nukkamさんの登録情報 | |
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平均点:5.44点 | 書評数:2814件 |
No.2334 | 6点 | ソーンダイク博士の事件簿 R・オースティン・フリーマン |
(2021/01/26 21:54登録) (ネタバレなしです) このタイトルで日本独自に編集された2巻の創元推理文庫版を連想する読者も多いとは思いますが、ここで紹介するのは1920年から1923年にかけて発表された8作のシリーズ作品を収めて1923年に発表されたオリジナル短編集です(国書刊行会版の「ソーンダイク博士短編全集第2巻 青いスカラベ」で読むことができます)。シリーズ短編を収めた短編集は「ジョン・ソーンダイクの事件記録」(1909年)、「歌う白骨」(1912年)、「大いなる肖像画の謎」(1918年)がありますが「大いなる肖像画の謎」は全7作の中短編の内、シリーズ作品はわずか2作なのでシリーズ短編集とは主張しにくく、本書こそがシリーズ第3短編集と呼ばれるにふさわしいと思います。過去の作品と大差ないレベルなのでもはや時代遅れと評価されるかもしれませんが、法医学者探偵としての個性はちゃんと発揮されていて個人的にはこれでいいと思います。私のお気に入りは聖書に由来するタイトルが中身とよく合っている「人間をとる漁師」とおよそ法医学者向きとは思えない金塊盗難事件に挑戦する「盗まれたインゴット」です。余談ですが白水社版で「試金石」のバクスフィールドという人名をバクスフォードと誤記して混乱させているのは残念。それでも雑誌掲載時の写真(単行本では削除)を復活掲載してくてことへの感謝の方が上回りますが。 |
No.2333 | 4点 | 芦ノ湖殺人1/3秒の逆転 水野泰治 |
(2021/01/26 21:35登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の本格派推理小説です。アイスクリーム売りのアルバイトをしている主人公の目の前でアイスクリームを買った男が毒死する事件が起き、やがて主人公は新興宗教団体の本部に乗り込んで新たな事件に巻き込まれるというプロットです。作中に登場する松好寅蔵警部補は「歌麿殺人事件」(1984年)にも登場していたようです(私は全く覚えていませんでした)。主人公はとにかく軽薄な人物として描かれており、しかも女性への妄想癖がひどくて読者の共感を得にくいキャラクターです。謎解きは意外としっかり考えられていてトリックも豊富、冒頭の俯瞰図もいい読者サービス(これがないと舞台を把握するのに苦労します)、意外な探偵役の登場など優れた点もあるのですがこの通俗臭さ(過激な官能描写はないですけど)は私には合いませんでした。 |
No.2332 | 5点 | 大当りをあてろ A・A・フェア |
(2021/01/26 21:12登録) (ネタバレなしです) 1941年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第4作の本格派推理小説です。シリーズ次作の「倍額保険」(1941年)ではバーサとドナルドの関係に大きな変化が訪れるのですが本書でも後半にドナルドの思い切った行動にびっくりです。このことが「倍額保険」の伏線になったんでしょうか?さて本筋に話を戻しますと、ドナルドは手掛かりを求めてラス・ヴェガスのカジノに乗り込みます。そこでトラブルに巻き込まれるのですが、何とスロット・マシーンのいかさまトリックが詳細に説明されます。まあ現代のマシ-ンとは造りが違うでしょうから今では通用しないかもしれませんが。プロットは実に起伏に富んでいて、前述のドナルドの行動、砂漠でのキャンプ、ドナルドのボクシングトレーニング、そしてバーサに訪れるロマンス(?!)と謎解きを忘れてしまいそうです。実際、犯人当て推理説明がかなり強引なんですけど。とはいえドラマチックな展開に加えて人情味もあるストーリーをなかなか楽しめました。 |
No.2331 | 5点 | 湖・毒・夢 夏樹静子 |
(2021/01/26 20:50登録) (ネタバレなしです) 1988年発表の短編集で、私の読んだ新潮文庫版(1991年出版)の裏表紙では「本格派ミステリー」と紹介されています。まあ時代が新本格派推理小説の黄金時代でしたからとにかく「本格」に結びつけようという販売戦略だったのでしょうけど、個人的には本書は社会派推理小説です。読者が推理に参加する余地がないし、謎解き伏線の回収もほとんどなく唐突な解決の印象の作品が多いです。5作品を収めて200ページ程度の短さなのでとても読みやすく、その中で人物心理の繊細さやリアリズムのある捜査などをしっかり描いていて出来栄えは悪くはありません。しかし本書を「本格派」というのは無理矢理感があると思います。 |
No.2330 | 5点 | 怪力男デクノボーの秘密 フランク・グルーバー |
(2021/01/26 20:38登録) (ネタバレなしです) 1942年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第7作のユーモア・ハードボイルドです。舞台となるホテルは何と「フランス鍵の秘密」(1940年)で殺人事件に巻き込まれたのと同じホテルではないですか。そしてジョニーとサムはこのホテルで再び死体とご対面です。後年の「噂のレコード原盤の秘密」(1947年)でもこのホテルは登場、2人にとってよほどのお気に入りの場所なんでしょうね。さて本書のタイトルに使われている怪力男デクノボーとは漫画の主人公の名前です(なぜヒーローにそんな名前を?)。怪力といえば何たってサム・クラッグ、これまでの作品でも怪力ぶりを見せてますが本書ではいつも以上に大活躍、ジョニーが霞んでしまうほどです。終盤は登場人物リストに載ってない悪人が大勢登場して殺人犯探しが置いてけぼりになりますが最後はやはりジョニーの出番、「犯人は最初からわかっていた」と啖呵を切る場面では本格派推理小説好きの私としては期待が高まります。しかし肝心の説明は「えっ、それが推理の根拠?それだけ?」と聞きたいような内容です。長々しい推理説明が必ずしもいいとは限りませんが本書のは全く物足りませんでした。 |
No.2329 | 6点 | 名探偵が多すぎる 西村京太郎 |
(2021/01/26 20:04登録) (ネタバレなしです) 1972年発表の名探偵4部作の第2作で、明智小五郎、エラリー・クイーン、エルキュール・ポアロ、メグレの4大探偵が再会するだけでなく、アルセーヌ・ルパンに怪人二十面相まで登場させた豪華共演版です。観光船を舞台にして密室事件まで起きるという派手なパロディー本格派推理小説です。あと「名探偵なんか怖くない」(1971年)には登場しなかった(と思う)メグレ夫人がなかなかいい味出してますね。編み物描写が随所にあってアガサ・クリスティーのミス・マープルを連想しました。シムノンの原作でもそういうキャラクターなんでしょうか?頑固刑事役の吉牟田刑事も前半は健闘、密室トリックの推理なんか(名探偵たちには否定されますけど)なかなかの敢闘ぶりです。ただ後半に残念な行動に走ってせっかくの正々堂々の対決を台無しにしてしまったのはがっかりでした。 |
No.2328 | 5点 | ベーカー街の女たち ミシェル・バークビイ |
(2021/01/19 22:33登録) (ネタバレなしです) 英国のミシェル・バークビイによる2016年発表のデビュー作です。コナン・ドイルのシャーロック・シリーズに登場するハドソン夫人とワトソン博士の妻メアリーを主人公にした外伝的なパロディー作品です。ただ本書の英語原題は「The House at Baker Street」、シリーズ第2作(2017年)が「The Women of Baker Street」なので角川文庫版の日本語タイトルは後者こそふさわしいのですが。女性2人を主人公にしていますが雰囲気に明るさや華やかさはほとんどありません。むしろ作中時代の英国社会の暗部が強調されていて、アン・ペリーの歴史ミステリーに通じるような重苦しさがあります。探偵としての経験もなく、しかも女性ということで色々なサポートを得ての捜査になるのは自然の流れですけど、ホームズとワトソン博士には意地でも頼ろうとしてませんね(笑)。冒険スリラー色が濃いですが、悪人との対決場面では推理で対抗するなど本格派も意識した作りになってます。まあ読者と推理競争するタイプの謎解きではありませんけど。当然ながらドイル作品を連想させる演出は沢山ありますが、「四つの署名」(1890年)についてはほとんど完全にネタバレされているので注意下さい。 |
No.2327 | 5点 | 牟家殺人事件 魔子鬼一 |
(2021/01/19 22:02登録) (ネタバレなしです) 生没年さえ不詳の、まさに幻の作家である魔子鬼一は戦時中から活動していたらしいのですが1950年、本書が新人作家の作品として雑誌掲載されました(再デビュー?)。中国を舞台にしていること自体珍しいですが、普通なら外国を舞台にしても日本人を活躍させるところを本書は登場人物が全員中国人で、タイトルの「牟家」を「ムウチャア」と読ませるほど徹底しています。もっとも異国情緒を感じられたのは序盤ぐらいでしたが。大富豪の一族(何と一夫多妻制)を襲う連続殺人というプロットは(作中でも紹介されている)フィルポッツの「赤毛のレドメイン家」(1922年)やヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)の影響がちらつきます。ただそれらの作品と異なる個性の謎解きを意図しているのは何となく感じますけど、本格派推理小説として肝心な謎解き伏線が十分と思えなかったのが残念です。人物個性も乏しくて人間関係がわかりにくく、サスペンスも今一つでした。 |
No.2326 | 6点 | 地の告発 アン・クリーヴス |
(2021/01/06 23:06登録) (ネタバレなしです) 2016年発表のジミー・ペレスシリーズ第7作の本格派推理小説です。地滑りがきっかけで発見された死体が他殺死体だったという展開はジョイス・ポーターの「逆襲」(1970年)を連想しました(あちらは地震がきっかけですが)。じっくり展開するプロットはこのシリーズの特色ですが、本書は特にゆったりしています。被害者(女性)の素性確認にかなりのページを費やし、人間関係を紐解くのにまたかなりのページを費やしています。並の作家なら退屈になりかねない内容ですが、様々な人間ドラマを巧みに織り込んで読ませます。ペレスだけでなくウィローやサンディなど持ち味の違う捜査と推理を絡ませているのも効果的です。終盤はそれなりに劇的になります。 |
No.2325 | 5点 | 首を売る死体 鳥羽亮 |
(2021/01/06 22:23登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の長編ミステリー第3作の本格派推理小説で、過去2作は不可能犯罪トリックの謎解きを前面に出してましたが本書はがらりと趣向を変えました。首をぶら下げた首なし死体だけでもインパクト十分ですが、何と首と首なし死体は別人でした。しかも死体が「立っていた」という証言まで登場です。トリック自体はあっさりと2章で見破られますが、なぜそんな演出をという謎が手ごわいです。と、ここまでは文句なしの面白さなのですが広げた風呂敷をうまく畳めなかった印象がぬぐえない真相でした。タイトルに使われている「首を売る」に対する「買う」理由の説明があまりにも強引で説得力に欠けます。5章での謎解き議論で「あまりにも危険過ぎるとは思わんか」の質問に対して「全く危険はないんです」と説明してますが、いやいや危険が一杯でしょと突っ込みたくなりました。 |
No.2324 | 6点 | 知られたくなかった男 クリフォード・ウィッティング |
(2021/01/06 21:55登録) (ネタバレなしです) 英国のクリフォード・ウィッティング(1907-1968)は1937年にミステリー作家デビューしていますのでニコラス・ブレイク、クリスチアナ・ブランド、シリル・ヘアー、マイケル・イネスらと活躍期が重なるのですが日本では非常に不遇で、初めて翻訳紹介されたのは21世紀に突入してからです。作品数も多くなく、チャールトン警部シリーズが11作、チャールトンの部下のブラッドフィールド巡査が警部に昇進して主役を務めるシリーズが3作、非シリーズ作品が2作に留まります。1939年発表の本書はチャールトン警部シリーズ第4作の本格派推理小説です。クリスマスの1週間前の日曜日、クリスマスソングを合唱しながら街中を行進して家々を訪問して寄付金を集めるという募金活動の最中に参加者の1人が失踪します。犯罪だとすると募金横領ぐらいしか思いつかず、登場人物リストに載ってない人物が多く登場することもあってアマチュア探偵たちの初期捜査は盛り上がりに欠けます。チャールトンが捜査に参加して凶悪犯罪の可能性が高くなりますけど、失踪者の秘密の謎解きに重点を置いたプロットはじれったいぐらいに地味で論創社版の巻末解説もそこを問題視しています。とはいえ最後はきっちり犯人当てとして着地しています。短いながらも人間ドラマ要素を織り込んでいるところはヘンリー・ウエイドを彷彿させ、最終章での「悲しい追記」が何とも言えぬ余韻を残します。 |
No.2323 | 5点 | 羽衣伝説の記憶 島田荘司 |
(2021/01/06 21:25登録) (ネタバレなしです) 1990年発表の吉敷竹史シリーズ第11作ですが、私の読んだ光文社文庫版の裏表紙で「ラブ・ストーリー」と紹介されていたので非ミステリー作品なのかとぎょっとしました。吉敷が小さな画廊で見た金属細工の彫刻が「北の夕鶴2/3の殺人」(1985年)に登場した、別れた妻の通子の作品ではないかと思うところから物語が始まります。4章までは吉敷のプライヴェート回想シーンが続き、ようやく事件捜査が5章から始まるも意外と早く10章で解決、しかも捜査中も吉敷の回想が随所で織り込まれてるし10章では新たな通子の手掛かりをつかむという展開です。そして11章から14章までが通子の過去にまつわる物語で、電撃的に解決される謎解きもあるとはいえ(あまりにギャンブル的なトリックにはびっくり)、とにかく通子づくしのプロットでした(笑)。まあ非ミステリーではなかったですがラブ・ストーリーと紹介されるのも納得の内容で、本格派推理小説としては薄味です。光文社文庫版で300ページに満たない短さなのでシリーズ入門編として読もうかと検討する読者もいるかもしれませんがあまりお勧めできません。「北の夕鶴2/3の殺人」のネタバレも作中にありますし。 |
No.2322 | 5点 | 冷血の血 レオ・ブルース |
(2020/12/25 22:28登録) (ネタバレなしです) 1956年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第2作の本格派推理小説で、舞台となる港町の雰囲気がよく描けています。ただ主要舞台である桟橋が劇場など複数の建物が乗っかっているリゾート桟橋で、英国人読者ならイメージが容易に沸くのでしょうけど日本人読者としては見取り図がほしかったですね。ROM叢書版の表紙イラストには助けられました。事件は警察が早々と事故と判断してしまい、死んだ場所も死んだ時間も曖昧のためキャロラスの捜査も手探り感が強いです。読みにくい作品ではありませんが、最初に読むべきシリーズ作品としては殺人であることが最初から明らかな他の作品を勧めます。ミスリーディングが巧妙なところはこの作者らしいのですが詰めが甘いのもこの作者らしく、ROM叢書版の巻末解説で動機とトリックに関する問題点が適切に指摘されています。 |
No.2321 | 7点 | 狐火の家 貴志祐介 |
(2020/12/25 21:38登録) (ネタバレなしです) ホラー作家としての地位を築き上げた作者がたまには他のジャンルも書いてみるかと思ったか、本格派推理小説の「硝子のハンマー」(2004年)を発表したのは本格派好きの私にとっては嬉しい驚き以外の何物でもありませんでしたが(しかも傑作だったので嬉しさ倍増)、続けて同じ探偵役のシリーズ第一短編集である本書を2008年に発表したのでまたまた嬉しい驚きです。収められたのは3つの中編と1つの短編ですが個性派揃いです(しかも全部密室を扱っている)。「狐火の家」はワトソン役の青砥純子が怒涛の勢いで次々に推理を披露しては探偵役の榎本径が片っ端から否定していく展開は中編とは思えぬ密度の高い謎解きです。「黒い牙」は毒蜘蛛に殺されるという設定もさることながら、ホラー作家ならではの演出と独創的なアイデアとしっかりした推理が用意されていて最も印象的でした。これに続く「盤端の迷宮」はややインパクトが弱く感じますが、榎本が最初から捜査に参加し純子が後から登場して榎本を攻め立てる、いつもと逆の展開が新鮮です。これまで読んだ作品で純子が榎本に苦手意識を感じているのはわかりますが、意外にも榎本の方もだったというのがおかしいです。「犬のみぞ知る Dog Knows」は何とユーモアを通り越してギャグ連発の楽しい本格派。こんな笑える作品も書けるとは。 |
No.2320 | 5点 | 文学少女対数学少女 陸秋槎 |
(2020/12/25 21:09登録) (ネタバレなしです) 2019年に発表された本書は推理小説を書いている文学少女の陸秋槎(作者と同じ名前ですね。作者は男性ですけど)と数学の天才少女の韓采蘆の2人の女子高生が活躍する4つの中編を収めた短編集です。どの作品もボリューム以上の複雑な内容を感じさせます。「連続体仮設」は秋槎の書いたミステリーを読んで采蘆が犯人を当てて作品の出来栄えを評価するというもの。謎解きよりも本格派推理小説のあるべき姿の議論に重きを置いてます。「フェルマー最後の事件」では今度は采蘆が書いたミステリーを秋槎が読むことになります。作中作の謎解きがまだ終わってないところへ現実の事件が起きる展開には意表を突かれました。伝統的な本格派推理小説でありながら「推理の過程の間違いは、結論の正しさの妨げにはならない」とか「解の存在は証明できるけど方程式は解けてない」とかどこか前衛的な要素が混じっていて微妙なもやもや感を覚えました。余談ですが私の読んだハヤカワ文庫版では登場人物リストは書物の中には記載されず、別紙の形で(栞のように)挿入されてました。なくしちゃうよ! |
No.2319 | 3点 | 増加博士の事件簿 二階堂黎人 |
(2020/12/17 23:11登録) (ネタバレなしです) 2012年発表の増加博士シリーズ第2短編集は何と全部がショート・ショートという珍品で、250ページ程度の講談社文庫版に27作品が収められています。ショート・ショートづくしの本格派推理小説というと18作品を収めたエラリ・クイーンの「クイーン検察局(1953年)ぐらいしか私は思い浮かびません(但しクイーン作品には1編だけ普通サイズの短編「ライツヴィルの強盗」が混ざってますが)。ショート・ショートゆえに謎解きの完成度に期待をかけるのは間違いなのかもしれませんが、それにしてもダイイング・メッセージの謎解きが揃いも揃って「感想を考えるのも嫌になる」レベルです。そういった作品が全体の約4割を占めているのを多いか少ないかは意見が分かれるかもしれませんが、私は十分にうんざりしてしましました。トリック挑戦の作品も一足飛びにこうすればできるよという説明だけが多いです。クイーン作品も凡作が少なくありませんが本書よりは読者への推理説明が丁寧でした。本書は増加博士(と作者)の自己満足だけが目立っています。 |
No.2318 | 5点 | パスカル夫人の秘密 ウィリアムズ・スティーヴンス・ヘイワード |
(2020/12/17 22:41登録) (ネタバレなしです) 女性刑事を主人公にした作品は1864年に初登場したらしいです。アンドリュー・フォレスター・ジュニアによる名無しの女性刑事ものの短編集とパスカル夫人シリーズ短編集の本書がそれです。本書については人並由真さんのご講評で紹介されているように出版時には作者名が伏せられており、ヒラヤマ文庫版の巻末解説では英国の大衆小説家ウィリアム・スティーヴンス・ヘイワード(1835-1870)が著者と「推定される」と記述されてます。本格派推理小説の謎解き要素よりは冒険スリラー小説要素のほうが強く、唯一の殺人事件を扱った「溺死」も前半は本格派風ですが解決はかなりの偶然に助けられてのものです。意外だったのはハッピーエンド狙いのために時にはパスカル夫人が犯人(悪人)と痛み分けの解決にする作品があることです。思った以上にバラエティーに富んでいますが、ページ数の多い作品の方が出来がいいように思います。 |
No.2317 | 5点 | 風神雷神の殺人 阿井渉介 |
(2020/12/17 22:17登録) (ネタバレなしです) 1994年発表の警視庁捜査一課事件簿シリーズ第2作の本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス型ですが、読者が自力で解決を目指せるプロットではありません。風神や雷神の助けによって実行された2つの殺人と次の殺人を予告する手紙が事件の発端です。更に堀刑事自身が目撃者になる中学生襲撃事件が起きるといういささか脈絡のないような展開です。殺人を宣言された2つの事件は鉄橋からの列車転落事故と列車同士の衝突事故で、さすがにこれを人為的なトリックで実行するのは無理だろうという難題です。仮に実現できたとしても大勢の犠牲者を出してまで実行するのかという謎も強力です。真相はそこをうまく処理しているなと感じました。とはいえタイトルに使われている風神雷神の演出が弱いし、犯人の行動力はあまりにも超人的に感じられます。まあこの作者の他の作品で大勢の共犯者を使った組織的犯罪の真相に比べればまだましですが。 |
No.2316 | 4点 | ラベンダー・ティーには不利な証拠 ローラ・チャイルズ |
(2020/12/11 22:52登録) (ネタバレなしです) 2020年発表の「お茶と探偵」シリーズ第21作です。冒頭の謝辞で「まだまだたくさんの<お茶と探偵>シリーズをお届けすると約束します!」と意気盛んで、よほどの人気シリーズなんでしょうね。今回は狩猟パーティーの最中の銃殺事件の謎解きです。定番のお茶やお茶菓子の描写は変わらずの充実で、デビュー作から発揮されている洗練された文体も安定しています。謎解きが残念レベルなのも相変わらずで(笑)、あの人を疑いこの人を疑いと焦点が定まらないのはまあ謎を深めようとしていると好意的に捉えますがあまりにも棚ぼた式の解決にはもはやあきらめのため息しか出ません。 |
No.2315 | 5点 | 劇画殺人事件 生田直親 |
(2020/12/11 22:40登録) (ネタバレなしです) テレビ脚本家だった生田直親(いくたなおちか)(1929-1993)はミステリー作家としては「誘拐197X年」(1974年)でデビュー、派手な展開のサスペンス小説が多いようですが通俗的な官能描写、社会問題への怒り、力のこもったスキー描写や山岳描写など多彩な個性を持っていたようです。本格派推理小説とは無縁の作家かなと思ってましたが、1976年発表の初期作品である本書の光文社文庫版では本格派の作品と紹介されていました。漫画界を背景にしていますが人間関係は結構殺伐としています。まあ殺人が起きるんですからね。米国帰りの風来坊的な主人公が探偵役ですが、映画プロデューサーになろうという夢を持っていてこの夢が実現すのかどうかが謎解きと共に物語の両輪となっています。探偵と容疑者が対決的でありながら一方で互いに認め合うという人間関係も読ませどころです。アリバイトリックにちょっと面白いところがありますが、ちゃんと調べたらばれるのは時間の問題のトリックでしょうね(実際警察も最後は見抜いています)。 |