| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2901件 |
| No.2841 | 5点 | フランチャイズ事件 ジョセフィン・テイ |
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(2025/03/03 08:17登録) (ネタバレなしです) グラント警部シリーズ作品は「列のなかの男」(1929年)に始まり、かなり間を空けて「ロウソクのために1シリングを」(1936年)が発表され、そこからまた長い空白を経て1948年に出版された本書がシリーズ第3作ということになっていますがグラントは完全に脇役で個人的にはシリーズ番外編と思っています。シリーズ主人公が脇役になるケースは私もいくつかは知っていますが、人並由真さんがご講評で驚かれているように本書の待遇はかなりの異例だと思います。さて内容についてですがリリアン・デ・ラ・トーレが18世紀に実際に起こったエリザベス・キャニング事件を下敷きにして「消えたエリザベス」(1945年)を書いていますがそれに刺激を受けて本書は書かれたのかもしれません。トーレ作品は研究レポート風で小説としての面白さはほとんどありませんが、本書はしっかりした小説です。告発が真実なのか嘘なのかの図式は西村京太郎の「寝台特急あかつき殺人事件」(1983年)や草野唯雄の「紀ノ国殺人迷路」(1995年)を連想させ、犯人当て本格派推理小説としては楽しめません。噓のはずなのに正確過ぎる証言をどうやって捏造したのかの謎解きですが、怪作レベルのトリックが使われていて思わず笑ってしまいました。 |
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| No.2840 | 5点 | フローテ公園の殺人 F・W・クロフツ |
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(2025/02/27 00:52登録) (ネタバレなしです) 冒険スリラーの「製材所の秘密」(1922年)に次いで書かれた、1923年発表の第4作となる本書は本格派推理小説に戻りました。二部構成となっていて舞台が前半は南アフリカ、後半はスコットランドとなっているのが特徴です。フローテ公園(Groote Park)は架空の公園のようですが英語読みのグルートでなくオランダ語読みのフローテにしている翻訳は正しいと思います。南アフリカ編でのファンダム警部による捜査では解決に至らず、謎解きがスコットランドのロス警部へとリレーされます。鮎川哲也の鬼貫警部シリーズのいくつかの作品では前半を鬼貫以外の刑事たち、後半を鬼貫による捜査と推理というパターンが見られますが本書はそのプロトタイプと言えるかもしれません。私の読んだ創元推理文庫版の粗筋紹介で「両警部の活躍」と記述されていますが、19章の最後で明かされた意外な秘密に関してはどちらの手柄でもない気がします。巻末解説では「樽」(1920年)に比べれば作品価値は劣ると思われると随分な評価ですが(笑)、この秘密のおかげで読者へ与える衝撃という点では勝っていると思いますし、地味で時に退屈という点では互角ながら「樽」よりページ数が少ないのも好ましかったです。 |
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| No.2839 | 6点 | 康子は推理する 藤沢桓夫 |
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(2025/02/19 04:43登録) (ネタバレなしです) 藤沢桓夫(ふじさわたけお)(1904-1989)は200冊近い著作を残し、いくつかの作品は映画化もされたほど人気のあった大衆作家です。医学生の滝口康子を探偵役にした本格派推理小説の短編を8作書いており、「そんな筈がない」(1957年)と「青髭殺人事件」(1959年)の2つの短編集で全作を読むことができます。私が読んだのは全8作を1冊にまとめた東京文藝社版の「康子は推理する」(1960年)で、先行出版の2つの短編集を読んでいる読者は本書を読む必要はありません。康子はデビュー作品となる「そんな筈がない」では百貨店の屋上庭園から投身自殺したと思われる事件で自ら積極的に警察の捜査に協力していますがこれはむしろ例外で、犯罪に関わるのも名探偵扱いされるのも遠慮するキャラクターとして描かれています。大衆作家らしく読みやすさは抜群で、謎もそれほど複雑なものではありませんがその中では「爆竹殺人事件」が密室殺人を扱い、謎解きのスリルにあふれていて印象に残りました。 |
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| No.2838 | 5点 | 公爵さま、これは罠です リン・メッシーナ |
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(2025/02/16 21:31登録) (ネタバレなしです) 2019年発表のベアトリス・ハイドクレアシリーズ第5作の本書は結婚式の延期話で幕開けするコージー派ミステリーです。延期の理由は「公爵さま、前代未聞です」(2019年)の事件と関りがあることが説明されるのですが犯人名をネタバレしており、これを回避する工夫はできなかったのだろうかと思わずにはいられませんでした。さて今回のベアトリスの謎解きは秘密の場所に隠されたダイヤモンド探しです。あまり面白そうな謎解きには思えませんでしたが、予想の斜め上の展開にびっくりしました。後半は普通に殺人事件の謎解きになりケスグレイブ公爵とのコンビ探偵ぶりも好調ですが、推理は思いつきが当たった程度の説得力しかなく解決部分は物足りません。前半のダイヤモンド探しの方が印象に残る作品です。 |
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| No.2837 | 5点 | 花の罠 本岡類 |
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(2025/02/07 22:34登録) (ネタバレなしです) 1997年発表の水無瀬翔シリーズ第2作の本格派推理小説です。「大和路・萩の寺に消えた女」のサブタイトルが付いており、個人的にはこちらの方が作品内容に合っているように思います。奈良で女流将棋名人が誘拐され、身代金の運び役に水無瀬が任命されますがまんまと身代金を奪われてしまいます。殺人事件にまで発展しますが容疑者は早々と絞り込まれ、アリバイ崩しの謎解きになります。古都と「ここ二、三年で人々の生活を大きく変えてしまった"最新の道具”」を合体させ、「前代未聞のトリックを用意してあります」と作者は自画自賛していますが、この種のトリックは技術の進歩と共に古びてしまうリスクがあります。本書のようにトリック依存度が高いと現代読者へのお勧めは難しくなってしまいます。 |
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| No.2836 | 5点 | ゴア大佐第二の事件 リン・ブロック |
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(2025/02/06 17:08登録) (ネタバレなしです) 1925年発表のゴア大佐シリーズ第2作の本格派推理小説です。本格派といっても読者が犯人当てに挑戦できるような作品ではなく、探偵役のゴアの捜査と推理を後追いするプロットは弾十六さんのご講評で指摘されているようにクロフツに通じるところがあるように感じました。血痕、銃声、失踪者、2年前の殺人事件の犯人かもしれない謎の人物など早い段階から手掛かりが色々と提示されているのですが、事件性がはっきりしない状況が続くので謎として捉えどころがなくて読みにくいです。ゴアが死体を発見してからようやくミステリーらしくなりますが、ゴアが名探偵として十分に活躍したかというと微妙ですね(そこもクロフツの某作品が頭をよぎりました)。あまりにも複雑な真相のためか最終章で事件の全貌を整理してくれていますが、これはA・E・W・メースンのアノーシリーズの影響があるかもしれません。 |
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| No.2835 | 5点 | 毒草師 七夕の雨闇 高田崇史 |
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(2025/02/02 23:49登録) (ネタバレなしです) 2015年発表の毒草師・御名形史紋シリーズ第4作の本格派推理小説です。京都で起きた怪死事件の鍵を握ると目される関係者が次々と死んでいく展開はなかなかサスペンスに富んでいます。しかし御名形が事件に関わると物語のリズムは重くなり、七夕に関する知識を延々と聞かされる人たちがいらいらする場面が繰り返されます。ここを我慢できるかで読者評価が分かれそうです。警察の鑑識でも正体のわからない毒の謎解きは珍しければ何でもあり的な真相であまり感心できませんし、動機に関わる悲劇的な運命が何度もあったという設定も信じがたいです。 |
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| No.2834 | 6点 | シャンパンは死の香り レックス・スタウト |
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(2025/01/31 12:38登録) (ネタバレなしです) 1958年発表のネロ・ウルフシリーズ第21作の本格派推理小説です。4人のシングルマザー(作中表記は未婚の母)と4人の男性を招いての夕食会にアーチー・グッドウインが代理参加することになりますが、毒薬を持参している女性がいると聞かされてその女性を注目しているとシャンパンを飲んで死んでしまいます。しかし被害者が毒をシャンパンに投入していないというアーチーの目撃証言しか殺人の証拠がなく、警察は(終盤まで)自殺と判断しています。彼女を狙ってグラスに毒を仕込む方法がわからないというトリックの謎解きがこの作者としては珍しいです。一方でシングルマザーの子供や子供の父親についてほとんど言及されないプロットなのは意外でした。推理説明が後出し気味ではありますがこの作者としてはしっかりした謎解きだと思います。論創社版の巻末解説ではスタウトの作風と欧米と日本での人気の格差について丁寧に紹介しており、確かにガチ本格派が大好きな私はこの作者のよき読者とは言えないなと再認識しました。余談ですが後半での登場とはいえ、被害者の母親は登場人物リストに載せた方がよかったように思います。 |
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| No.2833 | 6点 | ミステリーしか読みません イアン・ファーガソン&ウィル・ファーガソン |
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(2025/01/29 16:50登録) (ネタバレなしです) カナダのイアン・ファーガソンとウィル・ファーガソンは兄弟作家でそれぞれが単独で文学賞を受賞しているほどの実力者ですが、共作で2023年に発表したミステリー作品が本書です。主人公はかつては主演作品が大ヒットしたものの現在は仕事にありつくのも苦労している女優のミランダ・アボットです。大女優気分が抜けておらず、時には人と対立していますが恨みを抱くタイプではないようでそれなりには社交性もあるようです。ハーパーBOOKS版で500ページ近い分量があり、犯罪もなかなか起きませんが個性的な登場人物を揃えた劇場ミステリーとして十分に楽しめました。コージー派ミステリーに分類されますが、本格派推理小説としての手掛かりと推理にもしっかり配慮されており、ミスリーディングの巧妙な謎解きだと思います。 |
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| No.2832 | 5点 | 思いがけないアンコール 斎藤肇 |
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(2025/01/21 12:21登録) (ネタバレなしです) 1989年発表の思い三部作の第2作です。「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説ですが、探偵役が気づいた不自然なことは何かという「読者への宿題」が早い段階から挿入されているのが本書の特徴です(似たような事例ではドロシー・L・セイヤーズの「五匹の赤い鰊」(1931年)やパトリック・クェンティンの「死を招く航海」(1933年)がありますね)。探偵役が謎解きを途中で放棄して帰ってしまったり、市川哲也の「名探偵の証明」(2013年)や阿津川辰海の「紅蓮館の殺人」(2019年)に先駆けて名探偵の役割と意義を語らせているなど作品個性もあります。もっともいくらフィクション小説の世界とはいえ、犯行を未然に防げないのは名探偵の責任ではないというコメントは暴論の気もしますが(笑)。肩の力を抜いたような文章は読みやすいものの読者の好き嫌いは分かれそうです。真相も結構ひねっており、マニア読者向けの作品かなと思います。 |
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| No.2831 | 5点 | 百人一首一千年の冥宮 湯川薫 |
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(2025/01/18 01:09登録) (ネタバレなしです) 2002年発表の湯川幸四郎シリーズ第5作の本格派推理小説です。タイトルが高田崇史のQEDシリーズみたいだなと思っていたら新潮ミステリー倶楽部版の参考文献一覧の中に「QED 百人一首の呪」(1998年)と「QED 六歌仙の暗号」(1999年)があったのには思わず笑ってしまいました。三部構成の物語ですが第一部は1992年から1993年にかけてのニューヨークが舞台だったのに意表を突かれます。指を失って絶望したピアニスト(語り手)が主人公で、一目ニューヨークを見てから自殺しようとしますがそこで運命の女性に出会い、第二の人生を始めます。やがて血文字で百人一首の俳句が書かれたタロットカードが次々に送られるようになり、ついには密室での二重銃殺事件が発生します。第二部からは現代(2002年)の日本に舞台が移って湯川幸四郎や教え子たちが登場して謎解きしていきます。語り手もワトソン役の公文洋介に交代します。百人一首や五家荘伝説といった日本の文学歴史の知識に加えて作者得意の理系ネタも用意されており、何と科学による魔術に挑戦です(幽体離脱トリックが印象的)。私には難解な作品でしたが、トリックは異なりますけど柄刀一の「fの魔弾」(2004年)を連想しました(本書の方が先に書かれています)。意外だったのは湯川幸四郎の活躍は控えめで、事件解決したのは教え子の冷泉恭介でした。 |
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| No.2830 | 6点 | 狂ったシナリオ レオ・ブルース |
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(2025/01/15 23:34登録) (ネタバレなしです) 1961年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第10作の本格派推理小説です。ダイイング・メッセージというと殺された被害者が死に際に語る(或いは書き残す)というのが通常ですが、本書の場合は自殺した(らしい)人物が録音で残したというのが非常に珍しいです。しかもそのメッセージの中で誰かを殺したことを語っているのです。同じ作者のビーフ巡査部長シリーズの「死体のない事件」(1937年)を連想させる設定ですがあちらのような被害者探しがメインのプロット展開にはならず、自殺(らしい)事件の状況調査にページの多くを費やしています。登場人物が20人以上もいるので雑然とした感があるところは「怒れる老婦人」(1960年)と共通していますが、第19章の最後でのキャロラスのせりふはインパクト大です。某英国女性作家の1980年代の本格派作品を彷彿させるどんでん返しの真相説明も非常に印象的です。 |
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| No.2829 | 5点 | 後ろ姿の聖像 笹沢左保 |
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(2025/01/12 12:47登録) (ネタバレなしです) 雪さんのご講評での丁寧な紹介の通り、1980年に雑誌連載されて1981年に単行本出版された本格派推理小説です。刑事2人のコンビの捜査を描いていますが他の捜査官や警察組織の描写はほとんどないので警察小説とは言えないと思います。前半はアリバイ崩しですが稚拙なトリックが簡単に見破られるだけで大した内容ではありません。しかしアリバイが崩れてからが本書の本領発揮です。1番力を入れているのが「なぜ真のアリバイがあるのにそれで潔白を主張せず、偽造アリバイを用意したのか」という謎解きで、関係者の心理分析に多くのページを費やしています。真犯人が誰かという謎解きもありますがこちらは弱い証拠を強引な解釈で結論しているようにしか感じられませんでした。 |
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| No.2828 | 5点 | フォーチュン氏説明する H・C・ベイリー |
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(2025/01/11 02:37登録) (ネタバレなしです) 1930年発表のレジナルド(レジー)・フォーチュンシリーズ第6短編集で8作品が収められています。「可憐な帽子売り」、「ロックガーデン」、「絵の中の顔」などは秘められた悪意を暴いていてこの作者らしいと思います。「自転車のヘッドライト」がどんでん返しの謎解きと物議を醸しそうな決着で個人的には最も印象に残りました。「ピクニック」はのどかなタイトルとは裏腹に、誘拐された少年を一刻も早く救出したいという焦りがサスペンスを生み出す異色作です。本格派推理小説であっても同時代のアガサ・クリスティーと比べるとストレートな犯人探しプロットに当てはまらない作品が多いところが個性ではありますが、読者の好き嫌いは分かれるかもしれません。余談になりますが「銀の十字架」でレジーが可能性を語るときに「彼が落としたと信じるならば」を2回発言したのは違和感を覚えます。片方は「信じないならば」ではないかと思います。 |
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| No.2827 | 4点 | まんだら殺人事件 玉塚久純 |
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(2025/01/07 13:54登録) (ネタバレなしです) 玉塚久純(1923-2013)については中国の大連に生まれ幼少期に熱病で聴力を失ったこと、1960年代前半から1990年代前半にかけて某ミステリー賞に何度も挑戦するも受賞は叶わなかったぐらいしかわかりません。本書も1977年に賞応募した本格派推理小説で、当時のタイトルは「幽霊要塞」でしたが1979年に改題されて出版されました。作中時代は1968年、主人公の石田はチベット文書の解読を依頼されますが文書の所有者が行方不明になります。石田は所有者が向かった福岡で開催されている「大ヒマラヤ展」が関わっているのではと考えます。その「大ヒマラヤ展」の会場では雪男の毛皮と仏像が盗まれる事件が起きます。序盤は盛り上がりを欠きますが立て続けに死体が発見されると第3章では早くも石田が謎の一部を推理で見破ります。その後も残された謎を巡っての地道な謎解きが続きますがチベットに関する知識は難解だし、事件の真相もあまりに多くの人間が関わっていて複雑に過ぎるように思います。梓書院版の登場人物リストは重要人物が漏れているのも不満です。 |
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| No.2826 | 5点 | レモン・ティーと危ない秘密の話 ローラ・チャイルズ |
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(2025/01/07 00:57登録) (ネタバレなしです) 2023年発表の「お茶と探偵」シリーズ第25作のコージー派ミステリーです。第1章でいきなり殺人シーンが描かれ(残虐描写はありませんのでご安心を)、第2章でセオドシアが死体を発見、そして第3章で鋭い観察に基づく推理を披露していてなかなか好調な展開です。第6章でセオドシアがチャールストンのミス・マープル(アガサ・クリスティーのシリーズ探偵の1人)と呼ばれていることが話題になっていますが、第30章では推理で犯人を特定していてこのシリーズとしては謎解きがまともです。推理の根拠はそれほど強力ではないと思うし説明不足ではありますけど。被害者が過去作品に登場していた知人のためかやや重苦しい作品ですが、最後はめでたしめでたしの雰囲気でうまく締め括っています。 |
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| No.2825 | 6点 | 海妖丸事件 岡田秀文 |
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(2025/01/05 19:39登録) (ネタバレなしです) 2015年発表の月輪龍太郎シリーズ第3作の本格派推理小説です。私は光文社文庫版で読みましたがその巻末解説の「からりとした読み心地で描かれた軽快な推理譚」というコメントが本書の特徴をよく示していると思います。この「軽快」は良い意味も悪い意味もあり、過去のシリーズ2作品のような大胆なアイデアを期待する読者は本書を期待外れに感じるかもしれません。せっかくの豪華客船、伝説の宝石、仮面舞踏会、シェークスピア劇といった設定も描写が物言足りないです。とはいえ普通の本格派の枠組みの中で読者を驚かそうとする仕掛けは用意してあり、謎解き手掛かりにも配慮されていて個人的には十分に楽しめました。海外本格派の黄金時代には定番だったが現代ミステリーではほとんど描かれなくなった、ロマンチックで幸福感に満ちた演出で最期を締めくくっていたのも嬉しかったです。 |
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| No.2824 | 5点 | 白い女の謎 ポール・アルテ |
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(2025/01/04 15:50登録) (ネタバレなしです) 2020年発表のオーウェン・バーンズシリーズ第8作の本格派推理小説です。作中時代は1924年、神出鬼没の「白い女」という不可思議な謎が散りばめられていますが犯罪性がはっきりしない出来事が多くて中盤まで盛り上がりに欠けるプロットになっています。家族間のドラマを描いているところは作者が私淑しているジョン・ディクスン・カーよりもアガサ・クリスティーの作品を連想させます。ほの暗い雰囲気はクリスティーとも異なりますけど。行舟文化版の力のこもった巻末解説ではエラリー・クイーン風と評価しており、なるほどと思わせるところもありますが有名な国名シリーズのように容疑者を1人ずつ犯人候補から外して最後に残ったのが犯人という解決パターンではありません。過去ミステリーのトリックの再利用など問題点がないわけではありませんが23章でのオーウェンによる推理説明は謎解きのスリルに満ちており、これまた前例があるもののエピローグで明かされる秘密も印象に残ります。 |
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| No.2823 | 5点 | 悪霊七大名所の殺人 山村正夫 |
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(2024/12/31 17:02登録) (ネタバレなしです) 「十和田殺人湖畔」(1987年)で活躍したツアー・コンダクターの柏木美也子を名探偵役にした短編本格派推理小説7作を収めた1988年の短編集で、当初は短編の1つである「平家谷殺人行」というタイトルでの出版でした。日本各地の悪霊名所(これって縁起でもないと観光の目玉になりえないのでは(笑))での奇怪な殺人事件を扱っていますが、良くも悪くも平明な文章の作家なのでオカルト演出はそれほど凝ったものではありません。もっとも「ムサカリ絵馬の惨劇」や「亡霊の宿」などはオカルト本格派ならではの仕掛けがあります。短編なので仕方のないところではあるのですが、丁寧な推理説明が印象的だった「十和田殺人湖畔」と比べると、謎解き伏線が不十分なまま思いつきレベルの推理という作品が多くて本格派としては物足りません。「巡礼不可能殺人」は美也子のせっかくの推理が反証で破綻して謎が深まるというひねりが印象的なだけに解決が強引なのが惜しまれます。 |
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| No.2822 | 5点 | ライルズ山荘の殺人 C・A・ラーマー |
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(2024/12/28 03:51登録) (ネタバレなしです) 2020年発表のマーダー・ミステリ・ブッククラブシリーズ第4作です。当初の英語原題は「And Then There Were 9」ですが、創元推理文庫版は2022年に「When There Were 9」に改題された版のようです。このタイトルで想像つかれる読者も多いと思いますが、アガサ・クリスティーの有名作「そして誰もいなくなった」(1939年)のパロディー要素があります。新メンバーが参加して9人体制になったクラブの面々が山荘に集結する場面なんかクリスティー作品を読んでいた自分はにやにやしてしまいました。作中でクリスティー作品のネタバレしているのは遺憾に思いますけど。巻末解説の紹介の通り、これまでのシリーズ作品中最もサスペンス濃厚な作品です。もっともこのシリーズにコージー・ミステリを期待しているかのようなコメントは個人的には違和感があり、このシリーズは謎解きが薄味になりがちなコージー・ミステリとは一線を画した本格派推理小説だと思っています。犯人にたどり着く推理が説明不十分気味だったり、真の動機の説明が後出し感が強いなど謎解きとしては問題点もありますけど退屈せずに読めました。迫る山火事というエラリー・クイーンの「シャム双生児の秘密」(1933年)を連想させるシーンの導入も効果的です。 |
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