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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1546件

プロフィール| 書評

No.66 9点 緑のカプセルの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/12 12:06登録)
カーに限らず、犯人以外の登場人物が事件を複雑化するミステリはかなりの数にのぼると思いますが、この作品では特に、被害者が犯人と共同して読者を騙しにかかってきます。要するに被害者が考え出したトリックを犯人がうまく利用したということなのですが、それが実に巧妙にできているのです。
犯行を証明する決定的証拠は、読者には全く予想しようのないものですが、その証拠がなければ推理が成り立たないわけではありませんし、フェル博士の名前が出てくるところがユーモラスでもあります。緻密に構成されたパズル小説が好きな人にとっては満足のいく作品だと思いますが、派手な展開を期待する人向きではありません。


No.65 8点 霧に溶ける
笹沢左保
(2009/01/11 21:04登録)
日本の「新本格派」という言葉は、もともとこの笹沢左保などのような、松本清張によって確立されたリアリズム推理小説を踏まえた上での謎解きミステリを意味するものとして使われていました。しかし、本書はその笹沢作品の中でも、綾辻以降の「新本格派」をも思わせる大胆なプロットを持っています。連続殺人のそれぞれに別の工夫があり(冷蔵庫のはどうということはないのですが、思いつきとしては悪くありません)、さらに全体的にも仕掛けがほどこされています。
1960年台新本格派ですから、もちろんいわゆる名探偵は登場しません。真相究明にあたるのは刑事たちと、容疑者の恋人です。叙情的なラスト・シーンでは、最後の謎解きとタイトルの情景が出てきます。


No.64 7点 ガラスの村
エラリイ・クイーン
(2009/01/10 17:39登録)
クイーン流社会派ミステリです。事件そのものは、エラリーが登場していたらたぶん半分の長さで解決してしまっていただろうと思える程度のものなのですが、初めていわゆる名探偵を起用しなかった作者の狙いはもちろん別のところにあります。直接的にはマッカーシズム(赤狩り・1950年代前半の過激的反共産主義)批判だということですが、人間がともすれば陥りがちな偏見に対する厳しい視線は、それを超える普遍性を持っていると思います。


No.63 4点 雲をつかむ死
アガサ・クリスティー
(2009/01/09 21:31登録)
犯人の意外性も、よくあるパターンなのですが、この作品には、犯人が計画実行のために準備しておいたあるものの置き場所には、近づけるはずがなかった、という重大な論理的欠陥があります。かなり大きなものですので、ひそかに隠し持っておくことも困難ですし、置き場所に戻すこともまず無理です。今までに読んだクリスティーの中で、これほど明らかな穴があるのはこの1作だけです。
私自身、解説される前に大筋の見当はつけていたのですが、この「あるもの」をどう入手したのかがわからないという状態でしたので、そこが説明されないままの「解決」には失望しました。
追記(2020/9/16):本作のトリックに関しては、犯人がそれをずっと手元に置いていたのではないかという意見もあるようですが、あの時まで肌身離さずというのは、いくらなんでも不自然だと思います。しかし、この欠点をカバーする案を最近思いつきました。機内見取図の設備位置が間違っていて、あそこのすぐそばにあれがあったとしたら、というものです。


No.62 6点 港の酒場で
ジョルジュ・シムノン
(2009/01/08 21:34登録)
シムノンの描く世界は、雨や霧、運河や海など、水が関係することが特に1930年代には多いのですが、今回の舞台は港町です。原題を直訳すれば「ニューファウンドランドでの出会い」ですが、これは酒場の名前で、メグレ警視は開幕早々、そこで酔って大騒ぎしている船乗りたちから事情聴取をすることになります。
メグレ式捜査法は、事件関係者たちの立場になりきることによって、事件がどのように起こったのかを理解するというのが基本ですが、その方法が最もわかりやすい形ではっきり描かれている作品ではないでしょうか。被害者と第一容疑者、それに第一容疑者の婚約者に焦点が当てられているため、真犯人の影が薄くなっているのが、なんとなく不満な気もしますが、まあそれは作者も承知の上なのでしょう。


No.61 5点 疑惑の影
ジョン・ディクスン・カー
(2009/01/07 22:55登録)
中心にあるアイディア(でしょう、これは)は非常にすぐれていると思うのですが、使い方を誤って惜しくも傑作になり損ねた作品ではないでしょうか。その部分の書き方が何となく不自然さを感じさせますし、ストーリー展開もいまひとつです。背後に悪魔信仰を持ってきているのですから、もう少し不気味な雰囲気作りをして、短期間のうちに、また小説の中でももっと早い段階で第2の事件を起こしてくれればよかったかもしれないと思います。この第2の事件の毒殺トリックは、あまり感心しませんでした。


No.60 5点 不死蝶
横溝正史
(2009/01/06 19:17登録)
23年前と現在の同じような殺人事件を組み合わせて、読んでいる間はなかなかおもしろかったのですが、考えてみるとずいぶん疑問点のある作品です。鍾乳洞の中で消えてしまった女の謎が一応メインと言えるのでしょうが、これはきれいに解き明かされています。しかし、殺人と逃走の時間的経緯に問題があると思いますし、現在の第2の殺人遂行にも無理があります。警告の手紙の送り主とその理由も結局不明なままです。
角川文庫版に併せて収められている中編「人面瘡」は、テーマも、また横溝正史にはおなじみの点も、ひょっとするとある名作ホラーの発想源ではないかという気がしました。こっちは秀作だと思います。


No.59 7点 靴に棲む老婆
エラリイ・クイーン
(2009/01/05 22:51登録)
童謡(マザーグース)殺人だというので、『僧正殺人事件』や『そして誰もいなくなった』の不気味さを期待していると、気が抜けること間違いありません。文学性にこだわったライツヴィル・シリーズの合間に書かれた本書は、気分転換を図ったとでも言うことなのでしょうか。童謡のメルヘン的な雰囲気があります。軽いタッチなのですが、推理や意外性等、謎解きミステリとしての出来について言えば、この時期のベストでしょう。
「読者への挑戦」をしていたころのクイーンとはやはり違いますが、最後まで楽しく読める作品だと思います。


No.58 10点 ナイルに死す
アガサ・クリスティー
(2009/01/04 22:55登録)
前半のストーリーは、様々な登場人物たちを紹介しながら、不穏な空気を漂わせつつ、まさにナイル川のようにゆったりと流れていきますが、再読すると、この前半がなかなか味わい深いのです。で、ほとんど半分近くになってやっと最初の殺人が起こると、話は一気に加速します。
ポアロものの中でも、『アクロイド』や『オリエント急行』のようなとんでもない発想はありませんが、いかにもクリスティーらしい犯人の意外性とトリックを組み合わせた、非常によくできた構成の作品です。
映画版でポアロを演じたユスティノフの巨体には、「おまえはフェル博士か」と突っ込みを入れたくなりましたが、どちらも名探偵ですので、まあいいことにしましょう。


No.57 5点 テニスコートの謎
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/29 12:48登録)
この足跡のない殺人を実現する方法について、ああでもないこうでもないと仮説を立てた挙句、最後に明かされるトリックは、確かに怒り出す人がいても仕方がないものだと思います。何といっても、被害者をある意味で罠にかけるための口実が、あまりにもいいかげんなのです。
ただ、そのトリックを使うことによって生じる犯人の意外性は、なかなかのものです。また、第2の殺人の手順の方は、ごく単純なアイディアではありますが、ちょっとした勘違いを利用していて悪くありません。


No.56 7点 中途の家
エラリイ・クイーン
(2008/12/28 18:01登録)
『チャイナ橙』『スペイン岬』と続けざまに意表外な謎を提出して、推理もやはりアクロバティックだったクイーンですが、それに続く今作は事件も地味ですし、推理も地道すぎるくらい地道です。タイトルに国名を付けることもやめて、法廷シーンや恋愛劇を織り交ぜ、作風の転換を図ったことがうかがわれます。
凶器のナイフに付いていた指紋に関しては、犯人は殺人の後、ナイフの先で刺したコルクを10本以上ものマッチで焦がしてあることをしているのですから、素手であれば当然たくさんの指紋が付いていなければならないはずだ、という点の指摘は欲しかったですね。


No.55 5点
水上勉
(2008/12/28 17:56登録)
作者は社会派の代表という思い込みもあって、刑事たちが、被害者が働いていた工場に聞き込みに行ったところでは、このあたりに動機が潜んでいそうだなとにらんだのですが、全くの見当はずれでした。
話が終わってみれば、結局作者の描きたかったのは、犯人とその動機ではなく、地方から都会に出てきた被害者たちの境遇と行く末だったんですね。適度に謎を入れた普通のリアリズム推理小説という感じでした。それにしても、滋賀の湖での事件の方については、いくら説明されてもやはり、ついて行くのはちょっとあり得ないのではないかな、という気がします。なんとかうまく騙されて、という方向に話をもっていけなかったのでしょうか。


No.54 6点 爬虫類館の殺人
カーター・ディクスン
(2008/12/27 15:15登録)
カーの作品ではおなじみ恋愛騒動を起こす2人は、今回は先代以前から仲の悪いマジシャン同士です。つまりトリックに関しては専門家なわけで、有名な目張り密室の謎は2人も見破ってしまいます。しかし、犯人が誰であるかを推理するのは、やはりH・M卿に頼らざるを得ないわけで、結局2人の設定はそれほど生かされていないのではないでしょうか。
密室について言えば、タネより効果の意外性が際立っていると思います。その意味では、クレイトン・ロースンの功績が大きいと言えるでしょうか。一方タネ(実現方法)も単純明快で、より現実的なロースンの方法より個人的に好きです。


No.53 5点 ドラゴンの歯
エラリイ・クイーン
(2008/12/26 21:16登録)
エラリーの登場する作品の中でも、知的な謎解きの要素が最も感じられないものだと言っていいでしょう。角川文庫から『許されざる結婚』のタイトルで出ていたこともありますが、内容はまさにそのとおりのものです。
軽いユーモラスなメロドラマ・ミステリとして、複雑な謎や緻密な推理は期待せず気軽に読めば、それなりに楽しめるのではないでしょうか。


No.52 5点 仮面劇場の殺人
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/26 20:54登録)
似た殺人方法のトリックをカーは以前にも使ったことがあります。しかし、読んでいる間は、トリックについては何となく想像はついたのですが、類似作があることには気づきませんでした。全く別のシチュエーションで、かなりうまく扱われていると思います。犯人と動機もなかなか意外でしたが、アリバイ工作はちょっといただけません。
しかし、『月明かりの闇』にしてもこれにしても、カーの晩年作の長大化(無駄に長いとまでは言いませんが)は、横溝正史の晩年となんとなく重なる感じがしますね。


No.51 7点 メソポタミヤの殺人
アガサ・クリスティー
(2008/12/25 23:10登録)
犯人の設定については、いくらなんでもこれはちょっと無理じゃないかと思ったのですが、意外に気にならない人もいるようです。一方、殺人の手順は明かされてみると単純ですが、いかにもミステリらしい感じで、うまく考えられています。
考古学者のマローワン教授と再婚したクリスティーが、初めてオリエント世界を舞台にとった作品で、それだけにストレートに遺跡発掘隊の中で起こる殺人を扱ったということではないでしょうか。


No.50 8点 サン・フォリアン寺院の首吊人
ジョルジュ・シムノン
(2008/12/24 21:46登録)
メグレ警視シリーズ中、最初に読んだ作品であり、今なお最も好きな作品でもあります。
シムノンは自分の作風を印象派になぞらえたことがあったはずですが、国境の小さな駅や夜の街角の情景は、まさにルノワールなどの絵のタッチを思わせる雰囲気があります。
メグレの執拗な捜査に追い詰められた男たちがついに過去の事件の告白を始めるところから、静かな感動がじわじわ広がっていきます。ラスト、立ち去って行くメグレの後姿も印象に残ります。


No.49 7点 疑惑の霧
クリスチアナ・ブランド
(2008/12/24 20:50登録)
最後数行で明かされる点については、かなり早い段階で見当がついてしまいました。ブランドの作品では初めてのことで、しかもこの点に気がつけば、真相全体がある程度見通せるというものです。気がついた理由を書くと、たぶんそれだけでネタバレになってしまいますが。
とは言っても、やはりブランドらしく、登場人物たちをじっくり描きこんだ上で、最後近くなって事件を紛糾させまくる構成は楽しめました。それだけでなく、この作品では最後数行の点がかなり皮肉な扱いをされている点も指摘しておくべきでしょう。


No.48 7点 密告者
高木彬光
(2008/12/23 13:01登録)
株での失敗や産業スパイの話など、『白昼の死角』の作者らしい経済派サスペンスとでも呼びたいような発端から、殺人事件が起こって話は謎解きへと移っていきます。
読者には、主人公(前半の)が犯人ではないことがわかっているだけに、霧島検事より有利な立場にあると言えるでしょうが、真相は、そう考えれば無理なくすべてのつじつまが合う、という非常にすっきりしたものになっています。
しかし、検事ともあろう者が単なる詐称を詐欺と言ってしまっては困りますね。


No.47 10点 三つの棺
ジョン・ディクスン・カー
(2008/12/23 10:26登録)
本書を勧めた相手から、マニアックすぎると言われたこともあります。
確かに凝っています。雪道での事件のとんでもない偶然がなかったら、かえってわけのわからない状況を生み出していたかもしれません。その偶然のため、殺人者の行動経緯が表面上明確になり、不可能状況を際立たせることになっています。天気予報どおり雪が降らなかったら、行方の全くわからない殺人者という謎だけになっていたでしょう。
犯行が偶然うまくいったというのではなく、普通に目立たない完全犯罪をもくろんだはずが、予想外の積雪などの偶然が重なって不可能殺人になってしまったということなのですが、元の計画に偶然を組み合わせてよくもここまで複雑な状況を組み立てたものだと、あっけにとられます。
冒頭で目撃者は嘘をついていないと断言する、作者にとっても自信満々のプロットです。自信があるからこそ、密室講義もしているのでしょう。個人的には、機械的な分類など別にどうでもいいのですが。

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