13・67 |
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作家 | 陳浩基 |
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出版日 | 2017年09月 |
平均点 | 7.67点 |
書評数 | 12人 |
No.12 | 8点 | 蟷螂の斧 | |
(2024/07/14 19:13登録) ①黒と白のあいだの真実 8点 末期がんの名刑事・クワンは、病室で機械に繋がれていた。彼は「Yes」「No」の意思だけは伝えることができる。病室に、ロー警部と経営者殺害事件の関係者5人が集まった・・・SFチックだが、出足好調 ②任侠のジレンマ 9点 ロー警部はマフィア左漢強の一掃作戦に失敗。そんな中、左漢強が経営する芸能事務所の女性歌手が殺害された・・・大がかりな罠 ③クワンのいちばん長い日 6点 硫酸バラマキ事件と脱走事件・・・犯人はここまでするかなあ? ④テミスの天秤 7点 警官が取り囲むビル。指名手配犯は逃亡しようとした。内通者がいたのだ・・・市民を巻きこんだ銃撃戦の裏 ⑤借りた場所に 5点 香港警察のイギリス調査員の息子が誘拐された・・・振り回される警察 ⑥借りた時間に 9点 雑貨屋で働く貧乏人の「私」は、隣人が爆破テロを企てていることを知る。警察に協力し推理する・・・若き時代~構図の妙 (余談)当サイトの「ランキングから探す」(海外、10件以上)のベスト100を本作でコンプしました。なお、国内はまだ未読24作品もあります。長篇、肌の合わない作者等なので、気力的にもう無理、諦めます(笑)。 |
No.11 | 7点 | いいちこ | |
(2022/10/17 18:36登録) まるで香港に滞在しているかのように、臨場感・熱が伝わってくる筆致から、抜きんでた筆力の高さが窺い知れた。 一方で、社会派ミステリとしては、警察の正義というテーマそのものがありふれているし、とくに目を見張るような主張もない。 また、本格ミステリとして、連作短編集としては一定の水準には達しているものの、突き抜けた印象はない。 これらを俯瞰すればミステリとしては水準クラスであるものの、言わば香港のドキュメンタリーとして一読の価値がある佳作という印象 |
No.10 | 9点 | YMY | |
(2021/12/17 23:30登録) 物語の時間軸が現在から過去へと遡っていく逆年代記という手法を用いて描かれている。 プロットの組み立て方、物語の見せ方は緻密で、読んでいるうちに何度もミスリードされてしまう。六つの事件のどれもが当時の香港の世相や人間模様を反映して複雑な様相を呈するが、対立する構図はいたってシンプル。徹頭徹尾、勧善懲悪なのだ。難しいことは何もしていない。夢中で推理し、爽快にしてやられた。 |
No.9 | 8点 | ぷちレコード | |
(2021/08/10 23:16登録) 一九六七年から二〇一三年という激動の香港史の裏側で、市民の平穏な暮らしを守るため、自らの身を捧げた警察官の人生を遡りつつ照らすことで、彼が第一話で描かれるような存在になった理由が丁寧に描かれていく。 警察小説として優れていながら、謎解き小説としても類まれない面白さがある。丁寧に描かれた伏線から導き出せる、あっと驚く真相。しかも毎話、盲点を突いてくる。その手際はお見事としか言いようがない。 |
No.8 | 6点 | ボナンザ | |
(2020/05/11 21:34登録) 警察小説にこうした計略勝負の要素を持ち込んでここまで面白くなるとはこの作者、只者ではない。 |
No.7 | 8点 | 八二一 | |
(2020/04/14 19:26登録) 各短篇、技巧を凝らした密度の濃い本格ミステリでありながら、それを逆年代に配置することで、現代香港社会をまざまざと活写する書きぶりは見事というほかない。 |
No.6 | 7点 | びーじぇー | |
(2019/08/26 17:23登録) 物語の中心にいるのは、その卓越した推理力から「天眼」と呼ばれた香港警察の名刑事、クワン。本書は、彼が半世紀の間に関わった六つの事件を、現在(二〇一三年)から過去(一九六七年)に遡る形で綴った連作短編集。 まず驚くのは本格ミステリとしての仕掛けの巧さ。例えば現在を舞台にした第一話「黒と白のあいだの真実」では、名刑事クワンは死期の近い末期のがん患者として登場する。長年彼の薫陶を得たロー刑事が、すでに昏睡状態に陥っているクワンの病室に容疑者を集め、クワンの脳波に「イエス・ノー」を示させることで犯人を特定しようという、実にとんでもない設定の作品。だがこれが思わぬ結末へとつながる。 二〇〇三年が舞台の第二話「任侠のジレンマ」はアイドル歌手行方不明事件の裏を暴くマフィアもの。一九九七年の第三話「クワンのいちばん長い日」は、祖国返還も間近な香港で起きた囚人脱走事件。特にこの第三話で展開される大胆なトリックには唸らされた。一九八九年の第四話「テミスの天秤」は香港警察内部の対立を描く。さらに遡って一九七七年の第五話「借りた場所に」は、香港警察の汚職を摘発する廉政公署調査官の家で起きた誘拐事件。注目は奇妙な身代金受け渡しの方法。その意味するところがわかった瞬間の驚きたるや。 そして一九六七年を舞台にした最終話「借りた時間に」へと辿り着く。本篇はそれまでと少々変わった雰囲気で始まるが、読み終わった時に浮かび上がる構図は、本書がなぜ時を遡る逆年代記として描かれたのかを納得させられた。 だが本書の白眉はその先。通読することで、香港という複雑な歴史背景を持つ地域の警察のあり方が浮かび上がる。警察官は誰のために存在するのか。個々の物語に、その時代ごとの警察官のジレンマが見てとれる。これこそ著者が本書に込めた思いでしょう。 どの話も表層の事件とその裏に隠された真相の二段構えになっていることに気づく。それは二国の間で翻弄された香港そのもののメタファといえる。 |
No.5 | 8点 | おっさん | |
(2019/03/14 10:07登録) A「おっさんがこの前、「ミステリの祭典」で陳浩基の「青髭公の密室」って短編を紹介してたのが印象に残ってたから、掲載号の『オール讀物』を図書館で借りて、読んでみたよ」 B「そりゃまたどうも。今年はアジア・ミステリに力を入れる気配の早川書房が、陳さんの短編集を出してくれるようだけど、事前の告知を見る限り、その本に「青髭公」は入ってないっぽいね。文藝春秋社のほうでも何か、動きがあるからかもしれないけど。で――どうだった?」 A「ああ、面白かったよ。でも、やっぱり『13・67』で一皮剥ける前の習作って感じかな」 B「ぶっちゃけちゃうと、俺は話題になった『13・67』の、あの大作感はあんまり好みじゃないから、作者にはもう少し、このテの遊びに徹した軽い路線も、続けて欲しいって気持ちがあるんだ」 A「へえ。『13・67』のことは、評価してるんだと思ってたけど」 B「作者の意欲は認めるさ。警察小説の皮をかぶった名探偵ものの連作として、2013年の“現在”から1967年まで、ヴァラエティに富んだ六つのエピソードを通して香港の歴史を振り返りながら、主人公クワンの生涯を遡っていく、あの「逆・年代記」の構想は斬新だしね」 A「病床の、瀕死のクワンと弟子のロー警部のやりとりで展開していく、第一話「黒と白のあいだの真実」は、アームチェア・ディテクティヴ史上に残るだろ」 B「そうなんだけど、なまじリアルに寄せてるぶん、設定の無理がなあ。読んでて「ダウト」って言いたくなった。でも、黄金時代ふうのパズラーでありながら、一発ネタといっていい趣向のこの話を、連作の発端に化けさせた、陳さんのミステリ・センスは本物だね。孤島ものの『十角館の殺人』を館シリーズに発展させた、綾辻行人に通じるものがある。で、最後のエピソード、テロ活動の阻止を描いた「借りた時間に」が、じつは『○○館の殺人』というオチなんだ」 A「え? 最後のほう、よく聞こえなかった」 B「ただの冗談だから、気にするな(笑)。でもねえ、この本はやっぱり……」 B「なんだい」 A「蛇。――長すぎる」 A「って、ルナールかよ」 B「香港返還の年である1997年、警察からの引退か嘱託としての残留か、と自身の進路を巡って気持ちが揺らぐなか、同時多発的な事件を捌く羽目になる、モジュラー型の第三話「クワンのいちばん長い日」、あれが長いのは、そのタイトルもあって許せるけどさ」 A「個々の作品の出来でいえば、あの話が一番かもね。あまり話題にのぼらないところでは、誘拐事件を扱って連城三紀彦ばりにトリッキーな、第五話「借りた場所に」がマイ・フェイヴァリットだよ」 B「ただねえ、やっぱり、物語るのに言葉を費やしすぎ。『13・67』全体を通して、香港警察に対する作者の熱い思いが、強力なエネルギーになっている反面、随所の背景描写のくどさにつながって、島田荘司推理小説賞を取った前作『世界を売った男』の、軽快なリーダビリティは失われてしまっている」 A「う~ん、言ってることは分からなくもないけど、前作より、出来はこっちが格段に上だろ」 B「あくまで好みの問題、と断っておくよ。高得点は付けるにしても、渾身の力作ってのは、この年齢(トシ)になると受け止めるのに疲れてね。もともと俺は、ドロシー・L・セイヤーズなんかでも、後期の『学寮祭の夜』みたいに野心的なテーマを内包した傑作より、気楽に読める初期作のほうが好きな男だから」 A「はいはい(お前だって、無駄に言葉を費やして話が長いじゃんと思いながら)。好き嫌いと、出来の良し悪しの判定は別という事で了解した」 B「あと、どの話にも律儀にどんでん返しを用意してて、その工夫たるや大したものなんだけど、普通に終わるエピソードが途中、ひとつくらいあっても、よかったかな。意外な結末ありきという前提で、構えて読み進めていく読者をそらす意味でもね」 A「ホント、注文の多いおっさんだ(笑)」 |
No.4 | 7点 | yoshi | |
(2018/03/10 20:23登録) ひとつひとつの話のトリックは、それほど大したことはない。 日本の本格ミステリー(作者もその大ファンであるらしい)を読みなれている読者は、割と途中で勘付くだろうトリックが多い。 だけど逆年代記という手法でひとりの刑事の人生と香港の現代史を生き生きと感じられる点では読み応え十分。 |
No.3 | 7点 | 小原庄助 | |
(2018/02/13 09:59登録) イギリス統治から中国への返還、揺れ動く香港の半世紀を背景にした、ユニークなミステリ。 香港警察の名捜査官クワンとその愛弟子ローが関わった事件を連作形式で描く。6編の物語を通じて6つの時代が語られ、最初に描かれるのは2013年。以降、1編ずつ過去へとさかのぼって、最後は1967年の物語で幕を閉じる。 異色の安楽椅子探偵ものとして始まる本書だが、続いて語られる事件はマフィア抗争もあれば誘拐サスペンスもあり、展開は豊富だ。 一貫しているのはロジカルかつ驚きに満ちた謎解きで、特に最後の1編の結末は実に鮮やか。ミステリという枠組みを駆使して、香港の現代史を浮かび上がらせる作品だ。 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2018/02/09 12:23登録) 世評の通り、実に読み応えのある連作短編形式の長編だった。 ミステリについての多様なセンスを自家薬籠のものとしている作者の器量には感服。最後の話はちょっとずるいんでないかいと思いつつ、ラストまで、してやったりという感じで幕を引いた送り手の手際に笑み。 |
No.1 | 10点 | はっすー | |
(2017/11/01 00:07登録) 華文(中国語)ミステリーの到達点を示す記念碑的傑作が、ついに日本上陸! 現在(2013年)から1967年へ、1人の名刑事の警察人生を遡りながら、香港社会の変化(アイデンティティ、生活・風景、警察=権力)をたどる逆年代記(リバース・クロノロジー)形式の本格ミステリー。どの作品も結末に意外性があり、犯人との論戦やアクションもスピーディで迫力満点。 本格ミステリーとしても傑作だが、雨傘革命(2014年)を経た今、67年の左派勢力(中国側)による反英暴動から中国返還など、香港社会の節目ごとに物語を配する構成により、市民と権力のあいだで揺れ動く香港警察のアイデンティティを問う社会派ミステリーとしても読み応え十分。 2015年の台北国際ブックフェア賞など複数の文学賞を受賞。世界12カ国から翻訳オファーを受け、各国で刊行中。映画化件はウォン・カーウァイが取得した。著者は第2回島田荘司推理小説賞を受賞。本書は島田荘司賞受賞第1作でもある。 〈目次紹介〉 1.黒與白之間的真實 (黒と白のあいだの真実) 2.囚徒道義 (任侠のジレンマ) 3.最長的一日 The Longest Day (クワンのいちばん長い日) 4.泰美斯的天秤 The Balance of Themis (テミスの天秤) 5.Borrowed Place (借りた場所に) 6.Borrowed Time (借りた時間に) まさにオールタイムベスト級の作品 今年読んだ作品の中ではダントツの面白さでした 短編を通して香港島という社会で描かれる正義のあり方について深く考えさせられ、なおかつ短編一つ一つの完成度もジェフリー・ディーヴァーの作品を凝縮ささせたようなツイスト・ロジック・トリックの三拍子揃ったものとなっていて大満足の内容でした |