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ミステリの祭典

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空さんの登録情報
平均点:6.12点 書評数:1515件

プロフィール| 書評

No.495 5点 「北斗の星」殺人事件
吉村達也
(2012/02/19 23:36登録)
寝台特急「北斗星」での取材旅行で始まるトラベル・ミステリー風の書き出しから、いかにもな雪の山荘タイプの事件へと話は展開していきます。悪趣味なホラーっぽいお膳立てもいかにも。その中でも自動筆記については、本当のホラーじゃないんだから当然、とバレバレなことは承知の上で、作者は話を進めていきます。怪異現象がどうも安っぽいのはいただけませんが。
それでも途中で出てくる『そして誰もいなくなった』への言及もミスリードにするなど工夫はありますし、真相は悪くないと思います。ただし作品全体の構造については、事件解決後の部分から見ると、結局何の意味があったんだという気がしてしまいました。高木編集者と一緒になって怒り出したいような。『雪と魔術と殺人と』の全面改稿版だそうですが、最初はどうなっていたんでしょう。


No.494 7点 郵便配達は二度ベルを鳴らす
ジェームス・ケイン
(2012/02/16 17:43登録)
郵便配達なんて登場しませんし、これほど内容と関係ないタイトルの付いた小説もめったにないでしょう。
ジャック・ニコルスンが主演した映画は見たことがあるのですが、それだけでなく、イタリアの巨匠ヴィスコンティ監督も映画化したことがあるそうです。また、カミュの『異邦人』も本作から影響を受けたのではないかと言われていて、影響力の高い作品です。そう言えば、ヴィスコンティは『異邦人』も映画化してましたっけ。
ヘミングウェイ同じく、むしろハードボイルド系純文学と見るべき小説なのでしょうが、ただ殺人者の視点から描かれたというだけでなく、ミステリ的な要素もかなりあります。特にカッツ弁護士の法廷戦術と、その後のしゃれた計らいなど、ペリー・メイスンをも思わせるほど。豹を飼う女マッジの人物像と存在理由が薄い不満はありますが、短いにもかかわらずなかなか読みごたえのある作品でした。


No.493 7点 査問
ディック・フランシス
(2012/02/13 21:10登録)
最後の執拗なまでのアクションが印象に残った前作『罰金』の後、今回は意外にアクション度の低い作品です。おなじみ主人公の不屈の精神というのもそれほど感じません。もちろん、粗筋などからも明らかなとおり、八百長疑惑を受け、査問で騎手資格を剥奪された男が、自分を罠にかけた犯人を見つけ出すというストーリーですから、フランシスらしさはあります。しかし全体的にはむしろかなり普通のミステリに近いタイプで、フーダニット的興味が最後まで続きます。
誰が殺されるかわからないような状況のクライマックス(実はその後にもう一ひねりあります)にしても、スリルよりもむしろサスペンス重視ですし、前作のような圧倒的な印象を残すというのではないのですが、事件解決後のエピローグのさわやかさを含め、全体的に見てやはりよくできていると思います。


No.492 7点 高木家の惨劇
角田喜久雄
(2012/02/10 21:32登録)
『蜘蛛を飼ふ男』の別題も持つ本作は、まさにその蜘蛛のエピソードを加賀美捜査課長が目撃するシーンから始まります。シムノンのメグレ警視をモデルとした加賀美課長は、同じように部屋を煙草の煙で充満させることもありますが、メグレと違い、吸うのはパイプではなくシガレットです。煙草もすぐには手に入れることができない終戦直後の時代的雰囲気は、文学派シムノンの影響もあってか、同時期の横溝正史などより強く感じられます。しかし内容的には完全にパズラー。
機械仕掛のトリックは中盤であっさりと明かされますが、それだけでは犯人が簡単にわからないような構成になっています。最大の謎は、被害者が何を考えていたのかというところ。中期クリスティーの地味系佳作をも思わせるような真相は、きれいにまとまっていると思いました。事件解説後のラスト1ページぐらいも、気持ち良い印象を残します。


No.491 5点 メグレと老外交官の死
ジョルジュ・シムノン
(2012/02/06 21:11登録)
WEB上で読めるあらすじには、ミステリのタブーに挑戦したとなっていますし、訳者あとがきではさらに詳しく、カー、クリスティー、クイーンを引き合いに出して、彼等に対する異議申し立てであるかのように書かれています。しかし実際には、クリスティーやクイーンにも同じアイディアを使った作品はあり(クイーンの場合さらに一ひねりしています)、その意味ではタブーでも何でもありません。むしろ、最後に明かされる動機が少々安易ではないかと思えるところ、作者が作者だけに不満です。事件を複雑化することになる別の人のある行動理由については、納得できたのですが。
原題の意味は「メグレと老人たち」で、実際タイトルの老外交官を始め登場人物はほとんど老人ばかりです。それも作中で18世紀的とまで形容されるほど古めかしい威厳を備えた上流階級の人たちで、メグレが困惑しているところが楽しめるとは言えます。


No.490 7点 シティ・オブ・ボーンズ
マイクル・コナリー
(2012/02/03 21:21登録)
第1作から読んだ方がいいと言われているコナリーですが、まず読んでみたのはこのボッシュ刑事もの第8作です。すぐ手に入るのが本作だったもので…
通常ハリーと呼ばれていますが、正式にはヒエロニムス・ボッシュなんですね。この名前は『快楽の園』が有名な15~16世紀の画家ですし、他にもドラクロワ(と言えば当然19世紀フランスの画家です)なんて人も本作では重要な役割で、この作家、美術にちなんだ登場人物名にこだわっているのでしょうか。
一般的にはハードボイルドと言われているようで、確かに文章はそれっぽいですし、ボッシュ刑事の人物造形もそう言えるでしょう。しかし一方で、細かい検視結果や警察内部の人間関係、ストーリー展開などは警察小説的だと思います。
その二転三転する展開はおもしろく読めたのですが、実は疑問もあります。クライマックスを含めあいまいな点が2か所、その2か所が関係し合っているのですが、どうもすっきりしません。
事件終了後のラスト・シーンには驚かされましたが。


No.489 6点 悪魔の寵児
横溝正史
(2012/01/31 21:12登録)
「ベショベショと」降る「いんきな雨」という表現は、作中何度も繰り返されます。この部分では「陰気」をわざとひらがな表記にしているのが、妙な擬音語とあいまっていかにも通俗的な感じを出しています。
そのような通俗作品の中では、他の方も書かれているとおり、結末の意外性はかなりのもの。有名作の大部分よりもむしろ、犯人は意外なくらいです。それはいいのですが、論理的厳密性に捉われていないからこその意外性とも言えそうなところがちょっと…
論理性については、最後の金田一耕助による説明は推理とも呼べない程度で、アンフェアでもあります。実は途中で、犯人はどのようにしてこのことを正確に知ったのだろう、と疑問に思った点があって、その疑問に解答できれば、犯人の正体の見当もつくのです。ところが、金田一はそのことには一切触れていません。
依頼人風間氏の人物描写がどうにも経済界の大物らしくないのも、不満な点です。


No.488 6点 危険な未亡人
E・S・ガードナー
(2012/01/27 21:39登録)
『どもりの主教』と『カナリヤの爪』の間に書かれた作品らしいのですが、ほとんどの作品ラストにある次作の依頼人登場については、『どもりの主教』の場合『カナリヤの爪』なのです。そして、本作にはその恒例次回予告がありません。
依頼人の老婦人は、最初から自分のことを「危険な未亡人」だと言っていますが、実際最後までしたたか者ぶりを発揮してくれます。ただし、トラブルに巻き込まれ、殺人容疑者になるのは依頼人ではなく、その孫娘。
メイスンが証人を隠すことはよくありますが、今回はメイスン自身が殺人の事後従犯の疑いを受け、自ら隠れなければならなくなってしまいます。このあたりの楽しい事件紛糾ぶりに比べ、真相自体はごく単純です。裁判にもならず、とりあえず逮捕されて、他の証人たちや容疑者と一緒に地方検事の下へ連れてこられたメイスンが、その場で決着をつけてしまうのですが、偶然で変に複雑化した真相よりも好感が持てます。


No.487 8点 スターヴェルの悲劇
F・W・クロフツ
(2012/01/24 20:54登録)
久々の再読ですが、最初と最後を除いて、途中のプロセスはすっかり忘れていました。
本作では、真相は最後逮捕の瞬間になるまでわかりません。いや、読者が見当をつけるだけだったらできるでしょうが、それを示す確実な伏線があらかじめ仕込んであるわけではありません。フレンチ警部はその瞬間、目の前にいる人物のある特徴に気づいて真相を悟るのです。
読者への挑戦を差し挟む余地が全くないということでは、フーダニットとは呼べないかもしれません。しかしその最終回答ですべてが説明できるよう構成されていますし、火災に始まる様々な謎を提示し、実地調査、仮説と検証を積み重ねていくところ、いかにもクロフツらしい謎解きミステリです。他の作家だったら1、2行で済ませそうな無駄に終わった調査も1ページぐらいかけるていねいさ。『フレンチ警部最大の事件』と似た構造とも言えるでしょうが、本作の方がよくできていると思います。


No.486 6点 暗黒告知
小林久三
(2012/01/21 11:38登録)
時代設定は明治40年(1907年)4~6月。近代日本公害の原点として知られる赤尾銅山鉱毒事件に取材し、実在の政治家田中正造を重要登場人物にした作品です。
作者はクイーンの『ガラスの村』を読んで「社会派推理小説」として感銘したことが、作風の原点になっていると述べていますが、クイーンが元と言うだけあって、社会悪追求だけでなく謎解き的な部分にも工夫を凝らしています。最初の殺人がまず密室です。トリックはすぐ想像がつくでしょうが、その方法を使った理由はなかなかのものです。また全体的な真相も、ある程度見当はつきますが、悪くありません。
ただ、時代考証的な部分で気になる点がいくつかありました。登場人物が「密室」「アリバイ」なんて言葉を使っているのがまず疑問です。また、フリーマンの『赤い拇指紋』(どう見ても翻訳本)が作中で出てくるのですが、原書が発表されたのはまさにその1907年。イギリス新人ミステリ作家(当時)の作品がすでに翻訳されていたという設定は、さすがにちょっと無理がありますね。

追記:おっさんより、『赤い拇指紋』については都筑道夫氏の指摘により後に改訂されたとのご教示をいただきました。ありがとうございます。


No.485 7点 ゲー・ムーランの踊子/三文酒場
ジョルジュ・シムノン
(2012/01/18 22:12登録)
カバー・タイトルは『ゲー・ムーランの踊子 他』となっているのですが、中表紙や奥付では収録2長編が併記されていて、Amazonでもそうなっているので、本サイトへの登録タイトルもそれに従いました。
『ゲー・ムーランの踊子』はシムノンの生地、ベルギーのリエージュが舞台。前半は16歳の不良になりかけた少年の視点が中心です。その間メグレの視点が全く出てこないという点が非常に珍しい作品で、メグレものだと知らずに読めば、半ばでメグレが登場するシーンでは驚かされそうな構成になっています。その後も殺人事件の犯人はなかなかわからない展開で、最初に読んだ時はパズラー的な点がかえって不満だったのですが、読み返してみるとおもしろくできています。
『三文酒場』はそれに比べるとかなり地味な作品です。死刑囚から、「三文酒場」で6年前の殺人事件の犯人と出会ったことを聞いたメグレが、偶然帽子屋でその「三文酒場」という言葉を耳にしたことから、事件は始まります。最後に明かされる犯人の灰色の絶望には、感動させられました。個人的には、一般的評価の高い『~踊子』よりこっちの方が好きですね。


No.484 6点 ジェリコ街の女
コリン・デクスター
(2012/01/14 20:55登録)
前半、ジェリコ街で死んだ女アンの事件を正式に担当するのはモースの同僚ベル主任警部で、ウォルターズという刑事がかなり活躍します。で、モースはというと、アンと面識があり(プロローグは彼等の出会いです)、気になって個人的にこっそり調査しているのです。事件のあった家に忍び込んで、ウォルターズ刑事につかまったりするところがなかなか愉快で。
向かいの家で殺人があった後、後半になって、モースに事件が引き継がれることになります。さあ、ここからが華麗なデクスター流仮説の積み重ねが始まる…と思っていると、がっかりするかもしれません。今回はほとんど普通のパズラーで、最後に鮮やかな(危なっかしい)トリックが明かされることになります。
今回最も驚かされたのは、アンの死の理由に関する推理です。ただし、その推理に対する反証に、心理的側面から再アプローチがなく、あいまいなままになってしまったのは不満でした。


No.483 8点 黒いトランク
鮎川哲也
(2012/01/11 21:34登録)
クロフツの『樽』からヒントを得たことについては、本作の中でも登場人物に語らせていますが、死体運搬容器(トランク・樽)の動きは本作の方が複雑ですし、何より移動理由が全く違います。『樽』が他人に罪を着せるためであったのに対し、本作ではすべてがアリバイ作りのためなのです。また、両作とも容疑者が2人出てきますが、その2人の関係と犯人のキャラクターが正反対とも言える設定なのは、作者が意識してやっているのではないかとも思えます。
高校時代に初めて呼んだ時は、トリックを完全に理解したとはとうてい言えなかったのですが、久々に再読してみると、それほど難解でもないと感じました。鬼貫警部の捜査でトリックが少しずつ明かされていくため、実際の犯行計画以上に複雑に見えるところがあるのではないでしょうか。最後の風見鶏を比喩に使ったトリックの理由も、完全に忘れていましたが、再読で納得できました。


No.482 6点 死人の鏡
アガサ・クリスティー
(2012/01/08 11:34登録)
本サイトに登録されている他の短編集に合わせて、ハヤカワ版を対象にしていますが、実際には収録4編どれも創元版で読んでいます。どちらの版もすべてポアロもの。違いは、ハヤカワ版『砂にかかれた三角形』の代わりに創元版には『負け犬』が入っていることです。
その長めの短編『~三角形』は、某長編の人間関係・動機の元ネタです。その長編とは違い、アイディアをこの動機の意外性だけに絞り、ポアロの人間観察が冴えるきれいにまとまった秀作です。
他の3編はすべて、逆に以前に書かれた短編を引き伸ばした中編です。『厩舎街(ミューズ)の殺人』は、被害者の性別を変え、新たな手がかりを加えているぐらいですが、中編化が最もうまくいっていると思えました。『謎の盗難事件』はもっと短くてもいいでしょう。
表題作はトリックはそのままで、犯人の設定と動機を変更しています。これは短編の方が、冒頭部分と事件依頼内容の点でうまくまとまっている感じで、ひょっとしたらこの中編の方が先に書かれたのかもしれません。


No.481 8点 路上の事件
ジョー・ゴアズ
(2012/01/06 21:21登録)
ロード・ノベルなどとも言われている作品で、前半はヘミングウェイにあこがれる青年ダンクがアメリカ荒野をヒッチハイクで旅しながら、様々な事件に巻き込まれていきます。半ばでサンフランシスコに落ち着き、私立探偵事務所に勤めるあたりは、作者自身の実体験に基づいていることがまえがきにも述べられています。自伝的要素を持った作品ということで、最後近くにならないとミステリという感じはほとんどしてきません。それまでにもいくつも殺人は起こるのですが。
設定時代は1953年。当時の音楽(ジャズが中心)や映画がふんだんに出てきますが、ミステリでは何と言っても発表されたばかりの『長いお別れ』で、チャンドラーの名作に対するダンク(つまり作者自身)の感動が伝わってきます。
前半のラスヴェガスでの事件が最後の真相とつながってくるところには、論理的に明らかな無理があるのですが、それが気にならないほどおもしろく、感動的な読みごたえ充分の大作です。


No.480 8点 黒い画集
松本清張
(2011/12/27 21:27登録)
週刊朝日に昭和33~35年連載された中短編9編から選んだ6編に、同じ頃別に発表された作者自身お気に入りの『天城越え』を加えて1冊にまとめたのが、現在新潮文庫で読める版です。清張の古い全集等では、他の作品を入れたものもあります。
評判のいい最初の『遭難』のサスペンスはさすがで、終り方の薄気味悪さも格別です。短い『証言』は、最後がちょっとあっさりしすぎかなといったところ。『紐』は最初の方でしつこいアリバイ確認があるので、これは当然…と思っていると、最後にひねりがあります。『凶器』については、作者自身ダールを意識したと語っていますが、ダールより謎解き興味が強くなっています。最後の『坂道の家』は最も長い作品ですが、不倫話の果てにミステリ的なオチをつけたもの。
いずれも政治や企業悪をテーマにしたという意味での社会派ではありません。せいぜい『寒流』で銀行内の派閥争いが絡むぐらいですが、それでさえむしろ私的な話で、当時の登山愛好者、都会の会社員、農村生活者等がリアルに描かれた作品群です。


No.479 6点 メグレ警視のクリスマス
ジョルジュ・シムノン
(2011/12/23 20:26登録)
表題作の他に『メグレと溺死人の宿』『メグレのパイプ』を収録した中短編集です。
表題作は、メグレの住居の向かいにあるアパートで12月24日夜に起こった事件を扱っています。訳者あとがきでは、クイーンによるクリスマス・ストーリーに必要な条件を引用し、子ども登場要件をクリアしていると書いていますが、サンタクロースに変装した侵入者に会う女の子があまり印象に残らないのが、ちょっと不満です。
『メグレと溺死人の宿』はメグレが地方に別件で出張した際に出くわした事件。訳者あとがきで言うほど本格派寄りとは思えませんが、まあまあ楽しめました。
『メグレのパイプ』はシムノン自身が好きな作品だそうで、確かに3編の中では最もいいと思いました。メグレの一番お気に入りのパイプが自室から盗まれてしまったことが、本筋の事件に絡んできて、「もし君が私のパイプをくすねなかったら」という展開になるところが、おもしろくできています。


No.478 6点 土曜日ラビは空腹だった
ハリイ・ケメルマン
(2011/12/21 21:30登録)
第1作金曜日をずいぶん前に読んだだけだったラビ・シリーズ。この第2作の「空腹」の意味は、事件が起こった夜の翌日の土曜日がちょうどユダヤ教の贖罪日に当たっていて、断食をしていたからということです。
謎解きミステリとしては、凝ったトリックなど一切ない、ごくシンプルで地味なフーダニットです。50ページぐらいで死体発見となるのですが、それが殺人だとわかるのが半分を過ぎた170ページ目ぐらい。
ラビによる犯人指摘推理の最初の部分は、事件発生の直後から何となく気になっていたのですが、深く考えもせず、犯人探しとは直接関係ない、教会の理事会とラビとの対立の方に気を取られていました。実際のところ、殺人事件の捜査よりも、対立の原因となる教会に礼拝堂を増設する計画の問題と、自殺者の埋葬に関する宗教的問題の方がメインとも言えるほどです。最後にはその問題を、ラビによる殺人事件解決とうまく絡めていて、すっきりしたオチになっていました。


No.477 7点 幽霊塔
黒岩涙香
(2011/12/18 13:25登録)
黒岩涙香と云っても、よくわからぬ。ナニ、乱歩の文体を古めかしくしたようなものだろうぐらいに思っていたのだよ。ところが読んでみると、これア驚いたのさ。
といった調子の文章で書かれた、ウィリアムスン『灰色の女』(1898)の翻案です。数年前にやっと忠実な翻訳も出ましたが、涙香は原作出版の翌年にもう連載を開始していたことになります。発表当時は原作としてでたらめな本を挙げていて、そのため乱歩が自分流に翻案する時、原作を参照できなかったとか。
驚いたのは、翻案だというので舞台を日本に移し変えているのだと思っていたら、そうではなかったことです。登場人物は日本人名ですが、地名はイギリスのまま。金もポンド表記ですが、途中で千円とか出てきたりして、統一がとれていないところもあります。さらに登場人物中フランス人医師だけは原書どおりポール・ラペルという名前になっていて、意味が分かりません。
内容的には今となっては、灰色の女の正体を始めとしてありきたりな筋書きですが、涙香の文体のゆえもあって、いかにも乱歩好みな古風な雰囲気が楽しめました。


No.476 7点 蘭の肉体
ハドリー・チェイス
(2011/12/16 22:29登録)
過激すぎて結局書き直されたという『ミス・ブランディッシの蘭』初版本の続編です。原書でも入手困難とされる初版結末の概要は、前作の創元推理文庫解説に書かれているので、本作を読むのに支障はありません。なお続編(出版は創元推理文庫では第1作の3年後1942年となっていますが、英語版Wikipedia等によると1948年らしい)とは言っても、前作の20年後の設定で、重なる登場人物は一人もいません。
フランスのパトリス・シェロー監督による映画版は確か20年ぐらい前に見たことがあるのですが、二、三こんなシーンがあったかな、ぐらいの記憶しか残っていませんでした。フランス映画界が好みそうなノワール(もちろんフランス語で「黒」の意味)系で、特に殺し屋サリヴァン兄弟の鴉的なイメージなどヨーロッパ映画風と言えます。
文学性などくそくらえとでも言わんばかりのエンタテインメントに徹した急展開の連続で、キャラクタ描写も浅いなりにきっちりできていますし、最後まで楽しめました。

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