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ミステリの祭典

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戦国自衛隊

作家 半村良
出版日1975年06月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 7点 糸色女少
(2023/10/06 21:58登録)
昭和の自衛隊員が戦国時代にタイムスリップする。「近代兵器が古代の戦場で通用するだろうか」という架空戦記ものの元祖である。
その時代にあるはずのない科学があれば、かつての歴史を変えられたはずだと、隊員らは意気投合した武将と新たな日本を築こうとする。圧倒的戦力で領地を拡大しつつ、現代で培った知恵を活かし、文化も育てようとする様が印象的だ。
冒頭、二十代前後の隊員らは、胎児のように丸まった姿勢で時を超える。戦争小説という側面より、若者らが「なぜ自分らが選ばれたのか」と時に問いつつ、運命を半ば受け入れ新世界を生きようとする姿に静かな感動を覚える。

No.2 7点 メルカトル
(2022/10/08 22:58登録)
日本海側で大演習を展開していた自衛隊を、突如“時震”が襲った。突風が渦を巻きあげた瞬間、彼らの姿は跡形もなく消えてしまったのだ。伊庭三尉を中心とする一団は、いつの間にか群雄が割拠する戦国時代にタイムスリップし、そこでのちに○○○○となる武将とめぐり逢う。“歴史”は、哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器を携えた彼らに、何をさせるつもりなのか。日本SF界に衝撃を与えた傑作が新装版で登場。
『BOOK』データベースより。

皆さんご存じの通り、自衛隊が戦国時代にタイムスリップするという奇想天外な物語。陸上自衛隊の三尉伊庭を含めた三十人の隊員達は突然の事で動揺を隠せない。しかしいち早く立ち直った伊庭三尉はのちに誰もが知る超有名な武将長尾景虎と邂逅します。やがて二人は話し合ううちにお互い認め合い、時と共に友情に発展していきます。
景虎の哨戒艇や戦車、ヘリコプターを初めて見た時の、子供の様に目を輝かせ驚きを隠そうともしない純真さに心打たれました。そして二人は否が応でも共闘せざるを得ない状況に陥り、戦闘に突入します。

前半の数々の戦闘シーンには、これ程血沸き肉躍る体験は滅多にあるものではないと感銘を受けました。戦国の世に自衛隊の兵器が躍動するのですから、面白くない訳がありません。
後半は景虎の配下の戦の模様を淡々と描いているので、折角の興奮が醒めてしまい、勿体ないなと感じました。
ラストは過去に起こった事件の辻褄を合わせるのにかなり無理があった様に思いました。驚いて良いのか、感心して良いのか、それともそんな馬鹿なと詰るべきなのか、何とも言えない結末でしたね。

No.1 7点
(2021/05/14 08:14登録)
 アメリカ第七艦隊の一部も参加する全国規模演習のさなか、新潟・富山県境の境川河口付近で野営していた自衛隊東部方面隊所属の第十二師団後衛は、突如発生した時空震により補給隊の一部や装備ごと、約四百年前、戦国騒乱期の日本に飛ばされた。だがそこは、彼らの歴史とは微妙に入れ違った物語りを持つ異世界だった。
 第一師団から派遣された輸送隊指揮官・伊庭三尉は隊員たちの動揺を引き締め、車長の島田三曹や普通科隊の木村士長らと共に、現地の紛争には関わらずあくまで中立を保とうとするが、長尾平三景虎と名乗る武士を助けた事からやがて、本格的にこの時代に介入していく。
 「歴史は俺たちに何をさせようとしているのか・・・」
 「SFマガジン」1971年9・10月号掲載。仮想戦記ものの嚆矢となった中編で、1979年12月公開・千葉真一主演の角川映画や劇画家・田辺節雄による複数回のコミック化、更には2005年のリメイク映画版など、今迄幾度もメディア展開されている。著者の最高傑作ではないが、現在半村良の名は〈『戦国自衛隊』の作者〉とした方が通るだろう。卓抜なアイデアを創作世界に提供した、良くも悪くもエポックメイキングな作品と言える。
 当時の著者は〈このアイデアを先に発表しておかなくては〉との思いからダイジェスト的に結末を纏めたそうだが、それもあってか記述は全体にあっさりめ。ただし「近代兵器を過去の戦闘に用いればどれほどの事ができるのか?」という最大の醍醐味は、綿密な取材によりしっかりと押さえられている。この部分の確かさが、パイオニアたる本書が未だ風化しない理由だろう。
 北陸出身の半村らしく、物語では三十人程の自衛隊員たち《とき》衆 が、長尾景虎=上杉謙信と共闘しながら越後→信濃→東海→関東→近畿と、史実とは逆に南進する形で日本中央部を制圧していく。その過程で当然有名な〈川中島の戦い〉も行われることに。丸太を捩じ込んでトラック部隊を止める武田軍の戦法は、ベトコンゲリラを参考にしたものだろうか。田辺節雄のマンガ版ではまさに死闘といった感じだったが、原作での戦闘描写はこれもあっさりめ。この戦い前後から、近代兵器の備蓄その他が底を付き始める。シミュレーション物はおしなべてそうだが、帰趨の明らかとなる後半よりはやはり手探り状態の前半部分が面白い。
 墜落したジェットヘリコプターV107や消耗品の有線誘導ミサイルMATに代わり、統一の原動力となるのが経済の力。佐渡の鶴子金山から金鉱石を発掘、更に装甲車を走らせる為の道路建設工事が国土を潤し、黄金を凌ぐ圧倒的な富を生んでゆく。自衛隊員たる伊庭三尉の不戦の決意や東京への想いが、義将・謙信の評判や関東侵攻に繋がってゆくのも良い。簡潔ながら細部まで考え抜かれた作品で、採点は発表後の多大な影響力をプラスし7点ジャスト。

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