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ミステリの祭典

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レモン色の戦慄
トラヴィス・マッギー

作家 ジョン・D・マクドナルド
出版日1983年04月
平均点6.50点
書評数4人

No.4 7点
(2023/01/31 22:30登録)
原題 "The Dreadful Lemon Sky" という言葉は、ほとんど最後になって、「恐ろしげなレモン色の空」と翻訳されて出てきます。本作の後、トラヴィス・マッギー・シリーズはさらに5冊発表されていますが、そのうち邦訳があるのは『赤く灼けた死の海』だけ。
読んだ範囲では、シリーズの中でも最も複雑なプロットを持った作品です。最初のうちはそれほどおもしろいとも思えなかったのですが、事件が積み重なり、冒頭の謎の原因となる過去の出来事もマッギーと友人メイヤーとの検討によって明らかになってくる後半は盛り上がります。運が悪ければマッギーやメイヤーも死んでいたかもしれない爆破事件、ファイア・アント、原題の現れる衝撃的な殺人シーンなど、見せ場もふんだんにあります。
真相にさほど意外性があるわけではありませんが、ある発想を推し進めて全体としてバランスをとったという点で、謎解き的にもうまくまとまっていると思います。

No.3 6点 tider-tiger
(2022/09/23 13:11登録)
~当日の未明、トラヴィス・マッギーの船を女が急襲せり。旧知の女キャリーだった。なにも訊かずにこの金を1ヶ月ほど預かって欲しいという。この金およそ10万ドル。当時は1ドル300円ほどだった。女は自分の身に何かあれば妹にこの金を渡してやって欲しいと。もちろん彼女の身にはなにかが起こり、その死に不信を抱くマッギーは調査に乗り出した。

1974年アメリカ。カラーシリーズ後期の作品で評価の高い作品の一つです。地味な捜査にはじまって徐々に派手な展開になっていくのですが、捻りもなかなか効いております。エンタメとしてよくできた作品です。
マッギーの無駄口が少し抑えられているので読みやすいのですが、あれに慣れてしまった身としてはどこか物足りなくも感じます。完成度は高いと思いますが、個人的にはどうも乗り切れない作品でもあります。
ちょっとした一言からマッギーがとあることに気づく場面があるのですが、そこは素直に感心しました。
アクションシーンは相変わらず筆が立ちまくりで読ませます。
本シリーズの中で最初に読む作品としてお薦めできます。
7点つけてもよかったけど、6点としておきます。

平均的なアメリカ人に寄り添ったヒーローであるトラヴィス・マッギー。高みから他者を見下ろす視点が希薄で貴族然としたところがありません。感情移入し、自身に起きたことであるかのように事件に没入していくタイプです。社会批判めいたことを滔々と述べ立てているようなときでも庶民の視点。庶民の延長上に存在する主人公とでもいうのでしょうか。
居酒屋でおっさんが集まって政治談議をしていたとしましょう。
冷や水を浴びせるのがフィリップ・マーロウだとすれば、喜んで参加しそうなのがトラヴィス・マッギーであります。
私生活(船上生活)において自由、仕事において正義を体現する人物です。

No.2 7点 mini
(2016/07/19 09:57登録)
* 私的読書テーマ”今年の生誕100周年作家を漁る”、第2弾ジョン・D・マクドナルドの2冊目

ロス・マクドナルド、フィリップ・マクドナルドに次ぐ第3のマクドナルドがジョン・D・マクドナルドである、第4にグレゴリー・マクドナルドなんてのも居るが
読んだかどうかは問わないが、ジョン・D・マクドナルドと言う作家が存在するのを知らなかったらミステリーファンとは言えない、その位全盛期には大衆的人気の有った作家なのである
一流か二流かという分類と、A級かB級かという分類とは全く別なものである
一流か二流かというというのはまさにその作家の格付けのようなものだ、しかしA級かB級かという言い方をした場合にはちょっと意味が違う、格の問題ではなくてどちらかと言えばジャンルや分野の違いみたいなものだ
私が何が言いたいかお分かりでしょうか?、つまりA級作家にも一流も居れば二流も居る、同時にジャンル的にB級作家ではあっても一流作家は存在するという意味である
ジョン・D・マクドナルドとはまさにそんな作家だ、MWA巨匠賞もロスマクより先に受賞している
ロスマクに比べたらたしかに通俗的だ、格調は無いしいかにも大衆向けっぽい、B級臭さが匂う(笑)、でもいいんですよそれで、ジョン・D・マクドナルドは間違いなく一流の大衆作家だったのだ

この「レモン色の戦慄」はトラヴィス・マッギーシリーズとしては後期の作で、欧米では代表作の1つと見なされているらしい
前回読んだ「琥珀色の死」が初期の代表作だったので、両者の間が開いているせいもあってか、かなり感じが違うのに驚いた
初期の「琥珀色の死」ではかなりアクションスリラーや犯罪小説的要素が濃厚だったが、後期の「レモン色の戦慄」は読んだシリーズの中でも最も一般的な私立探偵小説の形態に近く私はハードボイルドに投票した
「レモン色の戦慄」では前半だけなら派手なアクションシーンなどは大して無くて、マッギーと相棒による地味な聞き込み調査が中心となる
主人公は私立探偵ではないが、いわゆるハードボイルド私立探偵小説そのままの展開で、複雑な真相、例えばある人物がC事件の犯人ではあってもA事件やB事件には関与していなかったなんてのは、通俗ハードボイルドには割とありがちだ
この複雑な真相解明がシリーズの代表作扱いされている理由なのかも知れないが、複雑な割にはマッギーの真相解明には結構納得出来る
それだけプロットも良く整理されているのだろう、初期の「琥珀色の死」の粗削りで勢いに任せて書いたような感じとは違って、「レモン色の戦慄」はシリーズの中では後期作らしい落ち着いた完成度の高い作だと思う

No.1 6点 kanamori
(2016/01/08 18:38登録)
フロリダの海に浮かべたハウスボートを住居とする”揉め事処理屋”または”取戻し屋”の、トラヴィス・マッギーを主人公にしたシリーズの16作目。’60~’70年代に21冊も書かれた当時の人気シリーズの後期作品です。

このシリーズを初めて読みましたが、作風はまさに、”ザ・ペイパーバック・スリラー”という感じ。
トラヴィス・マッギー(通称トラヴ)は、海と賭博を愛するプレイボーイで、無免許の私立探偵として、トラヴルに巻き込まれた女性のために体を張る、というのがシリーズの定番のプロットのようですが、本作では、依頼女性のミリガンは謎の大金をトラヴに預けたまま早々に死んでしまいます。過分な保管料を貰っていたトラヴは、ミリガンの不審死の真相を探るため、相棒のマイヤーとともにハウスボートで現地へ赴く------というのがあらすじ。
事件背景は中盤まででほぼ明らかになるものの、その後も謎の連続殺人あり、お約束のラブシーンあり、スリリングな活劇あり、さらにはトラヴの船が爆破されるなど見どころが満載で、読者サービス精神に溢れています。この辺が人気を博した要因の一つかと思いますが、キャラクター的にはあまり深みがないため、読み終わると後には何も残らず、という感もありますね。

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