No.1438 6点 ハイエナの微睡(まどろみ)
椙本孝思
(2022/04/29 22:53登録)
宗教都市・深石市で、奇妙なバラバラ死体と、冷蔵庫に圧し潰された変死体が発見された。被害者はともに警官。捜査一課の佐築勝道は、両現場で見つかった不気味な意匠の社章から、ある地元企業の関与を疑う。しかし理不尽な組織の力学と謎の圧力が捜査を阻み、無邪気な女が勝道を悩ませる―サバンナを彷徨うような果てなき猟奇殺人捜査。刑事がたどり着く驚愕の真相とは?ラスト40ページで世界が一変する衝撃の警察小説。
『BOOK』データベースより。

サイコサスペンス的なのかと思っていたら、全然違いました。出だしこそバラバラ死体で始まり、猟奇的な雰囲気溢れるスリラーの様ですが、結構ガチガチの警察小説です。物語が進むと次第に私の願っていない方向へ滑り出し、巨大企業や新興宗教が絡んでかなり硬質な作品だと判ってきます。そんな中、金髪で言葉遣いの荒っぽい都と名乗る女が登場してから、主役の佐築よりも彼女に感情移入している自分に気付きました。殺伐とした話の中で唯一都の存在が私を癒してくれ、彼女の出番を心待ちにしたりしていました。

売れていないとは言え流石にプロの作家、これまでのミステリとは一線を画す作風に、一寸した畏怖を覚えました。なぜ死体をバラバラにし、頭部を電子レンジで加熱したり胴体をテーブルに置きナイフとフォークを並べたのかなどの動機に期待してはいけません。ただ、作品全体に仕掛けれたトリックには唖然とさせられました。これは新機軸だと思いますよ。


No.1437 5点 しにがみのバラッド。
ハセガワケイスケ
(2022/04/27 22:49登録)
目を覚ますと、少女は死神でした。その少女は、死神でありながら、その真っ白な容姿ゆえに仲間から「変わり者」と呼ばれていました。しかし、少女の持つ巨大な鈍色の鎌は、まさしく死の番人のものです。少女の使命は人間の命を運ぶこと。死を司る黒き使者である少女は、仕え魔のダニエルと共に、人の魂を奪いにいくのです。死を司る少女は、様々な人と出会い、そして別れていきます。哀しくて、やさしいお話。
『BOOK』データベースより。

優しさゆえについつい人間に余計なお節介を焼いてしまう死神モモと、その相棒で黒猫のダニエルの淡い物語。この作品が嫌いと云う人は少ないと思いますが、インパクトに欠ける、心に突き刺さるものが足りないなどの理由であまり評価しない読者もおられるでしょう。私もその一人です。所謂いい話ではあります、でもそこまでで、死という概念に憑りつかれた人々特に少年少女達の心の奥底まで掘り下げられている様には思えません。

文体は飽くまで詩的で、普通に読めば何処か食い足りないものを感じてしまう部分があります。ストーリーに起承転結はあるものの、先の展開が読めてしまったり、オチが見え見えだったりして、その意味では期待を裏切られました。
まあ、連作短編集でありシリーズを通しての秘められた真実などはなさそうなので、一巻ずつ安心して読めるとは思います。その分、次を読み進める推進力には欠ける気がしますが。


No.1436 7点 凶鳥の如き忌むもの
三津田信三
(2022/04/25 22:48登録)
瀬戸内海の兜離の浦沖に浮かぶ鳥坏島。鵺敷神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音は神事“鳥人の儀”を執り行う。怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。大鳥様の奇跡か?鳥女と呼ばれる化け物の仕業か?『厭魅の如き憑くもの』に続く“刀城言耶”シリーズ第二長編待望の刊行。
『BOOK』データベースより。

何か、悪い意味ではなく嫌な小説を読んでしまった、みたいな読後感です。前半は耳慣れないワードが結構出てきて、やや理解が追い付かない面がありました。が、その雰囲気はやはりシリーズを通しての独特のものであり、良い具合にストーリーやトリックに絡んでくるので、我慢して読むしかありません。ここを飛ばし読みすると解決編で得られるカタルシスが減じる可能性があります。

物語の舞台は固定されていて、それだけ濃縮された世界であるのは間違いないですが、その分スケールの大きさは感じられません。その反面密度は濃いですね。
人間消失のトリックに関しては、もう何も申しますまい。ただ、巫女の心情がもう少し深掘りされていれば更に素晴らしい小説になったのではないかと思います。いずれにせよ、普通のミステリに飽きてしまった読者向けとは言えるでしょう。それだけ尋常ではない代物ってことで。評価が割れるのはやむを得ない所も納得です。
一つ残念なのは拝殿の見取り図がなかった事。これは是非とも挿して欲しかったですね。

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