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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1505件

プロフィール| 書評

No.1385 6点 Le cri du sang
フォルチュネ・デュ・ボアゴベ
(2022/08/28 13:34登録)
ボアゴベは黒岩涙香等による翻案の後、戦後はほとんど無視され、忠実な翻訳はごくわずかです。確かに感覚的(特に道徳性)は時代を感じさせるものの、たぶん翻訳(案)されたことのない本作は、おもしろくできています。タイトルの意味は「血の叫び」。「血」とは血液ではなく血縁、血脈を意味しているようです。
パリの西方郊外にあるシャトゥーの線路沿いで、伯爵夫人が走っている汽車の窓から銃で撃ち殺される事件が起こります。数日経って、汽車乗務員が座席の陰から拳銃を発見したと警察に届け出てきて、その拳銃の持主、伯爵の娘の婚約者が逮捕されます。しかし彼の無実を信じる伯爵家の友人ロラン少佐は、伯爵の持家を買い取ろうとしている別の男に疑いの目を向けます。
後半完全に犯人の目星がついてから、少佐と伯爵家の家庭教師エレーヌの視点をカットバックさせて意外性を出していく構成はなかなかのものです。


No.1384 6点 転生の魔
笠井潔
(2022/08/22 23:20登録)
私立探偵飛鳥井のシリーズ、2017年出版の本作では飛鳥井も年齢が60歳後半になっています。長編としてはこれが2冊目ということですが、中短編に比べると、かなり注釈的な文章が多いと思いました。
その注釈的文章で、飛鳥井が依頼された人探しの元になった事件の起こった1972年の大学の状況が綴られていきます。探すべき人は、現代のネット動画に映っていた女で、依頼人が1972年当時知っていたジンと呼ばれる女と年頃からほくろまでそっくりだというのです。その女を見つけるのが無理なら、ジンを知っているはずの男。ジンは何度も転生を繰り返してきたと言う上、密室状態の大学のサークル棟から消えたというのですから、現象的にはほとんどカー(特に『火刑法廷』)です。ただホラー的な感じは全くしません。真相には、カーのような鮮やかさはありませんが、そもそもジャンルが違いますから、まあいいでしょう。


No.1383 7点 水の墓碑銘
パトリシア・ハイスミス
(2022/08/19 23:46登録)
浮気症(この字を当てた方がいいような)の妻に悩まされる男ヴィクの視点から描かれた小説です。ヴィクの気持ちはわかる(たぶん)のですが、特に後半、妻メリンダが何を考えているのか、理解しがたいところがありました。まあ途中に、ヴィクはメリンダを理解できないというのに対して、逆に彼女は、ヴィクのことを良く知っていると応酬するシーンもありますし、そこが本作の狙いとも言えるのでしょうか。でも、恋人の一人を夫が殺したのだと信じ(事実でもありますが)、騒ぎ立てたというのに、誰にも相手にされなかったその後の行動には納得しがたいものがあります、クライマックス部分でのヴィクのミスは、ちょっと軽率すぎると思えますが、最後部分での彼の心理は、さすがハイスミス。
原題は “Deep Water”、ヴィクによる二度の妻の恋人殺しは、どちらも水に関係しているのですが、それだけでない深い意味もありそうに思えます。


No.1382 5点 おれに恋した女スパイ
ロス・H・スペンサー
(2022/08/16 18:04登録)
この作家は初めて読んだのですが、シリーズ第1作邦題が『されば愛しきコールガールよ』ということでいかにもハードボイルドのパロディだったのに対して、本作邦題は明らかにフレミングの真似です。どちらも原題は全く違い、本作は “The Reggis Arms Caper”、少なくとも第5作までは最後の単語は “Caper”(「はね回り」ということでいいんでしょうね)です。
読み始めて、文そのものもやたら短いのですが、原則的に1文1段落であること、さらにセリフが「」でくくられていないことに、何だこれと思ったのでした。無論そんな文体ですから読みやすいことは確かです。気になって後から原文をKindleの試し読みでちょっと確認してみたところ、忠実な翻訳でした。
本作は邦題からも予想がつくように、ハードボイルドよりスパイ小説系と言った方がよさそうです。まあごく気楽に読めるということでは、悪くありません。


No.1381 7点 饗宴 ソクラテス最後の事件
柳広司
(2022/08/10 20:46登録)
ソクラテス「最後の」事件というのは、ちょっと違うのではないかと思えますが。
プラトンの『饗宴』を元にしている作品です。ソクラテスやアリストパネスといった有名どころ以外の登場人物、アガトン、パウサニアス、エリュクシマコスも、原典に登場しています。そういった実在の歴史的人物たちが事件の関係者になり、殺されたりもするのですから、歴史考証的な正確さなどは期待してはいけないタイプの作品です。原典はアリストデモスの視点から書かれていますが、本作にはアリストデモスは登場せず、代わりにソクラテスの友人だったクリトンがワトソン役になっています。
ピュタゴラス教団を本作では悪魔的な宗教結社と捉えていて、特にクリトンの意識ではそうなのですが、そもそも古代ギリシャの宗教において、悪魔の概念があったのか非常に疑問でもあります。
しかしミステリとしては、時代物だからこそのおもしろさは充分ありました。


No.1380 6点 シルヴァー・リングを残した女
リンダ・バーンズ
(2022/08/06 08:25登録)
赤毛のカーロッタ・シリーズ第3作は、中南米からの不法移民がテーマになっています。シンプルな原題 “Coyote”とは、不法移民を安い労働力を求める企業に斡旋する人間のことです。
それに、〈ビッグ・シスターズ協会〉で紹介されてカーロッタの「妹」になった10歳のパオリーナが、今回は重要な役割を担うことになります。パオリーナ自身南米系なわけで、彼女の抱える母親にさえ言えないと思い込んでいるある秘密が、事件の最終段階に関わってきます。
カーロッタを最初に訪ねてきた「マヌエーラ・エステファン」が、グリーン・カードを取り返してもらいたいと依頼しておきながら、依頼料?の500ドルを残したまま姿を消した理由は、結局はっきりしません。また、正体がばれたコヨーテが、証人さえいなければ裁判を切り抜けられる、いや、裁判にさえならないなんて考えるのはまともじゃないと思えましたが。


No.1379 6点 八一三号車室にて
アーサー・ポージス
(2022/08/03 20:36登録)
第一部ミステリ編、第二部パズラー編、それぞれ13編ずつ収められています。
表題作は第二部の最初に置かれていますが、このタイトル、しかも作者はステイトリー・ホームズのシリーズ等パロディ、パスティーシュを得意とする人であってみれば、オチは当然予測が付きます。全体的に見てちょっと残念なのが、パロディ系がこの1作だけということでしょうか。もう1編、『誕生日の殺人』もそう言えないことはないのでしょうが、むしろ意外性演出のための引用といった感じで、ミッシング・リンクのとんでもなさが印象的です。第二部は、『誕生日の殺人』以外、すべて不可能興味のハウダニットです。
第一部はサスペンスに分類されるものが多いですが、ハウダニット要素のない倒叙もの(犯行の証拠探しタイプ)もありますし、最後の方にはSF2編、ホラー2編も含まれています。


No.1378 7点 さよならの手口
若竹七海
(2022/07/31 14:46登録)
13年ぶりの葉村晶シリーズということで、その間に日本でも探偵業法(「探偵業の業務の適正化に関する法律」2007)なんてのが制定されていたんですね。知りませんでした。ミステリ専門店でのバイト中、押し入れの床が抜けて骸骨に頭をぶつけるなんて、運が悪いんだかいいんだかよくわからない葉村晶ですが、それで入院中、調査依頼を受けて、彼女は探偵業者として届出をしていないから、受けられないと一旦は断ります。
往年のスター女優から、20年前行方不明になった娘を探してほしいというのが依頼で、これがメインの事件になります。それに警察からある人物の監視を強要される別口事件が組み合わさってきます。警察がそんな無茶をするとは思えませんが、話としては楽しめます。
最後の1文、「…さよならを言う方法を発明してたんですよ。」については、日本より厳しい私立探偵免許制のアメリカでも、マーロウはその方法は見つかっていないって言ってるんですけど。


No.1377 5点 殺意の運河サンマルタン
レオ・マレ
(2022/07/27 23:52登録)
レオ・マレは私立探偵ネストール・ビュルマのシリーズを30冊ほど発表していますが、そのうち1954年から59年にかけての長編15作は、「新編パリの秘密」(中公文庫では「パリ・ミステリーガイド」)のサブタイトルをつけて、パリの各区(全区ではありませんが)を紹介する形をとっています。本作はその6冊目で、舞台は10区です。ちなみに元の「パリの秘密」はウジェーヌ・シューが1840年台に発表した大作で、デュマやユーゴーにも影響を与えたとか。
ビュルマの秘書エレーヌに、亡き父親の知り合いの老優が金を借りに来たものの、待ち合わせ場所に姿を見せなかったというところから始まる話で、そのせいでしょうか、途中にエレーヌの一人称形式で書かれた章が2つあります。その後ビュルマが依頼を受ける芸能界絡みの事件は、最初どうということもなさそうなのが殺人にまで発展していきます。偶然が過ぎるところはありますが、ラストは無難にまとめていました。


No.1376 5点 寂しい夜の出来事
ミッキー・スピレイン
(2022/07/24 23:56登録)
スピレインの共産主義嫌いが露骨に表明された作品で、マイク・ハマーは「奴らにくらべたら、ナチだって鼻たれ小僧みたいなもんだ。」とさえ考えています。そういった彼の思想が存分に地の文で書かれた作品です。
一方では、冒頭の霧の夜ハマーが橋の上にたたずむことになる理由は、判事から、人を殺すのを楽しんでいるおまえは平和な社会の中では存在理由が見つからないなどとののしられて、落ち込んだためで、自己否定的な気分も、かなりしつこく描かれます。判事の夢を見たことまで書かれているほどですが、やはり俺は暴力的方法で事件を解決するんだということにならなければ、スピレインになりません。そんな憎しみと暴力性に対するねじれた感情が延々書き連ねられているという点では、ハードボイルドらしくありません。
プロットは、最後の意外性部分で話をごちゃつかせてしまったように思います。


No.1375 7点 壁-旅芝居殺人事件
皆川博子
(2022/07/21 23:53登録)
文庫本で本文150ページ程度であるにもかかわらず、北方謙三の『渇きの街』と共に日本推理小説作家協会賞の長編賞を受賞した作品。双葉社版の巻末解説では、選考委員たちがそろって文章を絶賛したことが書かれていますが、確かに独特な雰囲気を持った文章です。その文章ゆえというところもあるでしょう、1984年に発表された作品ですが、もっと古めかしい感じを受けました。もちろん旅芝居一座と芝居小屋という、昔ながらの芸能を題材に採り、さらに15年前の事件を絡めているせいもあります。作者の言葉によると、本作を構想するまで旅芝居については全く知らなかったそうですが、とてもそうは思えないほど、その古風な世界が感じられます。
謎解き的にも鮮やかな反転を見せてくれますが、ただ1点、15年前の事件のきっかけになった蘭之助の心理だけは、説得力を持った説明がつけられていないと思いました。


No.1374 7点 デルタ・スター刑事
ジョゼフ・ウォンボー
(2022/07/15 23:18登録)
登場する警察官たちの様々な日常業務描写がおもしろい作家ですが、今回は仕事よりもむしろ、彼等が集う飲み屋でのシーンが多く、そこでの彼等の会話や酔っ払いぶりに重点が置かれています。ビールを飲んでビリヤード台の上で寝てしまう警察犬も登場するという状態で、その意味では、これまで読んだウォンボーの中では最もミステリ要素が低いと言えます。しかし中心となる事件の背景は、最もスケールが大きいというか、嘘っぽいとも言えるものです。最初は、ただ娼婦がビルの屋上から突き落とされた平凡な殺人事件に思えたのですが…
メインの事件が、登場する警察官たちの日常からかけ離れている点には、違和感もあったのですが、事件を解決してみせるという使命感もたいしてないままに、それでも手がかりがあるので捜査を続けるビラロボス刑事にはリアリティがあります。事件解決に協力するメンドーサ教授も魅力的でした。


No.1373 6点 豚たちの沈黙
ジル・チャーチル
(2022/07/12 20:51登録)
今回のタイトル元ネタは、アカデミー賞を受賞した映画を見ただけですが、あのポスターが非常に印象的だっただけに、本書のカバーイラストにもどこかに蛾を配してもらえなかったかなという気もしました。原題は豚ではなくハムで、ラムと語呂合わせになっていますが、翻訳タイトルではさすがに無理。ハムを吊るしたラックの下敷きになって発見された弁護士の死体は、しかし検死の結果…
殺されるのがイヤな人間ということでは、以前に読んだ『死の拙文』と同じですが、これはたぶんたまたまなのでしょう。ちょうど半ばあたりで、さらに殺人が起きます。こっちは殺害方法に何の疑問もない事件で、作者の小説構成バランス感覚がうかがえます。
解決のきっかけになる新聞の切り抜きがどんな記事かは、その発見の場で明かされないため、フェアプレイとは言えませんが、切り抜きの存在に関する伏線ははっきり書かれています。


No.1372 6点 梅花郎
黒岩涙香
(2022/07/09 07:28登録)
1889年2~4月に「絵入自由新聞」に連載された、かなり初期の翻案です。村津伯爵の別荘近くで友人蝉澤が殺された現場に居合わせたため一旦は殺人容疑で逮捕された梅花郎が、保釈後真犯人探索に乗り出すというと、オーソドックスな謎解きミステリのようですが、捜査的興味は結局ほとんどありません。中盤は舞台を都会に変え、村津伯爵の二人の娘と梅花郎との関係を軸としたサスペンスで、梅花郎はむしろ脇役的な扱いです。しかし最後にはある人物の告白により、急転直下蝉澤殺しの犯人も明らかになります。
ジョージ・マンヴィル・フェン『ロザリー家一族』("The Rosery Folk")の翻案とされる作品ですが、実際には主要舞台Ferret岬や主役の名前Biscarosからラストの「決闘」顛末、殺人事件の真相までそっくりな、ボアゴベの "Le Chalet des Pervenches"(「ペルヴァンシュ荘」1888) が原作です。


No.1371 8点 シカゴ探偵物語―悪徳の街1933
マックス・アラン・コリンズ
(2022/07/05 20:41登録)
マックス・アラン・コリンズは映画ノベライズ等も含めると100冊を軽く超える作品を書いている人ですが、それでいて本作のような歴史的事実を踏まえた大作もあるのですから、驚きです。まあ史実に基づいたと言えば、Disaster(大惨事)シリーズもそうらしいですし、既存の設定を利用した小説が得意な作家のようです。
主人公ネイト・ヘラーが警察官をやめて私立探偵になるきっかけになった、フランク・ニッティ(アル・カポネの後継者)が警察官に撃たれて重傷を負う事件から始まり、どこまでが史実なんだろうという興味があります。Wikiでも実際にニッティが重傷を負った件は確認できます。エリオット・ネスはネイトの友人として登場しますし、その他にも実在の人物が何人も出てきます。若き日のレーガンについては、この人である必要性を感じませんでしたが。虚構部分の真相は、リアルな設定でこの手を使ったのには感心しました。


No.1370 5点 パディントン発4時50分
アガサ・クリスティー
(2022/07/01 23:14登録)
つかみの部分は視覚的なインパクトが強烈ですし、その後消えた死体の謎、死体が見つかってからは被害者は誰かの問題と、事件は手際よく進んでいきますし、体調不良なミス・マープルに替わって家族に探りを入れていくルーシーがなかなか魅力的です。真相の意外性がまたかなりのものです。
と、ほめる所も多いのですが、死体隠匿方法の中途半端さ等、論理性には問題があります。また、読んだハヤカワミステリ文庫版では翻訳者(大門一男)がパズラーを得意とする人でないせいかもしれませんが、砒素を使った殺人手順の説明が、犯人の計画を理解した翻訳になっていないと思えます。クリスティー文庫版をちょっと確認したところ、わかりやすく訳してくれていました。しかしそれでも、犯人の計画は砒素混入の後事態がどうなるか運任せでしかありません。
なお、作中で言及される「リトル・パドックス事件」は『予告殺人』のことです。


No.1369 4点 黒川温泉殺人事件
吉村達也
(2022/06/28 20:51登録)
吉村達也ですから、いわゆるトラベル・ミステリは期待していなかったのですが、阿蘇から黒川温泉までタクシーで行くシーンが出てきます。そこで運転手が阿蘇について長々としゃべるのは、観光ではない乗客の戸部親子にとってほどではなくても、少々煩わしく感じました。まあ、旅情系が得意な深谷忠記のようなわけにはいかないのは、しかたないでしょうか。
女を殺したらしいのに、はっきりした記憶がないという冒頭の謎は、かなり魅力的ではありますが、それに対する答は、ずいぶんなご都合主義です。殺した相手の名前さえ憶えていない、推測もできないという記憶欠落に対する解答としては、あまりに安易で不自然なのです。動機につながる、あるアイディアは伏線もたっぷり張ってあり悪くないのですが。全体的な仕掛けからすると、志垣警部のシリーズより事件関係者を主役としたサスペンスにしたほうがよかったのではないかと思えます。


No.1368 5点 Chez Krull
ジョルジュ・シムノン
(2022/06/24 21:55登録)
1939年に発表された本作の原題の意味は「クリュルの家で」。Chezは、「~の著作中では」といった意味にも使われる、広い概念の言葉です。
フランスの運河沿いの町(シムノンらしい!)で柳細工を作りながら食料雑貨店を営むドイツ人家族を、ドイツからハンスが頼ってやってくるところから始まりますが、途中から必ずしも彼が主役というわけでもなくなってきます。話の方は、まず運河から若い女の絞殺死体が見つかり、その犯人を捜すミステリになるかと思いきや…
読んでいて、ひょっとして後の『ベルの死』(1952)と同じパターンかとも思いました。実際殺人犯ではないかと疑われるという点では共通していますが、シムノンには珍しく時代に即した社会性を持った展開で、結末は違います。というか、なぜそうなるのかわけのわからない結末で、数年後設定のエピローグでも明確な説明のない、途中はおもしろいのに落ちつきの悪い作品でした。


No.1367 5点 にぎやかな眠り
シャーロット・マクラウド
(2022/06/20 23:06登録)
マクラウドは本作以前にも、1964年以来7冊は小説を発表しているようですが、それらもミステリなのかどうかは、はっきりしません。しかしやはり、この人がブレイクしたのは、本作に始まるシャンディ教授と、翌年開始のセーラ・ケリングの両シリーズいうことになるでしょう。
原題 “Rest You Merry” は、巻末解説でクリスマス・ソングの出だし部分で「心楽しく眠りにつけよ」というほどの意味だと説明しています。実際、第1章のシャンディ教授のいたずらからして、クリスマスならではのものです。早々に起こる殺人事件を、事故として済ませようとする連中もいる中、シャンディ教授は豪放なスヴェンソン学長の許可を得て、独自捜査を始めます。
最初の殺人である行為をした人物の特定理由が明確でないのと、殺人動機の大元になったある人物の安直さに不快感を覚えたせいで、ちょっともやもや感が残りました。


No.1366 6点 月のない夜に
岸田るり子
(2022/06/14 23:14登録)
岸田るり子は2015年の本作以来、新たな作品を発表していないようです。そんなわけで今のところ最後の長編なのですが、やはりこの作者らしい構成で意外性を出す作品になっています。
二卵性で全然似ていない双子の姉妹の一人、姉の月光(つきみ)の視点から書かれた章と、その1年ぐらい前からの過去を描く章とを組み合わせた(交互とは限りません)構成になっていて、章題の後に日付が入っています。ただ第9章の日付には、読んだ初版本には明らかな誤植があります。後の版では当然修正されているでしょうが。
姉妹の同級生川井喜代が殺されて妹の冬花が逮捕されるという第1章は、その後に描かれる喜代の悪辣ぶりの結果がどうなるかを最初に明らかにしているという点で、読者の感じる不快感を軽減していると思います。
それにしても最終章、いくら何でも犯人は危険を冒しすぎじゃないでしょうか。

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