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ミステリの祭典

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査問
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1977年05月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点
(2019/03/05 06:29登録)
 障害競馬騎手ケリイ・ヒューズは、契約調教師のデクスター・クランフィールドと共に査問会上で資格を剥奪された。両者とも無期限の免許停止。オックスフォードのレモンフィッズ・クリスタル・カップ・レースで、本命馬スクェルチの勢いを故意に抑え、クランフィールド厩舎のもう一頭の出場馬、チェリイ・パイを八百長で勝たせた疑いだった。
 査問会は仕組まれたように進行していった。議長を務めるガワリイ卿は初めから強圧的で、告発の裏付けとして提出された映像も別レースのもの。それを指摘しても正しい映像が流れることはない。加えて平然と偽証を行う騎手仲間。最後にデクスターの不正依頼の礼状と、ケリイが受け取った五百ポンドの現金写真を調査員デイヴィッド・オークリイが提出するに及び、査問は結審した。
 身に覚えのない証拠に愕然とするケリイ。だが、彼の主張など一切受け付けられない。望まぬ無為を強制されしばらく放心状態のケリイだったが、従兄の調教師トニイの示唆からあることに気付く。「誰がオークリイを差し向け、偽造した写真を撮るよう指示したのか?」
 査問委員たちでも、理事たちの誰かでもない。公にそのような指示が出されることなどあり得ない。ケリイは自らの汚名を雪ぎ、騎手免許を取り戻すために戦うことを決意する。
 MWA賞受賞の「罰金」に続くシリーズ第8作。偽証した騎手チャーリイや張本人のオークリイに直接当たるケリイですが、捜査のノウハウも持たない身では捗々しい結果は得られません。ですが物語も半ば過ぎ、一か八かジョッキイ・クラブ募金パーティへの出席を決断した所から、潮目は変わっていきます。
 冷ややかな視線の中、デクスターの娘ロバータと共に堂々とした態度で振舞うケリイ。パーティ出席者の中からも、おやと態度を変える人間が現れます。さらにそんな彼を危険視し、事故を装った殺害が計画されるに及んで――。
 アクションは少なめで、ハウダニット興味で最後まで引っ張る作品。とはいえさほどに難しくはありません。仇役として存在感の大きいガワリイ卿が黒幕でないのはやや意外。強烈な悪役の不在が弱点といえば弱点でしょうか。
 そのせいか全体に小作りな印象。でも中々よく出来た作品です。事件を機にお互いを意識し合うケリイとロバータの姿も、あっさりめですが的確に描かれています。

No.1 7点
(2012/02/13 21:10登録)
最後の執拗なまでのアクションが印象に残った前作『罰金』の後、今回は意外にアクション度の低い作品です。おなじみ主人公の不屈の精神というのもそれほど感じません。もちろん、粗筋などからも明らかなとおり、八百長疑惑を受け、査問で騎手資格を剥奪された男が、自分を罠にかけた犯人を見つけ出すというストーリーですから、フランシスらしさはあります。しかし全体的にはむしろかなり普通のミステリに近いタイプで、フーダニット的興味が最後まで続きます。
誰が殺されるかわからないような状況のクライマックス(実はその後にもう一ひねりあります)にしても、スリルよりもむしろサスペンス重視ですし、前作のような圧倒的な印象を残すというのではないのですが、事件解決後のエピローグのさわやかさを含め、全体的に見てやはりよくできていると思います。

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