| nukkamさんの登録情報 | |
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| 平均点:5.44点 | 書評数:2903件 |
| No.2703 | 5点 | 教会堂の殺人〜Game Theory〜 周木律 |
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(2023/11/20 23:31登録) (ネタバレなしです) 2015年発表の堂シリーズ第5作です。私は改訂された講談社文庫版(2018年)で読みましたが、登場人物リストの人物が全員過去のシリーズ作品に登場しています。過去作品を先に読んでなくてもそれなりに楽しめますが、先に読んでおくことを勧めます。シリーズ前作の「伽藍堂の殺人」(2014年)はシリーズの方向性を大きく変えたのではと思える演出がありましたが、それでも本格派推理小説としての基本形は維持されていました。しかし本書はもはや本格派とはいえないと思います。死の罠が仕掛けられていると思われる教会堂を訪れる人間が次々に命を落とすというスリラー小説です。死が迫っている被害者描写は恐怖というより諦観に近い感じで、痛みや苦しみの描写もありません。ヒロイン役である百合子も多少の不安は見せているものの全般的には落ち着いており、スリラー小説としては刺激が足りないと思う読者もいるかも。恐いのが苦手な私はありがたかったですけど。「伽藍堂の殺人」以上にシリーズ作品世界を大きく変える配役整理は賛否両論でしょう。 |
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| No.2702 | 5点 | ポピーのためにできること ジャニス・ハレット |
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(2023/11/19 20:16登録) (ネタバレなしです) 劇作家や脚本家としての実績を積み上げた英国のジャニス・ハレット(1969年生まれ)が初めて書いた小説が2021年発表の本書で英語原題は「The Appeal」です。1種の書簡小説の本格派推理小説で、人物の直接描写は一切ありません。たまたま私は英国最初の長編推理小説(とジュリアン・シモンズが紹介している)のチャールズ・フィーリクスの「ノッティング・ヒルの謎」(1862-63年雑誌連載)を読んだばかりで、そちらも書簡小説形式だったのですが150年以上も時代が違うのですから使われているメディアも違います。本書の場合はほとんどが電子メールです。必ずしも一方通行の伝言ばかりでなく会話風にやり取りが続くことも多く、フィーリクスの回りくどい言い回しに比べれば文章自体は読みやすいです。とはいえ集英社文庫版で700ページ近い大ボリュームに登場人物が40人以上もいるので(全員がメールしているわけではありませんが)話があちこちに拡散してしまって内容的に複雑でわかりにくく、事件発生が後半という構成も読者の集中力を削ぎかねません。巻末解説で本書は「現代版アガサ・クリスティー」と評価されたそうですが、テンポよく謎解きの面白さを読者へ提供したクリスティーと比べると(力作なのは認めますけど)冗長に過ぎるように思います。 |
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| No.2701 | 5点 | 天才は善人を殺す 梶龍雄 |
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(2023/11/13 02:53登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の本書は長編ミステリー第4作の本格派推理小説で、私は改訂された徳間文庫版(1987年)で読みました。初めて作中時代が現代になった作品でもあります。といっても巻末で作者が「かなりの改変があった」とコメントしているように、改訂時点でも作中時代の1978年とは時代の違いが生じていたようです。ましてや21世紀の読者から見ると(人並由真さんもご指摘されていますが)本書の犯行テクニックは想像外にさえ感じるかもしれません。キャッシュカードの紛失に気づかないまま預金額のほとんどを引き落とされた父親が服毒自殺してしまい、主人公と若き義母が誰がどのようにして金を盗んだかを調べていくことになります。大学生である主人公が友人たちと探偵グループを結成したり、義母を女性として意識したりと青春小説要素もあります。もっとも短編ネタのような謎は魅力的とは言い難く、父親の死んだ現場が密室状態であることが妙に詳細に説明されるので読者としてはもしやと期待しますがしばらく中途半端に放置されてしまいます。後半の第5章以降でようやく本格派として充実したものとなり、そもそもの前提がひっくり返る謎解きは技巧を感じさせるし不思議なタイトルの意味もきちんと回収されますが前半の展開のぐだぐだ感が惜しまれます。 |
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| No.2700 | 4点 | ノッティング・ヒルの謎 チャールズ・フィーリクス |
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(2023/11/08 22:40登録) (ネタバレなしです) ジュリアン・シモンズの評論「ブラッディー・マーダー」(1972年)でウイルキー・コリンズの「月長石」(1868年)に先立つ英国最初の長編推理小説と紹介された本書は1862年から1863年にかけて匿名で雑誌連載され、1865年の単行本化で初めて作者名がチャールズ・フィーリクス(1833-1903)と記載されました。おっさんさんのご講評によると書簡小説形式の採用は当時としては珍しくないそうですが、さまざまな人物による報告、手紙、証言記録、日記などがまるでパッチワークキルトのごとく連なる構成です。しかし持って回ったような語り口に加えて時系列が整理不十分で、私の読解力では読むのにとても難儀しました。この時代の作品で脚注や現場見取り図の挿入などの読者サービスがあるのは驚きですが、それらの工夫も読みにくさの解消までには至りません。最後を疑問文で締めくくってすっきりしない幕切れにしたのも賛否両論でしょう。コリンズの「月長石」は本書の3倍以上のボリュームですが、(冗長なところもあるけど)物語としての面白さも3倍以上に感じます。 |
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| No.2699 | 5点 | 青銅ランプの呪 カーター・ディクスン |
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(2023/11/07 12:34登録) (ネタバレなしです) 1945年発表のヘンリー・メリヴェール卿シリーズ第16作の本格派推理小説で、あのエラリー・クイーンに献呈されています。そのためでしょうかエジプトで発掘された青銅ランプの呪いで人が消えてしまうというトリックに挑戦した本書は創元推理文庫版で400ページを超す分量で、この作者としては大作の部類です。しかしやはり消失の謎は短編向きだと思います。二階堂黎人が「事件が小粒なわりにだらだらと長い」と評価したそうですけど私も同調します。トリックはまあ妥当なところですが目新しいアイデアに欠けているように感じました。後に短編「妖魔の森の家」(1947年)という消失事件の謎解きで超弩級の名作を書けたのは本書の経験があったからと思いたいです。 |
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| No.2698 | 5点 | やかましい遺産争族 ジョージェット・ヘイヤー |
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(2023/11/05 05:40登録) (ネタバレなしです) 「キャラクター造形がすばらしくて会話が面白い」とドロシー・L・セイヤーズが高く評価していた1937年発表のハナサイド警視シリーズ第3作の本格派推理小説です。確かに個性豊かな登場人物が多く、なかでも謎解きに興味津々の14歳の少年ティモシーの存在感は際立っていますが、いくら作中人物が「生意気」と評しているといっても論創社版の大人に対する口調は度が過ぎていて不自然な翻訳に感じました(私のジジイ目線の方が不自然なのかなあ)。富豪一族で相次いだ死亡事件(1人目は殺人かどうか微妙ですけど)の背景は遺産争いかそれとも進展しない投資ビジネスか、動機を巡る謎解き中心のプロットですが初動捜査でちゃんと探さなかったのかといいたい凶器の唐突な発見や、仮に逮捕を免れたとしてもいつまでもごまかしきれるとは思えない犯人の秘密などあまりすっきりできない解決でした。 |
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| No.2697 | 6点 | ケンブリッジ大学の途切れた原稿の謎 ジル・ペイトン・ウォルシュ |
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(2023/10/30 22:09登録) (ネタバレなしです) 1995年発表のイモージェン・クワイシリーズ第2作の本格派推理小説です。イモージェンの家に下宿する学生のフランが亡くなった数学者の伝記を手掛けることになるのですが、フランより先に伝記執筆に着手していた前任者は謎めいた死を遂げていました。とはいえ殺人と確定していないので一気に殺人犯捜しという流れにはなりません。なぜ伝記が未完なのか、完成されると都合の悪い理由があるのかが謎解きの中心になります。地味な謎に地味な展開の作品ですが、動機を巡ってイモージェンとマイク巡査部長が謎解き議論する20章はそれなりの読み応えがあります。日本語タイトルも作品内容に添っていて悪くはありませんが英語原題の「A Piece of Justice」がなかなか意味深でした。ある人物の名誉が回復される最終章の締めくくりが印象的です。 |
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| No.2696 | 4点 | 虹へ、アヴァンチュール 鷹羽十九哉 |
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(2023/10/24 08:29登録) (ネタバレなしです) ミステリー作家としては遅咲きの鷹羽十九哉(たかはとくや)(1928-2002)のデビュー作が1983年発表の本書で、ユーモア本格派推理小説にハードボイルド風味を加えたような作品です。死体を発見する羽目になった主人公はフリーのカメラマンですが、大きな料亭の一人息子で長唄、舞踏、囲碁、将棋、柔道、空手、マージャン、ビリヤードと多趣味を誇り、高級車に高級バイクを乗り回すという設定で(本書では囲碁とバイクの場面が目立ちます)、個人的にはひがんでしまいます(笑)。こういう設定なのでどこか他人を見下すようなところがあるのですが、そんな彼がとても敵わないと思わせる人物を登場させて後半は探偵コンビの捜査に進展します。最終章で11の証拠に基づく推理を披露して説明してはいますが、ほとんどが動機に絡むもので機会や手段や直接的な物証はほとんど触れられていません。人物整理も上手くなくて読みにくい作品です。 |
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| No.2695 | 5点 | 飛鳥のガラスの靴 島田荘司 |
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(2023/10/16 08:49登録) (ネタバレなしです) 1991年発表の吉敷竹史シリーズ第13作の本格派推理小説です。プロローグで俳優の家に彼のものと思われる右手首が送られる事件が紹介されますが、その後は語り手の女性の思い出話と吉敷と通子(別れた妻)の痴話喧嘩風なやり取りが交互に描かれる、まるでミステリーらしくない展開がしばらく続きます。ようやく吉敷が冒頭の事件の捜査に乗り出してからも謎解きとしてはあまり盛り上がりません。中盤で吉敷が映画を鑑賞して、「ドラマにひき込まれる要素がないのだ。(中略)吉敷のような素人にも、画面に緊張がないのがよく判るのだ」と感想を語ってますが、これをそのまま本書の感想に置き換えてもいい気がします。 |
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| No.2694 | 5点 | 手錠はバラの花に―女性刑事・倉原真樹の名推理 日下圭介 |
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(2023/10/11 23:58登録) (ネタバレなしです) 女性刑事・倉原真樹シリーズの短編作品は他の短編集でもいくつか読むことができますが、全てをシリーズ作品が占めている短編集は1991年から1992年にかけて発表された6作品を収めて1992年に出版された本書が唯一のようです。地味ながら個性を感じさせる作品が多く、「自首した女」(1991年)は自首した女性が本当に犯人なのかを推理するプロットで、安易に別の犯人を捜すのではなくしっかりと自白の内容を検証しています。もっともその分犯人当てとしては物足りませんが。双葉文庫版の「作者の言葉」でこのシリーズを「私なりの警察小説を書き上げる」ことを目標にしているためか時に本格派推理小説の王道路線から外れてしまう作品もあります。それでもやはり自白後の捜査を描いた「指紋」(1991年)は、トリックはE・S・ガードナーの某作品に前例がありますけど本格派の謎解きは充実していると思います。銀行強盗を追跡する異色の「間抜けすぎた電話」(1991年)でもメッセージの謎解き推理を織り込んで本格派の要素をぎりぎり残しています。 |
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| No.2693 | 6点 | カナリヤの爪 E・S・ガードナー |
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(2023/10/09 21:17登録) (ネタバレなしです) 1937年発表のペリイ・メイスンシリーズ第11作の本格派推理小説ですが、「餌のついた釣針」(1940年)のハヤカワ文庫版の巻末解説によると「メイスンが永久に退場する作品に書きかえようとしました」と紹介されていてびっくりです。弾十六さんのご講評によると出版社に出版を断られたとあってそれも影響したのかもしれませんね。別の出版社が出版してくれてシリーズ存続になってよかったです。離婚訴訟に発展しそうな相談事にメイスンは関心のない態度を隠しませんが、すぐに殺人事件が起きます。ハヤカワ文庫版で250ページに満たない作品ですが、交通事故を絡めてなかなか複雑で大胆な謎解きを用意しています(現場見取り図がほしかったです)。空さんのご講評で紹介の風変わりなタイムリミットは印象的で、もしもシリーズ最終作になっていたらこの幕切れはもっとロマンティックに締めくくられたかもしれませんね。 |
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| No.2692 | 4点 | 君のために鐘は鳴る 王元 |
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(2023/10/06 23:24登録) (ネタバレなしです) マレーシアの女性児童小説家の王元(1980年生まれ)が2021年に発表した本格派推理小説で、島田荘司はコンピューター時代にあるべき「本格」の、新たな可能性を示した優れた思考実験であったと高く評価しました。アーネスト・ヘミングウエイの「誰がために鐘は鳴る」(1940年)を連想させるタイトルですが特に共通する要素はないように思います。デジタルの時代に孤島でアナログな生活をおくろうとする人々の間で起きる連続密室殺人を描いていますが、誰からも認識されず相手に接触することも声を聞かせることもできない不思議な語り手の存在を受け入れられるかどうかで読者の評価が左右されそうな気がします。豊富な謎解き伏線に丁寧に考えられたトリック(密室のシャワールームから消えるトリックは某米国作家の某短編作品(1940年代)を連想しました)など感心できた部分もありますが、頭がアナログな私にはついていけないトリックもありました。最終章のひねりもすっきりできませんでした。 |
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| No.2691 | 5点 | オックスフォード連続殺人 ギジェルモ・マルティネス |
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(2023/10/05 08:38登録) (ネタバレなしです) アルゼンチンのギジェルモ・マルティネス(1962年生まれ)が2003年に発表した本格派推理小説で、舞台を英国のオックスフォードにしているのは作者自身の留学経験を活かしたのでしょう。冒頭で主人公のセルダム教授の死去が紹介され、名無しの語り手が1993年夏の事件を回想するという展開です(語り手は事件当時22歳のアルゼンチン人留学生)。殺人予告するかのようなメモが出現しては次々に人が死ぬというプロットですが、あまりにも淡々と進行するのでサスペンスは皆無に等しいです。数学者であるセルダム教授の語りも私の頭脳レベルでは捉えどころがありません(数字や数式が登場しないのはありがたいですが)。真相を知るとセルダム教授の説明の歯切れが悪い理由がちゃんとありましたし(ピーターセン警部が「あなたの考えが正しいことを確かめるために、次の殺人が起こるまで待っているわけにいかないのです」と批判していますがそういう理由ではなかったです)、25章の最後の1行でなぜあの人物があんなことをしたのかがわかるようになっていますが唐突過ぎてインパクトはイマイチ、読者に考えさせる意図があるのかもしれませんけど個人的にはもう少し丁寧に明快に推理説明してもよいのではと思いました。 |
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| No.2690 | 6点 | 幽霊は殺人がお好き 筑波耕一郎 |
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(2023/10/03 07:39登録) (ネタバレなしです) 「オリエント急行よ、止まれ」(1995年)から久しぶりの2001年に発表された本格派推理小説です。筑波孔一郎名義にしたのは初心に帰るつもりだったのでしょうか、しかし本書が筑波の最終作となった模様です。幽霊が出没すると噂の旧家に起きる連続殺人を扱っており、オカルト要素はそれほど濃厚ではありませんがとても読みやすい作品です。小説家で幽霊研究家の夕礼六郎(もちろん本名ではありません)とその女性助手との間に繰り広げられる通俗的な会話は好みは分かれでしょうけど(島田一男の南郷弁護士シリーズみたい)。かなりぎりぎりまで謎が解けないプロットのため解決場面は短くなっており、ここはもう少し演出を盛り込んでもいいのではという気もします。真相はアガサ・クリスティーの1950年代の某作品を連想させますが、色々なトリックを散りばめているところは作者の工夫です。 |
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| No.2689 | 6点 | 焼きたてマフィンは甘くない リヴィア・J・ウォッシュバーン |
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(2023/10/02 13:15登録) (ネタバレなしです) 2010年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第5作のコージー派の本格派推理小説で、収穫祭の準備でてんてこまいのフィリスとキャロリン(友人)が飾り用の案山子が奥まった場所に置いてあったのを発見して移動させようとしたところ中身が死体だったという事件の謎解きです。最有力の容疑者として逮捕された被害者の妻が犯人とは思えないフィリスが真犯人を探すことになります。容疑者の数は多くないものの決め手らしい決め手がないまま終盤に突入しますが、キャロリンのちょっとした一言がきっかけであっという間に真相にたどり着きます。推理説明があっさりなので説得力が微妙なところもありますが、一応は消去法で唯一の犯人条件を満たす人を特定してつじつまを合わせた謎解きにしています。 |
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| No.2688 | 5点 | 脱サラリーマン殺人事件 藤村正太 |
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(2023/10/01 05:55登録) (ネタバレなしです) 1978年発表の社会派推理小説です。作中で「現代は"脱"の時代だと学者やマスコミがさわいでいる」と述べられていますが、脱サラリーマンだけでなく脱家庭、脱都会、脱日本など様々な「脱***」が見え隠れしています。タイトルからは想像できませんがトラベルミステリー要素が濃いのも作品個性です。アリバイ崩しがメインになる謎解きは本格派推理小説風で、あともう少しでアリバイが崩せないのですがそのもう少しに大掛かりなトリックが使われていたのに驚きました。1990年代の巨匠作家の作品アイデアを先取りしていたのですね。 |
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| No.2687 | 5点 | 濡衣を着る男 大谷羊太郎 |
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(2023/09/30 01:52登録) (ネタバレなしです) 大谷の作品では前半をサスペンス小説、後半を本格派推理小説という構成の作品がいくつかありますが、1990年発表の本書は主人公が探偵役でないためか彼(と読者)の知らないところで謎解きが進むプロットで、最後までサスペンス小説でした。謎解き伏線を回収しながらの推理説明があれば本格派としても評価できたかと思いますが、後出しの手掛かりに基づく説明に留まっています(個人的には残念)。父親の急死で若くして事業を継いだ主人公は目先の資金繰りに苦しむ羽目になり、資産家の留守宅に侵入して金を盗むことに成功します。それから事業が好転して十年が経過し成功者となった主人公があの事件で身代わりに逮捕されて有罪となった男に何とかして償おうとするのが前半の展開で、大きな事件が起きるのは後半になってからです。作中で主人公が根は善人で世間知らずのお人好しであることが何度も示唆されますが、この作者の人物描写力では読者の共感を得られるかは微妙な気がします(悪人はそれらしく描かれていますけど)。 |
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| No.2686 | 6点 | 桜島1000キロ殺人空路 本岡類 |
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(2023/09/28 08:38登録) (ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。妻は東京で殺され、容疑者の夫は殺害時刻には鹿児島にいたというアリバイが成立します。アリバイ崩しではありますが関係者たちが人徳者と称える容疑者を殺人に走らせるほどの動機があるのかを調べることにプロットの大半が費やされています。犯行現場から遠方の地にいたというアリバイならあらゆる交通手段を丹念にチェックするのが常套だと思いますが、本書はそういう展開にはなりません。その分読みやすくて時刻表が苦手な私にはありがたかったですが、アリバイ崩しが好きな読者の受けは微妙かもしれません。トリックの基本的アイデアはシンプルで、あっさり目のプロットにふさわしいものだと思います。 |
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| No.2685 | 8点 | 厳冬之棺 孫沁文 |
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(2023/09/26 13:50登録) (ネタバレなしです) 中国の孫沁文(スン・チンウェン)(1987年生まれ)は2008年に推理小説家デビューして2021年までに57作の短編を発表していますが何とその内44作で密室の謎解きがあるそうで、これは米国のエドワード・D・ホックを連想しますね。長編第1作となるのが2018年発表の本格派推理小説の本書で、やはり密室の謎解きがあります。天才漫画家の安縝(あんしん)が第6章で「恐ろしい伝説がつきまとう薄暗い屋敷、男児しか生まれない不思議な一族、胎児の形をした怪しい湖、幽霊のような連続殺人犯。漫画にしたら絶対に面白くなりますよ」と興味深々で語ってますが、推理小説としても面白い内容でした。密室の謎も非常に凝っているしトリックも独創的(特に水没密室トリックは漫画化や映像化したらインパクトありそうです)、犯人当てとしても充実の推理を楽しめます。解決後の終章では名探偵役だった安縝をしびれさせる推理が突き付けられ、続編への期待を高めて締めくくられます。 |
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| No.2684 | 5点 | 村でいちばんの首吊りの木 辻真先 |
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(2023/09/23 22:26登録) (ネタバレなしです) 雪さんのご講評で詳しく紹介されていますが、最初のミステリー作品「仮題・中学殺人事件」(1972年)を筆頭に子供向けミステリーが続いた辻真先の最初の大人向けミステリーが1979年発表の中編「村でいちばんの首吊りの木」で、これだけでは単行本には短過ぎるということで1986年に「街でいちばんの幸福な家族」と「島でいちばんの鳴き砂の浜」を追加した短編集として出版されました。実業之日本社文庫版で200ページに満たないコンパクトな短編集で、大人向けであっても読みやすいです。タイトルが「いちばん」で統一されていますが登場人物は共通しません。作者が自薦ベスト5に挙げた「村でいちばんの首吊りの木」は書簡小説スタイルを採用し、右手首を切り落とされた女性の死体と失踪した恋人の事件の謎解きの本格派推理小説ですが、なかなかひねりの効いた真相です。推理でなく自白での解決が個人的にちょっと物足りませんが、地方と都会の違い、親と子の考え方の違いまで描いているのが個性です。独白合戦のプロットの「街でいちばんの幸福な家族」は本格派どころかミステリーかどうかさえ微妙な内容のプロットですが、クリスチアナ・ブランドの短編「メリーゴーランド」をちょっと連想させるどんでん返しが印象的です。「島でいちばんの鳴き砂の浜」は波、家、テントなど非生物を語り手にしているアイデアがオルハン・パムクの「わたしの名は赤」(1998年)を先取りしてユニークですが、やはり自白に頼った真相で終わっています。 |
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