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ミステリの祭典

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疑惑の影
ギデオン・フェル博士シリーズ

作家 ジョン・ディクスン・カー
出版日1951年01月
平均点5.30点
書評数10人

No.10 5点 クリスティ再読
(2023/05/22 17:05登録)
フェル博士登場作なのに主人公は熱血弁護士バトラー。
どうも皆さんこの設定に面食らわられているのかな。いやこれカーの「プレ歴史ミステリ」ではなかろうか。バトラーのキャラ設定には「ニューゲイトの花嫁」のダーヴェントや「火よ燃えろ!」のチェビアト警視の面影があり、確かに「歴史ミステリのカー」好みの主人公だ。
そしてやや時代がかった黒ミサの話とか書いていて、「時代設定を一世紀ほど遡らせた方が絶対面白いじゃん!」とカーが思わなかったわけがない。だから翌年には「ニューゲイトの花嫁」を書くわけだ。

ただし、全体の構成がうまくいってない感がある。いやミステリ的な骨格は大変面白いんだけど、「作者が読者に対してメタに仕掛けたもの」という感覚のものなので、ミステリ的な見地でのデテールの無理があると興ざめる。
その他、面白い場面を描こうとするために、やや状況に無理を感じるとか、「もっと丁寧に書けばいいのに...」と残念なところが多い。オカルトの扱いも中途半端にしか感じない。

移行期の失敗作だと思う。

No.9 4点 文生
(2023/03/11 13:12登録)
カー後期の作品としてはミステリーの仕掛けは悪くないものの、探偵役のハドラーに魅力がなく、話が盛り上がらないのが致命的。フェル博士をわき役に配置したのも中途半端で、できれば純粋なフェル博士シリーズとして読みたかった。

No.8 7点 レッドキング
(2021/06/07 20:00登録)
「密室」に毒殺被害者と二人だけでいた容疑者の女。毒物容器の指紋は被害者と容疑者の二種だけで、他に犯行可能な者はいなかった・・・圧倒的に不利な状況から、「密室」を破り、無罪を勝ち取る弁護士バトラー。だが、一人の女の「無罪」は、別の毒殺事件に絡んだ、もう一人の容疑者の女を作り出してしまい・・・弁護士の分際で、血沸き肉躍るスーパーアクション繰り広げる熱血バトラー。フェル、メリヴェールには逆立ちしても不可能なアグレッシブなハードボイルド展開実に楽しく、点数オマケつき。

No.7 5点 E-BANKER
(2020/11/29 18:19登録)
フェル博士を探偵役とするシリーズで十八番目の作品。
ただし、本作の主人公は若き気鋭の弁護士パトリック・バトラー。
原題は”Below Suspicion”。1949年の発表。

~”偉大なる弁護士”バトラーが弁護を引き受けた娘ジョイスは、テイラー夫人を殺した容疑で捕らわれていた。夫人はジョイスと二人きりの邸内で、薬とすり替えられた毒を飲んで悶死したらしい。不利な状況のなか、バトラーは舌鋒鋭い弁護で無罪評決を勝ち得た。が、その直後夫人の甥が毒殺されたのだ。しかも当地に滞在中のフェル博士によれば、近辺では毒殺事件が多発していた。バトラーとフェル・・・ふたりの名探偵が突き止めた血の香漂う事件の真相は?~

道具立ては実にカーらしい作品。
悪魔崇拝や頻発する毒殺事件、そして毒殺魔などなど・・・
不気味な雰囲気が作品中に漂っていて、佳作をどしどし発表していた頃のカーなら、アッと驚くようなトリックが出てきたのかもしれない。

本作でそれを期待してはいけない。どちらかというと本格ミステリーというよりは、冒険スリラー寄り。
それもこれも本作の主人公バトラーのせい。
力が有り余っているのか知らんが、敵の用心棒的人物の向こうを張って殴り合いするやら、最終的には火事まで引き起こすや、いやもうやり過ぎだろ!
しかも決め台詞は「オレは決して間違わない・・・」って、どっかの地上波ドラマの女医みたいだし・・・

他の方も書かれてるけど、毒殺トリックにしてもアリバイトリックにしても、ちょっと無理矢理というか乱暴。
最終的に判明する真犯人(=悪魔崇拝教団のボス)もサプライズ感はあるけど、かなり既視感が強い。
とここまでかなり辛口の評価なんだけど、全然面白くない!というわけでもない。
カーらしい雰囲気を味わいながら読み進めることができる。それだけで一定の満足感は得られる(多分)。
ということは、やっぱりカー好きなんだろうな。
でも評価はこんなもんだろう。
(ただ今回、フェル博士がどうにも冴えないのがどうもねぇ・・・。最後くらい締めて欲しかったのだが)

No.6 5点 nukkam
(2016/07/20 04:49登録)
(ネタバレなしです) 1949年発表のフェル博士シリーズ第18作ですが従来のシリーズ作品とはかなり趣を変えた作品です。本格派推理小説としての謎解き場面はちゃんとあるのですが弁護士のパトリック・バトラーを主人公にした冒険スリラー小説の要素が非常に強く、ジャンルミックスタイプのミステリーと言えそうです。「盲目の理髪師」(1934年)やカーター・ディクスン名義の「一角獣殺人事件」(1935年)のようにカーはこれまでにもアクションシーン豊富な本格派をいくつか書いていますがそれらとも異なるのは、ある組織の存在が事件の背後に見え隠れしていることです。これは本格派ファン読者にとって好き嫌いが分かれるでしょう。

No.5 6点 了然和尚
(2016/02/08 19:14登録)
ミステリーとしての基本構想だけを取り出せば、ここ1年で読んだ最高作に近いものと言えるのですが、物語としては不出来な部分が多く、残念な作品になってしまいました。
2件目の殺人に関して、犯人の完璧なアリバイ(別件裁判で勾留中)、1件目の無罪を主張できない裏事情は、すごく好きなのですが、本作の内容では、(共犯?)女中の役割が大きすぎ、1ヶ月放置した水を飲ませるという可笑しさが、トリックの偉大さを消してます。何かもうちょっと、どうにかならんかったのかと、もどかしいですね。
事件の背景として、さらっと殺人クラブによる交換殺人ネタが出てきてますが、毒殺入手の方法等は、これで1作書けるぐらいで、惜しげなく使っている点で+1点
悪魔崇拝ネタは、正直イマイチなのですが、第二次世界大戦の終戦4年後という雰囲気がわからない読み手にとっては、評価は保留になりそうです。

No.4 8点 斎藤警部
(2015/11/02 15:47登録)
カー好きには最高の一作だなや、と思った記憶しか残っていない。そして自分はカー好きだったので最高に面白かった。ガチンコ勝負のどんでん返しは感涙モノだ。 再読候補の最右翼。

No.3 4点 kanamori
(2011/01/12 18:11登録)
またもや、ある女性の毒殺疑惑をテーマにしたサスペンス風味の作品ですが、あまり面白いとは思えない。
探偵役の弁護士パトリック・バトラーという人物に魅力的がないうえ、フェル博士が脇役というか、悪魔崇拝などの怪奇趣向を持ち出し、ただプロットを混乱させる役割でしかない。
弁護士が主役であれば、「ユダの窓」のごとく本格的な法廷ミステリにしてほしかった。

No.2 5点
(2009/01/07 22:55登録)
中心にあるアイディア(でしょう、これは)は非常にすぐれていると思うのですが、使い方を誤って惜しくも傑作になり損ねた作品ではないでしょうか。その部分の書き方が何となく不自然さを感じさせますし、ストーリー展開もいまひとつです。背後に悪魔信仰を持ってきているのですから、もう少し不気味な雰囲気作りをして、短期間のうちに、また小説の中でももっと早い段階で第2の事件を起こしてくれればよかったかもしれないと思います。この第2の事件の毒殺トリックは、あまり感心しませんでした。

No.1 4点 Tetchy
(2008/12/22 23:08登録)
死が二人をわかつまで』、『火刑法廷』でも使われる、愛する女性が毒殺魔では?というカーの作品ではよく見られる内容だ。
最後に判明する犯人の趣向も同作者のある作品と同じ傾向にあり、どうも複数の作品をミックスして作ったような感が否めない。
それよりも本作で登場する弁護士バトラーが生意気でフェル博士がサブキャラクターに甘んじているのも、この作品の評価が自分の中では凡作と思える要素なのかもしれない。

しかし最後に明かされる意外な真相は、かなりぶっ飛んだ物。ちょっと飛躍しすぎだろう。
この真相を「面白い!」と受け入れられる人は、カーがとことん好きな、海のように心が寛容な方に違いない。

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