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ミステリの祭典

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村でいちばんの首吊りの木

作家 辻真先
出版日1986年04月
平均点5.50点
書評数4人

No.4 6点 まさむね
(2024/04/15 23:10登録)
 短編集。大技が炸裂するものではないですが、作者が各短編に込めたメッセージも含め、意義深く読ませていただきました。特に表題作は、作者にとって思い出深い作だそうですので、益々意義深い。
①村でいちばんの首吊りの木
 謎の一部は「ありがち」だけれど、ラストの次男の考察には結構びっくり。
②街でいちばんの幸福な家族
 結末が何となく予測できるとは言え、軽快な展開が好印象。良かった。
③島でいちばんの鳴き砂の浜
 ミステリとしては平板。でも語り手の無主物たちの語りが結構楽しい。

No.3 5点 nukkam
(2023/09/23 22:26登録)
(ネタバレなしです) 雪さんのご講評で詳しく紹介されていますが、最初のミステリー作品「仮題・中学殺人事件」(1972年)を筆頭に子供向けミステリーが続いた辻真先の最初の大人向けミステリーが1979年発表の中編「村でいちばんの首吊りの木」で、これだけでは単行本には短過ぎるということで1986年に「街でいちばんの幸福な家族」と「島でいちばんの鳴き砂の浜」を追加した短編集として出版されました。実業之日本社文庫版で200ページに満たないコンパクトな短編集で、大人向けであっても読みやすいです。タイトルが「いちばん」で統一されていますが登場人物は共通しません。作者が自薦ベスト5に挙げた「村でいちばんの首吊りの木」は書簡小説スタイルを採用し、右手首を切り落とされた女性の死体と失踪した恋人の事件の謎解きの本格派推理小説ですが、なかなかひねりの効いた真相です。推理でなく自白での解決が個人的にちょっと物足りませんが、地方と都会の違い、親と子の考え方の違いまで描いているのが個性です。独白合戦のプロットの「街でいちばんの幸福な家族」は本格派どころかミステリーかどうかさえ微妙な内容のプロットですが、クリスチアナ・ブランドの短編「メリーゴーランド」をちょっと連想させるどんでん返しが印象的です。「島でいちばんの鳴き砂の浜」は波、家、テントなど非生物を語り手にしているアイデアがオルハン・パムクの「わたしの名は赤」(1998年)を先取りしてユニークですが、やはり自白に頼った真相で終わっています。

No.2 5点
(2021/01/06 08:56登録)
 それぞれに語りを工夫した長めの短篇三本を収録した、著者初の大人向け作品集(たぶん)。C☆NOVELS版あとがきによるとそれまでジュブナイル主体に小説を発表してきた作者が、初めて推理専門誌に寄稿した思い出の作らしいが、作品書誌(http://www7b.biglobe.ne.jp/~tdk_tdk/tsuji.html)を見ると創作活動自体は「増刊宝石」ほか各誌に、それ以前にもちょこちょこ行っていたようだ。
 ただしそれらはいずれも〈桂真佐喜〉や〈創作集団〉といった別名義が用いられており、辻真先名での正式な短篇の執筆は、「村でいちばんの首吊りの木」が初めてなのは事実らしい。雑誌「小説推理」1979年7月号に掲載されたまま放っておかれていたが、「別冊婦人公論」1986年4月号に「街でいちばんの幸せな家族」が発表されるや否や、書き下ろし「島でいちばんの泣き砂の浜」も加え、即単行本として刊行された。これは同年11月の映画化作品『旅路 村でいちばんの首吊りの木』公開に合わせた企画と思われる。
 以前からタイトルが気になっていたが、九十路に差し掛かった著者の最新作『たかが殺人じゃないか』の各賞受賞を期に読了した。新書としては薄めな上に、すこぶる読み易いのでスラスラ進む。
 表題作は奥飛騨にある三十戸ばかりの部落・可良寿(からす)から、無医村状態の故郷を救おうと、息子たちを都会に送り出した母親の手紙で始まる。彼女が医師国家試験まぎわの次男に宛てた文面には、同じく母の願いを託された長男の失踪と、母親が出くわしたある殺人事件の詳細が記されていた――
 手首を切り落とされて発見された女の謎を中心に書簡形式で語られる短篇だが、辻は〈大人子供〉を自認するヒトなので、美談のままでは終わらない。世代の断絶を描いた結末だが、それにしてはどこか明るいのがミソ。母を一人の女性として見据えた、次男の考察にも広がりがある。
 次の「街で~」は日記と地の文の混交。絶賛浮気中の夫と、彼に憤懣を募らせるその妻。〈子供たちにだけは醜い姿を見せまい〉と夫婦は渾身の演技を続けるが、ませた姉弟は全てお見通し。家庭を、ひいては自分たちの未来を守るため、大人顔負けの策略を巡らす。母と娘は交互にお互いの日記を盗み読むが・・・。アンファンテリブル物と見せた軽妙な作品。
 最後の「島で~」はリゾート開発中の孤島が舞台。波や風、星や砂など無生物に事件を説明させるのは面白いが、それに比してトリックは平凡なのが不釣り合い。ただし三作中では最も〈いい話〉である。
 全体に軽い分だけ〈こんなもん?〉という感じだが、読後少し時間が経つと〈これはこれで〉になってくる。ただしこの段階ではポテト&スーパーの初期長篇や、より悪意や皮肉が出てくる『アリスの国の殺人』以降の方が良い。

No.1 6点 kanamori
(2010/04/02 22:38登録)
中編3作収録で表題作がベスト。
長男の殺人容疑をめぐる母親と次男の手紙のやり取りから意外な事実が浮かび上がる。伏線がていねいに敷かれ、ちょっとした叙述の省略が効いている。「街でいちばんの幸福な家族」は、父親の愛人を始末し家族の平和を守ろうとする娘の意外なトリックがしゃれている。娘の独白は読んでいて楽しい。「島でいちばんの鳴き砂の浜」は、リゾート開発に揺れる島での変死事件を無生物の視点で描く異色作ですが、ミステリの趣向自体は平凡でした。

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