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ミステリの祭典

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虹の舞台
陶展文

作家 陳舜臣
出版日1977年10月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点
(2020/10/09 08:52登録)
 神戸・海岸通の東南ビル地階で中華料理店『桃源亭』を営む陶展文は、拳法の弟子である沢岡進に、こんど完成する三宮サンライズ・ビルの目玉スポット『世界の味センター』に進出してみないかと打診される。元船長の沢岡はここ数年ほどビルのオーナーである東南汽船の嘱託をしていたのだが、このたび専務取締役として建設中のビルに出向することになったのだった。
 古巣を動く気の無い展文は出馬を固辞し、代わりに店主と喧嘩し東京をとび出した大コック・甘練義を紹介する。甘は快諾し、話は片付いたかに見えた。
 だがここで新たな問題が持ち上がる。センターのインド料理に入店する宝石商、マニエル・ライの評判がよくないのだ。料理店経営にひどく乗り気なライは宝石関連のオフィスも神戸に移し、北野町に家まで買って陣頭指揮に赴いているのだが、彼にはインドの首相ネールと並び称された独立運動の闘士、チャンドラ・ポースの宝石を奪った疑いがかけられており、在留インド人のあいだでも爪弾きされているという。それどころか彼を処分するために、殺し屋が日本に派遣された形跡すらあるのだ。
 出店をことわるかどうかに頭を痛める沢岡は、「世界の味センターの関係者をお招きしたい」というライの招待にとりあえず応じる事にする。展文たちも行きがかり上彼とともに北野のライ家を訪れるが、弘子夫人に四人の客が予備室で饗されるなか、突如として三発の銃声が響き、それに続いてマントルピースの上の花瓶が砕け散った・・・
 昭和48(1973)年に発表された『失われた背景』に続く著者18番目の推理長篇であり、陶展文ものとしては4作目にあたる最後の作品。同年には『長安日記 賀望東事件録』『柊の館』などの連作短編集も刊行。名作『秘本三国志』連載に取り掛かる前の年、本格的に歴史小説に軸足を移す直前の時期です。
 ピストルをもった犯人を見たフランス料理の名コック・田辺源一によると、曲者は白いターバンを巻いたひげだらけのインド人。さらにかけつけた警察により再度(ふたたび)山の登山道に倒れていたライの死体が発見されると、ボースの復讐に燃える秘密結社の報復説ががぜん真実味を増してきます。そうこうするうちやがて第二の殺人が発生し・・・
 とこう書くとテンポ良く見えますが、実際には11年前の前作『割れる』に比べても読み応えの少ない長篇。随所に挿入される中華コック・甘練義の料理指南や、ボースの挿話を中心としたインド革命史などで間を持たせています。買えるのは冒頭部分を含めたこの構成が伏線とそのカモフラージュになっている所、このあたりは流石に各賞受賞ベテラン作家の手際です。
 陳氏の小説は即物的な題名が多いですが、本書では真相を踏まえた上で、珍しく詩的なタイトルが付けられています。しかしミステリとしてはそれほどでもなく、個人的には子母沢寛の聞き書き集『味覚極楽』に登場する亡命インド人革命家のボース氏が、チャンドラとは同姓の別人であると判明したのが主な収穫でした。

No.2 5点 nukkam
(2015/12/29 18:52登録)
(ネタバレなしです) 非ミステリー作品が作者の主流となりつつあった時代の1973年に発表された陶展文シリーズ第4作の本格派推理小説で、「割れる」(1962年)以来のシリーズ作品ですがこれがシリーズ最終作となりました。謎解きに関しては最終章の「割り算の余り」の真相が読者に対してアンフェアに感じられてしまのですが、美味しそうな料理を始めとする日常生活描写が地味なプロットを退屈の手前で留めているのはこの作者らしいです。

No.1 6点
(2009/06/22 14:54登録)
陶展文シリーズも本作が終盤なんでしょうか。探偵役である陶展文もやや老いて、ストーリー自体もゆったりとした、落ち着いた感じがします。もっとも陶展文は安楽椅子探偵なので、シリーズのどの作品を読んでも、ある程度そんな印象を受けますが。。。
物語の背景にはインド独立があり、歴史ミステリーっぽいところがあって興味が惹かれましたが、謎解きには物足りなさを感じます。陶展文が襲われるというサスペンス展開が案外読みどころかもしれません。

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