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ミステリの祭典

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龍神池の小さな死体

作家 梶龍雄
出版日1979年06月
平均点7.07点
書評数14人

No.14 8点 ミステリ初心者
(2023/12/06 20:06登録)
ネタバレをしております。

 復刻版を購入しました。入手しずらい名作を復刻してくれるのは大変ありがたい!! まだ見ぬ名作をどんどん復刻するといいぞw

 読み初めはなかなかページが進みませんでしたw 
 過去に事故死したと思われていた主人公の弟が殺されたと聞かされ、ちょっと閉鎖的で変わった村へ行き調査するという割とよくあるスタイルで進みます。主人公が事件の当事者でない場合、聞き込みが主になりますので、警察小説のような感じもあり、事件が進むのが遅いため読みづらさを感じてしまうのですよね。
 また、過去の事件を追うこともあまり進みません。皆、20余年前のことは記憶がおぼろげですし、当事者は口を割らずに死んでしまいます。
 さらに、このタイプの小説にありがちな、村ではタブー扱いの事件をほじくり返すことによって村から疎まれ、村全体から敵視される展開でスリリング…というものも本作では実にあっさりとしていますw
 解説が三津田信三氏であり、本の裏のパラメータでは恐怖の値がMAXなため、三津田信三氏の人気シリーズである刀城言耶シリーズのようなホラーな趣があるかと思えばそうでもなく…w
 主人公が殴打されて昏倒したり、20余年前の事件の当事者の吉爺さんが殺されるなどの事件が起こるのはかなりページが進んでからです。

 推理小説的要素について。
 非常に見事でしたw メインのトリックは、吉爺さん殺害トリックと、吉爺さんすり替えによる人物認識をずらすトリック、さらに過去の事件~2度のすり替えを経た黒岩=秀二のドンデン返しかと思います。
 吉爺さん周りでは、主人公がポカをしてしまうことで間接的に犯人に協力してしまっているので、完全には私の好みではないのですが、丁寧に張られた伏線によって一瞬だけ吉爺さんがホンモノではないのではないか?と私でも思いましたw 機械的な仕掛けは好みではないものの、人物・場所・時間の認識を全てずらした名トリックだと思います。ピタゴラスイッチ的仕掛けではないですしねw
 黒岩は露骨に怪しいと思いましたが、まさかここまで過去の事件とかかわりがあるものだと想像できませんでしたw 正直、過去の事件はあっさりめで終わるかと思いましたが、見事に伏線とミスリードが回収されていて、前半の読みづらさは嘘のようでした。
 ラストについては何とも悲しいです…。正直、絶対大熊を殺してると思いましたw 主人公智一より、賢く行動力のあり明るいスーパー探偵佐川美緒が報われない(?)のが残念ですね(??)。やっぱり、ダム決壊は蛇足だったかなw

 総じて、序盤の読みづらさは少しありましたが、推理小説の醍醐味の一つである綺麗な伏線回収とミスリードに裏付けされたドンデン返しを楽しめる名作でした!! どんどん復刻するといいぞ!

 そういえば、頭パープリンな私には、三津田氏の解説に書かれた瑕疵がわからないのですが…検索しても出てこない…だれか教えて…w

No.13 6点 makomako
(2023/08/05 07:13登録)
途中まではとても素晴らしい内容で、完全に作者に翻弄され、でもどうなるかと読み進むといった本格物を読む楽しさを味わえました。
物語の最後に真相が明らかにされるのですが、作者の見事なミスディレクションに引っかかり、全然犯人が見えていませんでした。
こういったところはとても素晴らしいのですが、解説の三津田信三氏が書かれていたように最後のどんでん返し的終わりは好みがわかれると思います。たぶん三津田氏も好みでなかったのでしょうが、私もこれはちょっと残念です。せっかくいい感じだったのがかなりそがれてしまいました。

以下ちょっとネタバレです。
それともう一つこれも解説で書かれていたことですが、このお話は決定的になり立たないところがあると感じました。重要な登場人物の一人がこのトリックに必ず気付いているはずなのです。それが全く述べられていません。ここが何とか解決できるような話となっていれば。
素晴らしい本格小説なのに残念です。
でも立派な本格物であることは間違いありません。

No.12 7点 メルカトル
(2022/10/07 22:33登録)
「お前の弟は殺されたのだよ」死期迫る母の告白を
受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学
教授・仲城智一は千葉の寒村・山蔵を訪ねる。村一
番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い
槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。龍神の呪いか? 座
敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か?
怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミ
ステリ降臨。
Amazon内容紹介より。

事前に予想していたような、呪いとか村の因習等の匂いは余りしませんでした。最終章まではやや冗長で、途中からは事の発端となった弟の死はどうなったんだと思い始めたくらい、そっちのけで地味に殺人が進行していきます。
やはりそれなりの年代を感じさせる雰囲気は持っています。文体自体は古臭さを感じさせませんけどね。

結局最終章で全てうっちゃられた感じがしました。解決編の前半の推理にはなるほどと感心しましたが、その後の展開には十分な意外性があり、一瞬唖然となりました。確かによく読めばそこここに伏線が張られていたことに気付いたでしょう。私の場合は余り読書に集中できなかったこともあり、そうだったのか、という驚きがあまりなかったのが悔やまれます。
まあ、隠れた名作との噂はもっともだとは思いました。ちょっと物足りなかった気もしますが。

No.11 7点 ボナンザ
(2022/08/11 22:49登録)
遂に梶の作品集が復刊されることになった。徳間の英断に感謝したい。
意外性は今見るとそれほどでもないかもしれないが、アリバイトリックも入れ替わりもしっかり凝っていて素晴らしい。

No.10 6点 ことは
(2022/05/07 18:47登録)
古書が高価になっていた本書が復刊。過去の作品が容易に読めるのは喜ばしい。
さて、世評が高かったので期待をもって読み始めたが、期待ほどではなかったのが正直なところだ。
(プロットに少しふれてしまうが)タイトルのとおり、「昔の龍神池の事件を主人公が調べ直す」というかたちで物語は始まるが、途中から現在の事件に少しずつ焦点が移動していく。これがまず残念。昔の事件は、伝承などが絡んだ幻想的なものなのに、現在の事件はきわめて現代的(”現在”といっても、作品発表時期の”現在”なので、学生運動が盛んでかなり古色蒼然としているが)なので、味わいが違いすぎて、違和感が拭えなかった。
たしかに世評のとおり、メインの趣向は大胆なものだし、伏線はたくさん存在する。これはなかなか楽しめたが、見せ方が魅力的とは思えなかったのも、残念なところ。伏線の魅力は、「あれが伏線だったか!」という気づいたときの驚きにあると思うが、驚きを演出するようには感じられなかった。
とはいえ、かなり読みやすく、一気に読めるので、読んで損はないかな。
(ただし、1章はかなりの違和感があった。主人公が状況説明をするが、主人公がどういう人物かの紹介もないので共感もなにもないし、会話の相手も、会話をすすめるためだけの質問を適時入れていくだけ。これは読みすすめるのがちょっとしんどいかなと考えたが、2章からはかなり普通の描写になった。なんでだ?)

No.9 6点 レッドキング
(2019/02/14 22:06登録)
人物どんでん返しトリックは素晴らしい。「龍神池」なんてケレンミたっぷりなよだれ垂れそうな題名ついてんのに、アリバイ時間トリックってのがちと物足りない。

No.8 6点 あびびび
(2018/10/19 16:23登録)
舞台設定がワクワクさせる。最後はどんでん返し的に感情が表記され、ついていけない部分もあったが、安心して読める日本特有のミステリだと思う。

No.7 8点 名探偵ジャパン
(2018/09/03 13:19登録)
完全に不意打ち的な掘り出し物でした。
始まりこそ、いきなり数名もの登場人物が一度に出てきたり、土木建築に関する専門的なやりとりにページを割いたりして、読み進めるモチベーションを維持するのに難儀をしましたが、それも少しの間だけのことでした。
謎やトリックのひとつひとつに、いちいち整合性と根拠が示されており、しかも伏線も抜かりなく、かなり巧妙に張られています。出版された年代でこれを書いたという時代的価値を考慮するまでもなく、現在の擦れたミステリマニアの眼鏡にも十分かなう一品でしょう。
難をつければ、池で起きた殺人事件には現場見取り図がほしかったですね。トリックの役割がより明確に説明できたかと思います。

調べてみたら、この作者の作品はほとんどが絶版で、入手不可能(図書館で検索しても、数点しかヒットしませんでした)な状態に陥っているようですね。
こんな逸品を眠らせておいて、ミステリに携わる出版人や作家たちはいったい何をやっているのか、と呆れてしまいます。

No.6 6点 nukkam
(2015/04/11 23:35登録)
(ネタバレなしです) 1979年発表の本格派推理小説です(ケイブンシャ文庫版では長編第4作と紹介されていますが、「透明な季節」(1977年)、「海を見ないで陸を見よう」(1978年)、「大臣の殺人」(1978年)、「天才は善人を殺す」(1978年)に次ぐ長編第5作です)。全部で5章から構成されていますが、過去の事件を調べる最初の2章はあまりにも手探り感が強くてテンポが遅く少々退屈です。しかし現代で事件が発生し、名探偵気取りのヒロインが活躍する第3章から一気に謎解きが盛り上がり、第4章の最後では「推理小説でいえばここで犯人を推理するデータは全部出つくしたというところ」と宣言されます。そして第5章、ネタバレにならないように紹介するのは難しいのですが、この章は「解決」と「もうひとつの解決」で構成されています。前者だけで物語を終わらせることも可能だったでしょう。ところが後者によってまるで世界が歪んでしまったかのような衝撃が読者に提供されます。例えば(結末は全く違いますが)ジョン・ディクスン・カーの「火刑法廷」(1937年)のようなひっくり返し方です。但しカーが最初の解決を否定するようなところがあったのに対して本書は「もうひとつの解決」が「解決」を否定しているわけではありませんし、カーよりも手が込んでいます。

No.5 8点 蟷螂の斧
(2012/04/19 12:40登録)
前半は弟の死亡事故の調査でのんびりしたムードで話は進みますが、後半からまったく別の事件が絡んで急転回してきます。な~んだ建設業界の裏を描いた社会派小説かい?と思わせるがどっこい、弟の死亡事故がきっちりと絡んできて、しっかりと本格しておりました。そして思いもよらないラストが提示されます。1979年と古い作品でありながら、いわゆる新本格派っぽい構成となっていることには感心しました。

No.4 7点 kanamori
(2011/01/21 18:27登録)
戦時中の学童疎開中に池で溺死したという弟の不審死を、23年後に母親の臨終のひと言によって、兄の大学教授が調査に乗り出すというストーリー。
いわゆる”スリーピング・マーダー”ものの現代ミステリで、青春ミステリ三部作と比べると叙情性に欠けるものの、そのぶん本格ミステリに拘った力作です。同じ原理の古典的トリックを4連発で盛り込むところが凄い。(とくに、吉爺に関する”それ”は秀逸)。
ラストは、ドンデンの狙いすぎであざとさを感じますが、それも作者の本格ミステリに対する情熱の表れでしょう。

No.3 8点
(2010/06/04 23:52登録)
昔の作品ですが、今でも十分楽しめます。
真相をうすうす、感じさせる伏線もありますが最期に更なる真実が明かされます。

No.2 8点 こう
(2009/10/31 22:53登録)
 建築工学科教授である主人公の母親が「20年以上前池で溺れて死んだ主人公の弟が本当は殺された」と臨終間際に残して死亡、主人公が弟の死亡事件を捜査してゆくストーリーです。
 数々の伏線の回収は見事ですがラストの部分がとってつけた感じがして不満なのと真犯人に動かされる共犯者がいるのですがその共犯者の使われ方も不満です。伏線も合理的に回収されているかといえばそうでもない気がします。またどうしてもCC物以外の素人探偵ものは警察が無能に描かれてしまいその点は好きにはなれません。ただこういう作品を読ませてもらうだけでも満足できる作品でした。
真相が更に一転するのは「リア王密室に死す」同様ですが個人的にはリア王の方が好きです。

No.1 8点 江守森江
(2009/06/25 21:30登録)
「本格ミステリ・フラッシュバック」とここの書評から是非とも読みたかった。
古本屋、地元図書館に無く途方に暮れていたが、他地区図書館からのお取り寄せで念願がかなった。
昔の事件の謎を追ううちに新たな事件に巻き込まれる主人公。
ダミー探偵役がデータは揃ったと読者挑戦まで宣言する。
そして迎える解決編。
ダミー探偵役の推理後に本当の探偵による更なる解決は最初から散りばめられた伏線を回収する奥深さだった。
「埋もれた本格ミステリの傑作を発見せり」といった感慨があった。

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