臣さんの登録情報 | |
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平均点:5.90点 | 書評数:660件 |
No.40 | 7点 | ユダの窓 カーター・ディクスン |
(2009/06/17 12:28登録) (少しネタばれ気味です) 今までに評価された方の書評のとおりで、申し分なしと言いたいところですが、一つだけ疑問点があります。 犯人がどのようにして凶器を持ち出したか、という点です。これは、後半、犯人がわかってからずっと疑問に感じていたものなのですが、その真相は最後の最後に、軽く、素っ気なく説明されていただけで、あまり納得できませんでした。 実は、ほかにも突っ込みどころはあるのですが、徐々に真相が解明されてゆく見事なストーリ展開と、読みやすさと、記念碑的トリックを生み出したことに敬意を表して、みなさんよりは少し低めですが、高得点の評価をしました。 |
No.39 | 8点 | 罪と罰 フョードル・ドストエフスキー |
(2009/06/12 11:51登録) これぞミステリの原点。ポーと2つの系譜をたどって現代の推理小説の形に到達したのでは、と思っています。 老婆を殺害した主人公ラスコーリニコフの心理を描いた倒叙ミステリです。 心理描写は実に巧みで、ストーリーも良く、時代、文化の全く異なる国の話でも違和感なく引き込まれてしまいます。 特に、判事ポルフィーニがラスコーリニコフを心理的に追い詰める場面は読み応えがあります。この場面は「刑事コロンボ」スタイルの原型といえますし、また、予定のない殺人をしてしまったり、善意の人間に嫌疑がかかったりして、犯人が思い悩むところ(勧善懲悪を重視し、犯行自体が読者に共感されないようにしているところ)は、我が国の2時間ドラマ風ミステリの原型であるともいえます。 このサイトで評価するのに少しためらいましたが、思い切って登録してみました。ぜひ感想をお聞かせください。 |
No.38 | 6点 | 白い夏の墓標 帚木蓬生 |
(2009/06/11 16:55登録) (少しネタばれあり) 主人公がパリの学会で、旧友が海外で自殺していたと見知らぬ老人から聞かされ、その旧友の墓参りと、その墓の墓守の女性へ封筒を渡してくれとの依頼を受ける。こんな謎が提示され、物語はミステリ感たっぷりに進行します。実は本作、細菌兵器の開発という政治的背景があり、そんな重い雰囲気に包まれた恋愛物語と評することもできるのですが、旧友の死の真相を追うストーリーは、ミステリとして十分に堪能させてくれます。 帚木氏の作品は、冒頭からミステリ要素をたっぷりと出してくれます。しかし、ミステリ作品とは限らないのが氏の特徴です。本作は、まちがいなくミステリだと思います。 本格にしか興味のない方にはお奨めできませんが、広義のミステリなら何でも、という方にはぜひ読んでほしい作家です。決して読みにくくはありません。 |
No.37 | 4点 | 殺人の花客 森村誠一 |
(2009/06/08 12:54登録) 偶然性に頼りすぎるきらいがあります。それに、氏の多くの作品にいえることですが、登場人物や雰囲気がクールすぎるのが、いまだに抵抗を感じます。 ただ、展開は巧みで読みやすく、森村氏の特徴が十分に出ている作品だと思います。ミステリとしては小粒でしたが、カタセタムというランの花粉の謎は興味深かったですね。 |
No.36 | 6点 | 冷たい密室と博士たち 森博嗣 |
(2009/06/08 12:26登録) ごく普通の本格ミステリという感じです。トリックの派手さはありませんが、全体的にバランスのとれた良作品だと思います。また、今まで読んだ森作品は、犀川がニヒルなだけで、探偵としてのやる気が感じられませんでしたが、今回はやる気が出ているのがいいですね。好印象です。 動機については概ね良いのですが、なぜ服部珠子を殺さなければならなかったか、という点だけは気になります。それと、ムダというかアソビというか、ダラダラした感じが本作でもありますね。森氏の遊び心なのでしょうか。 ところで、森氏もこのような典型的な本格作品を書けるのですね。氏は多くのミステリを読んできた結果、奇をてらった理系ミステリしか書けなくなったのではと想像していましたが、これだけ普通の本格を書ければ十分です。真っ向勝負をしてもいいのでは、と感じました。 本作は理系らしくないとの評価ですが、本作のトリックは広い意味で物理的といえます。そもそも、密室殺人なんてものは、ほとんどが物理的、機械的な理系トリックを必要とするわけですから、一風変わった、多くの読者がわからないような(例えば化学)理系トリックを使ったからといって理系ミステリと騒ぐのはおかしいと思います。(そういうことで注目を集めようとする出版社の意図には理解できるのですが。) とにかく、理系でない読者が理解できない理系知識は、薀蓄等のミステリツールとして利用するだけで十分で、トリックには本作程度の誰もが理解できるものを使うほうが小説として楽しめるように思います。 以上、氏について結論めいたことを書きましたが、まだ3作目なので、えらそうなことはいえませんね。『F』、『笑わない数学者』などを読んでみないといけません。 |
No.35 | 6点 | 動脈列島 清水一行 |
(2009/05/31 09:58登録) 社会性たっぷりの倒叙サスペンス作品です。 騒音公害に義憤を覚える犯人が様々な手段を使って新幹線を止めようとする展開には、引き込まれます。アリバイトリックもあり、いちおうミステリ形式は保っています。 社会派ミステリには、後半で唐突に社会的真相(例えば、グリ森事件が背景にあるとか)が明かされ、それまでの内容の雰囲気が崩れてしまって、しらけてしまうものも多いのですが、本作はそういった駄作群とは違って、無理なくストーリーが組み立てられていて、好感が持てます。 |
No.34 | 5点 | 数奇にして模型 森博嗣 |
(2009/05/31 09:38登録) 予想していた以上に楽しめました。 最初に読んだ「詩的私的ジャック」があまりにも駄作だったので、もうやめようかとも思いましたが、今回は読んで正解でした。ストーリーもいいし、あれだけヘタクソだった文章も、今回はうまく感じられました。合格点です。 トリックについても、理系知識を駆使するより無理せずこの程度にしておくほうがはるかにいい。知識は薀蓄程度で十分です。 でも、無駄はあいかわらず多いですね。ラストもしつこい感じがします。それにレギュラーの登場人物が多すぎるし、それを知らない読者にとっては惑わされる存在でしかありません。初心者がシリーズ物の後半作品を読むのはよくなかったようですね。 |
No.33 | 4点 | 海は涸いていた 白川道 |
(2009/05/24 10:19登録) 現代任侠物という感じ。 好みの話だが、役所広治主演の映画(絆)を観た後で読んだので、印象が薄かった。 ハードボイルド調だったけど、そうでなくてもよかったのに、と思いました。 |
No.32 | 5点 | 時の森殺人事件 吉村達也 |
(2009/05/24 10:04登録) 全6巻だが、読みやすくストーリーも面白いのであっという間に読めてしまう。 吉村氏がツインピークスに触発されて書いた、壮大な異次元空間の世界。 でもそんなこと何も知らずに読んだから、あのラストには驚くやら、白けるやら。 |
No.31 | 8点 | 犬神家の一族 横溝正史 |
(2009/05/22 19:14登録) 地方旧家のどろどろした雰囲気がよく出ていて、しかもリアリティのなさゆえ、かえって恐怖感をたっぷり味わえる。でも、その恐怖は、つまるところ人間関係、親子の情愛などからくるもので、意外に身近さを感じる。そんなところに人気の秘密があるのかもしれないな。 本作は記念すべき僕のミステリデビュー作品。若い頃、横溝作品は多数読んだが、みな似た雰囲気なので、今では記憶が交錯して、どれがどれなのかわからなくなってしまっている。でも本作だけは、映画の印象が強烈だから、記憶にはっきりと残っている。 |
No.30 | 3点 | 奇跡島の不思議 二階堂黎人 |
(2009/05/22 19:10登録) 仕掛けは派手で大作であることは認めるが、納得できない箇所が多すぎる。人物も魅力がなかった。 10数年前、再燃し始めた本格を切り拓くつもりで、東野(初期)、綾辻(十角館)、本作と続けて読んでみたが、本作で大きくつまづいてしまった。 |
No.29 | 3点 | 行きずりの街 志水辰夫 |
(2009/05/22 19:03登録) ストーリーは好みだが、設定がイマイチで、入り込めなかった。ミステリとしても水準以下。なぜ再ブームになったのかな?表紙が良かったからかな。 |
No.28 | 6点 | 黒き舞楽 泡坂妻夫 |
(2009/05/19 23:02登録) これは凄い。これが究極の愛なのだろうか。 中篇で、プロットは一見単純だが、だからこそ謎は重なり合ってくる。そして体が震えるほどの真相がラストに明かされる。伏線の張り方も実にうまい。 歪んだ愛、それを受け入れる女性たち。こんな女性たちを理解できない、リアリティに欠けるなんて批判したら、笑われそうだし、逆に批判を受けそうだ。 |
No.27 | 6点 | 五十万年の死角 伴野朗 |
(2009/05/18 17:35登録) 北京原人の化石骨の消失と、それに絡む殺人と、重要人物失踪の謎を、上官の命令で軍事通訳の戸田が追う。舞台は大平洋戦争開始時の中国。 物語は、これらの謎を国民党結社・藍衣社、日本軍・松村機関、中国共産党が同時に追うスリリングな展開(戸田自身も命を狙われスリル満点)であり、しかも謎が絡み合い、1つの謎が解けてもまた新たな謎が生まれるという複雑な内容で、上級サスペンスミステリと言える。しかも歴史的事実にもとづいているから歴史ミステリでもある。 また、伏線もていねいに張られており、解明するつど説明してくれるから、わかりやすい。ただ、どんでん返しはなく、ある程度予想された結末なので、その点は少し不満である。 本作は、文庫化と同時に購入したが、中国読みルビの多さで1、2ページで断念。その後、積ん読状態がつづいたが引越しを重ねるうちに紛失してしまう。当初はハードボイルド、中国物ということもあって読みづらさだけを感じた作品だったが、今回、図書館で借り念願かなって読んでみると、文章自体は意外に平易であった。しかも今では興味の持てる内容であり、30年ぶりにやっと読破できた。この作家はミステリ作家としてスタートし、中国歴史物に移行した人で、陳舜臣と似ている。なんだか興味がわいてきたなぁ。本作以外は絶版のようなので、図書館通いかな。 |
No.26 | 8点 | 長いお別れ レイモンド・チャンドラー |
(2009/05/15 13:03登録) 探偵マーロウは酒場で知り合った友人、レノックスの周辺で起きた殺人事件と、謎の自殺を調査する。当然ミステリ仕立てで、物語は後半に大きく動き、真相が判明する。そのときあのあまりにも有名なセリフが飛び出す。 全編を通してマーロウの仕草とセリフは、かっこよすぎるが、それもこの小説の持ち味のひとつだ。しかし、マーロウの本当のすごさは、レノックスのことを初対面で見抜き、親友として信じてしまうことだ。 本作は、殺人事件、謎の自殺など、ミステリ要素はたっぷりあるし、ボリュームも十分にあって立派な長編推理小説なのだが、ただ謎解き要素はあまりなく(記憶がないだけかもしれないが)、やはりこの小説、Tetchyさんの言われるように雰囲気を楽しむ小説なのだと思う。 その雰囲気っていうのは、マーロウのかっこよさだけではなく、全編に漂う何か得体の知れないものなのだろう。 ストーリーの詳細は忘れてしまったが、よほどその雰囲気に波長が合ったのか、しびれるほどの読後感があったことだけは覚えている。 本作は評価が分かれると聞くが、どこが問題なのだろうか。何か欠点があるのか、それとも、あまりにも男の友情に焦点をしぼりすぎて、ミステリの醍醐味が味わえないからだろうか。 |
No.25 | 8点 | ゼロの焦点 松本清張 |
(2009/05/15 12:44登録) makomakoさんと同様、30年前に読み、数年前再読しました。なんど読み返しても受ける印象は同じです。 戦後の悲しさが全編を通して出ていて、その雰囲気は私の好みにピッタリです。 今年は生誕100年ということなので、清張をもう少し読んでみようかなと思います。 |
No.24 | 6点 | 点と線 松本清張 |
(2009/05/15 12:35登録) 実は本作は、空白の4分間という名トリックがあり、アリバイ崩しがメインとなっているから立派な本格物です。 しかし、汚職などを絡めて動機を強調させた内容となっているので、清張の社会派長編第1作として有名になったようです。 本作は東西ミステリベスト100の上位にも食い込み、かなり評価が高いようですが、社会派好きの私は、なぜかそれほど好きではありません。あまりにも泥臭いせいでしょうか。とにかくリアリティがありすぎます。 |
No.23 | 7点 | 柊の館 陳舜臣 |
(2009/05/11 19:53登録) 神戸の船会社宿舎の異人館「とんがり屋敷」を舞台にしたミステリで、そこに勤めるメイドの思い出話を連作短編に構成した形式をとっています。メインの謎は最初に起こった殺人事件で、短編ごとにも個別の謎があり、短編ごとに完結するとともに、最終の短編で最初に起きた殺人事件が解決します。 30年ほど前に読んだときは、連作ミステリという形式が初めての体験で、その形式に驚き、さらに古き良き時代のゆったりとした、とげとげしさの全くない空間で、とうてい起こりえないような殺人事件が発生することのアンマッチ感に驚くとともに、殺人事件があったことさえ忘れてしまうほどの、そのあまりにも柔和な雰囲気に浸りながら、最終話では最初の事件が解決したことに唖然とした記憶があります。ミステリ経験が浅かったころで、自分で全く推理することなく、読了していました。 特別な仕掛けはなく、異色ミステリという程度であって、氏のミステリの中では決してベストとはいえませんが、氏の柔らかな筆使いが典型的に表れた作品だと思います。 そして、その後、中国歴史物を含め、陳氏の作品には長年にわたり楽しませてもらいました。 |
No.22 | 7点 | アルキメデスは手を汚さない 小峰元 |
(2009/05/09 08:32登録) このサイトではかなりきびしい評価ですね。びっくりしました。 高い点数をつけるのに勇気がいりますが、気を取り直して評価してみます。 「アルキメデス」という不可解な言葉を残して死んだ少女。この冒頭の謎は読者を惹きつけてくれるのですが、全体的にはフーダニット、ハウダニットのいずれの要素も不十分で、小粒な感じがします。それにトリックは皆無といってよく、とうてい本格ミステリを構成していません。 また、4つの事件を結び付ける真相、動機は、ある高校生グループの思想にもとづくものですが、これについてもすぐに納得できるものではありません。 しかし、動機の内容はともかくとして、その真相で4つの事件を結び付けていく後半のストーリー展開には唸らされます。このようにスムーズに結び付けてくれれば、希薄であったはずの動機にも、高校生ならこの程度かと納得してしまいます。 それに、プロット、ストーリーがいいので、テンポよくさっと読ませてくれます。 ただ、4つ目の事件については、事件自体は必要なのですが密室にする必要はなかったのでは、と思います。乱歩賞を狙うには密室が必須だったのでしょうか。とにかくこれはアクセント程度です。 このように問題もあるのですが、十分に楽しめたし、記憶に残る良作品でした。なんといっても私の場合、横溝、清張についで、ミステリの世界に引き込んでくれた作家、作品ですから、思い入れもありますね。 なお、本作は当時、ある深夜ラジオで、「ピカレスク青春推理」と紹介されていました。世間に斜に構えて生きる高校生を主人公としたこの小説には、こんな呼び方がぴったりです。 |
No.21 | 5点 | 斜め屋敷の犯罪 島田荘司 |
(2009/05/04 09:17登録) 舞台が斜め屋敷だけあって、トリックの奇抜さはある程度予想できましたが、実際のあのトリックには度肝を抜かれました。少し漫画的ですが、まずまずの満足度です。またテンポもよく文章も読みやすいし、その点も満足。 問題なのは動機。動機自体が重すぎてトリックの奇抜さとマッチしていなかったし、重いわりには割かれたページ数が少なすぎるように感じました。 そのへんのバランスがイマイチな作品でした。 |