密告者 検事 霧島三郎シリーズ |
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作家 | 高木彬光 |
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出版日 | 1965年01月 |
平均点 | 6.67点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | 人並由真 | |
(2021/10/03 15:50登録) (ネタバレなし) 昭和39年。元・やり手の証券マンでその後、起業するが失敗した20代末の瀬川繁夫は、昔の彼女の山口和美に再会。良い勤め口として、30代半ばの男・酒井幹雄が社長の商事会社「新和商会」を紹介された。それと前後して、瀬川にはかつての恋人・室崎栄子の妹・俊子が接近してくる。いまの栄子は、瀬川の親友で中堅企業「七洋化学」の若手常務となった荻野省一の妻であった。だがその荻野が実はサディストで栄子をSMプレイで苦しめているので、姉に会ってほしいと俊子は言う。栄子のことを気にしながらも荻野に借金のある瀬川は、二の足を踏んだ。しかしそこで酒井が、実は産業スパイという秘めた顔を現した。酒井は瀬川にこの機会を利用して荻野家にあらためて接触し、七洋化学の企業秘密を探るように指示する。 1965年5月10日にカッパ・ノベルスから書き下ろし刊行された、青年検事・霧島三郎シリーズの第二弾。前作でいろいろあった霧島三郎は、現在も東京地検の所属ながら、部署が変わっている。 1961~62年頃から作者・高木彬光は、戦後の昭和30年の著名な殺人事件「丸正事件」から派生した<弁護士・正木ひろしの名誉棄損事件>の特選弁護人を担当。足掛け4年におよぶ同件の審理のかたわらで、さすがに多作の作者もやや執筆活動が少なくなった(それでも相応の作品を世に出しているが)。そんな事情も踏まえて、本作は高木が4年越しの正木弁護士の案件を終えて久々に本腰を入れて放つ作品、といった主旨のメッセージがカッパ・ノベルス版の巻末に書かれている。(評者は今回、そのカッパ・ノベルス版で読了。) 作品の前半はあらすじの通り、当時のムーブメントだった「産業スパイもの」「人妻よろめきもの」の興味を前面に展開。達者な語り口とある種の業界もの、昭和風俗などの興味で、かなり読ませる。 だが中盤でいきなり某・メインキャラクターが殺害されて、サスペンス要素も込めたフーダニットの謎解きパズラーに転調する。 こういうある種の二部構成は、昭和のミステリ作家たちや1940~50年台代の欧米の当時の新世代パズラー作家を思わせるが、けっこう鮮烈な効果を上げている。 ただしミステリとしては割と早めに仕掛けが見えてしまう面もあり、さらに途中で気になったいくつかの箇所もスルーされたまま終わった。 これでは凡作とまではいかないにせよ、普通なら相応に評価は下がるところだが、一方で最後の方で、欧米の某大家がよく使いそうなネタが導入され、それなりに失点を回復。 前半の当時の読み物ミステリっぽい面白さも踏まえて、佳作~秀作くらいには見てもいいだろう。いずれにしても一晩じっくり楽しめた。 たぶんこれが独身時代の最後であろう霧島三郎の描写も、等身大の青年名探偵キャラクターの素描として、なかなか味がある。 評価は0.25点くらいおまけ。 次のシリーズ第三作はそれなりに評判がいいようなので、たのしみ。 |
No.2 | 6点 | 江守森江 | |
(2010/06/16 15:38登録) 検事・霧島三郎シリーズの長編。 梶山季之「黒の試走車」で産業スパイが脚光を浴び始めた頃の作品で、作者も経済犯罪絡みな作品も書き出していたので社会派作品だと思いながら読み進めた。 産業スパイ物なら確実に梶山の方が面白いが、さすが高木彬光といった本格ミステリに転じる作品だった。 作品レベルの落差が激しいが佳作の部類だろう。 神津恭介シリーズで下手に駄作を書かれるより、他シリーズで社会派を融合させた本格ミステリに転じ成功して良かったと思えたのだが(先々、黒歴史な時期を迎えて終わるとは予想だにしていなかった) |
No.1 | 7点 | 空 | |
(2008/12/23 13:01登録) 株での失敗や産業スパイの話など、『白昼の死角』の作者らしい経済派サスペンスとでも呼びたいような発端から、殺人事件が起こって話は謎解きへと移っていきます。 読者には、主人公(前半の)が犯人ではないことがわかっているだけに、霧島検事より有利な立場にあると言えるでしょうが、真相は、そう考えれば無理なくすべてのつじつまが合う、という非常にすっきりしたものになっています。 しかし、検事ともあろう者が単なる詐称を詐欺と言ってしまっては困りますね。 |